■計量制度には、統一性、継続性、合理性が必要
計量法という名は昭和27年度量衡法が装いも新たに施行された時に始まりました。当時を思い起こしますと 技術立国を標榜し再起を図るとした我が国で、計量制度も整備が急がれたものの一つで、計量法の規制対象計量器の対象範囲を極めて広いものにしました。古い歴史を持つ度量衡制度が必要とされることは、統一している事であり、継続している事であり、科学技術に立脚した合理的なものである事でしょう。そして計量法の施行は技術に立脚した取締行政であることを考えますと 計量行政を施行する現場行政官に技術的な知識と技術が得られていことが必要なことと思えます。このような事から考えると、技術を担当する研究所とその教育を司る機関があり、総合的行政を担当する部署があることは当然のことのように思われます。
度量衡法が始めて施行された時行政を担当する責任者は東京物理学校で一年間の教育を受けた後各県に配置されました。その後、中央度量衡検定所が行政、技術と教育の総てを担当しましたが、昭和8年に行政部門が設立され昭和27年には行政、技術と教育はそれぞれ分離し行政は本省計量課、教育は、計量教習所が担当し、検定検査技術、比較技術は計量標準と共に中央度量衡器検定所の所管になりました。計量法が昭和27年施行される時検定規則、基準器検査規則の作成に関与して以来幾つかの改正に係わりましたが、時代の変化と国際化の流れ等による法律の変化は非常に大きなものがありました。
現状を見ます時、1942年中央度量衡検定所に奉職以来、つい何年か前まで祝辞、挨拶に度量衡は貨幣と同じで国の基本をなすもの、国を治めるには先ず度量衡を正すなどと言われていたのを長年見聞きしてきた者にとっては、思いもよらない変化を感じています。平成5年の改正から僅か12年程でまた大きな改正が行われようとしています。それ程時代の変化は激しく行政の変化そして技術の発達には目をみはるものがあるのでしょう。先日 大臣からの計量行政審議会会長に出された諮問を見、二つほどのブロック会議に参加する機会を得ましたが、その時にいろいろの話やグチを聞いたりした事もあって、昔の計量法改正の時を思い出しながらヘソの曲がった戯言をと筆をとってみました。
■計量標準への取り組み方変わる
先ず始めに 計量法第1条は計量の基準を定め とあり、計量単位の制定とその現示を行わなければなりません。基本単位とそれに近い計量標準が国以外の機関で実施されている所は、全世界で幾つ位あるのでしょう。我が国のように独立行政法人と云い、しかも非公務員となると計量行政総ては国で行う必要が無くなったのかも知れません。昔 計量標準はアメリカから買ってくればよいと云った研究所長がいましたが、独立行政法人では収益の考えが優先しているようにも見え、計量標準の測定精度向上、維持管理などのような金にならない仕事は、冷や飯を食う事になり取り組み方も変わってしまったようです。
■急激な変化は社会生活に混乱
今度の諮問では合理的、効率的、持続的なと云う言葉がありましたが、持続的と云う言葉は諮問では初めてのことかもしれません。持続性と似ていますが、計量制度は継続性も重要な事の一つでしょう。外国の書にもありましたが、計量制度の急激な変化は社会生活に混乱を惹起する等とも言われていました。最近はその混乱も何するものぞとも見えます。
■計量行政の統一が取り難くなっている
聞けば計量行政も統一が取り難くなっているように見え、隔世の感があります。計量行政は確かな科学的根拠に基づいた理論的法律を、技術を駆使して施行する行政と考えていました。しかも曲がりなりにも江戸時代に全国一律の基本が確立し、統一された制度になり、明治以降一貫した体制が続いてきていました。この小さな国では当り前の事でしょう。メートル法に統一する運動は明治の初めから続けられていましたが、古くから使われていた単位を新しい単位にすると云う大事業は、大正10年漸く法律に盛り込まれ、以来計量関係者の熱意と絶え間ない努力とにより、昭和42年に完全実施になりました。
統一と言う観点からすれば、各県に於ける規模の違いは昔からのものですが、計量検定所の設置が義務付けされていたり、小規模な県でも何人かの教習所修了者が居てそれなりの連絡があり、また、年に二度の全国計量行政会議や全国或は各地区の計量技術連絡会議があり行政の統一に役立っていました。
ただ、検定の委譲などの時、全県一律という自治法の趣旨から不必要な設備が必要になったり、ある器種などのように委譲後数年で検定対象から除外されるようなこともありました。計量行政の一部が自治事務になったことと、地方庁から資格者が消えて行った事は統一を妨げた一大要因と思えます。聞くところによれば、一部の手数料が自治事務になり、地方の裁量になったと言っても、国或は他県の様子を見て決められてしまい、未だにその差は極めて小さいとの事で、自治事務にした意味がないとか。更に 計量法上の特定市の一つが何時の間にか消えていたり、人口20万人以上の特令市に何の準備もなく特定市と同じ様に取り扱おうとするなど無理を承知の施策としか言いようもありません。
■国際規格の無条件に採用するのはどうか
国際化の問題はOIMLやISOの規格をそのまま採用することは如何なものかと思えます。昔の事になりますが、規格そのものが研究室でなければ実現できないようなものであり、一般取引には不必要な物であることが多々ありました。はかりの計量器検定規則で検定方法や公差の決め方はOIML規格をそのまま採用したのか分かりませんが、誰が何処で検定するのでしょうか。
OIMLやISOの規格は一般用、研究用が一緒になっているような所と、為にする規格のようにも思える所があります。国内法はより分かりやすく、使い易いものにしても 国際規格を制限しなければ何ら差支えないように思います。
はかりの場合、普通の商取引では千分の一または二千分の一即ち千円、二千円で一円の誤差は許されるのではないでしょうか。昔はこれを目安に置いていた時もありました。特定の専門家しか読めない、使用出来ない一般に必要な法律は、最早通用しないように思えます。
■計量法の目的は
消費者保護の観点からと云う言葉は大分前から諮問に出てくるようになりました。確か消費者運動は計量が原点などと云われたことも有り、その関係を蔑ろにするつもりもありませんが、始め、計量行政は正確計量の推進で管理中心点をどちらかに動かす事ではなく、結果的に消費者の為になるとの考えが基本になっていました。タクシーメーターでの片側公差が特例でした。今は、消費者保護が計量法の主たる目的の一つになろうとしているのを見ると、隔世の感を禁じ得ません。
計量標準の供給はJCSSで認定事業者がとなっていて、認定事業者になる為の必要用件が相当な厳しさであるようですが、産業技術総合研究所の代理をさせようとすれば当然とも思えます。しかし、認定事業者が行う事業の責任まで国が負うわけにはいきません、あれだけ厳しくすれば国が責任を負わなければならないかも知れません。私見を云えば 国は計量標準の供給と、それにまつわる事に限りそれ以降のことは認定事業者の責任にすべきだと思います。産総研で計量精度を一桁、半桁上げるような研究などが難しくなっていると思えるし、国際的にも大きく劣る部門があると聞くと気が滅入ってきます。
■「計量法で扱う数値は絶対値」を忘れるな
この他計量法で扱う数値は相対知ではなく絶対値であることを肝に銘じることが必要でしょう。このことは兎角忘れられがちになります。中央度量衡検定所が研究所として脱皮しようとしていた頃、機械試験所から移られてきた人が、絶対値を取り扱うことが如何に大変かを思い知らされたと、話されていたのを思い出します。
技術行政で、知っている事と出来る事の違いを知悉して法文を作ってほしいとも思っています。
■計量士の権限を見直す必要が
また 計量士が定期検査の代行をしていますが、不合格処分は行政処分である事から、この処分は公務員以外では不可能でありましたが、都道府県、特定市などの地方庁の現状を見、産総研が公務員で無くなった事を考えれば、考え直す必要があるのかもしれません。
■地方庁の現状に唖然とする
地方庁の現状が計量法施行実務に弱体化が進み、法の解釈さえ十分ではなく、単純な質問にも答えられず、地方庁自身が計量法違反を行って、背に腹は変えられずとし、国もこれに異を唱えられないこのような状況は、今までの関係者をして唖然とさせるのではないでしょうか。
■日計振は全力で取り組んでほしい
さて(社)日本計量振興協会の事ですが、この協会は(社)日本計量協会、(社)計量管理協会と(社)日本計量士会の三団体が集まったものです。高田忠さんの信念、努力から昭和27年計量法が施行されましたが、この時の度量衡協会は徳永学氏が書記長で計量法制定までの事務局的存在として大きな貢献をしています。メーカー、販売者そしてユーザーを交えた会議の設営から、計量課、中検との協議の場を提供するなどを行うと共に協会会員の要望、計量法根幹に対する意見、見解の発表等を行っていました。現在、計量振興協会の計量法改正に対する係わりには物足りなさを感じています。
平成5年のときには各会長は、総ての範囲で重要な役割を果たしていたように思います。(社)日本計量振興協会は各種会員の要望等を実現するために、どんな手段で、如何に努力したか、どんな成果が得られたかによって会員の信頼と協力が得られるものと考えられるが故に、今回の計量法改正には全力を挙げて取り組むべき事ではないでしょうか。
■ハードウェアはそんなに進歩したのか
ハードウェアの性能が向上してきていると云い、 計量器(ハードウェア)の信頼性は継続的に向上。デジタル技術の進歩は著しく、と云っています。何時の諮問にも必ずと言っていい位技術が進歩しとか製造技術が向上しなどの言葉があり、その度ごとに規制緩和が行われてきました。今度も同じ伝でしょうが、 ハードウェアがそんなに進歩したとは思えませんし、低価格競争の中では逆の傾向もあるのかもしれません。
また、ハードウェアではなく単に数の処理能力が向上したに過ぎないのではないでしょうか。
■広域行政しか対策はない
このような状況の中、今何をどう考えたらよいのでしょうか。
最早都道府県、特定市を計量行政の核として考える事が不可能になってきているとすれば、広域行政しかその対策がないように思えます。10年以上も前から計量行政には道州制を採用する事が合理的であり、効率的であると提案してきましたが、自治法に言う各都道府県は同等、同レベルの考えから離れる必要があるのではないでしょうか。
現在でも広域行政に近い形になっている所もあり、効率的な仕事になっています。
道州制を基本に、民間能力を活用しながら不正防止、自浄能力を持ち、取締、罰則に耐える制度の策定を期待したい。
(元日本計量士会会長、元通産省計量教習所所長)
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