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第206回NMS研究会報告(2015年4月)

(3075号/2015年10月4日掲載)

コニカミノルタ(株) 近藤芳昭

 2015年4月4日(土)、品質工学会会議室で、第206回NMS研究会が開催された。今回は6人のテーマについて議論がなされた。
 応用計測研究所(株)の矢野宏から、論説「何にでも役立つ品質工学(2)」の紹介があった。今回は「田口が常に問うていたことは何か」を取り上げて、故田口玄一の講演録画や言動を交え、各々の研究を振り返った意見交換がなされた。田口の「品質特性を測るな」という言葉に対する矢野流の品質工学実践例として、実用的な硬さ試験機の開発経緯について、直接的に硬さを測らずに押し込み変形プロセスを安定化することで、ばらつきの小さい硬さ標準片を開発した例が紹介された。また、矢野自身が重要と考えていることで2つの提言があった。1つは、学んだ知識を能書きだけで終わらせず、実践して具体的な成果を残すこと。もう1つは、実験をする前に自分の考えの筋道を整理して仮説をたて、それを論文形式で文書化しておくことである。特に後者は自分の思考を深く確認する行為となり、より研究の質を高められるとのことであった。
 元キヤノン(株)の山戸田武史から、「誤圧の距離を用いた簡易監視カメラシステムの開発」のテーマ相談があった。画像処理分野での品質工学の研究を促進するために、オープンソース(OpenCV)を活用したプラットフォーム開発をめざしているとのことで、検討中のテストデータの紹介があった。動画解析して得られた速度ベクトルを画像処理フィルターで特徴量へ変換し、その誤圧距離を用いて動体種類の判別を試みているとのことである。応用として自動車と人の識別についての構想が述べられた。研究会メンバーからは、「研究対象を何か決めた後に技術(プラットフォーム)の開発をおこなうべきではないか」、「人と車を識別する単位空間の取り方だけでも1つの研究テーマになるので、最初の目的は計測技術の開発になるのではないか」などの意見が寄せられた。
 芝浦工業大学の齋藤之男から、「低画素赤外線アレイセンサを用いた熱源物体における最適条件評価」のテーマ相談があった。肩義手ロボットアームが人体を誤判別して使用者を怪我させるという課題に対して、リアルタイムで人体を精度良く検出して誤判別しないシステム開発に取り組んでいるとのことである。肩義手は稼動範囲が広く、顔や頭への衝突などで重大な怪我を引き起こすリスクが高いため、特に安全性が求められている。そこで現在は、人体を仮想した熱源に対して位置や環境条件を変えてさまざまな基礎データを収集中とのことである。研究会メンバーからは、「開発目標には人の顔を識別することまで考慮してはどうか」、「赤外線センサーとは別に画像センサーで人体識別してはどうか」などの意見があった。
 アルプス電気(株)の上杉一夫から、「車載用スイッチにおけるMTシステムを用いた不良流出防止及び異常診断の研究」のテーマ相談があった。車載用スイッチの生産工程でMTシステムを活用した不良流出の防止をめざしており、さらに海外で継続運用するための生産システム構築に取り組んでいるとのことである。MT法やRT法を駆使し、異常品の判別や原因推定をおこなうツールを作成して現場展開したが、海外で継続運用する難しさがあったとのこと。現地取引先への指導の苦労や、高度なスキルを持つ人材流出によるMTシステム運用の停滞などが課題にあげられた。このテーマは非常に活発な意見交換がおこなわれ、「正常品のばらつきを抑えるためには、正常品を単位空間にすべきではないか」、「標準SN比を用いる際は感度に着目して、何を変えてどのような変化が生じるか注目したい」という技術的な意見から、「アルプス電気(株)元専務の谷本氏の提案したマクロ品質工学は、開発をしっかりやって生産工程の検査をなくすことではないか。この生産工程の課題は開発の問題ではないのか」、「製造と設計の問題をきっちり分けるべきであり、作業者のミスは工程設計でなくせるものである。人材流出の課題は工程設計の問題ではないか」などのテーマ設定に関わる意見まで幅広い議論がなされた。
 ヱスケー石鹸(株)の秋元美由紀から、「ハミガキ剤製品開発のための技術開発」のテーマで、ハミガキ剤開発を材料スクリーニングから製品のパラメータ設計と許容差設計までを一気通貫するための研究報告があった。まず、ハミガキ剤に求められる働きとは何かの確認から始まり、たとえば殺菌剤と安全性のトレードオフで消費者はどちらを求めるかという点や、チューブの使いやすさのポイントがどこにあるのかなどを詳細に検証中とのことである。また、最適な開発プロセスについても検討しており、これまで原料段階で粘度やpHを指標にスクリーニングしていたが、他の開発段階や指標で市場により近い品質を検討できる因子がないか検証しているとのことである。現状は粘度に着目した実験を実施しており、試作品のレオメータ測定結果と想定した理想結果との間で整合性を確認中とのこと。研究会メンバーからは、「レオメータ測定値の押し込み時と引き戻し時で別々にSN比の計算をした方がよいのではないか」や、「消費者の好みとして、味も設計要素ではないか」などの意見が寄せられた。
 NMS研究会の吉原均から、「日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断〜第2報 時系列変化と項目拡大の検討〜」のテーマ相談があり、単位空間の取り方について識別能力の向上をめざして試行錯誤した検討経過の報告があった。単位空間の均一性を意識して、経年変化の少ない企業に着目して単位空間を再構成したところ、特徴に応じて企業間の分解能が向上したとのことである。例としてトヨタ自動車の解析結果が示され、項目診断で内容が変化した点に対して仮説を含めた説明がおこなわれた。現段階で持続可能な企業の抽出にめどが立ったため、今後はさらに業種別の分析を構想中とのことである。研究会メンバーからは、「2008年のリーマンショックあるいは2011年の東日本大震災などで打撃を受けた企業の解析結果を確認してはどうか」などの意見があった。

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