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第202回NMS研究会報告(2014年12月)

(3071号/2015年9月6日掲載)

アシザワ・ファインテック(株) 塩入一希

 2014年12月6日(土)、品質工学会会議室で、第202回NMS研究会が開催された。研究会では、第7回品質工学技術戦略研究発表大会の振り返り、事例発表が3件あった。

1、工業標準設定方法の研究(応用計測研究所(株)、矢野宏)

 第7回品質工学技術戦略研究発表大会でも話した内容であるが、検討の経緯を含めて改めて話す。過去を振り返ってまとめようと思うと、「工業標準とは何か?」「どのように設定すべきか?」というものから、「技術者としての自立の道」へ変遷していった。まず、標準とは「もの」か「方法」か。昔は「もの」であったかも知れないが「方法」にシフトしている。ものは失われたとき再現が難しいが、方法であればまた作れる。品質工学の成果を見ると、実験自体は進むものの、成果を普及させるまで実行していない事例が多い。中山茂は「日本人は優れた研究者は多いが、研究計画の調整ができず有効な成果を引き出しにくい」と言っている。研究は、@プロジェクトの立ち上げ、A研究活動(実験など)、B成果の活用の3本柱になる。
 技術戦略研究発表大会には東北大の大見教授が来ていた。技術力も実行力も予算もある人物である。わざわざ大会に足を運んだのは、しがらみの問題を抱えているのではないかと思う。しがらみの歴史は大波昇の書が参考になる。明治初期、国家は少数の優秀な人間が「法科政学」を学び、他の多くが「科学や工芸技術百科の学」を学ぶべきと考えていた。技術者を社会的に閉じ込めていたことがわかる。これに対して宮本武之輔は、「技術者は経営者と対等だ」と説き、技術経済協会の設立を訴えた。ロバート・ブラウンは理論を合理的に受け入れるための判断基準をまとめている。しかし、すべてが合理性では説明できない。JIS規格を作成する際にもただただ頭を下げるようにした。軸受メーカーなどは現在でも談合などが問題になっている。新幹線プロジェクトは確立された技術しか採用しないという方針があった。その意味では合理性の部分でも自身の軸受硬さの研究は確立された技術と認識されたのかもしれない。
 パレートは人間の基本要素として「新しい組み合わせを見つけ出そうとする意欲」など6項目でまとめている。その意欲は「イノベーションを成し遂げようとする本能」だといえる。研究は大変である。しがらみも大変である。損失関数だなんて夢のまた夢に思える。最後は人間力であり、個人の問題になる。以上が「技術者は集団のアート」「されど、個人のイノベーションの意欲が大事」と訴えた経緯である。
 キヤノンの吉原は現在の複合機の市場シェアを見ると、品質工学を継続的にやっている企業の占有率が高いという事実を挙げている。細井は普及にはトップダウンが重要と述べている。一方で、若い人は品質工学に興味は持ってくれると話す。吉原は、若い人は興味を持つが、機能を測るのが難しくトラウマ化することもあるという。うまく教えられる指導者がいるかどうかの運もある。田村は測定誤差があることを教育のなかで教えないという。
 矢野は知人である教師と誤差の話をすると、何が正しいかを教えるのが難しくなると聞いた。分野による権威の違いもあり、齋藤によると医療分野の計測機器は欧州勢への信頼が強いという。矢野の標準研究でも大学の権威と衝突する場面があるが、中嶋はどこの大学の何という先生からのお墨付きというのはとても影響力があるという。澤田は関連JISの普及部数という視点から、軸受ユーザーの指標はカタログ優位だという。出版部数ベースを見てもベアリング関係のJISはほとんど普及していないように感じる。コマツではJISではなくKES(コマツエンジニアリングスタンダード)という社内規格を使っている。コニカミノルタでは昔、紙の剛性を標準化した。紙送り問題などの評価には非常に大事なものである。社内規格もしがらみが多いだろうが、熱心に活用まで進めた良い事例であり、研究として完遂している。

2、第7回品質工学技術戦略研究発表大会の振り返り

塩入 YKKの大谷が言う「原理原則と実践」という言葉がとても印象的であった。
吉原 ゼロックスの「NEWゼロックス活動」、アルプスの「一発完動」など、大きな目標と実現性について会場で質問した。自分の意図としては、技術者に動機付けをするのにはとてつもなく大きな目標を示すのが一番であると感じていた。スローガンはある程度広く曖昧でもよいという回答であった。
常田 広く曖昧な目標ではあるものの、皆「方法を暗示させている」のように感じた。
中沢 過去に散々失敗したのでインパクトを与えて皆を動かす狙いがあった。
中島 組織を動かすにはスローガンは重要なのかも知れない。あとはYKK大谷のように現場でしつこく言い続けるのも大事だと思う。
細井 アサヒ技研の中井は結果的にビジネスになったのだが、焦点はずっと社会損失の低減にあったと思う。QDSの吉澤の技展は「テーマ選択」の重要性を強調されていた。元コニカミノルタの近岡の話からは、企業や人を共通化して一様に評価するのは難しいと感じた。途中、東北大の大見教授が全数検査をなくしたいと発言していた。大見教授の分野は大金を掛けて大成功か大失敗かというような世界。ムダ取りが大事だと考えたのだと思う。YKKの大谷の話からは、内製している企業は強いということと、技術から離れた人がマネジメントした方が良いということを感じた。「原理原則を見る眼」を品質工学に期待している。技術の詳細にこだわらずに、機械に対するロバスト性を「easy to repair」「easy to operate」「do not stop」というスローガンに含ませていると感じた。
澤田 YKKの大谷は勘の素晴らしい人だと思うが、一方で経営者としてはクールで狡猾だとも感じた。それは技術者のしがらみの1つである「トップマネジメントの力」を大谷は経営として強引に指導しているように感じたからだ。つまり大谷は、技術者特有の「技術者のための技術」を許さないことを明言している。マクロ視点を考える品質工学会員と大谷とが話す機会があると、双方にメリットがあると感じた。
細井 懇親会で大谷と話す機会があったが本当に勘が良い人である。推測ではあるが、YKKの工場に窓をつけたいというアイデアは、従業員満足度の視点だけではなく「精密機械工場でも使える窓」に市場性を感じているのではないかと思う。
田村 「窓ある会社」とCMで謳っている。
矢野 中国で売れているYKKの窓はシール性が良くPM2.5も防ぐようだ。
吉原 皆が印象を強く受けた大谷は一貫性がある人だった。大谷の一貫性は顧客主義に基づいているのだと思う。
細井 技術者には顧客視点が足らないと大谷はいっていた。
吉原 目的達成のために技術があるともいっていた。
矢野 YKK工機部門の営業は、事業部への営業活動をするらしい。品質工学も営業したらよいではないか。
細井 まさに私はコマツの品質工学営業をしていると思う。

3、wafer面内の膜厚/膜質均一化の研究(アルプス電気(株)、中沢和彦)

 前回、スマートフォンなどに使用される地磁気センサーのパラメータ設計を報告した。メッキ工程の影響が大きかったため、磁性メッキ工程のパラメータ設計について今回報告する。電極の劣化とwafer膜厚の位置をノイズに、鉄組成を調整してwafer外周部と中心部のバラつきを低減した。
 前回と今回で、検討チームのメンバーは異なっている。磁気センサー機能について統一的に取り組みを進めるには、旗振り役である中沢がチーム間の意見をうまく橋渡しする必要がある。また、調合されたノイズを添加しているが、矢野から「普通は制御因子より誤差因子の方が多いもの。まとめるなら誤差因子をよく検討しなければならない」と指摘があった。さまざまな要因を考えると確かにほとんどが誤差因子である。検討を進めて6月の大会で発表をする予定である。

4、シミュレーションを用いた粉砕機の開発(アシザワ・ファインテック(株)、塩入一希)

 前回の目的が不明確だという指摘を受けて、目的を明確にするために論文形式でまとめているものを報告した。「結局、何をするか」の問いに対して一言で言い表せない。粉砕機の構造や開発体制など前提条件を述べるが、何をするかが一番重要である。「開発手法の開発ではないか」という意見もあり、テーマを決めることに注力している。6月の発表大会に向けて準備を進めていく。

5、時系列変化と項目拡大の検討(キヤノン(株)、吉原均)

 2007年から2012年のデータを用いて、誤圧距離が大きい企業は単位空間から省いた。項目には企業の安全性と成長性の指標も加えることを考慮した。労働災害などは考慮できないかという質問があったが、全企業に対して情報収集するのは難しい。単位空間の企業は、創業100年を超える老舗企業のうち130社をもとにしたが、単位空間のメンバーの誤圧は10を超える企業も存在する。信号について、誤圧が著しく大きい企業は時系列データを検討する前後でほとんど同じ企業であった。時間の安定を見るのであれば前年との差分値を用いるのも手だとアドバイスがあった。さらなる検討を進めて、ここから何を示唆するのかを掴み取っていく。
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