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 計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー>早川静英

日本計量新報 2011年9月18日 (2886号)掲載

想定外の2つの事件

(株)守隨本店代表取締役社長 早川静英

早川静英イヤー驚きました、なでしこジャパンのW杯優勝。今年に入り未曽有の大事件がわが日本に勃発いたしました。もちろん福島第1原発事故を同じ範疇に乗せるのは不謹慎かもしれませんが、想定外というキーワードでくくればということでお許し願いたい。

 日頃あまりサッカーには興味がないのですが、今回ばかりは、優勝が懸かっているというゆゆしい事態であります。3時に起きられるように、テレビにタイマーをかけて寝ました。実はこの前のスウェーデン戦もみておりました。見た感じでは大人と子供との戦い。また見ようによれば、男子対女子の戦い位の体格の差に見える。プレーがスタートしたときはこれではとても勝負にならないと感じました。はたしてスウェーデン女性の体がちょっと触れただけで日本女性は吹っ飛んで行ってしまう。そんなことがピッチのあちこちに続発。ああ気の毒に、なぜ日本バレーチームのように体格の立派な選手を選ばないのかというもどかしさを感じていましたが、日本側女子があんまりころげて目立ち、相手側の反則が続発という事態になり、日本側はいいアドバンテージをもらえるという妙な展開となっていきます。大きな身長のスウェーデン女性の回りからちょろちょろと小柄の体が駆け回り、いつの間にかボールの支配は日本側に移ってしまうという自体になり、相手を翻弄し始めるに及んでスウェーデン側はどう攻めればよいのか茫然自失といった状況になっていました。あとはご存じのとおりです。

 そしてアメリカ戦、世界第1位の実力チームです。自信もあり見るからに優越者の貫録がにじみ出ています。おそらく日本ごとき何ものぞという気概で乗り込んできたことは間違いありません。太平洋戦争で完敗したトラウマに憑かれている私の方がビビッているぐらいです。
 開始早々、いきなり猛攻が始まります。硫黄島の戦いみたいに、凄まじい艦砲射撃です。日本側は防戦一方です。ああこれではもう長くはもたないだろうとあきらめかけたのですが、アメリカ側が蹴り込むボールがことごとくはずれていきます。もう今回はダメだろうと思うとゴールの柱直撃だったりと、どうしてもゴールに入りません。アメリカ側も日本女性の身体状況を熟知してあまり体当たり攻撃をしません。かたや、日本側も厚い壁に阻まれ、なかなかチャンスをつかめません。

 ただ不思議だったのは日本側に全く焦りの色が感じられなかったことです。嬉々として走り回っています。アメリカチームの方は何度打っても大砲の弾が塹壕にこもったなでしこ兵士の頭の上を軽々飛び越えていってしまう体たらく。そして前半はイーブン。猛攻をかけたアメリカ側は休憩時間に「なんやこれ!」といった落胆に近い心境になっていたと思いますが、おそらく日本側は命拾いをして防戦一方で攻撃ができなかっただけ、余力残していたと思われます。

 そして後半、またなかなか点が入りません。しかし何とかアメリカ側も力を振り絞り、後半に1点を奪いました。あの時のアメリカ選手の安堵に似た表情。おそらくもうこれで勝ったも同然と思ったとみます。見ている私もそう思いました。あとわずかなプレー時間しかなくそれを凌げば勝ちが転げ込んできます。ここで、アメリカ側の力が抜けたと思います。『ほらやっぱり我々にかなうわけないでしょう?』。そして、ボールをパスして回すという逃げの態勢に入りました。その油断をついて日本側はぎりぎりの時間に、ゴールを決めました。ついに、延長戦に持ち込みます。どこまでもくらいついていこうとするチームと、うるさい相手を早く払い落としてしまいたい願望にとらわれたチームの差が徐々に表れてきました。

 これではいけないと気を取り直したアメリカ側は猛攻を再開。10分ぐらい経過したところで長身の主将が日本の追従をかわし、これでもかとボールをゴールにけり込みます。すごい迫力でした。
この時日本中は悲鳴と悲嘆の渦にのみこまれました。
 あと5分でアメリカ側の強力な防衛線を突破できるとはよほどの楽観主義者でも想定できない事態でした。それが、ギリギリの時間帯でいともあっさりと日本のエースが得点してチャラ。ほとほとアメリカ側は嫌気がさしたのではないでしょうか?
 PK戦に持ち込めばもうしめたものです。はるかにこまかな運動神経に恵まれた日本女性の独断場となりました。しかし、ここまで持ってくるのが大げさではなく奇跡に近いものではなかったでしょうか?

 日本も含めて、どの国も想定外と認識した瞬間でありました。心より申し上げます。おめでとうございましたと。

 福島第1原発事故の方ですが、このところ、韓国でフランス製新幹線の車両が韓国製になってから故障が続発しているという報道が新聞に出ておりました。4年ほど前に、ソウルからプサンまで乗って見ましたが、少々おごって日本でいうグリーン車を選びました。しかし乗ってみた限りではなんとなく頼りなく、華奢で、こんな軽い車体で高速を走るのは怖いという実感でした。フランス製らしくインテリアデザインはプラスチックやガラスを多用したサロン風の粋なつくりではありましたが、高速鉄道という存在感からするとどうも今一つという感じがいたしました。それに引き替え、日本製は重厚感があり、身を任せて、安心感があります。身びいきと言われればそれまでですがやはりものづくりでは文化の差というだけではない、ものの考え方の相違が強く感じられました。

  同じ東洋民族の韓国が、入札で安かったどうかはしりませんが、現在故障が続発しているということは韓国と日本のモノづくりの歴史の差というものが存在するものと考えられます。日本の場合は明治以来の歴史を持っております。その間に培った技術力という、ものの結晶が新幹線という産物を生むに至ったものであります。おそらく韓国の場合は戦後以来の歴史があるにとどまるのではないでしょうか。歴史的な基礎技術の蓄積がない状況での模倣は簡単でありません。その結果が表れているものと思われます。

 なぜ韓国を取り上げたかというと、日本にも同じような現象が起きているからです。福島原発であります。これは核忌避症の日本が初めてアメリカより導入した、原子炉発電装置ですが、当時の日本は全く原子力に関する製造技術力はなく、これこそ100%アメリカ依存の設備でした。しかもその設備は、初期のころのあまり成熟していないフェーズのものでした。おそらく100%アメリカで設計製作されたこの原子炉は、日本の特殊事情はほとんど考慮されていないと思われます。

  世界有数の地震国。逃れようのない狭い国土にひしめく1億2千万の民。繰り返し定期的にやってくる自然災害や大津波みたいなものはほとんど念頭になかったと思われます。つまりアメリカ側のほうでいわせれば、想定外のものと言わざるを得ません。ただ日本側も日本の事情は承知しているはずですが、誰かが根拠もなく大丈夫と言い出せばあえて反対できる経験と技術力はない。そして易きについて言われるままに導入する。そして破綻すると打つ手も乏しく右往左往するだけとなります。導入以来40年たつ間に日本の特殊事情というものを原子炉の保全上に反映させるチャンスはいくらでもあったはず。またこのままでは危ないぞという懸念も提案もあったと聞きます。それをせず、ずるずる成り行き任せで、想定外はないでしょう。

 技術力というものは本当に一朝一夕に出来上がるものではないという痛い痛い実績を日本は余儀なく積み重ねることになっております。この稿のテーマである2つの想定外という事件ということになります。それが、わずかな時間軸でやってきたということです。ただ後先が逆であったら日本はどうなっていたかと思うと、やはりなでしこジャパンに最敬礼ということになりますか。野村元監督の言う「不思議な勝ちはあるが不思議な負けはない」を地でいった2つの想定外事件。失敗に学ぶということも成長のために必要として、日本はうれしい想定外と、この失敗の方の想定外をしっかり吟味して、甘受しなければなりません。

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