第2章 長期的な整備の目標の設定及び官民役割分担 |
前報告書においては、計量標準・標準物質に顕著に見られるように、概ね2000年頃までに欧州並みの整備水準を念頭に計画目標が立てられている。前報告書を受けたその後の取り組みの進捗状況(表2)及び予算の状況(表3)に示すように、総体としては、努力を更に継続すれば2000年頃の目標まであと一歩というところまで来ていると言える。
今後の経済発展における技術革新の重要性や経済のグローバル化の進展をかんがみると、2000年を超えて更に長期的な視野に立ち、新世紀を迎えての初めの10年すなわち2010年を1つの区切りとして整備目標を定め、知的基盤整備を進めていく必要がある。
特に、海外へのキャッチアップではなく真に創造的な研究開発を行うためには、また、国際取引等において世界でもトップレベルの魅力ある事業環境を整備するには、知的基盤を海外に依存していては困難である。国際経済や研究開発のフロントランナーの一員として、創造的な技術革新を進め、ダイナミックに経済活動を繰り広げていくためには、知的基盤整備について、分野ごとに機動的に対応し、世界のトップレベルである米国並み水準を2010年を目途に達成することを目指す必要がある。
主な事項
|
平成10年6月
|
平成11年12月(現在) |
||
計量標準・標準物質 | 計量標準の供給量 | 39 | 76(年度末までに) | |
標準物質の供給量 | 42 | 69(年度末までに) | ||
MRAの推進、国際比較への積極的参加 | 10月グローバルMRAに署名 11月日米MOUを締結 |
|||
国際貢献 |
APMPの議長・幹事国引受 |
|||
体制整備 |
人員:77名 施設:計量標準センター |
人員:190名 施設:国際計量標準センター、標準物質センターを建設中 |
||
化学物質安全管理基盤 | 国によるハザードデータベース整備 | 未整備 |
約1,000物質を入力済み。近々、データベースをインターネットで一般公開。 | |
国際協力等によるハザードデータ収集 | HPVプログラムによる安全性点検 | 未整備 |
約100物質について点検実施又は完了。 | |
内外の文献等に基づく化学物質ハザードデータ評価シート作成 | 未整備 | 約130物質の評価シート完成。 | ||
試験法、リスク評価法の開発と標準化 | ・305濃縮試験、117分配係数についてJ1S原案作成。 ・化学物質のホルモン影響作用に着目した標準測定法を開発中。 |
|||
民間保有データの有効活用 | 検討中 | |||
人間生活・福祉関連基盤 |
データ収集の拡大 |
加齢による身体機能低下データ:80人分 |
加齢による身体機能低下データ:100人分 |
|
計測・評価方法の確立、標準化 | 人間の動作特性(14動作)のうち、4項目の計測・評価手法の検討を開始。 | 人間の動作特性(14動作)のうち、「手で握る」についてのTR素案を作成済。また、「立ち上がる」、「またく」についてのTR素案を作成中。さらに、人体の3次元高効率計測手法の確立に着手。また、人体の3D計測手法の確立に着手。 | ||
生物資源情報基盤 | 解析能力 | 約3百万塩基対 | 約30百万塩基対 超難読DNA塩基配列シーケンサーの開発に着手 |
|
カルチャーコレクション | 発酵研究所に約1.6万株 | |||
体制整備 | 製品評価技術センターに新たに32台のシーケンサーを導入。 生物資源情報解析センターを建設中。 |
|||
民間保有データの有効活用 | 戦略的ヒトcDNAゲノム応用技術開発成果利用のためのコンソーシアムを新設。 | |||
材料関連基盤 |
データの拡大 |
平成11年4月に「非鉄金属分野の知的基盤整備のあり方」をまとめ今後の方策について検討。 |
||
試験評価方法 | ||||
統合データベース | ||||
体制整備 |
平成10年度
当初予算 |
平成10年度 |
平成10年度 |
平成11年度
当初予算 |
平成11年度
第2次補正予算 |
|
計量標準・標準物質 |
633
|
2,000
|
4,001
|
729 |
2,357
|
化学物質安全管理基盤 |
284
|
650
|
400
|
290
|
300
|
人間生活・福祉関連基盤 |
185 |
NEDO委託の内数
|
180
|
181
|
450
|
生物資源情報基盤 |
277
|
400
|
9,200
|
330
|
12,249
|
材料関連基盤 |
154
|
NEDO委託の内数
|
1,620
|
157
|
2,444
|
横断的取組み(NEDO委託・民間機能の活用) |
0
|
800(NITE施設費)
450(NEDO委託) |
0
|
718
|
0
|
合計 |
1,533
|
4,300
|
15,401
|
2,405
|
17,800
|
<単位百万円> |
前報告書においては、知的基盤整備における国の役割がそもそも大きいということもあるが、第一に相当程度遅れていた知的基盤整備を急速に立ち上げるべく、国自らによる整備に焦点が当てられている。知的基盤整備においては、今後も引き続き、国が中核的役割を担っていくことが必要であるが、2010年に米国並み整備水準の達成という長期的な視点、整備規模の大きさの視点から、国自らによる整備を中心としながらも、適切な官民役割分担の下での民間の能力の活用が必要である。
知的基盤整備における国の役割については、前報告書において、
@中立性、唯一性、基盤性等から公共財として位置づけられるもの及び論理的には取引対象としての財と成り得るが、整備コストと比較した営利性、市場性が欠如しているものの主体的整備
A実際的にも取引対象と成り得るが、市場のみに委ねたのでは需要者が必要なタイミング・規模での整備・供給が期待できず、産業振興、技術開発振興の戦略的観点から、整備の立ち上がり段階での整備、及び一定の整備が進んだ後の環境整備
と整理されている。
すなわち、知的基盤は、第1章で述べたように、多種多様の項目(標準やデータ)を整理・管理・更新して一元的に提供することに意味があり、共通性(基礎性)、網羅性、体系性の要求から、むしろ直接は事業化に繋がらない部分が多く占め、その整備は一般的にコストベネフィットが低い。このように民間での整備が進みにくい性質を有し、民間が自ら取り組むとしても特定の事業化に直接結びつく限定的な範囲である。さらには、これらは秘匿性が高く、経済社会に広く提供するインセンティブが働きにくい。よって、国は、産業化に共通的に必要な範囲を自ら整備すること、又は民間に散在するものを集約し網羅性、体系性を与えることにより整備すること、さらに整備に対する種々のインセンティブ付与等によって、民間における整備を促進することがその役割である。