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日本計量新報 2011年9月18日 (2886号)

国民生活センター
低価格の放射線測定器をテスト
通常環境中の放射線量測定、食品・飲料水などの判定に使えず

線量に比例してばらつき拡大
全機種で誤差30%越えた
何らかの規制をすべきとの声も

 国民生活センターは2011年9月8日、10万円未満の放射線測定器9機種について「通常環境中の放射線量や食品・飲料水などの暫定規制値以下であるかどうかの判定に利用できる性能はなかった」とのテスト結果を公表した。対象品の一部は地方公共団体も使用しており、間違った測定値に基づく判断は生命身体の安全にもかかわることから、計量法上でも何らかの規制をすべきではないかとの声が出ている。



個人の放射線測定への関心・需要高まる

 国民生活センターのテストの背景には、個人による放射線測定ならびに放射線測定器への関心と需要の高まりがある。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故によって原子炉から漏出した放射性物質による環境、農作物、食肉、水などへの汚染が広がっている。行政の対応の遅れもあり、消費者の不安はつのっている。震災以来5カ月が経過し、半減期が短い放射性ヨウ素は大部分が減衰したが、放射性セシウムは半減期が30年と長いため、環境中に留まり続けているからである。
 PIO−NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)には震災以降7月末までに「放射線測定器」に関連する相談が391件寄せられた。そのうち放射線計測器の品質・機能などに関するものは122件。

対象機種は低価格機種9種

検体購入は2011年6月〜7月、テストは7月〜8月に実施した。
 テスト対象機種は、PIO−NETでの相談機種を参考に、インターネット通信販売で1万円以上10万円未満の放射線測定器9種を選定、購買した。いずれも中国製。

2種の性能テスト実施 

測定機器の性能テストは、@自然放射線の測定試験とA137Cs由来のγ線測定試験を実施した。測定条件は、校正方法や製品のJISを準用して実施した。
 比較のため国産メーカーのNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータ(TCS−171(電池式)、日立アロカメディカル(株)製、58万8000円〔税込〕)でも同様のテストを実施している。同器は、JCSS登録校正事業者の(社)日本分析センターが校正し、国家計量標準とトレーサビリティが確立されている。

暫定規制値以下かどうかの判定に使えず

生活環境に存在する微量の自然放射線を測定できるかを調べるため、通常の環境と、鉛箱で遮蔽(しゃへい)して自然放射線の影響を受けにくくした環境で各10回測定し、平均と標準偏差(ばらつき)を求めた。国産の参考品も同様にテストした。
 テスト機種は0・06μSv/h以下の低線量を正確に測定する性能はなく、国民生活センターは「通常環境中の放射線量や食品・飲料水などの暫定規制値以下であるかどうかの判定に利用できる性能はなかった」と結論づけた。テストで明らかになった性能では、食品・飲料水などの暫定規制値である200〜500Bq/kg(500Bq/kgは、およそ0・007μSv/h)に該当する線量率を測定することはできない。

誤差は30%超−測定値を信頼できず−

137Cs由来のγ線測定試験では、セシウム−137の校正用線源を使用して、テスト対象機種が示す値を調べた。
 参考品と比較するとテスト対象機種は総じて低い値を示し、照射する線量率に比例してばらつきが大きくなる傾向。正確な測定ができておらず、測定値を直ちに信頼することはできない。
 0・115μSv/hとなる条件で測定した結果、参考品を除く9機種全てで相対標準偏差(誤差)は30%を超えており、低い線量率を照射した場合でも正確な測定はできていない。このテストからも対象機種は、環境中に放射線が少ない場合の環境測定や開放系での食品・飲料水などの汚染検査には適していない。

放射線を正確に測定できる旨の表示も

インターネット通信販売サイトで、5機種は放射線を正確に測定できる旨の表示があり、4機種はテスト結果の誤差が仕様に記載されている誤差を超えている。景品表示法上問題となるおそれがある。
 日本語の取扱説明書などが付属していない製品、電気用品安全法に抵触するおそれがある製品もあった。

購入・使用せず、測定値は直ちに信用しない

同センターは消費者に対し、暫定規制値レベルやそれ以下の食品・飲料水などの汚染を判別する目的でこれらの測定器を購入・使用することは避け、環境中の放射線を測定する場合、公表されているデータなども参考にして、測定値を直ちに信頼することは避けるよう、アドバイスしている。
 行政に対しては「比較的安価な放射線測定器では、食品や飲料水などが暫定規制値以下であるかどうかの判定はできないことを、周知徹底するよう要望する」としている。

日本計量新報 2011年9月18日 (2886号)

解説
計量法でも規制

国民生活センターのテストは、私たちが漠然と感じていた測定値の信頼性に関する疑いが事実であることを示した。同センターのアドバイスだけでは、根本的な解決にはならないことも明らかである。こうした測定器が市場に出回ることを防げないし、セシウムなどの半減期が長い放射性物質の残留と健康への影響に関する不安がなくならない限り、放射線測定器への需要は続くからである。

 もっと問題がある。このような計測器による測定値を基に、行政施策の選択をはじめ、さまざまな判断がなされる場合があり、誤った測定値に基づいて誤った判断がなされれば、生命身体の安全が脅かされる事態が生じることになる。セシウム137は30年という長い半減期を持つことから、こういう危険は長期にわたって続くことが予想される。
 また、NPO法人や行政組織などが、こうした信頼が置けない放射線測定器で測定した測定値を、webサイトで公表することは、現状では計量法上の「計量証明」ではないが、広い意味では計量証明行為であり、その影響が懸念される。

 (独)産業技術総合研究所は、現状でも数種類の放射線量に関する計量標準を有し、「放射線計測の信頼性」に関するwebサイトを設置し、計量のトレーサビリティの確立を含めて、正確で信頼できる放射線計測を実施するための仕組みとルール、産総研など各種機関が果たしている役割を解説している。

 しかし、標準供給と啓発だけでは不十分である。テスト結果を見れば、放射線の影響に関する安全・安心の確立のためには、現状をそのまま放置するのではなく、放射線測定器に関する計量法による何らかの規制が必要である。これまでは現在のような事態は考えられていなかったから、法規制はなかった。しかし、この前提条件は原発事故で崩壊した。

 こういう声は、計量関係者の間ですでに語られてきている。地方行政機関からも、「このまま放置してよいのか」と、懸念する声も聞かれた。この秋に開催される計量協会などの地域協議会でも、同様の懸念が協議議題として提案されている。
 ダイオキシンの問題をきっかけに、民間・行政の計量計測関係者が知恵を絞って「特定計量証明制度」を創設したように、今こそ全計量関係者が知恵を絞って、放射線量計測における安全・安心を保証する計量制度をつくり上げるべきである。

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