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日本計量新報 2009年7月26日 (2783号)

長さの国家標準が新方式に
光周波数コム装置の利用で精度が従来の300倍に

産業界への波及効果も期待大

(独)産業技術総合研究所計測標準研究部門時間周波数科波長標準研究室が開発した「光周波数コム装置」が、2009年7月16日、日本の「長さ」の計測器の頂点に位置する国家標準(特定標準器)に指定され、長さの国家標準が新方式に改められた。これにより、従来の国家標準と比べて300倍の精度を達成。また、光通信帯などの波長にも対応しているため、産業界への波及効果も期待できる。

 

光周波数コムの模式図


これまで、日本の計量法に定められた長さの国家標準(特定標準器)(注1)は、産総研にある「よう素安定化ヘリウムネオンレーザ」であったが、今回、最新技術である光周波数コムを採用した「協定世界時に同期した光周波数コム装置」が、長さの国家標準として指定された。

広帯域で櫛状のスペクトル

光周波数コムとは、モード同期レーザーと呼ばれる超短光パルスレーザーから出力される、広帯域かつ櫛状のスペクトルを持つ光のこと。モード同期レーザーが発生する超短光パルス列は、繰り返し周波数(frep)で決まる間隔を持った細いスペクトル成分(モード)を持つ(上図参照)。このスペクトルの形状がくし(comb)に似ていることから「光周波数コム(comb)」と呼ばれる。

繰り返し周波数波数frepを、協定世界時(注2)に同期すれば、光周波数コムを「光周波数のものさし」として用いることができる。

300倍の高精度、光通信帯のレーザー校正も可能に

光周波数コム装置は、従来の「よう素安定化ヘリウムネオンレーザ」に比べ以下の優位性を持っている。

(1)精度向上(不確かさ低減)=長さの国家標準として発生する「波長(真空中)」が従来に比べ300倍高精度となった。

(2)複数の波長に対応=これまでは633nmの波長のレーザーの校正しか行えなかったが、光通信帯の1・5μm帯および短波長域の532nmのレーザーの校正も可能となった。

(3)堅ろう性=装置の寿命や動作の信頼性などについても、従来のレーザーをしのいでいる部分があり、これまでよりもさらに確実な標準供給が可能となった。

新方式の装置の開発を受け、経済産業省の計量行政審議会での審議、経済産業省のパブリックコメント制度による意見募集を経て、計量法第134条に基づき、経済産業大臣により「協定世界時に同期した光周波数コム装置」が長さの特定標準器として指定された。

よりトレーサブルな校正サービス供給へ

計量法が定める計量トレーサビリティ制度では、校正事業者が国家標準(特定標準器)にトレーサブルで確実な校正サービスを供給する仕組みとなっている。

今回、「協定世界時に同期した光周波数コム装置」が特定標準器となり、これによる校正サービスが開始されることにより、新たに校正サービスの対象となった波長安定化レーザーの信頼性が向上し、その結果、新しい光通信技術や安価な精密測長機などが現れると予想される。

また、今後はニーズに応じて、他の波長帯に対応する校正サービスも実施する予定。実現すればさらなる短波長や長波長の校正も可能になり、半導体のピッチ長の測定精度の向上や、テラヘルツの精密計測が可能となるなど、産業界に寄与できる。

詳細は産総研WEBサイト(こちら)。

(注1)国家標準(特定標準器)=各種計測器(計量器)の基準の出発点として、国家が維持し、国内の計測器(計量器)に対して目盛りの標準を供給するもの。日本では、計量法において「特定標準器」として位置付けられている。

(注2)協定世界時=各国の標準時の基準となると共に、時間周波数標準分野における基幹比較基準値として用いる時系。

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