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島津製作所天びん90周年特別企画

島津天びんモノ語り

ユニブロック開発秘話

佐藤毅氏

(株)島津製作所天びんビジネスユニットマネージャー

日本計量新報 2008年11月30日 (2751号)2-3面掲載

〜ユニブロック開発秘話

高価な薬品や半導体などの計量に使われる島津の精密天びん。その心臓部といえるのが、アルミ一体型の新世代質量センサ"ユニブロック"だ。微量な変化を感知する精密天びんの世界で、島津がこだわり続けてきたユニブロックのルーツはどこにあるのか。現在の天びん開発責任者である佐藤課長にお話を伺った。

より高精度な天びんを求めて

佐藤毅 ユニブロックの開発者が入社した当時、天びんの世界では「ナイフエッヂ式直示天びん」が主流となっていた。レバーの中央をナイフのような支点で支える、もっとも原始的な機構だが、その精度には限界があり、上皿式の精密天びんには適さなかった。新たに弾性支点を用いた上皿式直示天びんの研究が試みられてはいたものの、レバーが歪曲した状態で計量するという構造上十分な精度が得られず、実用化には至らなかった。
 そこで島津が注目したのが、「電磁平衡式(ゼロメソッド)」と呼ばれる手法である。対象の重みで傾いたレバーを電磁力によって平衡な状態に戻し、そのとき必要とした電気エネルギーを計測するというもので、目盛式とは比較にならないほど正確な数字を叩き出せる。これを弾性支点と組み合わせれば精密な上皿式天びんができ、レバー比を上げることでひょう量の大きい天びんの製作も可能になると考えた。結果、「6分力天びん」で実現に成功し、その後は弾性支点方式の上皿天びんが全盛となっていった。

ユニブロック発想、ひとつの出会い


ユニブロックとは だが、弾性支点方式にも欠点があった。部品の数が多く、組み立てが大変なのである。これを解決する方法はないか、と再び思案の日々がはじまった。まず注目したのは、ロードセルという方式である。荷重による金属のわずかな歪みを検知する方法で、目の粗い計量にしか利用されなかったものだ。このロードセルのしくみを応用して、天びんの電磁平衡式のユニットを材料から削り出した一体物としてつくることができれば、組み立ての大変さからも解放される。しかし、それは夢のアイデアに過ぎないと思っていた。
 そんなある日、何気なく立ち寄った本屋でひとつの雑誌に眼がとまった。「応用機械工学」1987年5月号。普段は馴染みのなかったその雑誌に興味をひかれたのは、表紙に「高速・高機能ワイヤ放電加工」の文字があったからだった。ワイヤ放電加工とは金型製作などに活用される技術で、精密加工はできるものの加工スピードが遅く、天びんのような量産品の加工には向かないものだった。ところが、記事では加工の「高速さ」がアピールされていたのだ。一読して、ひらめきを得た。「これなら天びんのユニット加工に使えるかもしれない」。夢のアイデアが一気に現実味をおびた瞬間だった。

夢の一体型ユニット実現に向けて

ユニブロックとは  もし、質量センサユニットを一塊からの削り出しで製作できれば、機械の自動加工によって24時間運転も可能になる。組み立ての人件費が抑えられ、大幅なコストダウンにつながるだろう。70もあった部品がたった1つになり、体積は10分の1。ネジのゆるみからくる性能の劣化も少なくなる……。さまざまなメリットを抱えて工場長に話を持ちかけたところ、「やってみろ」と快諾を得られた。

 本格的な試作と実験の日々がはじまった。素材はアルミ合金。軽量だが、高価で強度も低いため、どうコストを抑えるか、いかに強度を保つかが課題になった。レバーを薄く加工しなければ精度が出ず、薄くしすぎれば強度不足に陥る。100ミクロンよりも薄く削り、さらに数ミクロン単位での調整をくりかえす。精密さと耐久性を兼ね備えたベストなポイントを探って、要素技術研究は3年以上にも及んだ。

 最小表示1mgの試作品ができあがったとき、ようやく「これならいける」という感触を掴んだ。そして、ついに製品化にこぎつけた。記念すべき初のユニブロック搭載品「EB−Kシリーズ」の誕生である。同時に「ユニブロック」で特許も取得した。
 このとき、安堵感とともに喜びをかみしめあった開発メンバーの中には、偶然にも、ユニブロックと双璧をなす特許である「Windows直結機能」(Excelなどに天びんのデータを直接取り込める)の発案者も含まれていた。

世界一のメーカーも独自の一体型ユニットを採用

 完成の喜びも束の間、加工の外注化という世の中の流れに呑み込まれた。ワイヤ放電加工機の自工導入という目論見が閉ざされたのだ。これを自工に導入していれば、さらなる改善と成熟の道を進み、社内的な注目や評価も得られたはずだが、現実は単なる外注加工の一工程として埋もれてしまい、ユニブロックを採用する機種はそれ以降拡大されることはなかった。

 ところが、ある競合メーカーが一体型ユニット搭載機種を市場に投入したことで、形勢は一気に逆転した。競合とはいえ、天びんでは世界一のシェアを誇るメーカー。彼らも一体型ユニットを採用してきたのだ。この事実から、ようやく社内でもユニブロックにスポットが当たるようになり、その後の主力製品のモデルチェンジでは次々とユニブロックの採用が決まった。そして生まれたのが、現在も上皿天びんのフラッグシップであり続けるUW/UXシリーズである。

主役に躍り出たユニブロック

 UW/UXシリーズを追うようにして登場したAUシリーズも、ユニブロックを搭載した製品だ。このAUシリーズにおいては、最小表示0・01mgの製品化に成功している。この0・01mgという精度をユニブロックで実現できたことは、島津の技術力を証明する事例となった。UW/UXシリーズ、AUシリーズは、ともに国内外で抜群の評価を得て、ユニブロックはまさにその主役に躍り出たのである。
 さらに島津は、ミクロ天びん(0・001mg>の精度)をユニブロックによって達成する予定だ。もちろん精度の追求だけではなく、より使いやすいデザインなどにも工夫をし、また海外展開にも力を入れて、世界シェアのさらなる拡大をめざしている。


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