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日本計量新報 2007年11月25日 (2701号6面)

新光電子(株)岡崎稔社長インタビュー
「安全・安心・信頼が目に見えるはかりをつくる
−一般計量器で新JIS第1号認証取得−」(1)

 

 

「計量から計測へ」

−−計量管理をどうとらえていますか。(聞き手は高松宏之編集部長)

私は以前からいろいろな場所で計量に関して発言させてもらっていますが、その内容は、強制法令による規制がある法定計量の分野一筋に関わっている方から見れば、異端のように見えるかもしれません。

私は社内では以前から「計量から計測へ」ということを強調しています。どういうことかといいますと、「計量」という言葉は、法定計量に結びつきやすい言葉です。legal measurementです。これに対して「計測」という言葉は計量という言葉に比べて、指し示す範囲が広いのです。つまり法令による規制の範囲に限定されない、幅広い部分を含んでいます。

この計測ということがが、産業の成り立ちから自然に組み立てられてきたものです。そのなかから、消費者の保護とか国の秩序の維持という特別の目的のために必要になってきたのが計量、厳密にいうと法定計量の世界です。そしてその目的のために規制される計量器が特定計量器と呼ばれるのです。

私は、この法定計量以外にも、ものを測る分野が広く存在するということを考える必要があると思います。それで法定計量の世界をイメージしがちな計量という言葉ではなく計測という言葉を使うわけです。

特定計量器は計量器のごく一部分

はかりに関するJISの規格(日本工業規格)を見てもらいたいと思います。はかりに関するJISには第1部と第2部がありますが、第1部が「非自動はかり−性能要件及び試験方法−」の「一般計量器」に関する規格、第2部が「特定計量器」に関する規格です。第1部は特定ではなく一般なのです。つまりはかり、自動はかりは除きますが、全般に関する規格を第1部できちんと定めて、第2部で、そのなかでも法令で規制する必要があるはかり、特定計量器に関してJIS規格を定めているわけです。

計量に関係している世の中の多くの人たちが、なぜこの関係をきちんと捉えないのか、不思議でなりません。

そうはいいながら、日本の戦後の産業発展の基礎を支えてきたのは計量法という法律です。当時の計量法が規制する範囲は幅広いものでした。これが産業の発展、計量器の技術の発達とともに規制が緩和され、計量法で規制する範囲はどんどん狭くなってきました。たとえば「長さ」に関する計量器なども規制対象の計量器でしたが、現在の計量法は規制していませんね。

計量=法定計量という考えから抜け出せ

私は、計量業界でもまだまだ多くの人が、計量イコール法定計量という概念から抜けられない、法定計量が計量の全てだという頭になっていると思います。これはハードに関することだけではなく、検定や、はかりの定期検査など、計量に関しては「民」ではなく「官がやってくれるもの」という意識が強いと思います。

ですから、はかりが狂っていても自分たちの責任だとは思わないのです。全て国の責任であると。「自己責任」という考え方にはなっていません。

私は、その流れを断ち切って、自己責任の考え方でやっていく必要があると思っています。なんでもお役所を頼るのではなく、自分で計量器を管理し、計量管理を進めていかなければなりません。

「一般計量器の性能をどう担保するのか」

では、そのときに、どのようなルールに則ってやるのかということです。特定計量器に関しては計量法令というものがあります。しかし、それ以外の計量器に関しては、従来は準拠できるルールがありませんでした。一般計量器のJIS規格もありませんでした。

規制緩和の推進や、国際整合性、技術革新に素早く対処するなどの要求から、計量法もJIS規格を取り入れるようになりました。特定計量器に関するJIS規格は「非自動はかり−性能要件及び試験方法−第2部:特定計量器」でJISB7611-2です。2005(平成17)年にできました。

そして、一般計量器に関するJIS規格は「非自動はかり−性能要件及び試験方法−第1部:一般計量器」でJISB7611-1です。制定は2005年です。JISの概要を見ますと「この規格は、目量の数が100以上、かつ、目量が0.001g以上の“非自動はかり”について標準化を行い、生産及び使用の合理化、品質の向上を図るために制定するものである」と書かれています。これからは、この一般計量器に関するJISが重要です。

 

日本計量新報 2007年12月2日 (2702号4面)

新光電子(株)岡崎稔社長インタビュー
「安全・安心・信頼が目に見えるはかりをつくる
−一般計量器で新JIS第1号認証取得−」(2)

新JISマーク表示制度に

JISマーク付きの商品を御覧になったことがあるでしょう。しかし、計量器でJISマーク付き商品を見たことはないでしょう。これまでは、JISマーク付き商品はつくれなかったのです。

2004(平成16)年6月9日に工業標準化法が改正され、2005(平成17)年10月1日からJISマーク表示制度が新しくなりました。JISマーク付き計量器がつくれるようになったのです。

JISマーク表示制度を振り返ってみますと、この制度は、1949(昭和24)年の工業標準化法制定以来、50年以上の歴史をもち、互換性の確保、品質の確保、安全性の確保などを目的とし、日本の鉱工業製品の品質向上に大きく寄与してきました。しかし、経済や貿易などのグローバル化により、国際標準化が重要になってきたことなどから、今回改正されたわけです。

今回の改正は、制度の基本的仕組みを大幅に変更する改正となっています。

はかりもJISマーク付き商品がつくれる

これまでは国がJISマーク表示制度の対象となる商品等を限定する指定商品制をとっており、はかりは対象外でした。また、JIS規格や国際基準に適合する品質であったとしても、日本国内では適合性評価制度が無く製品に表示できる適合性マークがありませんでした。

新制度はこれを廃止し、認証可能なJIS製品規格がある製品が対象となります。はかりもJISマーク付き商品をつくることができるようになりました。これは大変な変化です。

「国による認定」から「民間の第三者機関による認証」へ

国(又は政府代行機関)が認定を行っていた制度から、国により登録された民間の第三者機関(登録認証機関)から認証を受けることによって、JISマークを表示することができる制度になりました。

JISマーク表示対象事業者の拡大

JISマーク表示対象事業者は、国内外製造(または加工)業者に限られていましたが、これに加え、販売業者、輸出入業者についても、対象となりました。また、ある特定のロットに限る(特定の1,000個、1,000枚等)認証を取得することもできるようになりました。さらに、工場(又は事業場)ごとに認定を受けなければならないという制約はなくなりました。

国際的に整合した適合性評価制度へ

国際的に整合した認証制度とするため、国際的な適合性評価に関するガイド(ISO/IECガイド65等)」を採用し、審査は、品質管理体制に加え、登録認証機関の責任において製品試験が実施されることになりました。

JISマークのデザインの変更

制度の仕組みが変わることに合わせてマークのデザインも変更されました。

国による制度の信頼性の確保措置

登録認証機関に対しては、定期的な更新手続きに加え、立入検査等の維持管理を行い、必要に応じて、適合命令等の措置を行うこととしています。認証取得者に対しては、登録認証機関による認証維持審査等が行われることに加え、国は、必要に応じて立入検査等を行い、製品の品質等に問題があると認めた時は、表示の除去命令等の措置を行うこととしています。

経過措置期間の設定

新制度へ円滑に移行できるように3年間(2005年10月1日〜2008年9月30日)まで、経過措置期間が設けられています。

「新光電子が一般計量器で第1号を取得」

−−新JISマーク表示制度で一般計量器の認証第1号を取得されましたね。

私は、この新JISマーク制度を見たとき、これだと思いました。はかりに関しては、取引または証明に使用する特定計量器は、国の検定があり、定期検査が義務づけられています。法令が計量器の性能を担保しているのです。しかし、特定計量器以外の一般の計量器に関しては規制はなく、製造メーカーの品質管理以外に計量器の性能を担保するものがありません。ユーザーは計量器を信頼して使えないのです。

先ほども述べましたが、JISに関しても、非自動はかりは、新JIS制度がスタートするまでは、旧JIS制度においてJISマーク表示の対象外でした。JIS規格や国際基準に適合する品質であったとしても、日本国内では適合性評価制度がなく製品に表示できる適合性マークはなかったのです。

安全・安心・信頼が目に見える

私は新JISマーク表示制度を活用することで、検定対象外である一般計量器の非自動はかりに関しても性能をきちんと、ユーザーの目に見える形で担保でき、ユーザーは安心してその計量器を使用できると考えました。しかし、不思議なことに計量業界では行政や工業会などでも、これを積極活用しようという動きはあまり見られませんでした。

それでは、新光電子が独自に動こうということで新JISマーク表示制度の認証取得へ向けて動き出しました。

技術要件といいますか、試験の内容・レベルは特定計量器の場合とほとんど同じです。一般計量器の場合と特定計量器の大まかな違いをあげると、一般計量器の場合は、封印をしなくて良いなど特定計量器独自の制限がないことです。

 

次号以降掲載

新光電子(株)岡崎稔社長インタビュー
「安全・安心・信頼が目に見えるはかりをつくる
−一般計量器で新JIS第1号認証取得−」(3)

型式試験データが使える

試験データは、全部新たにテストしなくても、信頼できる試験データがあればそれを採用してくれます。たとえば、ヨーロッパなどへ輸出している商品は、そのための型式試験データがありますので、それを使うことができました。型式試験データの相互承認の成果です。もちろん、これまでに無いデータは、新しくテストして取得しました。

これを別の観点で見ますと、やはり良い製品をつくらなければならないということです。きちんとした品質管理で良い製品を製造すれば、世界中どこででも通用します。

新JISマーク表示制度も、世界に冠たる制度に育って欲しいと願っています。

JQAから第1号認証取得

こうして新光電子は、2007(平成19)年6月18日付けで新JISマーク表示制度の登録機関である(財)日本品質保証機構(JQA)から、新JISマーク表示制度のJIS規格B7611−1に基づき「非自動はかり:一般計量器」における国内第一号の認証を取得しました。新JIS認証番号はJQ0307010です。これはJQAが新JISマーク表示制度の登録認証機関としておこなう、一般計量器における第一号の認証でもありました。

10月1日、新JISマーク付はかりを発売

2007年10月1日に、新JISマーク表示制度に基づくJIS1級、2級の5機種の電子はかりを発売しました。一般計量器としての非自動はかりで、個々の製品にJISマークが表示されています。

購買者は品質情報を客観的に得られる

繰り返しになりますが、JISマーク付はかりのメリットとして3点あげることができます。

1)JISB761−1に規定された技術要件に完全適合していますので、製品品質が保証されています。

2)ISO9001に基づく品質管理体制で製造しており、生産品質が保証されています。生産品質が保証されているということです。

3)工業標準(JIS規格)を満足した製品ですので、安全・安心・信頼のJISマーク付きはかりであるということです。

つまり、JISの性能要件及び試験方法によって製造することで、メーカーはその製品の品質を保証できます。購買者は、JISマークが表示されていることで製品の品質に関する情報が客観的に得られ、迷うことなく安心して、必要な品質性能を有する安全な製品を入手できるということです。

「計量のマネジメントをきちんとやるために」

−−計量のトレーサビリティについてのお考えを聞かせてください。

計量のマネジメントに大切な3つのこと

われわれは計量器のハードウェアメーカーですが、私は計量のマネジメントは、ハードをつくったらそれで終わりではないと思います。適正な計量をするためには、計量のトレーサビリティが大事です。

私は、計量のマネジメントをきちんとやっていくためには、次の3つが大事だと思います。第1は、トレーサビリティを確保するための方法です。第2は、データを生み出すハードウェア。第3は、管理プロセスです。

法定計量には、型式承認というハードウェアに関する担保があります。そして、2年に1度の定期検査があります。従来から実施されている計量管理という管理プロセスがあります。そしてトレーサビリティ体系図があれば、要求される範囲での計量のマネジメントができます。

管理プロセスはISO10012で

これに対して、一般計量器での計量のマネジメントはどうでしょうか。ハードウェアに関しては第3者認証によるJIS規格の計量器ができました。計量のトレーサビリティに関しては、まだまだ不十分ですが、JCSS校正事業者登録制度があります。

ところが管理プロセスについては問題です。現在はないといってよいでしょう。

しかし、私はこれに関してはISO10012「計測マネジメントシステム−測定プロセス及び測定機器の要求事項」という規格が使えると思っています。これは品質システムの国際規格であるISO9000ファミリーのアシスト規格です。計測機器の管理システムのISO10012−1と測定プロセスの管理のISO10012−2の二つに分かれていましたが、2003年版で統合されています。

ISO9000の計測の要求事項は弱い

ISO9000シリーズの要求事項を維持するための計測に関してはきちんとやられていないといってよいでしょう。計測器の管理や測定プロセスをどのようにすべきかは、ISO9000の中には十分に書かれていません。したがって審査員の判断の幅が大きいと思います。計測がきちんと位置づけられているとはいえないのです。

ここのところをISO10012でやるべきです。ISO10012には、測定器の管理と測定プロセス(測定手順、要員)の保証に関する要求事項が書かれています。たとえば生産工場で、求められる品質にもとづいて要求される計測精度があります。その場合に、ISO10012にもとづいて、その要求を満たす不確かさの計測器を使わなくてはならないということです。

ISO10012は、実際に計測器が使われる場面で、できるだけ頻度を上げて、品質管理のために使われる個々の計測器の不確かさを定点観測で見続けなさいという校正システムについての指針、こういうことがベースになっています。そしてそれを記録に残しなさいということです。

JIS規格の計量器、JCSS制度、そしてISO10012。これで一般計量器による計量のマネジメントもきちんとやれると思います。工場の計量管理者がこれにもとづいて計量のマネジメントをやれば、システム的にきちんとやれるのです。世界中で通用します。

今、(社)日本計量振興協会でISO10012に関する勉強会が開かれています。トヨタなどの大企業もISO10012には関心を寄せています。

中国では計量管理は10012で

注目すべきは中国で、計量管理はISO10012でやりなさいといわれていることです。政府からのトップダウンです。

「日・韓・中計量測定協力セミナー」が毎年開かれていますが、それに参加した日本側関係者が一番驚いたのがこのことです。エネルギー計量大系と測定管理大系ということで報告されています。まずエネルギー関係の大企業に対して測定管理大系の構築を義務づけています。ここでISO10012にもとづくことを求めているわけです。中小企業はこれからですが。

新光電子では、このISO10012を取り込んだ計量管理をどう実現していくかということを研究しています。

「JCSS校正事業者登録取得を支援」

−−JCSS校正事業者登録取得の支援をされていますね。

また計量のトレーサビリティは絶対に大事なことですから、これがきちんととれていますよということを宣言できるような事業者、機関をすこしでも増やしていかなければならないと考えています。

すでに1社がJCSS取得

当社のはかりを扱っていただいている企業をベースに、VFC(ビブラ・ファミリー・クラブ)を組織していますが、このなかで少しでも多くの企業がJCSS校正事業者登録をできるように支援しています。会員のなかからJCSS登録を希望する東日本、西日本各5社参加で「JCSS取得会」を開催してきました。1年間やってきまして、すでにJCSS校正登録事業者になられた企業がでています。今年度も事業の一環として「第2回JCSS取得会」を開催しています。

講習会は10カ月の間に14日の座学講習、ここではJISQ17025など基礎知識の拾得をします。またJAB技能試験などの実習を実施し、各社校正室での現地指導も実施します。その後、各社はそれぞれのスケジュールでJCSS申請をすることになります。

ISO10012での計量管理を常識にしたい

先ほど述べたISO10012もVFCを中心に普及していきたいと考えています。4〜5年もたてば、ISO10012による計量管理が常識になってくる、そういうふうにしたいですね。

私は「この活動をわれわれのミッションにしよう」ということを社員に言っています。計量のトレーサビリティの普及やISO10012による計量管理を産業界に広く普及させることを、われわれの生涯をかけた天職として実施し、そして自己責任による計量管理を実現させていきたいと考えています。

−−ありがとうございました。


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