計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内

日本計量新報 2012年7月22日 (2926号)

産総研、理研ら測定技術を国際共同開発
世界最短波長のX線自由電子レーザー光強度を初測定

標準供給と校正が可能に
基盤技術としての活用を期待

 (独)産業技術総合研究所(産総研)計測標準研究部門と、(独)理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センタービームライン研究開発グループ、(公財)高輝度科学研究センター(JASRI)XFEL研究推進室利用技術開発・整備チーム、ドイツ物理技術研究所(PTB)、ドイツ電子シンクロトロン(DESY)は共同で、X線自由電子レーザー(XFEL)の平均パルスエネルギー(光強度)の絶対値を測定する技術を開発した。さらにオンラインビームモニターを校正することで、実験中のXFELのパルスエネルギーを正確に測定することが可能となった。この測定技術は多くの研究での活用が期待される。詳細は、米国の科学雑誌、Applied Physics Lettersにオンライン掲載された。


X線自由電子レーザーの本格利用へ

現在、レーザーの波長は0・1nm以下となり、日本でもX線自由電子レーザー(XFEL、注1)の本格的な利用が始まろうとしている。今回の測定技術の開発で、基礎・基盤研究だけでなく、タンパク質の構造解析を通じてがんやエイズなどの難病に対する特効薬の開発や、分子が微細空孔に取り込まれる様子の解析を通じて有害化学物質を選択的に取り込む新素材の開発が期待されるなど、産業や国民の生活に役立つ幅広い応用研究開発への貢献が見込まれている。
 XFELを利用する研究では、入射光の強度により反応過程が異なることがあるため、パルスエネルギーは不可欠な情報である。また「光強度」は最も基本的な物理量であることから、国際単位系(SI)トレーサブルな値の公表は、日本初のXFEL施設を国際的にアピールする上で重要な役割を果たすという。そのため、XFELのパルスエネルギーを正確に測定する技術が求められてきた。

XFEL用極低温放射計を開発

産総研は、前身の工技院時代から強度測定技術の開発に取り組んできており、2010年には、熱量測定によって光強度を評価する極低温放射計を用いた極紫外領域の自由電子レーザーのパルスエネルギーを絶対測定する技術を開発している。
 XFELは極紫外自由電子レーザーに比べてエネルギー密度が極めて高いため、検出器へのダメージや検出器出力の飽和(オーバーフロー)が強く懸念された。そこでXFEL用極低温放射計を新たに開発して、SACLA(注2)のビーム強度を産総研・理研・JASRI・PTB・DESYで協力して測定することを試みた。
 新たに開発した極低温放射計は、検出部がほぼすべてのX線を熱エネルギーとして吸収する技術と、X線による熱エネルギーを電力に変換する技術を組み合わせて実現した。測定したパルスエネルギーを等価な電気エネルギーに変換できるため、絶対測定が可能な測定器であり、一次標準器となる。

パルスエネルギーの測定技術とオンラインビームモニターの校正技術開発

今回共同開発したのは、(1)新開発の極低温放射計を用いてのSIトレーサブルなパルスエネルギーの測定技術と、(2)実験中のオンライン測定を可能にするため、オンラインビームモニターを極低温放射計に対して校正する技術。
 極低温放射計を用いて測定したXFELのパルスエネルギーが最大となるのは、波長が0・21nmと0・13nmの場合で、約100μJ。平均パワーは1mW、ピークパワーは5GW。この測定の不確かさは1・1%から3・1%で、主にSACLAのXFELの強度のふらつきに起因。
  このように、0・1nmより短波長のXFELについて初めてSIトレーサブルなパルスエネルギーの測定に成功した。
 測定結果に基づき、SACLAのXFELビームラインに組み込んで常時用いるオンラインビームモニター(注3)を校正した。この校正値から今後0・07nmから0・28nmの波長範囲で、このビームラインを利用する研究に、平均パルスエネルギーの絶対値を提供できる。
 今回の技術開発により、実験結果とパルスエネルギーの関係を解析し、パルスエネルギーを制御して最適な条件で実験ができる。異なったXFEL施設で行われた実験の結果を比較する際にも、パルスエネルギーは重要な変数として利用されることが期待できる。

常温動作の放射計による測定技術を開発予定

XFELは今後、基礎研究から応用研究まで、幅広い分野での活用が見込まれている。XFELのパルスエネルギーを定常的に精度よく測定するには、ビームラインの強度モニターを定期的に校正する必要があるが、今回開発した技術は液体ヘリウムを使用するため、@準備に時間を要する、Aランニングコストが高い、という課題が残った。
 今後はより容易に校正ができるように、常温で動作する放射計による測定技術を開発するとしている。
【注】
注1:X線自由電子レーザー(XFEL)=X線領域の波長をもつ自由電子レーザー。物質中で発光する通常のレーザーと異なり、加速器の中で電子を光速近くに加速し運動させ、そこから出る光を利用している。物質からはぎ取られた自由な電子を用いることから、自由電子レーザーと呼ばれる。X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)は、第3期科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられている。

注2:SACLA=理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。レーザー波長が0・1nmを下回ることと、施設全体としての長さが700mとアメリカやドイツのXFEL施設に比べてコンパクトという特徴をもつ。

注3:オンラインビームモニター=ビームの光路上に設置し、発生したビームの強度などを測定するための装置。本研究の場合はXFELの強度と位置を測定する能力をもつ。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次日本計量新報全紙面
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.