No.08 黒部ダムと水力発電の原理
水力発電と、火力発電・原子力発電
 
 

  写真は黒部ダムの放水路にできた虹。このダムから取水している黒部川第四発電所(黒四発電所)の発電設備は地下にあって、無人運転されている。冬季の通行などの都合からだ。最大出力33万5000kWで水力発電設備としては日本第4位。黒部ダムの水を右岸(大町側)の水路から引いて、水の落差によって発電機を回す。写真で、勢いよく堤体から吐き出されている水は、安全のために放出されているもので、直接発電に利用されているわけではない。

 水力発電は、高いところから低いところに落ちる高速・高圧の水の流れを利用して、水車の形をした発電機を回すことによって電気をつくりだす。多くの水力発電設備では夜間の電力需要が少ないときに「余剰」の電力を使って、発電機を逆回転させて発電所の上部の貯水池に水を揚げる。発電用のパイプを使う方式は、水圧に逆うために揚水効率が非常に悪いが仕方がない。

  このように水の位置エネルギーを使用して、電気を発生させる仕組みが水力発電である。

 火力発電は石油や石炭の燃焼力(熱エネルギー)を利用する。原子力発電はウランなどが核分裂するときに発生する熱エネルギーを利用する。この熱エネルギーを利用して水を水蒸気にし、その水蒸気によって蒸気タービン(羽根車)を回し、発電機を回転させて電気を作る。

 反対に、コイルに電気を流すとローターが回る。ローターが回ると電気が発生する。これが電気モーターである。上部の貯水池に水を送り出す揚水式発電の場合、夜間の「余剰電力」を用いて発電機を電気モーターとして機能させている。水力や火力や原子力発電の仕組みである。火力発電も原子力発電も、熱エネルギーにより水が沸騰し、水蒸気になるのを利用して発電する。ここでは水も水蒸気もエネルギーの媒介物である。発電の仕組みにおいて、同じ水であっても高低差を利用するためにダムが蓄えた水と、水蒸気に転換して利用する水では基本的な役割がちがう。

  ダムと発電設備の見学のおりに、こうしたことを説明員と話していたら、私の話が厳密ではないと、道連れの男に急に大声で叱責された。博学を自認するその人にとっては、私の言葉はいい加減で曖昧なものだったのだろう。小猿をいじめたと母猿に威嚇された上高地の散策路での出来事と、発電における理解の不正確さを指弾されたことの二つは、今年の夏、私の身に起きた大きな災いであった。