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第205回NMS研究会報告(2015年3月)

(3074号/2015年9月27日掲載)

トヨタ自動車(株) 橘鷹伴幸

(編集部注:第204回NMS研究会での「公開討論会」については、3050号E面に掲載)

 2015年3月7日、NMS(New Manufacturing System)研究会が品質工学会会議室で開催された。今回のテーマは、2月27日に開催された品質工学会企業交流会の振り返りと1件の論説の紹介とそれに対する討議および4件の研究事例報告と討議であった。
 まず企業交流会の振り返りである。先の会の議論において、@品質工学は課題解決ではなく全体最適をめざすものであるが、その導入としては部分最適や課題解決から始め、解析結果を吟味していくうちに全体最適視点に気付き成長していく方法もあるということ、A品質工学の定着期は衰退の始まりではなく全体最適の考え方の展開の序章であること、Bその考え方を持てる人材を育成したり世代間の考え方のギャップを定量的な指標で埋めたりするのに品質工学は共通言語になりうること、が共通認識された。今回の振り返りにおいて、交流会においてそのような議論を実現できたのは研究事例発表において各発表者が主にテーマ設定の経緯や研究実施時の関係者の取組姿勢などの裏舞台を紹介したことで業界を超えた各社の共通課題を共有し討議できたためと考え、企業交流会の新しい姿であり関心が持ちやすかったと好評であった。交流会の結果、開催会場を提供したコニカミノルタにおいては、同社の近藤芳昭から交流会参加者が同社の発表事例に関心を持ち、製品をシステム全体で捉え開発を推進するための部署の壁を越えた議論が開始されたということが報告された。品質工学を展開していくには、課題をいかにとらえそこからシステムの全体最適をいかに考えるかを実践し周囲に見せることが第一歩であると本研究会は結論づけた。
 次に、応用計測研究所(株)矢野宏の「何にでも役に立つ品質工学」というテーマでの論説について議論がおこなわれた。日本の企業では開発において得られた値のわけを因果関係で説明しなければならないという呪縛に囚われているが、ばらつきは単純な因果でなく外乱によるものであるので因果で説明することは不可能である。本研究会では、品質工学を用いたさまざまな現象解析において原理式に基づく演繹的な説明と要因効果解析などから得られる帰納的な説明をうまく融合させて現象を理解していくことが新たな技術開発につながることや、シミュレーションを実現象に完璧に合致させることは実現象における外乱により不可能でありその活用方法を使い手が考える必要があることが議論された。
 次に4件の研究事例報告と討議が実施された。
 1件目は富山高専の早川幸弘から「ボルト締結状態の打音診断」が報告された。自動車道のトンネルに設置されている天井板のアンカーボルトの締結状態の診断はハンマーによる打音の官能評価による。これは測定者の経験を頼りにしており、また周囲の環境からも影響される。そこで人の五感に頼らない診断の実現をめざす。当初はハンマーのボルト打撃時のボルトの歪や吸収エネルギーの評価を考えたが、実用上の簡便さを考慮し打音の振動波形や周波数のMTシステムによる診断をめざしている。
 2件目はヱスケー石鹸(株)の秋元美由紀から「ハミガキ剤製品開発のための技術開発」が報告された。ベース剤の処方の根拠を定量的に明らかにするため、出力特性をpHや耐微生物性に取り直交実験から有意な因子を抽出した。その結果から実物のパラメータ設計を、チューブからの吐出性を代表する特性としてハミガキ剤への棒の押し込みと戻し荷重を用いておこなった。この荷重測定結果の吟味において押し込みと戻しの行程で異なる特性を測定している可能性に気付いた。また本結果を用いた損失および許容差の検討の議論において、そもそもハミガキ剤に必要とされるはたらきの議論が社内において活発化したことが報告された。さらに研究の内容を深化させるため本研究会から、押し込み深さと荷重は非線形であれば標準SN比で評価すべきであることや、そもそも吐出性を代表する試験法として本試験であるべきかなどの議論がなされた。
 3件目はアシザワ・ファインテック(株)塩入一希から「シミュレーションを用いた粉砕機の設計」が報告された。粉砕機の内部の流体シミュレーションを活用し、信号因子を羽の回転速度、出力特性を粉砕機内の圧力の場所による差を取りSN比・感度の利得を追及している。出力特性値について、本研究において実現したいことを代表している特性値が圧力差でよいのか議論され、実現したいことへの現象のつながりを再考することとなった。
 4件目はNMS研究会吉原均から「日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断 第2報〜時系列変化と項目拡大〜」が報告された。第1報は企業の存続のヒントを100年以上存続している老舗企業の項目診断から得る試みであった。本報ではさらに2007年から2012年の項目診断結果からリーマンショックや震災などの社会的外乱の影響を受けにくい企業の特徴を明らかにすることをめざしている。時系列変化の少ない企業群を単位空間としたことで誤圧の距離の分解能力は向上し、誤圧の距離が大きい企業としてトヨタ、東京電力が抽出された。次にこれらと相関係数の大きい企業を集めたが共通点は明確にできなかったため、これら企業の項目診断を実施した。トヨタについては誤圧の距離を下げる項目は営業利益関係の項目が多く、距離を上げる項目は営業外収益や受取配当金の項目が抽出された。東京電力については誤圧の距離を上げる項目は、福島第一原発事故に起因するように2011年から固定負債、特別損失、特別利益が抽出された。誤圧の距離の大きい企業の独自性が明らかになってきた。本研究会での討議の結果、倒産した企業のデータの解析からの新知見の抽出、単位空間とした企業のデータの吟味と考察、業界ごとのグルーピングを継続解析し新知見の抽出を実施することにした。
 次回は4月4日に開催される予定である。6月の研究発表大会に向け、さらに研究事例報告と討議を実施する予定である。

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