第1章 知的基盤の概念と重点分野

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1、知的基盤の概念   2、重点分野の抽出

1、知的碁盤の概念

 知的基盤とは、前報告書にて示したように、科学技術に係る知的資産が組織化され、研究開発活動、経済活動の円滑化・促進のために広く経済社会に体系的に提供されるものと定義できる。産業技術の振興の観点から、本委員会が取り扱うべき知的基盤の大枠を整理すると表1のとおりに分類できる。

表1 知的基盤の整理
知的資産の分類
知的資産の性格
組織化・体系的提供の代表的な方式
科学的原理・法則に基づく方法により得られるデータ(※1) 研究開発等の過程や成果として発生 データベース
計測方法(試験評価方法) データ取得の手段
科学的方法論
規格
計量標準(標準物質を含む。) 計測方法確立の基礎
データの信頼性の源泉
国による開発・維持、校正スキームによる供給
上記を総合的に活用して得られるいわゆる研究開発成果 個々の研究者が創造性を発揮して獲得

論文
特許
規格
上記に係る索引情報・データベース

(※1)化学物質安全、人間生活工学、生物、材料関係のデータを始め、系統的に分類された微生物種とその供給、地形図・地質図等地球関連データとその供給を含む。

 

2、重点分野の抽出

 知的基盤の概念は、1、で述べたとおり非常に広範囲にわたる。この中で本委員会が特に焦点を当てるべき重点分野については、(1)取り組みが不足しているという観点と(2)我が国経済社会の発展に資するという観点の二段階で考えることにより絞り込まれ、抽出することができる。

(1)従来からの取り組みが不足している分野

 1、の知的基盤の整理表のうち、いわゆる研究開発成果一般は当然のことながら研究開発政策として、特許については工業所有権政策として、規格一般については標準化政策として、従来から取り組みが進められている。一方、計量標準、データベース(科学的原理・法則に基づく方法により得られるデータに係るもの。以下、同様。)については、従来は必ずしも体系的取り組みが行われてきたとは言い難い。したがって、本委員会では特に計量標準、データベースを中心に取り扱う。なお、データベース整備において新規分野のデータを取得するには同時に試験評価方法(計測方法)の確立が不可欠であり、試験評価方法も併せて取り扱う(狭義の知的基盤。これに対し1、は広義の知的基盤。)こととした。
 しかしながら、計量標準については、多種類の物質の開発のみならず、その維持、供給が必要不可欠であり、かつ、データベース整備については、多種多様の項目を整備又は取得し、それらを整理し、維持管理、更新する必要があり、研究開発要素のみではなく作業的要素がその多くを占める。このことから、知的基盤整備は、研究開発成果としての評価を受けにくいことから、取り組みが遅れていたと考えられる。逆に言えば、知的基盤は、共通的に必要な多種多様の項目を網羅的、体系的、継続的に収集、整理し更新して一元的に提供されて初めて効果を有するという性格のものである。
 また、「計量標準」、「データベース」を貫く共通技術は「計測」である。すなわち知的基盤とは、「計測」という基盤的技術に着目したもので、大量のもの(計測データ)の処理(法則性を見出す、過去の成果から必要なものを選択する等)を行うものであるといった点から、基準・方法の統一とともに体系的整理の下での供給が不可欠である。

(2)目的から見た重点分野の抽出

 以上のような知的基盤について、我が国経済社会の発展に資するという目的に照らしてさらに重点分野を絞り込むことができる。
 我が国経済社会が発展をしていくには、今後の拡大する国際自由市場において、グローバルスタンダードにハーモナイズし、かつ、創造性を発揮できる社会をいかに構築していけるかということにかかっていると言える。この目的から見て求められる、研究開発活動、経済活動の円滑化・促進の方向としては、以下の3つが考えられる。

@国際市場における技術的評価の信頼性向上及び効率化
A環境、高齢化(環境、人口構成等をも踏まえた暮らしやすい社会の実現)といった社会的課題への対応
B新規産業を開拓する戦略的分野の技術開発

 まず、「@国際市場における技術的評価の信頼性向上及び効率化」については、次のとおりである。
 経済のグローバル化を背景に、国際市場におけるルールの共通化として、技術の面からは、適合性評価制度(※2)の国際的な相互承認が求められている。適合性評価に必要な各種試験、検査等は計測・計量をその技術的根拠としていることから、適合性評価制度の相互承認は、計測・計量システムの国際的な共通化が基盤となる。以上のことから次が抽出される。

計量標準 各種試験、検査等技術的評価の根幹を成す計測データの信頼性の源泉であり、計測・計量システムの基盤であることから、適合性評価の相互承認の最も基本的な基礎となるもの。計量標準の整備は、国際取引上の環境整備に資する。さらに、国際取引の際の適合性評価のみに止まらず、計測・計量は広く各種産業において、研究開発、製造、販売等の各段階で不可欠であることから、計量標準の基盤性は高い。計測という産業の基盤技術に直結。

 次に、「A環境、高齢化(環境、人口構成等をも踏まえた暮らしやすい社会の実現)といった社会的課題への対応」の観点において、多種多様の項目を整理・管理・更新して一元的に提供されて初めて効果を有するという知的基盤の性格、幅広い産業分野において適用可能であり効果の波及が広範であること、現状におけるニーズの強さ等を考えると以下の2つが抽出される。

化学物質安全管理 化学物質の人間の健康に与える影響の重大さ、化学物質の産業への適用範囲の広さ、化学物質の種類の多様性。
人間生活・福祉 年齢や能力によらない快適な生活への社会的要求の強さ、集約的整備による非効率排除効果の大きさ[測定対象(人間)の確保が困難な上に、データのばらつきが大きく、大量の測定対象が必要]。

 最後に、「B新規産業を開拓する戦略的分野の技術開発」からは、広範な産業分野においてそのフロンティアの拡大につながること、先端的研究開発分野であり研究開発と基礎的データ整備が同時平行に進んでいること、多種多様の項目を整理・管理・更新して一元的に提供されて初めて効果を有することから以下の2つが抽出される。

生物資源情報
材料

 以上は最も特徴的な点において整理したものであり、当然それぞれの分野は重なる部分を有するものであるが、計量標準、化学物質安全管理、人間生活・福祉、生物資源情報、材料の5つの分野が知的基盤整備の重点分野として抽出できる。


(※2)各種試験、検査により製品や方法、サービスが所定の要求を満たしているかを評価するシステム。

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