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計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー(2015年一覧)>【大井みさほ】自著を語る『自転車のなぜ−物理のキホン!−(ぐるり科学ずかん)』

日本計量新報 2015年4月5日 (3051号)6面掲載

自著を語る 『自転車のなぜ−物理のキホン!−(ぐるり科学ずかん)』

東京学芸大学名誉教授、日本計量史学会理事 大井みさほ

大井みさほ今年1月に2冊目の子ども向けの本を共著で出した。内容はもちろん自分の専門の物理であるが、材料は専門ではない自転車である。
 この本を執筆することになったいきさつは次のようである。数年前に元計量研の先輩であった高田誠二氏から「本作り空Sora」の編集者である檀上聖子氏を紹介され、子ども向けの物理の本を書くことになった。彼女は自転車をタネに物理、とくに、いろいろな力を網羅した本をつくりたいという。ところが自転車をタネにすると浮力や揚力などはとてもかけそうにない。結局この企画はやめて、『力の事典』という本になって、2012年1月に岩崎書店から出版された。これで終わったと思っていたら、檀上氏は編集者の鏡のような人で、どうしても自転車の本を作りたいとう。そこでもう一度子ども向けの物理の本をつくることにし、筆者夫婦に高校教員の鈴木康平氏を加え、檀上氏とともに新しい本の構想を練り上げた。レベルは前著『力の事典』より少し難しくなったが、小学生から大人まで楽しんで学べる本にしたつもりだ。内容は豊富な絵でかなりわかりやすくなったと思う。ちなみに表紙にも登場するクマ博士は絵を担当したいたやさとし氏の得意とするクマだそうだ。一緒にいる男の子と自転車は小学3年生の孫をモデルにした。しかしこの本が出版されたときは背丈も伸び、自転車も大人の自転車に買い替えられている。
 自転車の本はたくさん出ている。専門の雑誌も多い。しかしこの本はあくまでも物理の本であって、子どもたちにも大人にも身近な自転車という道具で力学を中心に古典物理学のかなりの部分を述べたのである。もちろん筆者に身近な単位や測定は実験の基礎であり、大切なことなので意識して入れている。
 第1章「自転車をはかる」では、まずは自転車のいろいろな部分の寸法をはかり、次に重さをはかっている。ノギスについての記述にはミツトヨの沢辺雅二氏にいろいろご教授願った。物理としては、重さと重力、重心、力などを取り上げた。章のあちこちに入れた囲み記事には、「車輪ひとまわりぶんの長さ(円周と円周率)」、「タイヤの呼び寸法と、標準的な空気圧」、「質量の単位と力の単位」、「重心の調べかた」が、章末にはメートルの歴史的展開も含めた「単位の話」をつけている。
 第2章「自転車に乗る」はまさに力学の基本になっている。ニュートンの運動の3法則を中心にし、自転車を押して歩く、蹴って進む、走る、バランスをとる、坂道を下る、ブレーキをかけるなど、いろいろな動きで力学の勉強をしてもらう。とはいっても原則として数式は使わないのだから、述べるのも容易ではない。
 第3章、第4章を「自転車の構造」TとUにし、自転車の不思議を探っている。かんたんにスピードが出る不思議、坂道を楽にのぼる不思議、軽い自転車が人を支える不思議、小さい力で動かせる不思議、安定して倒れない不思議、疲れずに乗り続けられる不思議である。普段はあたりまえとろくに考えもせずに乗り回していた自転車も不思議だと考えてみると、その構造のなかにすごいしくみが入っていて、自転車というものは本当にすばらしい発明品なのだと思った。この2つの章は主に鈴木氏が担当した。
 第5章にあるジュールの実験は高校の教科書を調べても実験の具体的な様子はよくはわからなが、水中にある羽根車をまわして水の温度の上昇を調べ、力学的エネルギーと熱エネルギーを比べ4.2ジュール=1カロリーとした実験である。教科書だと簡単に見えるが、実際は6リットルの水の温度を0.3℃あげるのに、合計26kgのおもりを下げることを繰り返し、合計で32mも下げている。こうした熱関係の調査では高田誠二氏にも資料も送っていただいた。人の消費エネルギーなどは筆者がジムに行って自転車こぎや歩くマシーンに幾度も乗り調べたし、カーブを曲がるときの速さと傾きの角度もいくども試して、計算と合うことがわかった。
 第6章にある自転車のローラー発電機は筆者の古い自転車を発電機を外して分解、カナノコで周囲を切って中を観察して、絵にした。この本ができるまでに孫たちも大きくなり、筆者の自転車もすごく古くなり、結局、自転車を孫に2台、筆者に1台の計3台も買い替えたことになる。こんなふうに家族ぐるみで奮闘してつくった本である。
本の発売直後に亡くなられた高田誠二氏にこの本をお見せできなかったことが悔やまれる。
「自転車のなぜ−物理のキホン!−(ぐるり科学ずかん)」表紙【書名】自転車のなぜ−物理のキホン!−(ぐるり科学ずかん)
【著者】大井喜久夫・大井みさほ・鈴木康平(文)、いたやさとし(絵)
【出版社/出版年月日/ISBN】玉川大学出版部/2015年1月22日/978-4-472-05942-1
【判型・ページ数】A4変形・128ページ
【定価】4200円+税
【目次】▽自転車にはたらく「力」の秘密▽第1章=自転車をはかる▽第2章=自転車に乗る▽第3章=自転車の構造T▽第4章=自転車の構造U▽第5章=自転車の運動とエネルギー▽第6章=エネルギーの不思議▽大人のみなさんへ=各章のポイント▽さくいん▽読書案内


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