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日本計量新報 2009年8月2日 (2784号)

自然への誘い
富士はやはり日本一の山


富士山を語る言葉は私にはない。何か語ってみようと無理してみても、それがなかなか出てこない。

富士山に登るのは3度目であり、この夏は開山後1週間ほどしてからであった。6月に降った雪のために山頂の山小屋は営業をしていなかった。これまでの2度の富士登山は1日で登って降りてきた。3度目は登頂後に山頂小屋に泊まってゆっくり下山するつもりでいたのに、思わぬ残雪に8合目(実際には本8合目)の山小屋を利用することになった。

富士登山にはいくつかのコースがある。私が利用するのは吉田口である。家から近いからである。

富士山の標高は3,776メートル。日本一高い山だ。2位の山など問題にしないほど高い山だ。登山の取っ付きは標高2,304メートルの5合目。6合目までは左に水平移動する形で登り、その6合目の標高が2,390メートルである。6合目からのジグザグにつくられた登山道を1,386メートル登ると山頂に着く。5合目からの登山地図のコースタイムは登りが5時間55分、下りが3時間20分である。合計で9時間15分で上り下りすることができる。これはできることになっているということであって、山を走って行動することができるほどに山慣れして体力のある人のことであるから、富士山にいきなり登ろうとする人は3割ほど加算して行動するべきである。下りもゆっくりゆっくりと言い聞かせるように足を運ぶことだ。足の筋肉が耐えられる能力には限度があり、とくに踏ん張ったりすると帰りは後ろ向きで歩くことになる。屈強な男子が下りの6合目から5合目にかけて後ろ歩きをしている姿を必ず目にする。踏ん張って歩く2時間によって筋肉は限界に達していて下りでは機能を失う。

私の登山は、雨模様をながめながら5合目で3時間ほど高度順化のための間をおいて、午前9時に出発。本8合目の小屋で休憩して午後8時30分に山頂に立った。小屋に戻ったのは午後10時過ぎであった。御来光を目指す人々は午前2時に起床、身支度して山頂付近に陣取る。

この日、頂上での日の出はなく、本8合目の小屋の東の空にはうっすらと太陽の形が見えた。

天候がよくて太陽が見えていると山を登るのが気持ちよい。曇りなら何とか気持ちは保持できる。雨の日の登山は気が滅入る。富士山の登山はこれが極端になる。富士登山はその全行程が森林限界の上であるから、高度を上げるほどに下界の見晴らしがよくなる。6合目から7合目にたどり着くと、やれやれではあるが「やったわい」と思う。さらに8合目にたどり着くと「良い気分だ」となり、本8合目では「ここまで来ればしめたもの、オレも大したものだ」とちょっぴり自惚れが浮かぶ。しかし、そこから頂上までは標高にして410メートル、コースタイムは85分だ。ただ我慢するだけという気持ちで岩に向き合うように登ると8合5勺(はちごうごしゃく)の山小屋が出てきて、やがて9合目に達して、残り一息で山頂の縁に達する。夕焼けの空が8時過ぎまで明るく燃えているなかを登り続け、午後8時半に山頂に達したころには天空にはおぼろ月があった。足下には街の明かりが灯り、河口湖では花火が打ち上がっていた。山頂は積雪が多いため山小屋は営業しておらず、吹く風は冷たく手袋の上にさらに防風用のミトンを重ねなければならなかった。防寒のヤッケの下は品質のよいダウンジャケットであった。日中の半袖・半ズボンなどではとうてい耐えられない。スニーカーで間に合わせている人が多い富士登山である。雨天時の足下の防水のことを考えればゴアテックスなどの防水対策の施された靴底のしっかりした登山靴を用いることになる。滑る砂、滑る岩への対策のことを含めて靴を選定する。晴れた日の富士登山の下りコースは火山灰が舞い上がって目に飛び込むし、鼻にも入るので、マスクを携行すると重宝する。コンタクトレンズを入れている人は、ゴーグルが必携の道具である。

旅行会社が企画運営するツアー登山が日本では盛んになっていて、中高年の登山愛好家がこれをよく利用している。富士登山でもツアー登山が多い。山小屋の側では大勢の客を安定して受け入れることができるので歓迎であろう。7合目、8合目などの山小屋の人が5合目で迎えて、小屋までの案内を摺るのも旅行会社には経費節減にもなる。ツアー登山の人々の装備はそれなりであり、外国人登山者の一部の人々に見られる半袖・半ズボンにスニーカーということはないが、わいわいがやがやとハイペースで登っている。行った、登った、登頂証明書がご褒美となり、次の山を目指す励みとなる。こうした登山方法では、自分で考えることは「次はどの山に登るか」だけである。どのように登るかということは、あまり考えの対象とならない。そのような登山形式が増えており、多くの人が利用している。

(写真と文章は甲斐鐵太郎)

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