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第201回NMS研究会報告(2014年11月)

(3066号/2015年7月26日掲載)

アシザワ・ファインテック(株) 塩入一希

 2014年11月1日(土)、品質工学会会議室で、第201回NMS研究会が開催された。

1、座談会「品質工学は計測技術である」

 テーマについて、NMS研究会メンバー全員で議論をおこなった。日本計量新報社の新年の特別記事として掲載された。

2、 品質工学における技術の在り方(11)(応用計測研究所(株)、矢野宏)

 この内容は学会誌12月号に掲載されるが、意見を聞きたい。
 田口先生はひたすら「あなたの技術課題は何か」と問い続けた。今でこそ基本機能という言葉で紹介されているが、田口先生が基本機能という言葉に行き着くまでに30年の歳月を要している。基本機能は初めから存在するものではなく、実験を通して「これが基本機能だった」と気づくものである。すべての課題は非明示的で個別的であるからだ。さらに損失関数などがあっても企業の利益は目に見えにくい。目の前の問題ではなく、将来発生する企業コストと出荷品が生む損失を予測しているのである。これらを直感的に理解する人が世のなかにはいる。KYBの齋藤がそうである。勘が良くないとそもそも技術の本質などわかる訳がない。ただし、勘というのは磨けるものだ。「品質工学は問題を解決しない」や「品質特性を測るな」と言われ、とっつきにくいと思われる。「誰でも儲かる手法」ではなく「誰にもできない品質工学」だから意味があるのではないか?一方で、実践をしたことで社内の問題を引き起こしてしまう場合もある。部下や第三者があっさり成功してしまうのは、当人にとって面白くないものなのであろう。そのような問題もあるからこそ、実践はマネージャー自らがおこなうべきである。自分で実験しなくても研究計画を描き、報告を受けるだけでなく討議に参加して責任を果たすべきである。そして、技術者は品質工学会以外にも専門学会に参加し、専門家と対等な議論ができるように勉強をすべきだ。ベル研の調査団に「なぜタグチはどんな問題でも議論できるか」という問いに対して、田口先生は「場数だ」と答えた。多くの人と話していると共通した問題を抱えていることに気付く。実践を前提に多くの者と頭脳格闘の場数を積むことが大事なのだと気付いた。現在、「こんなにも良いのに品質工学がなぜ広まらないか」を考え続けている。わかりやすいほどの目覚ましい成果を打ち出せれば良いのか?未だ答えが出ない。
 頭脳格闘の参考になる意見として、常田は自身の最近の業務について語っている。設計課の部下達と面接をした際に、失敗をしたときを振り返りセルフシミュレーションしなさいと伝えた。失敗の振り返りの重要性は矢野に教わり、これが勘の育成に繋がると考えている。中島の「失敗とは何か」という問いに対して、常田は期待(要求)を満たさなかったことと、「気付けなかったこと」を挙げている。反省によって勘は磨ける。
 品質工学の受け入れ方について、田村は「品質工学を受け入れられるかは当人の納得力の問題だ」と指摘している。細井は、自分が受け入れられたのは胡散臭いモノでも挑戦できるのは楽しかったからだと言うが、吉原は「業務に対する疑問が背景にあったのではないか」といった。橘鷹は「QCでもQEでも演繹的に業務を奨めることが疑問で、帰納的に進めることが大事だ」という。矢野からは、「QEはやらなくても死なないがQC導入期には導入しない会社は契約が得られないという強力な圧力があった」と、田口先生より前の統計学者などは因果関係の重要性を説いていた。細井は「その原因追究の文化が抵抗勢力を生むと考えている。それに続けて、自身の知見や経験から演繹的に導いた仮説は大事であり、それをアイデアとして検証する帰納的過程がさらに大事である」と語った。常田からは、「田口先生から因果関係がわかるというなら因果の「果」を入力にすれば良いと聞いた。それもまた評価するには理に適ったアイデアである」とあった。
 品質工学の難しさについて、橘鷹はSN比を挙げている。真数化しても上司は絶対値で「いくつか?」と聞いてくる。数値計算を用いる近藤は、絶対値評価できない計算だからSN比はむしろ理解がしやすいと応えた。絶対値の合わせ込みをするとQE以前に数値計算のなかでイタチゴッコが始まってしまう。細井は、要因効果図などは視覚的にわかりやすいが、品質工学を採用したことを無理に紹介しなくても良いのではないか?と話している。マツダが品質工学で車を造っていても表舞台にはCAE活用などしか記事にされない。成果のアピールをどうするべきかという課題も確かに残る。
 品質工学を上手く社内で広めている細井の体験は参考になる。細井の活動を支援しているうちの1人に開発部の予算管理担当がいる。彼は開発者ではないもののQE講義を受けて共感して、莫大な開発コストを抑えるためにQE実践をルール化してくれている。強制なので大変と思う者もいるかもしれないが、実践者達も実験の失敗を繰り返しわかってくると楽しいと語ってくれている。そして、コマツではQEだけの社内発表はしていない。マネジメント層が出席する研究開発の討論の場にQE事例を差し込んでいる。要はQEを保護などせずに本当に良いものだけを発表している。田村は継続的活動の重要性に目をつけ、自社でも予定を先行的に入れて進めようと決意した。
 齋藤は技術の在り方(12)を書くならば、矢野がかつて大学講義で使用していたノートを紹介してくれないかと話した。自身が教育者でもあるので教育がすべての原点という思いが人一倍強い。勘を磨くためにも、学ぼうとする心構えを紹介してほしいとお願いした。矢野はそれを受けて、森嶋通夫の話を挙げた。「なぜ日本は没落するか」の著書である経済学者だ。結局、品質工学を広めることは教育でもあり、教育を前提にしないと品質工学的な考えを持つような技術者も育たないと考える。矢野は思惑を巡らしながら「考えてみる」と答えた。

3、(ペットの)糞の放置防止(セイコーインスツル(株)、竹内和雄)

 ほとんどの飼い主はきちんと処理をしていくが、一部の飼い主が夜間に犬を散歩し糞を残していくため困っている。忌避剤や街灯設置をしながらビデオ観測することで、対策の効果があるかを確かめている。MTシステムで、対策を何もしていない日を単位空間とした解析について、防止が目的なら糞を残していくかどうかの識別を手段にしてはどうかという提案があった。糞をしていない状態を単位空間にすれば糞をするときを検知しライトアップや警告音などの対策ができると考えられる。ただし、自宅付近でなければ糞を残してもよいのかという問題や、きちんとした飼い主の犬にまで警告を出してしまっては、逆に迷惑行為と誤解される問題もあり悩ましい。

4、日本企業の業績研究の継続の方向性(キヤノン(株)、吉原均)

 約2000社の有価証券報告書データを集めた。内容の精査は必要だが、まずは単位空間に対して今回のデータがどのような違いを出すか項目診断した。すると、業種によって数字の有無が違う項目が存在するため、それが比較されたときには発散的な違いと評価されてしまう。単位空間の設定を含めて、次回大会発表に向けてデータを上手く活用したい。
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