第188回NMS研究会報告(2013年10月)(3011号/2014年5月25日掲載) |
(株)小松製作所 細井光夫 |
第188回NMS研究会を2013年10月5日(土)に、品質工学会新事務所で開催した。 1、「品質工学のエコシステムについて」(応用計測研究所(株)、矢野宏(以下、主宰))品質工学の良さを知る者としては「品質工学を使うことは当然であり必然」なのであるが、後述の鋳造工学会にも見るように、世間一般には品質工学はマイノリティである。そこで、主宰から「品質工学が何故使われないのか」について問題提起があり、品質工学が継続発展(生存)するためのエコシステム(生態系)について参加各位の考察が求められた。各自が考えを整理して、次回のNMS研究討論会(11月2日)5分間リレー発表にて発表する予定である。2、「日本鋳造工学会の技術講習会での品質工学紹介」((株)小松製作所、細井光夫)13年10月25日(金)開催の「日本鋳造工学会の技術講習会」で、主宰と細井がおこなう講演「品質工学の考え方と現場適用事例」の発表資料を参加者に紹介し、意見と指摘を受けた。当技術講習会は「鋳造の真の不良原因をとらえ的確な不良対策を考える」という従来の品質管理的な考え方がテーマであり、基調講演「鋳造不良の科学」に続く講演6件中の5件は従来主流となる考え方に則っている。そして、6件目に「品質管理的な考え方では上手く対処できない不良に対抗するには発想の転換が必要である」という主張をして、従来の品質管理的な考え方とは一線を画した「品質工学」を紹介した。当講習会の結果報告は別の機会に譲るが、「品質工学の考え方と具体的成果」の紹介は鋳造関係者に大きなインパクトを与えたものと思われる。 3、「経営へのMTシステム活用に向けて」(キヤノン(株)、吉原均)ビジネス書籍「ビジョナリーカンパニー」の紹介の後、表題の研究発表を元に議論をした。MTシステムはいわば「品質工学の多変量解析」であり、異常(たとえば火事や病気)を検出するためには、異常(火事や病気)そのものではなく、正常な状態(単位空間と呼ぶ)を基準にする点が従来とは異なる発想である。異常なものほど距離が離れるような尺度を求めることにより、火災報知機や肝臓病の診断において非常に大きな成果を上げている。その原理に従い、「優れているものは個別に特殊である」と考えて、単位空間を「戦後ずっと安定な企業」にする方向を確認した。4、「手の感覚分布計測とデータ考察」(芝浦工業大学、関剛也)動作が改善されても感覚が戻らない従来のリハビリに加えて、触覚と視覚を同時に刺激して感覚を回復させる研究である。主宰から「装置を作ってから評価方法を考えるのではなく、評価方法を決めてから、装置を作るべき」との指摘があった。このように品質工学では、「何がしたいのか」、「それはどうしたらできるのか」、「その手順は効率が良いのか」という根本的な問いを発し続ける。5、「電力評価によるディスク搬送機能の安定化」(アルパイン(株)、山野竹秀)検討段階の表題の研究について報告があり、主宰ほかから信号因子と誤差因子の工夫についてアドバイスがあった。搬送機能を電力で評価する点が非常に品質工学的である。世間一般では「品質」というと「不良」に目を奪われがちであるが、品質工学では、不良ではなく、「働き」に注目する。働きの量(特性値)を変化させる「信号因子」を考え、その関係を乱すものとして「誤差因子」を考える。そして、品質工学のパラメータ設計では、誤差因子があっても働きを乱されないためのアイデア、工夫を評価する。どのような働き(特性値)を考え、信号因子と誤差因子を何にするか、が技術者の腕の見せ所であり、研究の成果を左右するものである。6、春のNMS研究討論会(2月)のテーマ検討、その他議論の結果、「妥協しない品質工学の実践」を来年2月のNMS研究討論会のテーマに決めた。 |