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日本計量新報 2012年1月29日 (2902号)

質量にまつわる二つの大きな出来事

 人は月を見ると単純に美しいと思う。南アルプスの山の端から昇る満月も、京都タワーの横に浮かぶ十六夜の月も美しい。
 月が空に浮かんでいるのは、地球と引き合っているからであると想像する科学知識豊かな人もいる。ニュートンの万有引力を思えば、大きな月が京都タワーの横に浮かんでいるのは理の当然と納得する。月と地球との引き合いとそのバランスをとっているのは月と地球の質量である。
 質量とは、物体そのものを構成する物質の量である。地球や宇宙の如何なる空間であっても、物質の量は変わらない。
 質量と同じような意味で使われがちな重量は、物と物の間に働く万有引力(特に、地球〔または他の天体〕と物体との間に生じる)で生じる重力の大きさである。重力は力なので、質量×重力加速度が、その大きさである。よって地球上と宇宙空間では、同じ物体でも異なる重量となる。

 今、質量に関係する二つの大きな出来事が進行している。
 一つは、国際度量衡委員会が2011年10月21日の会議において、キログラムの定義変更の検討を進めることを決議したことである。
 現在、質量を除く全てのSI基本単位の定義が物理量によって現代的に置き換えられている中、質量の単位の定義だけは「国際キログラム原器の質量に等しい」とされている。
 国際キログラム原器は、直径、高さとも約39mmの円柱形状で、白金90%、イリジウム10%の合金でできている。人工物を基準としているため、科学的な再現性がない。そのため物理的な量として質量を定義し、それを実際に運用できることが世界的に望まれていた。
 これに応えるため、質量の基準となる単位、キログラムを定義する方法として、シリコン球が示すアボガドロ定数からキログラムを定義する方法、プランク定数を利用する方法、電気秤量法など電気量をつうじて求める方法、の3つが候補に挙がっている。上記3つは考え方によっては重複する部分があるので2つという言い方もある。 物ではなく方法によって質量の基準を定めることの確実性が技術的かつ科学的に検証される。国際度量衡局が進めているのは質量の基準となるキログラムの定義の変更であり、質量の定義の変更ではない。

 もう一つの質量に関係する出来事は、現代物理学の大きな謎の一つ「ものに質量があるのはなぜか」の回答が見つかるかも知れない研究成果が発表されたことである。
 質量の起源については、1964年に英国の物理学者ピーター・ヒッグスが、ヒッグス粒子の存在による理論を示している。
 その理論とは、「宇宙誕生時の大爆発『ビッグバン』直後は、すべての素粒子に質量がなく、光速で自由に飛び回っていた。しかし、宇宙が冷えて『相転移』という現象が起き、素粒子の中でヒッグス粒子だけが真空に凝縮し、飛び回っていた素粒子の周りに結露のようにまとわりついた。その結果、素粒子は水の中を泳ぐように動きにくくなった。この『動きにくさ(動かしにくさ)』が質量だ」というものだ。

 2011年12月13日、欧州合同原子核研究機関(CERN)の2つの国際研究グループが、2011年11月に実験の中間結果として、ヒッグス粒子が存在する兆候が見つかった可能性があると発表。スイス・フランス国境にあるCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使い、ほぼ光速まで加速した陽子同士を2009年から衝突させて崩壊の様子を調べてきていた。
 観測は、東京大学や高エネルギー加速器研究機構など国内15機関が参加する日米欧の「アトラス」と、欧米中心の「CMS」の2チームが別々に行っている。いずれも水素原子130個ほどの質量の領域で形跡をつかみ、「発見」に近づく結果が得られた。素粒子物理の基準では存在する確率が99・9999%以上で「発見」と認定する。アトラスチームは98・9%、CMSチームは97・1%であった。データを増やせば「発見」となる可能性が高まった。今後、さらに実験を繰り返してデータを蓄積し、両グループの結果をすり合わせて行くことになる。ノーベル賞級の大発見につながるだけに、実験は慎重に進められている。
 どちらも人類の長年の夢の実現に向けて、検証が続けられることになる。

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