日本計量新報 2008年5月18日 (2724号)より掲載
私の履歴書 鍋島 綾雄
日東イシダ(株)会長、(社)日本計量振興協会顧問、前(社)宮城県計量協会会長 |
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3 早熟な少年の頃
小学校5年生になったある朝の朝礼のとき、演台の上に立った校長先生が「今度秩父宮様がイギリスに行かれることになったが何のために行かれるのか知っていますか」と聞かれた。
約600名の生徒が誰も答えられなかったので、私は思い切って手を挙げて、「ジョージ6世陛下の戴冠式です」と答えて褒められた。
昭和10年頃は勿論テレビはない、ラジオも一般家庭にはなかったし、新聞を取っている家庭は珍しかった。秩父宮様がイギリスへ行かれるというようなことが子供たちの耳に届く機会もないし、関心も少ない時代であった。この朝礼で私は三木校長先生に目をかけられるようになった。
私が何故答えられたのか、それはおそらく雑誌を読み漁っていたからだろうと思われる。
ジョージ6世は現エリザベス女王の父君である。兄のヘンリー8世がアメリカ人のシンプソン夫人と恋に落ち結婚する為に王位を投げ出した。そこで弟のジョージ6世が王位を継ぐことになったもので世紀の恋と世界中の話題になった。
その頃の私は大人の読む本を良いとか悪いとかの見境なく片っ端から読んでいた。戦前農家で広く読まれていた「家の光」という本は勿論、「キング」「婦人クラブ」等の恋愛小説を、子供の癖に胸を躍らせながら読んだものだった。キング等に連載されていた「呼子鳥」とか「新妻鏡」等の恋愛小説を小学校5,6年生が熱心に読んでいたのだから、私は大変早熟でおませな子供だった。そんな中で秩父宮様のイギリス行きのことを何かの本で読んで知っていたのだろう。
大人の本を片っ端から読んだことによるもうひとつの余得は字を覚えたことであり、国語が得意の学課になったことだった。
(つづく)
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