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横田 俊英       

紀州犬の子犬「千春」の大冒険

紀州犬の子犬は千春と名付けられました

 6月7日、晴天の夏日になりました。紀州犬小春の子は「千春」と名付けられました。千春はこの日生後65日です。昨日、飼い主が思い立って首輪を付けたところ嫌がらないので、調子に乗って家の前を50mほど散歩したのです。
 今日の晴天で飼い主は機嫌が良くなって生後65日の紀州犬子犬「千春」の散歩の訓練をすることになりました。どこまで歩いてくれるか千春の様子を見ながらの散歩です。
 母犬と一緒の犬舎で過ごした千春はこの日も元気です。産まれた時には210gだった体重がこの日には4,300gになっておりました。10日前の5月28には3,300gでした。10日間で1kgの体重増加です。この10日間の間に千春は飼い主の隙を盗んで玄関から道路に飛び出し向こうの畑を飛び回り白い体を真っ黒にするのでした。

出来てしまえば何ということはないが

 子犬が順調に散歩が出来るようになることは簡単なようで難しいことなのです。子犬の性格が臆病で、警戒心が強いと首輪を付けることも嫌がりますし、人を怖がるので散歩どころでないのです。私がある繁殖者からシツケのためにあずかった子犬は徹底的に人を拒絶する犬でした。そのような子犬でも散歩ができないと飼育していけませんから、だましだまし散歩の訓練をするのですが、何とか歩けるようになるのは生後8ヶ月、12カ月ということもあるのです。だから子犬が飼い主と一緒に散歩ができるようになるということは非常に大きな出来事なのです。これが上手くいかないとそれこそ大変です。出来てしまえば何ということはないのですが、出来なければ大変なことになります。ですから私は昨日は無難に初歩きをしてくれた千春が、今日も同じように歩いてくれるかどうか、期待と不安でたまりません。

子犬は走る車と道路で初めて遭遇

 母犬といた犬舎から千春は出されて首輪の金具にリードの止め金を付けられました。ピョンピョンと元気よく歩き出した子犬の小春は何事もないように玄関の階段を下って道路に出るのでした。しめしめ千春は上手く歩いてくれたと私は内心ホッとしておりました。歩くのが嫌な子犬のことが思い出されて重圧となっていたからです。背中の上でくるりと巻いた尾をビョンピョンとリズミカルに跳ね上げて千春は足早に歩き、そして走ります。私の右に行ったり、左に行ったりするので、そのたびに私はリードを右手と左手に持ち替えることになります。でも嬉しいことです。散歩し始めの子犬が人の左手を歩くということはなかなかないことだからです。調子よく歩き始めた子犬の最初の難関は家から100mほど先にある溝の上に架けられた鉄の格子蓋です。ほとんどの子犬は最初のうちこの格子蓋を渡るのを躊躇します。リードを強く引くとそれに促されて渋々渡る子犬が多いのですが、どうしても渡り切れずにだっこされる子犬がおります。千春はどうでしょうか。格子蓋の前で一瞬歩行を鈍らせましたが、ためらいなどなかったように渡ってしまいました。続けて3カ所ある格子蓋を難なく渡った千春が丘の上の畑に向かって行きますと、自動車が後ろからやってきました。子犬はこの自動車が通り過ぎるのを振り向いて見つめ、通り過ぎるまで目で追っておりました。千春は走る車と道路での遭遇は初めてでした。

千春の恐怖心をそのままにしておいてはならない

 さらに歩を進めて周囲が一望できる丘の頂点に達すると民家の奥から犬の吠え声がしました。かなり離れているのですが、千春は尾を下げて後ずさりし、回れ右して元来た方角に引き返すのです。飼い主の私はしゃがんで千春をなでながら「大丈夫だよ」と声を出して言い聞かせました。千春はそれに励まされて下げていた尻尾を背中の上に持ち上げるのでした。啼いている犬の方を注視しながら千春は恐る恐るではありますがそこを通過することができました。千春にはこの先に最大の難関が控えております。大きな通りに面した家にオスとメスのゴールデンリトリバーが飼われており、この2頭の犬が前の道を散歩する犬に向かって必ず大きな太い声で吠え立てるからです。千春はこの難関に対してどのような対応をするのせしょうか、不安が募ります。案の定、その家に近づくと大きなワンワンという声が響き出しました。子犬の千春は先ほどと同じように尻尾を下げてしまうのです。そして同じようにいま来た方角に引き返そうとするのです。吠えている犬の1頭は道路のそばまで延びるリードでつながれています。襲いかかる仕草をするその犬のそばを通過するのは、初めての経験をする子犬の千春には負担が大き過ぎます。そのように判断した私は、千春を促して道の向こうに渡ってからここを通過しました。その時も千春の尻尾は下がっておりました。千春の恐怖心をそのままにしておいてはならないと考えた私は、ゴールデンリトリバーがつながれている家の前を行ったり戻ったりしてあわせて3度通過しました。3度目には小春は尻尾を下げずに通過することができました。

自動車交通社会に馴染ませる

 吠え立てる犬の前を何とか通過した千春には後ろから来て走り去る自動車は怖い存在です。後ろから来てスピードを上げて通過する自動車にはビクリと反応します。前方からくる車ですと早くからそれに視線を向けて走り去るのを目で追っています。散歩慣れした犬の場合には自動車のことなどほとんど気にしません。道路に出て初めて自動車と遭遇する子犬にはそれは怖い存在なのです。
 私の住む町は相模原市と合併することで調印を済ましているのですが、その手続きが町民意志を無視したものだということで議会解散の署名が集まり、解散かどうかの再投票が近く行われるおです。このため合併賛成派と反対派とで支持拡大の大行動が展開されており、宣伝カーが一日中拡声器を鳴らして走り回っております。千春は大きな犬の太い響く声の前を何とか通過したのですが、今度は千春の背後でいきなり合併反対派の宣伝カーの拡声器が大音響を発したのです。まさにガーということで、いきなり大きな音が浴びせられました。すると千春は驚いて前方に1mも飛び退いたのです。飼い主の私も千春と同様「あー、ビックリした」です。

紀州犬の子犬「千春」の大冒険

 紀州犬の生後65日の子犬の千春の初の冒険です。気持ちよく晴れ渡った6月の空にはヒバリが高く舞い上がってピチビチとさえずります。路上の電線ではヒヨドリがピーチ・ピーチのどかな声を出します。道ばたにはタンポポが白い綿毛になっており、好奇心旺盛な千春はその綿毛に顔を突っ込むのです。道路のアスファルトの隙間からナデシコが茎を伸ばしピンクの花を咲かせています。ウサギ菊の白い花も見事ですし、道ばたにはホタルブクロが薄桃色の花を垂らしております。小オニヤンマは木陰の路上をスイスイと行き来しますし、モンシロチョウやモンキチョウがブドウ畑の上空に2つ3つ連なって舞い上がります。
 背丈が15cmほどしかない生後65日の紀州犬のメスの子犬の千春には飼い主の私も道路の端の雑草も何もかもが大きなものです。みな見上げるものばかりです。梅雨に入る直前の6月の夏日の晴れた日はとても気持ちが良いものです。飼い主といきなり1kmの冒険に出た子犬の千春は他所の犬の吠え声や自動車と拡声器の音に驚かされました、元気に家に戻りました。
 走り止まり、また走り、ピョコンピョコンと跳ね回る元気溌剌の紀州犬の子犬の冒険に付き合った私は、人の心と体が元気で空が晴れているなか、犬に付き合っての散歩、あるいはまた犬を連れての散歩は何と贅沢な一時であろうか、と思うのでした。

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