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図書紹介
メートル法と日本の近代化
田中館愛橘と原敬が描いた未来
吉田春雄著、現代書館

図書紹介『メートル法と日本の近代化 田中館愛橘と原敬が描いた未来』吉田春雄著、現代書館

メートル法と日本の近代化 本書は、盛岡藩出身の物理学者・田中舘愛橘の生涯を、日本の近代化を推し進めるために、産業や社会生活の基礎となる度量衡の単位をメートル法に統一する活動を縦軸に、盟友である原敬との友情と助け合いを横軸に織りなして描いた物語。

 尺貫法やヤード・ポンド法などさまざまな単位系が用いられていた明治時代に、田中館愛橘はメートル法統一に力を尽くした。

 日露戦争時、陸軍がメートル法を用い、海軍がヤード・ポンド法を使うという度量衡の単位の混在が弾薬不足を招いていた。

 地球物理学を学ぶ過程で測地点を表す単位系としてメートル法を学び、その合理性と普遍性を理解していた田中舘愛橘は、日本の近代化のためには単位の統一の必要性を痛感し、陸海軍、そして伝統建築を担う宮大工の説得に乗り出した。

 原敬の助力も得て、遂に1921年(大正10年)4月11日に、度量衡の単位をメートル法に一本化する改正法(大正10年4月11日法律第71号 度量衡法中改正法律)の公布にこぎ着けた。

 同郷、同窓の原敬との友情と共助を横軸にすえ、また資料と資料をつなぎ、行間を埋める描写としてドキュメンタリー小説という手法を採用したことにより、まるで3D映像を見るように、田中館愛橘という人物を多面的に浮かび上がらせている。

 著者は「度量衡制度というものは一国の社会的基盤(インフラ)ですから、その国のおかれた歴史的・社会的な説明なしには語り尽くせない」という考えからドキュメンタリー小説という形式を採用したと述べている。

 また「戊辰戦争後の逆境にあっても日本の未来を描き続けた男たちの姿を述べたかった」という。その意図は果たされたといえる。

 著者の吉田春雄氏は、1944年、岩手県紫波郡見前村(現在は盛岡市に併合)生まれ。盛岡一高を経て北海道大学工学部応用物理学科卒業。1968年、タケダ理研工業(現在のアドバンテスト)入社。1993年、北海道大学より博士(工学)授与。産業技術総合研究所の総括研究員等も歴任した。

図書紹介『メートル法と日本の近代化 田中館愛橘と原敬が描いた未来』吉田春雄著、現代書館

【著者】吉田春雄
【出版社】現代書館
【発行】2019年9月20日
【判型】四六判上製、216ページ
【定価】1800円+税
【ISBN】978-4-7684-5863-1
【目次】
まえがき
第1章:回想=▽パリにて
第2章:青雲の志―藩校から大学へ=▽藩校作人館▽恩師山川健次郎との出会い▽恩師メンデンホールとユーイング▽父親稲蔵の死
第3章:パリでの再開=▽パリ公使館にて▽メートル法とは▽大日本帝国憲法策定の動き
第4章:発展途上の日本=▽東京帝国大学教授と外務次官▽大日本帝国憲法の要▽尺貫法を主たる単位系とする度量衡法の制定▽日清戦争
第5章:飛翔―大いなる転身=▽敬、外務次官から政治家へ▽濃尾大地震と地磁気測量▽緯度観測所▽ロシアの南下政策に対抗する日英同盟締結▽伝統建築・工芸の度量衡調査 明治35年
第6章:明治の試練―日露戦争の辛勝=▽敬の再婚▽日露戦争を振り返って▽アメリカの台頭と原の懸念▽万国度量衡会議常置委員▽陸海軍の度量衡体系動向調査▽陸軍 明治38年▽海軍 明治38年▽伝統建築 明治40年
第7章:転換期―欧州大戦(世界大戦)の衝撃=▽愛橘、帝国大学教授を辞職▽海外との学術交流の道へ▽原内閣の誕生▽機械化した欧州大戦(世界大戦)▽四面楚歌▽海軍の度量衡調査 大正7年
第8章:ついに度量衡法改正=▽日本度量衡協会機関誌「度量衡」の論説▽度量衡及工業品規格統一調査会の設置▽改正の審議▽度量衡法中改正法律案特別委員会▽二人だけの祝宴
第9章:それから=▽暗殺▽いくつかの暗殺説▽哀悼▽帰りなん故郷へ
付録:▽参考資料▽田中舘愛橘、原敬の年表
あとがき
 

図書紹介『メートル法と日本の近代化 田中館愛橘と原敬が描いた未来』吉田春雄著、現代書館

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