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計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー(2015年一覧)>【矢田義久】ストレス

日本計量新報 2015年1月18日 (3041号)2面掲載

ストレス

共同計器(株) 代表取締役社長 矢田義久

矢田義久計量・計測の分野において、『ストレス』は重要なキー・ワードとなっている。なぜなら、特に『力』あるいは『質量』等の物理量の計量・計測には、ストレスすなわち応力も測定の技術が用いられているものが多いからである。ところが、最近前述のストレスとは違い精神衛生面におけるストレスという単語が、職場におけるメンタル・ヘルスの重要性とともに、よく耳にするようになってきた。まさに、この単語こそが、私にストレスをもたらすのである。
 何事にも未熟であった学生時代の細切れの情景が、浮かんできては消え、消えては浮かんでくるからである。学生生活最後となる卒論のテーマが確か「光弾性縞による応力解析」であった。材料力学の分野では、ストレスとはすなわち『応力』のことであり、このため連想ゲームのごとく、
「ストレス=応力=学生時代=???」
と思考が追憶に変化し、軽い罪悪感をともなった苦い思い出がストレスと化し私に覆いかぶさってくる。
 さて、ストレス(応力)を除去するには、作用する外力や熱をまず取り除くことである。それでもストレスが残る場合(残留応力)は時間をかけて除冷して取り除くこともひとつの方法なのだが、精神衛生上におけるストレス解消の方法も、これと似たようなものであろう思う。ストレスを解消するには、まず元凶を断つ。すなわち、痛いことを止める、うるさい音を消す、くさい臭いを断つ、など。しかし、対人関係がもたらすストレスは少々厄介である。何しろ元凶である人の存在自体を絶つことができない。ではどうするか?その人から遠ざかり、影響を受けない位置まで離れるのである。ところが、その関係が恋愛の場合、相手から遠ざかるとストレスは一層大きくなるので、なお厄介となる。ただ、やはりここでも物理学と同様、時間をかけゆっくりとその熱を冷ますことで、その種のストレスは取り除くことができるかもしれない。しかし、今の私のように何かのキーワードで記憶が蘇り、再びストレスに晒されることもあるので『日にち薬』も本当の意味ではこの種のストレスの解消にはならないのではないだろうか?したがって、もはや時間経過とともに完全に忘れ去ってしまう以外ないようである。
「あの子はどうしているだろう?」
などと思い出してはいけないのである。これからは、
「あの子はだあれ?」
と、はるか忘却の彼方へ押しやってしまうのが最善の策のようである。
 しかし、もうすでに私の記憶力のお粗末さは、相当なものらしく、いつだったかゴルフパートナーの脳外科の先生から、
「矢田君、脳がかなり萎縮しているみたいだね。さっき言ったことも覚えていないの?」
と指摘されたことがある。本年、還暦を迎えるけれど、そう遠くない将来、もはやいかなるストレスも感じなくなり、振り返る過去も記憶に無く、呆けた姿でにこやかに毎日を過ごせる日が、こんな私に訪れるのだろうけれど、多少のストレスに晒され、若かりし頃を思い出せた方が幸せに決まっている。
 干支が一巡し人生の再出発が還暦ならば、あらゆるストレスがリセットされればよいのに、などと思いながらマッサージチェアに身を沈め、小田和正を聴いていると、いつものようにすぐに眠くなってくる。そういえば、紅白歌合戦に出場していた半数以上の歌手と楽曲の名前が、わからなくなってしまっていた。


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