資料◇2005年度(平成17年度)第1回計量行政審議会配付資料(2)
7月26日開催、経済産業省本館17階第1共用会議室
新しい計量行政の方向について
I はじめに
1.計量、すなわち「計る」ことは、ほとんどの生活、産業活動、技術的規制行政等のなかで、日常的に行われており、その品質、信用、信頼を支えるものです。これらを大胆に整理すれば、以下のとおり。
(1)公正な取引の確保
商店での買い物、電気・ガス・水道などの代金支払いなどが、公正に行われるためには、適切な「計量器」や適切な「計り方」の確保が重要。
(2)安全・安心の確保
血液検査、水質検査、大気検査、土壌検査など全てにおいて、正確な計測は、市民の安全・安心の大前提。
(3)産業競争力強化の促進
正確な計測・計量は、品質確保による取引先の信用確保、技術力の改善の大前提。計れないものは、造れないし、売れない。技術の高度化が加速化し、ミクロやナノの精度が求められるようになりつつある今日、正確に計る能力は地域経済、特に製造業にとって重要な要素。
2.適切に計量するためには、以下に述べるように、適切な「計量器」、適切な「計り方」、適切な「ものさし(計量標準、標準物質)」が必要。なお、これらが揃っても、計る人(通常事業者)が、私利から、意図的に悪事を働けば、適正な計量と公正な取引・証明の確保は不可能。
(1)機器(計量・計測器)
計量法では、特定の計量器(18種類)の型式承認、検定等を実施。その他、JIS(日本工業規格)、JISマーク制度を活用する計量器も多数(長さ計等)。
(2)計り方
「計り方」は、法律(及び関係法令)において、決められている場合が存在。JISに規定された方法を法令に引用している例も多く存在。
ISO(国際標準化機構)に、計り方の世界標準が多数存在。特にISO/IEC17025(試験所及び校正機関の能力に関する規格)は有名な標準の一つ。これは、試験機関等が満たすべき要件を規定した規格。これを満たす機関の計測結果は信頼できると認識されている。また、血液検査(臨床検査)の規格など分野ごとの国際規格も次々と開発されている。
計り方が「正しい」ことをどのように確認するのかも重要。計測主体の自己適合宣言に任されるケースもあれば、監督官庁が審査するケースあるいは民間等の第三者認証に任されるケースもある。
計る人の育成も重要。認証する審査官の能力確保も同様に重要。
(3)正しい「ものさし(計量標準、標準物質)」
長さや重さのような物理的な計測を行うときに、計量計測器の目盛り調整を行うときに基準となるものが計量標準。
一方、濃度のような化学的な計測をするときに、計測器の調整を行うときに基準となる物質が標準物質(以下、計量標準、標準物質を合わせて「計量標準等」と称する)。
いずれも、同じ「ものさし」を用いている計測結果は、比較することに意味があるが、違う「ものさし」で調整した計量器による計測結果には比較の意味がない。
計量法の規定に基づき、国家計量標準、国家標準物質(以下、国家計量標準、国家標準物質を「国家計量標準等」と称する)というものを、(独)産業技術総合研究所計量標準総合センター(National Metrology Institute of Japan:以下、「NMIJ」と略する)が開発・供給することになっている。ここが供給したものは、国際的な協定によって、他の主要国でも適切な「ものさし」として受け入れるためのルールが整備されている。
II 計量法の歴史
1.我が国の計量制度は、歴史的には、公正な取引(実際は徴税が中心)を主要目的としてきており、かつハードウェア(升、分銅など)の規制が主体であった。昭和26(1951)年に制定された計量法は、日本の技術水準が不十分であることを踏まえ、当初は約50機種に上る計量器を規制。
2.昭和48(1973)年には、規制対象の計量器に公害対策のため環境計量器を追加。昭和50(1975)年には環境計量を行う事業(環境計量証明事業)を位置付け、計り方の規制の運用を開始。社会問題となったダイオキシンなど計量が困難な極微量物質に対応するため、平成14(2002)年にはより厳しい特定計量証明事業制度(Specified Measurement Laboratory Accreditation Program:以下、「MLAP」と略する)を開始。
3.平成5(1993)年に計量標準・標準物質(国家計量標準等)の供給を開始(「ものさし」について、計量法に位置付け)。具体的には、NMIJが開発供給し、経済産業大臣が国家計量標準として指定(現在までに、計量標準196種類、標準物質196種類)。認定された校正事業者が国家計量標準等により各計量器の校正(目盛りの中心点を調査するとともに、「不確かさ」を示す)を行うサービス(Japan Calibration Service System:以下、「JCSS」と略する)を開始。
4.その他、国の行政の基本方針の変遷に適切に対応し、次のような制度の改正を実施。
(1)戦後の国際化(特に輸出振興)等の必要性から、メートル条約の徹底・遵守を図るため、昭和26年に度量衡法に代わり計量法を制定し、尺貫法からメートル法への移行を推進。
(2)「官から民へ」(民間活力の活用による行政改革)の流れに対応し、平成5年に、一定の品質管理能力を保有する事業所に自主検定を認める指定製造事業者制度の運用を開始。規制対象機器を削減。
(3)「国から地方へ」(地方分権化)の観点から、平成12(2000)年には、国の機関委任事務であった検査、検定、立入調査等の事務の一定部分を地方公共団体の権限に移行(自治事務化)。
III 近年の変化
上記のとおり、計量制度は、「機器」、「方法」、「ものさし」の各要素に関して、制度を発展させるとともに、各時代の要請に適切に対応しつつ、変遷してきた。これにより、今日まで適切に、信頼、安全、安心の基盤として機能してきていると評価できる。
しかしながら、近年は、計量を巡る環境が、以下に列挙するように、多くの点で変化。計量行政は、社会の基盤的制度であるため、一定の安定度も重要な要素であるが、それを考慮しても、過去の実績同様、こうした変化に対応すべき時期に来ていると考えられる。
1.安全・安心に関する国民の関心の高まり
国内外の事件・事故等の影響もあり、国民の安全、安心に対するニーズが高まっている。
2.規制改革に関する政府の積極的取り組みの進展。
基準認証制度は、政府の規制改革の重点項目の一つ。閣議決定(「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16(2004)年3月19日)など)により、自己確認・自主保安化、民間活力の活用、重複検査の排除の方向性が提示されている。
3.行財政改革
国だけではなく、地方公共団体、独立行政法人、公益法人を含めた行財政改革の必要性が増大。こうした中で、平成12年の自治事務化以降、計量行政に投入する人員や予算が削減される地方公共団体が多く発生。計量行政を実施する上での体力格差が地方公共団体間で拡大。
4.技術の進歩
産業技術力の進歩により、計量器(ハードウェア)の信頼性は継続的に向上。特に、デジタル技術の進歩は著しく、計量器においても重要な要素となりつつある。
5.マネジメント・システム規格の普及
安全・安心への関心の高まりもあり、マネジメント・システム規格(正確な計量・計測も重要な要素)(ISO9001等)の活用が普及。それらの第三者認証も定着する傾向。
6.産業技術総合研究所の独立行政法人化
従来は国の一部であった国家計量機関(旧計量研究所)は、平成13(2001)年に独立行政法人化(外部評価を受けながら活動する機関に)。さらに、平成17(2005)年4月からは非公務員型に。
7.公益事業の自由化の進展
公益事業分野の自由化が進展。託送、家庭等からのエネルギー販売等、計量法が想定していない取引形態が出現。
8.計量標準等の供給
平成5年に運用が開始されたJCSSは一定程度普及。他方、日本独自の基準器検査制度の存在、技術規制当局や計測現場への啓発努力の不足などから、普及は不十分な水準で推移。
9.WTO/TBT協定
平成7(1995)年に発効したWTO/TBT協定(Technical Barriers to Trade:貿易の技術的障害に関する協定)により、加盟国は技術基準への適合性評価を行う場合には国際基準を用いることが義務化。薬事法、電気用品安全法、JIS法等も手続きを国際標準に整合化。
10.CIPM/MRA、OIML適合証明書の相互受け入れ
平成17年1月に国家計量標準等の同等性と国家計量標準機関(NMI)の発行する校正証明書の同等性を各国間で相互に承認する「計量標準の国際相互承認協定(CIPM[=国際度量衡委員会]/MRA[=相互承認協定])」が発効。平成18(2006)年1月から、OIML(=国際法定計量機関)加盟国の型式承認機関(NMI等)で計量器の型式承認データの相互受け入れのための「計量器の型式承認試験に関するOIML適合証明書の相互受入に関する取り決め(MAA)」が一部の機種についてスタート。国際的な相互承認の動きが活発化。これにより、経済活動のグローバル化の重要な要素の一つである基準認証(規格に基づく検査・検定等)を相互に受け入れる国際的な環境が大きく前進。
(次号以下につづく) |