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第6回全国計量士大会(2008/2/22)〜基調講演・状況報告

基調講演 

計量士の沿革から見るこれから

日本計量史学会会長(元(社)日本計量士会会長)蓑輪善蔵氏


はじめに

計量士の名称が確立したのは、1951年に公布された計量法からですが、実質は度量衡法時代の度量衡管理員からの流れであり、計量器使用事業場と度量衡講習と密接に関係しています。これらとの関連と、その時々の状況を見ながら話をしたいと思います。

計量制度は、科学技術と技術に裏付けされた規則に教育が加わる事によって十分な機能を果たす事ができるものと思っています。そして統一性、一貫した継続性と共に急激な変化が少ない事が必要と考えられます。

計量士の沿革

度量衡法が明治24年に公布され、26年の施行から5年後に全国一斉の定期検定が実施される事になりましたが、実施担当は府県毎であり、度量衡についての知識をもつ人が極めて少ないことから、東京物理学校に度量衡科を設け担当者の教育を行いました。この教育は3期で終わりましたが、明治36年中央度量衡検定所の設立に伴い、度量衡技術講習として制度化されました。この講習が計量行政に携わる職員、自治取締員と度量衡器の製造等に係わる人達の知識、技術の向上に貢献しました。

明治31年頃 関菊治が山陽鉄道に自治取締員を置いたのが計量士の始まりと言われています。大正3年頃には大阪舎密工業(株)、大日本麦酒(株)、日本ペイント製造(株)等で度量衡器自治取締規程が制定されています。計量管理事業場の始まりです。

自治取締員は大正年代に経歴による資格が定められ、取締の免除につながっています。「度量衡自治取締員」は後「度量衡管理員」となっています。度量衡管理員はその資格が公務員経験者か度量衡講習修了者となっていました。

昭和5年の日本度量衡協会第19次総会は計量士法制定の決議を行い、大阪府権度課長琢磨啓一を中心に法文の策定を行いました。政府提出の理解が得られない中で、一松定吉以下国会議員47名によって3回に亘って議員提案の形で提出されましたが、審議未了で結末しています。

昭和26年計量法の公布により「計量士」が定義され、計量管理を実施する者として 計量器の整備、計量の正確の保持、計量の方法の改善、その他適正な計量の実施を確保する為に必要な措置を講ずることを実施する者とされました。

計量士になるには、国家試験と認定の二通りの道がありました。

国家試験は 国家試験に合格し、1年以上の経験を有すること。

 認定は 計量教習所の課程を修了し、5年以上の経験を有するもので計量行政審議会の認定が得られること。 となりました。

別に 経過措置として

 度量衡講習を修了している者で、検定、検査等に8年以上の経験を有する者で計量行政審議会の認定を得た者。 となっていました。

また、計量教習所の設立により、計量の事務に従事する者に義務がつきました。即ち、法第225条は、「検定等の事務に従事する職員であって、政令で定める者及び第154条第1項(立入検査、質問及び収去)の職員は、計量教習所の課程を修了した者でなければならない。」となっています。そして、法第173条の計量器使用事業場の指定では、計量管理を職務とする計量士を置くことが規定されました。

計量士を計量法で規定しながら計量管理指定事業場の取締免除以外の法的な権限は付与されていませんでしたが、昭和33年になって漸く「定期検査に代わる計量士による検査」が規定されました。

昭和38年には、臨時行政調査会による計量士制度の廃止が答申されたり、後に定期検査周期が3年に統一されようとしたり、規制緩和の影響から、計量士業務に係わるような話も出ていました。昭和41年の計量法改正は、規制対象計量器の削減があり、民間能力活用等の見地などから、国会でも計量士活用の質問があり、材料試験機の検査等が局長答弁に出てきたこともありました。

環境公害問題から、環境計量士が誕生したのは昭和49年のことです。

先に計量士登録証に本籍地の記載がなくなりましたが、昭和58年には現住所記載も無くなり、計量士の把握に困難が加わりました。計量士の調査は3回ほど行われています。

平成5年の新計量法では、計量器使用指定事業場が適正計量管理事業所に名を変え、計量主任者が生まれ、定期検査周期が一律2年に統一され、指定定期検査機関の制度が出来ました。

計量士は、計量法公布以来、計量管理協会の計量士部から日本計量士会連合会、(社)日本計量士会を設立、総ての都道府県に支部を設立する組織強化を図りつつ「地位の向上」、「職域の拡大」を目標に掲げてきましたが、平成12年(社)日本計量協会、(社)計量管理協会と合併(社)日本計量振興協会の計量士部となっています。

計量士のこれから

計量士は計量行政の一翼を担う為に制度化された専門家と思えるのに、法的には、その活用は極めて小さなものに限定されてきました。難しい国家試験をクリアした専門家である事を考えれば、より多くの活躍の場があってもよいと思います。

平成に入り 5年には新計量法が施行され、規制緩和から指定機関の規定が生まれ、平成11年には実務が自治事務になったことにも拘らず、自治体職員の計量教習の受講義務が廃止されてしまいました。更に計量教習の教習期間も減少されてきてしまいました。平成に入って計量行政を含む実務等がこれほど早い速度で変化しようとは及びもつかないことでした。

計量士団体の役割

計量士法について

昭和5年の計量士法(案)では、計量士になる為の条件は 計量士試験に合格した者。大学で機械学、物理学を修め検定、取締に2年以上。専門学校で機械学を修め検定、取締に4年以上。度量衡講習を修了し検定、取締りに8年以上。判任官以上の官吏で検定、取締に10年以上となっています。そして自治取締員の数も千名を超え、業務も社会の要求もあり、自治取締員の地位、業務を制定し法律上の権能を確保する事を目的としていました。

計量士法は、更に全国計量士会連合会の昭和37年2月に於ける理事会でも合意されています。その時の案では、計量士の業務は、計量器と一般計測器の検査、整備、鑑定及び証明。量目叉は品質の検査、鑑定及び証明。計量器の簡易修理。計量管理の代行、計量診断など となっています。

計量士法は計量士の地位を向上し、権限と共に業務の安定を図る重要な事柄かも知れません。

計量法内での活用に向けて

国、地方の計量行政機関がその主体性を減らしているこのような状況の下で、計量士の活躍に、より多くの期待がかかるのは当然のことと考えられます。民間能力の活用が叫ばれている今日、計量に関する専門家であり、知識、技術の確認されている計量士に計量法内で、より多くの権能をもたせ、活躍の場を広げる事を実現すべきでしょう。

計量士の勤務形態がその生い立ちから公務員経験者が多く、計量器使用事業場での計量管理と定期検査に代る計量士による検査が主になっていました。公務員経験者は、基準器検査、検定、そして取締までを知り尽していると考えられますので、検査、検定、取締技術面での活躍や、その伝承に役立てる事を考えるべきでしょう。

地位向上、職域拡大と行政処分

計量士の地位向上には当然の事ながら、計量士業務の対価を向上させる事が先ず考えられます。他の「士」の様に職業として成り立つ事が必要でしょう。

計量法や関係する法律に対する計量士の権限拡大に、いつも問題になるのが行政処分の問題でした。行政処分は公務員の専権事項であるとして個人の計量士には与えることは出来ないとされていました。これが計量士の行う定期検査に代わる計量士による検査で不合格処分が出来ない原因の一つです。これらの問題を幾らかでも緩和したいとの思いが「計量士法」につながっていると思います。指定定期検査機関は、行政処分についての第一歩になるように思います。多くの制約があるとしても、難関試験を突破し、経験十分な計量士の集まり(大小に拘らず)に、行政処分を含めた権能を獲得する事に力を注ぐべきでしょう。

計量士の把握

計量士は終身資格ですが、現住所の変更等について届け出る義務が無いので、計量士の現状を把握することは極めて困難になっています。更新制度の活用が不可欠のように見え、計量士大会で取り上げられもしました。計量士の把握は、計量士団体としては、重要な事であり、実態把握のための調査は困難な中で数回にわたり取り上げられています。現在、計量士業務叉はそれに近い業務をしている計量士は、都道府県や地方団体によって把握されていますが、魅力ある資格として確立し、より多くの計量士を把握することは更に重要になると考えられます。ただ、更新制度に研修を義務付ける事は、次元の異なる事の様に思います。

計量士自身について

研修制度

研修制度は、計量士の知識、技術を向上する事が目的で、計量士自身の問題と思います。国際的な情報を含め各種の講習会に参加するのは、団体に属し、自らの向上を考える人達で、現にある程度計量士業務にかかわっている人が多い様に思えます。急激な社会の変化に対応し、情報の入手、新技術の習得に研修制度の充実は今後益々重要になるでしょう。計量士の職域が拡大し、権能が増大すれば自然と計量士業務に従事する人は増えるのではないでしょうか。

計量技術の伝承と団体等

計量行政機関の今後を考えた時 検定、検査技術の低下を防ぎ100年の伝承を消さぬ為にも計量士の役割は極めて大きいものと思います。今後計量制度の維持の主役は計量士になり、日計振、地計協、地方計量士会等の団体が大きな役割を果たす事になりそうですし、計量士の集まりと、この計量士大会が大きな力になるものと思わざるを得ません。

計量制度が科学技術、社会秩序の根源であり、商道徳の基本をなすもの、そして使命感をもって仕事をする為に、知名度を上げ、社会に認知させることが必要でしょう。

長年、計量制度を国の管理すべき重要なものとして教育され、使命感を持たされ、検定、検査を含む計量制度を見てきた者からの思いですが、天邪鬼な別の見方からすれば、規制緩和がどんな形になるのか気になる所でもあります。

状況報告1

計量士技術講習会の実施について

研修委員会委員長(東京計量士会理事)横尾明幸氏

私たち計量士に対する要望・要請及び期待は、最近の経済社会情勢の著しい変化の下で、大きく変化しており、従来の行政の補助的役割から新たな業務拡大に繋がる社会ニーズに応えうる主体的な役割が求められています。また、最近の計量・計測器は、電子化技術の進歩により高度化され、それに対応する計量士の能力もより専門性が要求されると共に、国際化の変化等にも、的確に対応することが要求されています。

このような計量士をめぐる状況に応えて(社)日本計量振興協会は、平成17年度・18年度・19年度の三年かけて調査研究委員会を設置し、検討してまいりました。

平成17年度は、計量士のおかれている現状を分析、今後の社会ニーズに対応した計量士のあるべき姿を検討、調査し、全国の多くの計量士の皆様方が叫ばれてきた計量士の“資質の維持・向上及び職域拡大”のための具体的な対応策並びに計量士への資格付与のための方法や手順等について調査研究を行ってきました。その具体的内容は、@現在の計量士業務の現状把握、A今後の計量士のあるべき姿(役割・期待と課題等)と育成(教育研修)のための具体的対応策、B計量士制度の今後の展望(区分・登録及び更新制等)について検討を行ない報告書として纏めました。特にBの「計量士制度の今後の展望」の項では、検討が進められている『計量法見直し』の中での現行計量士制度の見直しや第4回全国計量士大会(H17.2.23 東京)での全国の計量士の皆様方からのご意見・要望及びその時代のニーズや課題に的確に対応できる計量士制度を構築するための具体策について検討を行いました。

平成18年度は、前年度の検討結果を踏まえ、計量士の“資質の維持・向上及び職域拡大のための対応策”について、さらに突っ込んだ検討、調査を深めました。その結果、今、計量士に求められる課題は、@計量士自身が今後あるべき姿勢、行動を明確にするとともに、計量士の資質の維持・向上を図るための研修や資格付与の方法及びモラルの向上や意識付けのための具体的対応策、A計量士の現状の立場、年齢及び業務分野等に応じた研修のあり方、研修内容並びに業務範囲の拡大のための対応策、B計量士制度、計量士資格、計量士業務等に関する社会へのPR方法等について調査検討する必要があるとの結論を得ました。この様に計量士を取り巻く課題は山積みであるが、社会ニーズに的確に応え得る計量士の“資質の維持・向上及び職域拡大”を図るために、まず計量士自身がすべき行動として「計量士の現状の立場、年齢及び業務分野等に応じた研修のあり方、研修内容等」について、本年度の検討課題として調査研究を行いました。

平成19年度は、二年間検討してきた課題の行動実践の年と位置付けて前年度の調査研究結果を基に“計量士の資質及び技術(技能)の維持・向上のための研修教育の講習会”の具体的な実施計画について検討を行いました。そして検討の結論として、「計量士の資質の維持・向上(計量・計測技術を含む)」については、現在、計量士個人の自己啓発などに依存しており、今日の社会ニーズに対応した計量士の資質が確保されているか否かを客観的に保証する制度は存在していない。また、現在、一部地方で行われている研修(講習会)等においても、一方通行的な講義形式であり、受講者の理解度等を検証したものはほとんど見当たらないと言っても過言でない。そのため、能力認定にまで至らず、研修等で得た知識や技術能力及び管理能力等を社会に示す事が出来ず、計量士を計量・計測技術者の専門家として活用を売り込む(PRする)ことが出来ないのが現状です。

そこで、今回実施した講習会では、CPD制度(Continuing Professional Development 継続的専門能力開発=継続教育)を導入して継続的(レベルアップ方式を含む)の研修に技術の向上を図り、社団法人日本計量振興協会が独自に能力認定を行うことにより、計量士自身がその能力を顧客に顕示できる制度を設けることは、計量士にとっても有益、かつ、職域の拡大に繋がるものと思い、今年度は東京・大阪の二会場にて全1日の講習会(リフレッシュ基礎コース)を試行実施いたしました。

今回、新たな試みとして講習終了時に受講者自らが講座の理解度を確認できる『理解度チェックシート(簡単な設問に解答する形式のもの)』による(社)日本計量振興協会独自の能力認定制度(一定の基準をクリアした受講者(ただし、計量士部会員のみ)には、認定証を発行する。)を導入いたしました。

次年度以降は、今回実施した「理解度チェックシート(ご意見等)」及び各地域の計量士会等のご意見を基に、講習会のテキスト内容(ステップアップ研修別等)及び実施方法(開催場所・費用・回数等を含む)等について、随時見直しを検討し、本講習会の更なる充実を図ってまいります。

本講習会を価値ある有意義のものにするために、全国の計量士の皆様方のご理解・ご協力をお願いいたしまして、本委員会の報告といたします。

状況報告2

計量士の将来像

研修委員会委員(神奈川県計量士会) 小野 威

ご存知のように、計量士は経済産業省の登録を受けて得られる資格であり、計量士とは計量管理を職務とする者として定義付けられ、下図にあるような項目等を実施して適正な計量管理を行うことであり計量士=計量管理を職務とする者である。しかし、計量管理を職務とする者=計量士ではなく、計量士の資格がなくても計量管理の知識があれば、誰でも職務とすることは可能である。

経済産業省の登録を受けて得られる国家資格である計量士の資格を必要とされる所、計量士の資格がなければ出来ない事は、下図に示したように適正計量管理事業所の計量士(適正計量管理事業所の指定を受ける条件)と計量証明事業における計量証明に使用する計量器の検査業務(計量士の代検制度)のみである。

最近は計量士の資格を必要としている適正計量管理事業所、計量器の検査業務は減少傾向にあり、その結果、計量士の資格が必要とされる職域は年々減少してきている。

このような傾向から計量士の将来は、非常にさびしい状況になるのではないでしょうか? 適正計量管理事業所のメリットを拡大し、適正計量管理事業所を増やしていく方法も一つかもしれませんが、これは、計量士の職域の拡大ではなく現状の職域の範囲の拡大です。計量士の将来を考える場合、計量士の現状に甘んじているのではなく、計量士自身の意識の改革が必要ではないでしょうか。また、計量業界内部だけではなく、一般社会の社会的認知度を高めていく努力が計量士自身に必要であり、下図に示すような各方面との関係の構築、職域の拡大を図るように計量士自身が将来像を作らなければならないと思いますが、皆様はいかがお考えでしょうか?

 

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