|計量計測データバンク|野鳥歳時記|

オオマシコ

冬木立 バサリと降りる オオマシコ   虚心

オオマシコ

 久しぶりに自分だけで使える時間を確保してドライブに出たのは冬の野鳥に会うことが目的の一つでもあった。鳥に会えるところに行けないならそれは次回の楽しみにしようとは思う。しかし、いい場所に来てしまった。大晦日のドライブは私の年中行事になっており、信州の川上村と甲州の増富村の境界にある信州峠に来ていたのである。白い世界の信州側ではスタッドレスタイヤを左右に揺すっての登坂であった。甲州側は南斜面であるから雪は少ない。もう少し下れば瑞牆山と金峰山が見られるはずだ。瑞牆山の鋭い岩峰には雪が着いているだろう。金峰山のなだらかな斜面は雪で覆われており、この寄り添った二つの名山が冬姿で歓迎してくれる。
 雪道から除雪の済んだドライ路面の道路に出たら気が軽くなった。昼を回ったばかりだから後はこの山塊の林の中で遊んで帰ればいい。通る車は希である。ハイカーも居ない。風がなく冬木立は静かだ。鳥の声を聞きたい。鳥の姿が見たい。こんな冬の日に山に遊びに来た私と戯れてくれる野鳥はいるのだろうか。
 乗ってきた車はルーフが電動で開く軽自動車だ。ルーフを開けるためのロックレバーを解除して、スイッチを入れるとギューンと動き始めやがてルーフのすべてがリアゲートに収納される。座席に着いて天空を仰ぐと青い空が見える。嬉しくなってきた。ダウンジャケットを着込んで帽子をかぶる。帽子の耳覆いは開けておき車外の音に耳を澄ますことにする。車はギアを3速に入れてエンジンブレーキをかけての運転である。座席のヒーターのスイッチはオンにしているので腰から背中にかけては暖かい。エアコンのダクトをひざに向けて暖房を聞かせる。この音は気にならない。タイヤノイズがこれより大きいからだろう。
 「もうこの世界は俺一人のものだ」と決める。少し走っては路肩に止めて小鳥を待つ。小鳥が活発に動く時間帯ではない。しかしカラの仲間はありがたいもので、コガラとヒガラが冬木立を集団で渡っていった。そしてヒヨドリが姿を見せた。しばらくするとバサリという感じで地上に降りてきた鳥があった。オオマシコである。メスであった。このメスと集団で行動している仲間がいるのではとしばらく待ってみた。オスのマシコ紅とでも言いたいあの腹部の美しい赤を見たいのである。しかしオスも集団も姿を見せないうちにオオマシコのメスは林に姿を消した。
 オオマシコのメスの腹部の赤はオスに比べようもない。オオマシコとベニマシコは似たような姿をしている。オオマシコの方がずんぐりしている。ベニマシコは尾が長いので、本に書かれている体長はオオマシコ17cm、ベニマシコ15cmとある。体重の比ではオオマシコ28g、ベニマシコ17・5gである。パッと見た目の大きさの違いは明らかである。マシコの名の付く野鳥にはほかにハギマシコがある。ハギマシコは朱が混じるものの地味な体色である。すべてスズメ目アトリ科。
 シベリア東部およびユーラシア大陸の北東部で繁殖するオオマシコは冬になると南に移動し中国、朝鮮半島、日本に移動する。日本に冬鳥としてやってきたオオマシコは北から順に分布し、九州および四国では希に見られる程度である。この日の前の週に八ヶ岳の山中でオオマシコを目にしている。雪が降った翌日のことで、このときもバサリと路上にオオマシコは落ちてきた。オオマシコは大きな集団で観測されることはない。1羽から数羽でいることが多い。オオマシコは大猿子の字が当てられており、猿の赤ら顔がオオマシコの腹部の朱に似ているということであろう。
 晴れた冬の雪原をスキーを履いて散策しながら野鳥の姿を探し声を追うことを楽しみにして、増富ラジウム鉱泉へと向かうことにした。

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