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第196回NMS研究会報告(2014年6月)

(3052号/2015年4月12日掲載)

日本水環境学会 窪田葉子

 2014年6月7日(土)、品質工学会会議室で、第196回NMS研究会が開催された。

1、伊能研究会での発表概要(測定について)(応用計測研究所、矢野宏(以下、主宰))

 伊能忠敬が測量を実行できたのは、(1)プロジェクトマネジメント能力(測量隊という組織を動かす能力と資金)、(2)研究力の大きさ、(3)研究成果の確定(個人の力だけでは得られない)があった。田口玄一にもその才能を見抜いて支援した増山元三郎という生涯の師がいた。
 ものを測るとき、測る道具と測る相手のどちらが正しいのか、誤差の定義として「測定値−真の値」とされているが、真の値というものが判らない以上、この定義に問題がある。
 硬さについて、共通標準はないのに規格はあり、しかも規格が欧州と米国で違っていて、両方に売るために共通標準が必要とされていた。標準を作る際、「それなりに使える試験機の平均値を用いる」考え方と「試験方法を正しく規定したときに得られる値が正しい」という考え方があった。日本では国際度量衡に頼り、自分で考えるということがなかった。標準試料の精度をどう評価・担保するかという問題で、「分析すればよい」と安易に言われることがあるが、そもそも標準試料は分析の精度を担保するためのものであり、標準試料自体の精度を通常の分析で担保できるわけがない。「正しい方法で作成した試料はその瞬間(劣化する前)は正しい」として、安定的な条件のパラメータ設計とともに、その経時劣化の把握(作成〇カ月後の試料と作成直後の試料の同時測定)や、世界的な標準測定機関での比較測定によって担保していくことになる。
 試験片も一様な硬さではなく、位置によって硬さに差異があり、硬さの差はランダムではなく、どの部分か(中央部、周縁部、中間部)によって硬さの分布があった。適切な試験片の作成を請け負う会社はなかなかなく、請け負ったただ1社でも製造できるようになるまで、さらに社会的に認められるようになるまで長期間かかった。
 測定は、測定者による差も出る。たとえばマイクロメータでは接触面が完全な点もしくは完全に並行でない限り、最初に触れる点接触から面接触の間のどこを用いているかは人によって異なる。自動化しても人による差は出る。測定の上手、下手は性格が影響し、測定には向いていない性格(外交的で自信家)の方が社会的強者に多いことが、測定が軽視される社会的傾向の原因かもしれない。
 測定能力は訓練によって向上するが、訓練を止めるとだめになる。測定とは何か、誤差とは何か。組立能力も人によって異なる。工程を改善することによって能力が低い人でもちゃんと組み立てられるようになった事例が今回、発表される。
 問題が起きないことを評価できるか。問題が起こらないようにするとわからない。問題が起きてから火を消す方が目立つ(成果があるように見える)。問題が出なくなると相手(話題)にされなくなる。クレームが激減すると感動されるが、その次の人はクレームがないことが当たり前になって重要性を忘れる。バグが出て直すと評価されるが、出ないことが続くと評価されなくなる。
 人事評価は、結局のところ感じで(恣意的に)つけて理由は後付、成果といっているが実は年功序列で付けている。

2、エンジン燃焼における壁温分布の最適化(トヨタ自動車、橘鷹、藤田)

 硫黄含有量の多い燃料、バイオエタノール等、壁面が腐食しやすい環境が増加している。壁温測定ではなく、腐食しない温度(60℃以上あれば腐食しないはず)にいかに早く持っていき、維持できるかを検討した。燃焼の熱エネルギーの一部が壁温上昇に使われ、吸入空気量がエネルギーにつながるとして信号因子とし、熱伝達に関する設計パラメータ(熱伝達係数、シリンダライナ厚さ、ウォータージャケット形状)を制御因子として、温度をシミュレーションした。制御因子の振り幅は現状のエンジンでできる範囲の限界に近い。さらに冷却水量を信号因子とした2信号系も検討。エンジンの範囲ギリギリまで因子の範囲を振っているが、SN比の利得がごく小さい。
 トヨタでは、それ自体の働きに細分化されて検討されるようになってきており、全体のなかでの働きを検討する方向に回帰しつつある。
 現状のエンジンシステムの限界と言わずに、いっそ、膨張を積極的に利用したロバスト性のあるより効率の高いシステムの設計につなげられないか。制御因子が少なすぎる、わかるようになればもっと増えるはず。平均値を変えること/感度をみることの重要性をもっと認識すべき等の意見・指摘があった。

3、評価における品質工学(アルプス電気、上杉一夫)

 マクロ視点、価値の共有、エコシステムについての座長総括の解説。どんなに優れたイノベーションでも良好なエコシステムがなければ成立しない。品質工学は田口玄一によるイノベーションであり、品質工学におけるエコシステムについて考察した。エコシステムを効果のあるものにするために、メンバー自身がコネクターハブの役割を担うこと、異なる知識を交換し化学反応を起こせるようなネットワーク力が重要。テーマつながりで社会への貢献をどう具体化するかが課題。

4、画像シミュレーション技術を用いた構想設計の最適化検討(コニカミノルタ、近藤芳昭)

 全体を最適化してから個別の最適化をおこなうことを、業務用のコピー機(印刷機、要求水準が厳しい)について検討。タブレット等の普及により印刷は先細りの傾向にあり、後戻りを無くすために設計の段階からシステム全体の最適化、見える化/言える化(言われる化)をはかる。実験ではできない限界においてインプットがどういうアウトプットになるか(機械的・物理的誤差は今回の対象外)について、L18に誤差因子をL12で設定してシミュレーションで検討した。要因効果で山谷がなく、SN比と感度の傾向が類似し、SN比が変わらずに感度が変化する制御因子が無いので、調整は難しい。
 L18で最適化した後、その条件は固定してさらに別の条件を重ねて検討すれば最適化できる、設計条件の差は公差ではなく公差の3倍くらいに設定すべきとの指摘があった。

5、ダンパモジュール応答解析による自動車乗り心地の安定化検討(YKB、満嶋弘二)

 ダンパの仕事をエネルギー吸収ととらえ、その時間的変化を求めることで、ノイズに対して安定させたうえでチューニングすることを、時間を表示因子として現行のデータとの比較で検討している。一山になったが山自体は高くなった、また、チューニングに使える因子があるのかについては微妙。誤差因子に使用条件を入れた検討もおこなう予定。
 時間を表示因子にせずに検討するほうが良いのではないか、形を合わせて比較することが良いのか等の指摘があった。

6、牛脂から製造した脂肪酸の精製(ヱスケー石鹸、秋元美由紀)

 牛脂から製造した脂肪酸からグリセリン、残留酵素、不要の脂肪酸(臭気、着色、短鎖、不飽和)等の不純物を除去し、石鹸製造にふさわしいレベルの脂肪酸に精製することを検討している。まずその第1段階として脂肪酸をガスクロ(FID検出器)で分析して含有物を検討し、精製レベルの評価について検討した。不純物の除去方法としては吸着剤を添加して分離することを想定している。
 ガスクロのパターンをMTで検討すること、できあがったものの評価だけでなく途中のものを評価して動特性で見たほうがノイズを消せるのではないか、除去したいものを添加して除去方法を検討したらどうか等の指摘があった。

7、地震発生予測後の行動に関するアンケート解析(3)(富山高専、水谷淳之介)(代理:早川幸弘)

 地震発生が1日前に予測できたとしてのアンケートをおこない、その解析をおこなった。記述式アンケートの記載内容を(1)具体的な行動の数をポイントとする、(2)具体性をポイントとする、(3)字数の3種で評価し、地震被害の経験者(被害レベルと被害行動のポイントが高かった人)を単位空間として解析した。地域差、経験の差と行動との関連は認められなかった。被災経験がない/被災地域でない人を単位空間にすることも検討予定。

8、つくば地区地震発生予測の再検討(富山高専、早川幸弘)

 従来検討していた時間より、もっと前の時間で判断することを検討している。2011年以降はそれ以前と異なり、不安定になっているため比較しにくくなっている。傾向があるとは言えず行き詰まり状態であり、周期分析を止めて項目(GPSなど)を増やすことを検討している。単位空間を地震のない日としているが、かなり少ない。

9、日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断(キヤノン、吉原均)

 日本の企業について、単位空間を長生き企業(200年、2012年度のデータ)とし、項目としては主として決算短信およびその比や差を用い、誤圧で検討した。単位空間のうち誤圧の距離の大きい企業を外し、メンバーのうち距離の小さい企業を単位空間に移すことを何度か繰り返し、距離とその分布が小さい単位空間を選定した。100年企業のうち、トヨタと似ている企業の項目診断をおこなった。
 何をもって「良い会社」とするのか、自社の別の年と比較してどうか、(トヨタの距離は大きいので)距離が大きい会社が良い会社という認識を与えないように説明に工夫が必要等の指摘があり、ここ数年で業績が大きく変わった会社での項目診断、全部の年度で安定している企業を単位空間にすることも追加検討することになった。
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