世の中には、気になることばづかいがある。深刻なものから、どうでもよいと言えるかもしれないものまで、いろいろであるが、幾つかあげてみたい。
できるだけ気軽に書きたいのであるが、そういくかどうか。
【第一話の一】 「重さ」と「質量」との混乱である。世間が重さと言っているもののほとんどが実は質量なのである。重さは場所によって変わる。例えば、月へ行くと6分の1になってしまうし、途中の宇宙船の中では0である。しかし、その人には不変な固有の量がある。それが質量なのである。テレビでも「重さが20kg」などと言っているが、これは正しくない。kgは重さの単位ではなくて、質量の単位なのである。「体重が60kg」というのは正しい。「体重」は質量概念だからである。このようなことだけでも詳しく書くと本一冊くらいになりそうだ。
【第一話の二】 「kg(キログラム)」も「km(キロメートル)」も「キロ」になってしまうが、グラムとメートルに接頭語「キロ」がついたのがキログラムやキロメートルなのであって、接頭語だけしか言わないのはいけない、と計量・計量史関係の人が言う。
【第一話の三】 言語学の専門家は「接頭語」といわないで、「接頭辞」と言うのが正しいという。なるほど「キロ」などは単語ではなくて単語の一部分なのだから、「語」とは言わないのだろう。
【第二話の一】 「時間」と「時刻」の問題である。2時も3時も時刻であるから、合わせて5時にはならない。2時から3時間たって5時になるのだから、2時と合わせて5時になるのは「3時間」である。「3時間」は「時刻」ではなくて「時間」である。
【第二話の二】 駅のホームの時刻表では、一番上に左から右に向かって0から60まで刻んである。これは「分」を表す。一番左には、上から順に、5時くらいから24時くらいまでが書いてある。これは時刻ではない。時刻ならば英語でオクロックのはずだが、そこにはアウアと書いてある。例えば9は「9時」を表すのではなくて、9時から9時59分までの「時間帯」を表すのだ。だからアウアなのである。これは、「時刻」でも「時間」でもない。
【第二話の三】 私が二十才くらいの頃、親戚のおばあさんが言っていた。何人かでおいしいものを食べているとき仲間がふえたら、「馬に乗って来たね」と言い、食べてしまったとき来た人には「牛に乗ってきたね」と言うと。ここでは「速い」と「早い」が混同されている。どちらも「はやい」と読むことから来る日本語独特の混乱ではないだろうか。それぞれの反意語はどちらも「遅い」であるから、話はややこしい。
出発に早いと遅いの2つがあり、歩くのに速いと遅いの2つがあって、ぜんぶで 2×2=4 となるのである。
そこで、仮に、早く出発して速く歩けば間に合うし、遅く出発して遅く歩けば間に合わないということにしてみよう。そうすると、早く出発して遅く歩けばどうなるのか、遅く出発して速く歩けばどうなるのか、という問題が残る。
「速い」と「早い」の混同は、笑い話ではある。
以上の五つを振り返ってみよう。
【第二話の三】の牛と馬は笑い話のようでもあるが、【第二話の一】と【第二話の二】の時刻・時間・時間帯は深刻な算数の課題である。私の専門の観点から言えば大きな問題である。
【第一話の三】の接頭語と接頭辞のお話は言語の課題であるが、私はかやの外のようだ。
最初の二つが大切な課題である。
特に【第一話の一】の質量と重さの課題では、gやkgは質量の単位だと国際的に決められているのであるから、小学校でgやkgを「重さ」の単位として教えていることに大きな問題がある。文部科学省は国際法違反をしている、と言うとおおげさだろうか。
(以上)
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