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 計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー>新井宏

日本計量新報 2011年8月7日 (2881号)掲載

東日本大震災の被害額 

前韓国国立慶尚大学招聘教授 新井宏

新井宏 手元に東日本大震災の翌々日に書いたメモがある。被害総額は20兆円になるだろうと。まだ、原発事故も大騒ぎになっていなかったし、政府も新聞も何の見通しも示していなかった。
 そんなことをすぐ計算してみたのは、歴代の災害や戦争の被害総額をメモっておいたからである。出所は経済企画庁で、被害額を全国の資産額で割った比率で示されている。
 それによれば、太平洋戦争の被害は全資産の25・4%、関東大震災は同じく10・5%、伊勢湾台風は1・9%、阪神大震災は0・8%である。
 さて、今回の大震災で参考になるのは何といっても直近の阪神大震災である。
 人命被害では阪神の3倍を超えるであろうが、被災地の経済力から見て、経済的な被害は阪神の二倍程度であろう。そうすると被害額は現在の全国資産額1260兆円の1・6%となり20兆円と試算される。
 政府も新聞も被害の実態をつかめないためか、いつまでたっても何も言わない。その中で、最初に飛び込んできた情報は、3月21日の世界銀行の試算である。それによれば、住宅や道路、社会資本などの損害額を合計する2350億ドル(19兆円)になり、復旧に五年を要するとしている。ほぼ私の試算と同じ被害額予想である。
 責任ある政府機関がやたらに被害予測値を言えないのは当然であるが、その例が人命被害の報道である。
 大震災直後の13日、宮城県警は「(宮城県だけでも)死者の数が万人単位に及ぶことは必至である」と述べていたのに、政府発表は、3月15日になっても、死者3375名、行方不明者7558名で合計1万名強に過ぎない。正確を期するためにやむを得ないと思いながら、推移を見守っていると、4月13日には死者1万3392名、不明者1万5133名、合計で2万8500名となり、3万名に達する勢いである。
 ところが、4月中旬を境にして様相が一変し、現在(7月16日)では死者1万5573名、不明者5076名、合計2万名近くまで減ってしまっている。毎日、平均して801名ほど「生還」した勘定になり、喜ばしいことではあるが、逆にいえば正確を期していながら「行方不明者」が2倍も計上されていたことを意味する。
 当時しばしばマスコミが使っていた「行方の判らなくなっている者」とは区別し、正確を期して「行方不明者」を使っていたのに、それでも正確ではなかったのである。
 災害対策では、正確を期して情報が遅れてしまうよりも、推測であっても偏りのない迅速な数値が重要である。
 同じことが、福島第一原子力発電所の被害について言える。東電も政府も一貫して確認できたことしか発表しなかった。早い段階で、もし確認し得ないことについても予測して公表し、更には対策を立てていたなら、国民はもとより外国からの不信もずいぶん軽くすんだであろう。
 さて、東日本大震災被害額の総額である。私は当初20兆円と予測したが、原発被害の進行を知って、とてもとてもそのような金額では収まらないことを知った。
 発電所の被害金額など数兆円であるが、人類が50年もかけて新たなエネルギー源として育ててきた原子力発電の開発が、世界中で止まってしまうか、後戻りしてしまうのである。
 世界のエネルギー源の40パーセントを供給するはずであった原子力発電が20パーセントに留まれば、それを原油などでおぎなわなければならない。その量は原油5億トンにも相当し、年間10兆円ほどの継続的な損失を呼ぶであろう。
 これが人類に50年間も影響を与え続けるとすれば、桁違いな災難なのである。
 (元日本金属工業常務、金属考古学、計量史)
 

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