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日本計量新報 2009年5月17日 (2773号)

計行審基本部会 特定計量器から5器種削除
電気式血圧計、電子体温計など

パブリックコメント経て答申

計量行政審議会基本部会(今井秀孝部会長)は、5月11日、電気式のアネロイド型血圧計、電子体温計(抵抗体温計)など5器種を特定計量器から削除することを決めた。パブリックコメントを実施後、経済産業大臣へ答申する。今回は基本部会の議決を計量行政審議会の議決とする。

 

 計量行政審議会基本部会


使用実態や二重規制解消が削除理由

特定計量器から削除される計量器は次の5器種。

(1)ユンケルス式流水型熱量計(2)ボンベ型熱量計(3)ベックマン温度計(4)アネロイド型血圧計のうち圧力の検出部が電気式のもの(5)抵抗体温計

このうち(1)(2)(3)は、検定実績がほとんどない計量器。(4)と(5)は、薬事法で計量法と同様に規制されており、二重規制になるので薬事法の規制にゆだねる方が適当であるという判断である。

個々の計量器の削除理由に関する事務局からの説明は次のとおり。

ユンケルス式流水型熱量計」は、一定速度をもった流水に一定状態で燃焼しているガスの燃焼熱を与えて、その温度上昇と水の量からガスの発熱量を求める方式の熱量計。近年の検定実績が数台から10数台の再検定品のみになっている。現在は製造・修理をおこなう事業者がなく、今後使われなくなる見込みである。

「ボンベ型熱量計」は固体・液体燃料の定容燃焼熱を測定するもので、試料を酸素中で完全燃焼させ、その燃焼熱を一定量の内槽水に伝えて、その水温上昇から熱量を求めるもの。主として、石炭、石油などの燃焼熱量の管理に用いられている。取引または証明に使われる数は20数台。使用者のほとんどが一般計量証明事業者であり、一般計量証明事業者に対する規制で、計量器の精度は担保できる。

「ベックマン温度計」は、限られた温度範囲(0〜6℃)の温度変化、温度差を精密に測るためのガラス製温度計(二重管式)である。目量0・01℃、読み取りは目量の1/10で0・001℃の読み取りが可能。微細な温度変化の精密測定を必要とする熱量測定、分子量測定又は恒温槽の温度監視用として利用されている。ボンベ型熱量計とともに用いられる計量器であるので、規制もボンベ型熱量計と同じにする。

「アネロイド型血圧計のうち圧力の検出部が電気式のもの」は、いわゆる電気式の血圧計で、医療用のものから一般家庭向けのものまである。機械式のものは削除の対象ではない。

体温計と血圧計は、計量法では「譲渡の制限」がある。特定計量器のうち体温計と血圧計は、家庭で使われる場合など取引または証明に使わないものであっても、国内で販売などするものはすべて検定に合格したものとすることが義務づけられている。

本器種は薬事法では管理医療機器に指定されている。計量器が適合すべき技術基準および製造事業者が適合すべき品質管理は、薬事法と計量法で同等である。計量法は医療機器の一部の機能である、計量機能の正確性(計量器としての構造および器差)しか確認しておらず、医療機器の品質、有効性および安全性の確保を目的とした薬事法による規制にゆだねることが適当である。二重規制なので、どちらかの規制のみにしようということである。

「抵抗体温計」は、いわゆる電子体温計で、温度の変化により電気抵抗が変化する「サーミスタ」と呼ばれる温度センサー(半導体素子)の特性を利用して体温を測定する。

実測式と予測式があるが、検定対象である特定計量器は実測式のみ。

抵抗体温計も薬事法では管理医療機器に指定されていることから、二重規制を避けるために薬事法による規制にゆだねることが適当である。

ガラス製体温計は、薬事法の管理医療機器ではない。

今回の計行審基本部会での審議は、4月28日付の経済産業大臣の諮問による。2008(平成20)年4月に答申された『計量制度検討小委員会報告書』は、「計量器の規制」の項で「平成5年以降規制対象機器については見直しが一度もなされていないこと等から規制対象を必要最小限に見直すことが必要」であるとして、「規制対象から除外する方向で検討すべき計量器」を例示し、「使用実態等を踏まえた検討が必要である」としていた。

経済産業省は報告書を踏まえて、対象計量器の規制のしくみや使用実態、検定の不合格率などを調査して、今回の5つの削除対象器種を決めた。

ユンケルス式流水型熱量計、ボンベ型熱量計、ベックマン温度計は、報告書で例示されていた。アネロイド型血圧計も例示されていたが、今回はこのうち「圧力の検出部が電気式のもの」が削除対象器種になった。抵抗体温計は例示計量器ではなかった。

事務局の岡村雄治計量行政室長は、報告書に例示された他の特定計量器の利用状況や検定の不合格率などを報告し、これらの実態から他の例示計量器は特定計量器として残すとした。

ユンケルス式流水型熱量計は残して欲しい(森委員)

部会の審議では、賛成、反対の双方の意見が述べられた。

(社)日本ガス協会の森邦弘委員は、ユンケルス式流水型熱量計は特定計量器として残して欲しいと述べた。森委員は、21社で計量証明に使っていると実状を説明し、多くは小規模の会社であり他の方法への転換は難しく、今後も使っていきたいとしているとした。検定の対象外となれば、社会的な信用性など影響が大きいので再検討して欲しい旨の意見を述べた。

小島孔委員(産総研)は、基準器検査でなくても技術的には精度を保証できると説明した。

(財)日本ガス機器検査協会の梅原治次委員は、2008年度は検定数がゼロであり、製造・修理事業者もないことを説明し、試料ガスで検査すれば精度が担保できるとした。

森委員は、特定計量器から外すならば検定に替わる何らかの規制をぜひ考えて欲しいとし、事務局は、現在検定を受けている計量器はそのまま使えるとしたうえで、精度担保の方法などを検討するとした。

血圧計、体温計は外さないで(佐野委員)
体の内側をはかるものは薬事法で(葛西委員)

血圧計と体温計の取扱に関しては、意見が分かれた。主婦連合会の佐野真理子委員は、消費者は健康を気にかけている。計量は基本であり、そこがきちんとしていないと何も信じられなくなる。計量法で検査してもらうのが安心なので、外さないで欲しいと述べた。

大多数は外すのに賛成の立場だった。(社)日本計量機器工業連合会の川西勝三委員は、ダブルスタンダードの解消と消費者保護の立場から削除に賛成したいとした。血圧計や体温計は人の生命維持に関する計量器であり、計量法で規制するより、生命を守るという観点から包括的な規制をしている薬事法で規制するほうがよいと述べた。薬事法で求められている器差検査義務はロット単位だが、すべてのメーカーが全数検査をやっているとした。

計量法の管理は横断的なもの

山附O嚠マ員(東京大学名誉教授)は、次のように述べた。計量に関しては計量法が横断的に管理していくべきものだと考えている。ダブル規制だということで個々の法律にゆだねて計量法の規制を外していくことははたしてよいことなのかと思う。計量法で横断的に管理すれば国民は安心する。

(社)日本計量振興協会の河住春樹委員は、計量法と薬事法で同等の管理がおこなわれるならば削除に賛成だが、そのとおり運用されているか心配がある。輸入品の扱いはどうなっているか、と質問した。

事務局の岡村雄治計量行政室長は、両法とも同等の義務を課している。国内外とも同じ基準で対処している、とした。

各法律が得意とする分野で規制を

(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会の葛西光子委員は、体重などの測定は、短時間では測定値が変化しない静的なものであり、こういう測定は計量法で規制するのが適している。血圧などは、体の内側のようすをはかるものであり、時々刻々変化する動的なものであり、医学的判断も絡んでくる。こういうものは薬事法で対応するのが望ましいと思う。規制はそれぞれの法律が得意とする分野でやっていくのがすっきりする、と述べた。

薬事法はロット毎に検査

東京都計量検定所の大平久夫委員は、計量法での器差検査の義務は全数(毎個)になっている。薬事法ではロット毎である。不適正製品が検査から漏れる懸念がある。実質上毎個と資料には記されているが、それは計量法で毎個義務が課せられているので、薬事法下でも実質上毎個なのか。薬事法での規制だけになっても毎個検査をするのか、と質問した。

岡村雄治計量行政室長は、両方の規制がかかっているので毎個にせざるを得ない面はあるが、しかし、耳式の赤外線方式の体温計は計量法では規制していないが、薬事法では管理医療機器に指定されている。これはロット毎でよいが、メーカーは毎個検査をしている、と述べた。

薬事法でも計量トレーサビリティは明記

田中充委員(産総研)は、薬事法では計量標準へのトレーサビリティは明記されているのかと質問した。

岡村雄治計量行政室長は、QMS(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)の第53条第3項1号に「あらかじめ定めた間隔で、又は使用の前に、計量の標準(当該標準が存在しない場合においては、校正又は検証の根拠について記録すること。)まで追跡することが可能な方法により校正又は検証がなされていること。」と定められていると説明した。

標準供給・設計審査の担保が重要

(社)東京都計量協会の森川正彦委員は、次のように述べた。実態調査のとりまとめ作業をした。電気式の血圧計に関してはサプライヤーは日本のメーカーしかない。抵抗体温計のチップは、外国製の体温計であっても日本が供給している。そして、高い品質システムが機能している。そういう意味では、規制の重要性は低くなっている。不良率も、毎個検査すればよくなるということはない。特定計量器としての規制は不要だ。

ただ、血圧や体温は、圧力、温度という物理量をはかるものであり基本の計測精度がきちんとしていなくてはならない。標準供給や設計審査などをきちんと担保するしくみが必要である。

計量の観点からフォローを

(財)日本品質保証機構(JQA)の森本修委員は、薬事法は2005(平成17)年で計量法と同等の規制をするようになった。「もちはもちや」という言葉があるように、医療に関係があるものは薬事法で管理するのがよい。外すことに賛成だ。計量の観点からのフォローは大事であり、標準供給などをしっかりフォローして欲しい、と述べた。

省庁間の連絡・協力を

宮崎県地域婦人連絡協議会の甲斐カズ子委員は省庁間の連絡・協力はどうなっているのか質問した。

岡村雄治計量行政室長は、厚生労働省からの意見、注文などはとくに聞いていないとし、今井秀孝部会長は、省庁間の協力は大事だと述べた。

答申案は、討議内容を踏まえて、今井部会長と事務局で最終案を決めることとし、パブリックコメント後、答申する。

日本計量新報 2009年5月17日 (2773号)

春の叙勲(2)

【旭日双光章】▽西山俊彦(77、高知県計量協会会長、宇治電化学工業(株)会長)

春の褒章

【黄綬褒章】▽多田慎一(64、(社)富山県計量協会副会長、第一物産(株)代表取締役会長)▽名取悦二(62、日本試験機工業会、スガ試験機(株)取締役製造本部長)

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