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ウグイス

鶯の 初鳴き聞いて 春が来る  虚心

 

 三月十五日の日曜日の朝、風呂に浸かっていると「ホーホケキョ」とウグイスの声。一九九八年の初鳴きでした。といっても私は木、金、土と家を空けていたのでこの三日間のことは知りません。

 この日ウグイスは「ホーホケキョ」と明瞭に五回ほど鳴いて静まりました。翌朝は朝五時四十五分に家を出て、水曜日まで帰りませんからウグイスのことは分かりません。

 ウグイスの初鳴きの日は山梨県の渓流が解禁になる日でした。所用があって家を空けられませんでした。出かければ三十センチの岩魚は間違いなし、山女魚も三十センチを超えるものが釣れる場所があるので、雑事が恨まれます。
 ウグイスには二つの大きな思い出があります。

 一つは鮎の解禁日の六月一日のことです。茨城県の御前山町を流れる那珂川でのこと。腰近くまで立ち込んでの大河の釣りでした。岸の向こうの小山で一日中ウグイスが鳴いていました。親しくなった釣り人が「この長閑(のどか)さがいいんですよ」と話していました。もう山は緑濃いものの、真夏に少し見える河原のやつれがないのが六月の解禁日です。

 もう一つの思い出は真夏の上高地の散策路で鳴くウグイスのことです。

 このウグイスは人通りの小枝に姿を丸出しにして「ホーホケキョ」と踏ん張っていました。手を伸ばせが捕まえられるほどの所です。づうーっと鳴いていました。

 上高地の小川の流れには岩魚がいっぱい泳いでいます。捕って食われないと知ると鳥も魚も人を恐れなくなるのです。

 東京近郷のウグイスの初鳴きがいつ頃であるか私は知りません。東京近郷という抽象的な表現では人を惑わしますから、私の住まいの在処(ありか)を述べます。神奈川県津久井郡相模湖町若柳六四一−六です。JR中央線で八王子駅、西八王子駅、高尾駅につづく相模湖駅が最寄り駅です。住まいは東京の野鳥の宝庫である高尾山の山稜が張り出した所にありますから、裏山は高尾山ということになります。住まいの向こうの林のさきは湖の末端です。ウグイスが好む藪(やぶ)があります。

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