CIMLファーバー委員長が講演
2002年7月23日、日本出版クラブ会館


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世界と地域の法定計量、試験結果の相互承認に向けての取り組み

2002年7月23日
CILM委員長 G.J.Faber

 国際法定計量委員会(CIML)委員長のG・J・ファーバー氏が来日し、東京(7月23日、日本出版クラブ会館)と大阪(7月25日、KKRホテル大阪)で講演した。演題は「世界と地域の法定計量、試験結果の相互承認に向けての取り組み」。東京会場、大阪会場とも70名が聴講した。大阪会場では講演終了後懇親パーティーが開かれた。
 本講演会は(独)産業技術総合研究所の協力で(社)日本計量機器工業連合会が開いたもので、ファーバー委員長が2003年秋に京都で開催するCIMLとAPLMF(アジア太平洋法定計量フォーラム)の会議に関し(独)産業技術総合研究所との打ち合わせおよび会場視察等のため来日したのを機会に開催したもの。東京会場の同時通訳は(株)島津製作所の塚田杉生氏。

講演概要(講演全文は有料ページに掲載)

法定計量が経済発展を支える

 ファーバー委員長はまず「法定計量が経済発展を支える」とし、法定計量が経済の発展と切り離せない関係にあると強調した。法定計量は、取引での計測結果への信頼を築くことを目的としており、このような信頼が得られなければ、取引の相手方は重複して計測をせざるを得ず、経済の発展を阻害することになる。法定計量は消費者保護、市場の公正な運営、輸出入事業者の信頼確保、健康・安全・環境の保護などに寄与している。

経済が発展すると法定計量の必要性が大になる

 個々人は、経済の発展により新たに必要とされる全ての計測結果の信頼度を評価する技術能力を持つことはできない。計測の種類が増えるにつれ、法定計量の範囲が広がる。

国際化と国際貿易は信頼できる測定を必要とする

 経済の国際化は、国際企業等の間での信頼の確立、そして、国家による測定への信頼の確立を要求する。このために、測定が、国際計量標準もしくは同等と認知されている国家計量標準にトレーサブルであるというグローバルな計量制度が求められている。

 したがって国際的な場で、世界的規模の法定計量制度を考案しなければならない。既に、OIML(国際法定計量機関)内での法定計量機関の協力、各国の法定計量法規の整合化、法定計量制度の整備への支援は、非常に重要な行動となっており、OIMLは、こうした活動をグローバルな法定計量制度の最初の活動として設定している。

WTO/TBT協定は相互承認を求める

 世界貿易機関(WTO)/貿易の技術障壁に関する協定(TBT)は、公正な競争を尊重する国際貿易の促進に寄与している。国の技術規制の違いによる障壁を取り除くには2つの方法がある。1つは、正当化できない技術規則を除くことであり、もう1つは技術規則を整合化し、相互承認を発展させることである。そこで、整合化がこれらの障壁を取り除くための不可欠な道具となる。

 OIMLは、基本的に法定計量規則を整合化することを第一の目的とする。しかし、貿易の技術障壁を除去するためには、規制の整合化を行うだけでは不十分で、法規に基づく認証及び試験の不要な重複を、完全に除去する必要がある。したがって相互承認が非常に重要になる。

 法定計量における貿易の技術障壁が取り除かれるのは、ある国で有効だと認められている計量器又は測定が、他国でも受入れられる場合である。これを達成するには2つの方法が考えられる。@できるだけ広範囲のグループ国の間で相互承認を発展させるか、Aそれらの国が認知できる国際認証制度を設置するかである。

 このような国際認証制度が、世界規模の法定計量制度の始まりといえる。しかし、相互信頼が確立されないうちは、国際認証制度を設けることはできない。相互承認協定の締結はこの国際制度に向けての第一歩である。

 OIMLは、OIML証明書制度を設けることで、このようなグローバルな制度の最初の個別要件を設置したが、OIML証明書制度は任意の制度で、CIML委員によって指名された発行機関が一般規則に従うことに同意し、計量器の型式が当該OIML国際勧告に適合するという証明書を発行するものである。

多数の国が計量法を改訂している

 現在、多数の国が、国内の計量法を改訂している最中か、遠からず改訂する意向を持っている。計量のあり方や、計量制度が、技術の進歩、経済及び社会の要求の進化及び国際関係の進展に適応する必要があるからである。

 OIMLは、各国が自国の法律体系の中に、規則の整合化や相互承認、より一般的には、相互信頼の成立を可能にし、円滑化できるような施策を導入することを勧める。

国際地域の法定計量はますます活発になっている

 国際地域の法定計量の活動は益々活発になっている。APLMF(アジア太平洋法定計量フォーラム)などの国際地域法定計量機関(RLMOs)の目的は、世界的に見れば、地域の計量の発展を促進し、相互信頼を築くことである。

 RLMOのこうした行動はOIMLの行動とは独立しており、OIMLとRLMOは相互に補完的な関係であることに留意すべきである。最も重要なことは、RLMOがこのような活動を通じてOIMLの目標に貢献することである。

相互承認は大抵の計量関連分野で進められている

 計量・認定分野の国際社会は何年も前から相互承認の必要性を認めていた。OIMLでは国際文書「型式承認試験の試験結果の相互承認に関する取り決め」(MAA)の策定へ向けて審議が行われているが、MAAとは別に、3つの協定や取決めが間もなく適用できるようになり、連続性のある一組を形成することになる。

  1. 「CIPM相互承認取り決め(CIPM MRA)」は、現在運用されており、国の計量標準及び国立標準研究所の試験能力の同等性について規定している。これは、承認の階層組織の第一段階にあたる。

  2. ILAC MRA」は、校正試験所及び試験所の認定の同等性を確立するであろう。相互承認された国家計量標準から始まる、トレサビリティーの連鎖の認定は、今度は、承認された試験所の首尾一貫した測定と試験結果を提供するであろう。

  3. IAF MRA」は製品認証機関及び品質システム認証機関の認定の同等性を確立するであろう。製品認証で活用される試験結果は上述の2つの協定でカバーされているため、製品認証機関は、IAF MRAの下で国際的な信頼を得ることができるであろう。これらの協定は、国際貿易の円滑化に大きく貢献することになる。

法定計量における認定と承認

 CIPM、ILAC及びIAFにより3つの相互承認取り決めが開発されたため、法定計量分野で相互承認を開発する環境がほぼ整ったと考えられる。想定される4者の行動基準は以下のとおり。

 OIMLは整合化した技術要求事項と試験手順を設定し、@CIPM MRAは承認されたトレサビリティーのための基本事項を保証し、AILAC MRAは校正のトレサビリティーと試験結果の信頼を保証し、BIAF MRAは型式承認と当初検定の承認を保証する。
 理想的には、製造された計量器の法規制の国際相互承認を供給するべきである。

 3つの問題がある。

  1. 法律、規則に責任がある機関は、任意の分野で運営している機関に権限を与えることには一般的に消極的なことである。多くの国では、法の施行機関でない認定者の国際組織に、認定に基づき、型式承認や初期検定の証明書発行機関を指定する任務を負わせるなどは考えられない。

  2. 技術的な問題がある。法定計量では、計量器は使用者が何をしようが、条件が何であれ、一般的な性能要求事項を満たす必要がある。さらに、法定計量器は誤った操作、詐欺行為、改ざん、極端な温度や電磁気や電気の条件、そして、内部の欠陥、ショック等に持ちこたえられるか、適切な対応を可能にする必要がある。通常の製品認証ではこのような付帯事項が必要ではなく、現在に至るまで、認定はこのような法定計量で必要な製品評価に対応して設計されてはいない。

  3. 国内の法定計量機関の認定機関に対する信頼と、両者の間の関係である。これは国によりかなり違っている。

 3つのMRAは相互承認にとって非常に重要な道具であり、OIML相互承認プロジェクトを進めるために活用すべきである。しかし、これらのMRAだけでは、法定計量証明や管理に対する相互信頼を提供するには不十分で、OIML制度の具体的な規則で補足しなければならない。

OIML MAA草案

 将来の理想的な姿は、ある国で認証された計量器が、他国で、型式承認や初期検定のための追加試験を受けなくとも、そのまま使用され、また適切な管理の下で実施された測定結果が承認されるようなOIML制度を持つことであろう。これが、グローバルな計量制度から期待されている。

 実現には2つの方法が想定される。@国家間の計量制度の相互承認か、もしくは、AOIMLが国際地域機関と国家機関の参加を得て運営する国際認証制度の確立と承認である。両者ともに相互信頼が必要である。

 グローバルな計量制度の確立に向けて前進するには、試験結果の相互信頼とこれらの結果の相互承認が何よりも必要である。これが第一歩である。このために、OIML相互受入れ取り決め(MAA)の草案は、当初、OIML証明書の承認を目指していたが、今ではOIML証明書に関連した試験報告書と試験結果の受入れに限定している。

 MAA草案に関しては3つの論点がある。

  1. 様々な関係組織(CIML委員、発行機関等々)の権限の性格及びそれぞれの役割の明確化。

  2. 「試験結果」という言葉が意味する範囲が国により異なる。

  3. 相互信頼を醸成する方法はこの草案の中心的な争点である。加盟国の間で、法定計量の技能を評価する認定機関の能力に対する信頼の度合に温度差があるからである。

 MAA草案は近日中にCIML委員にも意見と投票を求めた文書案が送付されるであろう。OIMLの目標に結びついたこの文書の重要性を考慮し、その採択の方法が10月の37回CIMLで議論される。

グローバルな計量制度に向けての更なる前進

 OIML MAAで達成した第一歩は世界計量制度に向けて前進するために別の課題へと続く。

 MAAは型式試験への信頼を生み、自国で試験設備を持たない開発途上国の国家型式承認を円滑にするであろう。しかし、個々の計量器の型式への適合を保証する適切な手段を持たない型式承認は無益である。そのためには、当初検定の型式への適合と試験を含んだ、個別の計量器の認証のためのOIML制度を立ち上げることが必要である。

 OIML証明書のあり方の詳細を明確にしていく過程の中で、標準化されていない審査及び評価に関連する問題、例えば、不正、信頼性、ソフトウェアの審査等々の問題を明瞭にすることが必要になる。

 当初検定の相互承認について触れなければならない。この段階では現行のMAAよりも、加盟国の法定計量機関に深刻に干渉することになるであろう。このプロジェクトが成功するためには、OIMLが勧告した適合性評価の手順を首尾一貫したやり方で記載したOIML文書を策定し、採択する必要がある。

OIML相互承認制度における地域の役割

 国際地域の多数の国を参加させる相互協定を実施するとき、中央集権化したやり方で全ての業務を引き受けることはできない。OIML MAAの実施も国際地域法定計量機関の積極的な参加を必要としている。

 法定計量の相互信頼には、直接的な対話を頻繁に行い、共通の手順に関する技術的な問題をやり取りする必要があることである。このような接触及び情報交換は国際の場では簡単に行えず、国際地域の場の方がはるかに容易である。

 OIMLは、全ての加盟国の間で十分な交流が行われるよう組織化することは到底できないが、若干の加盟国を通し、そして、国際地域活動の調整を円滑に行うことにより、国際地域間に橋を架けることができる。

 国際比較を組織しなければならない時には、国際地域間比較で補完された限定的な国際比較という形で、組織するべきである。これもまた地域法定計量機関(RLMOs)の重要な役割となる。

 また、RLMOは、国際地域内でMAAの実施を推進し、加盟国がこのMAAに参加する手助けをする必要がある。

 RLMOから得られるMAAや相互信頼宣言の運営についてのフィードバックは非常に重要である。RLMOは、個々の相互信頼宣言の運営を保証する「参加検討特別委員会」に国際地域の代表者を出席させる必要がある。

 このように国際地域法定計量機関(RLMOs)の役割は、ますます重要になっている。

結論

 OIMLの技術作業は、国の法的計量要求事項の違いにより生じる技術障壁を除去する目的で、規制の整合化を目指している。この視点に立つと、OIML国際勧告は、これらの障壁を除去するのに十分とは云えず、相互承認制度で補完する必要がある。

 我々はこの作業の端緒についたばかりである。型式承認の試験結果の相互承認制度(MAA)は、できるだけ早く採択の手続きを進めるために、次回のCIML会議で議論される。国際地域法定計量機関の役割は、この相互受入れ制度を普及させ、正確な実施を保証するためには、非常に重要である。

 OIML内での協力や国際地域法定計量機関との協力を通じて、そして計量および認定に関係する国際機関及び国際地域機関との協力を得て、我々はグローバルな計量制度に向かって歩まなければならない。こうした視点で、OIMLはメートル条約やILACのような他機関との連携を強固にし、新たな共通作業を開始した。

 国際地域法定計量機関との調整もまた強化されるべきで、第37回CIML会議では、この件についての提案、とりわけ、OIMLの組織の中に国際地域法定計量機関(RLMOs)調整評議会を設置するプロジェクトについての提案が議論される。

 

 講演の後質疑がなされた。東京会場での質疑の概略は次のとおり。
【質問】グローバルな計量制度を作るための次のステップである検定の相互承認には、計量器の梱包や輸送、経時変化などで使用開始時にもレベルが担保されるかなど、問題も多いと思われるが。

【答え】ご指摘のように検定の相互承認には難しい問題が多くある。もっと研究する必要がある。カテゴリーを限定する必要があるかもしれないし、実現が困難かもしれない。将来の話であり、まだ詳細なアイデアを持っているわけではない。日本は計量機器の有力な製造国であり、日本からの声を多く聞きたいと思っている。
【質問】国際地域法定計量機関(RLMO)で経験を積めば、グローバルな相互承認も可能になるのではないか。
【答え】その可能性はあると考えている。
【質問】RLMOの存在意義と目的について新しい考えを提起されたように思う。現在のRLMOの組織、目的やRLMO相互の関係などの見直しが必要であると思われる。それについて良いアイデアはあるか。
【答え】RLMOはこうあるべきだという考えを押しつける気はない。大事なことはOIMLの下位にRLMOがあるのではないということだ。OIMLとRLMOは相互補完の関係にあり、OIMLから指令を出すような関係ではない。
【質問】新しい法定計量制度の中でで、国(政府)がやるべき仕事はなにか。
【答え】講演でも、国(政府)はその国の法定計量に責任を負っており、法律の改変の問題が関わってくるので、相互承認の受け入れが難しいということをお話しした。しかし、例えば、現在はノーティファイドボディ(認定機関)が型式承認を行うことへの移行期にあるように、政府が法定計量の全てを行うという形からは離れつつある。法定計量に関して社会の構成者である国民一人一人が責任を持つというのが、ヨーロッパ、アメリカ、日本といった先進的な地域や国での成熟した社会であり国の姿だと思う。もちろん法律そのものは将来にわたっても政府が管轄することになるだろう。

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