損して得取れ
−−新製品発表、イベントなども立て続けに開催され、社業が非常に活発であるとの印象を受けています。
基本的な方向性は今までと変わっていません。ただ、提供のしかたといいますか、パッケージの部分を工夫するようにしています。
社内でもこれまでの成功体験に依存して、あまりにも売上に固執し、景気の状況などにも左右され、かえって萎縮する傾向が出ていました。これではいけないということで、「損して得取れ」ではないですが、業務を長い目で見ていく必要があると感じていました。
そこで、『日本計量新報』でも報道していただきましたが、著名なメディアクリエーターの佐藤雅彦さんがディレクションした「“これも自分と認めざるをえない”展」(2010年7月16日(金)〜11月3日(水)に、自動身長計付き体重計などで協力させていただくようなこともやっています。
これなども、短期的な単純コスト計算では収支が合わないわけですが、世間から注目されている展覧会への協力による宣伝効果やブランド効果などを考えると、「損して得取れ」の一つではないかと思っています。活発であるとの印象を持っていただいているとすれば、それがうまく回っているということではないでしょうか。
レシピ本がベストセラーに
ベストセラーになりました料理のレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂〜500kcalのまんぷく定食〜』(大和書房、2010年)も同じです。
そもそもはNHKの番組『サラリーマンNEO』の「世界の社食から」というコーナーで、タニタの社員食堂の社食を取り上げていただいたのがきっかけです。これに興味を抱いた複数の出版社からレシピ本出版のお話しがありました。
従来のレシピ本には不満
この種の本は1、2万部も売れればよいという感じなので、単純にみればタニタにとってメリットはあまりありません。
しかし、私は調理師と栄養士の資格を持っていることもあり、これまでのレシピ本には不満がありましたので、それを解消するものなら出してもよいかなという思いはありました。
製品は、お客様の意見や隠れたニーズを反映させて作るものですから、私の中では自然な発想です。率直にその話をしましたところ、大和書房さんがやりましょうと言ってくれたわけです。
余った食材をどう使うか
私がぜひ本の内容として入れたかったのは2点です。
一つは、余った食材をどう使えばよいか示すことです。レシピ本に載っている料理を作るために食材を買いますね。しかし、全部の食材を使い切れるものではありません。必ず余る食材が出てきます。従来のレシピ本では、それをどうすればよいかが書いていないのです。これでは食材にムダが出ることになります。そこで、「使い回しレシピ」というのを入れてもらいました。余った材料の保存のしかたなども書いてあります。
経済状況の急激な好転は望めませんね。そうすると材料費を節約するというのも大きなニーズであると思ったわけです。最初は低カロリー食を作るという目的で買うでしょうが、食材の有効な活用ということは必ず役に立つと思いました。
冷蔵庫にある食材で作るレシピ
もう一つは、今ある食材で何が作れるかというレシピを示すことです。この料理を作りたいということでレシピを見るということはありますが、毎回ではありませんね。多くの場合は、冷蔵庫を開けて、そこに入っている食材で、何を作ろうかと考えます。
そこで、巻末に「食材使い回しさくいん」を入れてもらいました。ここを見ていただくと、冷蔵庫を開けて大根があれば、大根を使ったレシピが分かるわけです。逆引き索引ですね。これは読者アンケートでも好評です。
黄金のスケールを提供
当社には、2008年にヘルスメーター発売50周年を記念して製作した「純金製レプリカモデル」がありました。これは話題になりまして、さまざまな媒体で紹介されましたので、費用対効果でいうとすでに元は取れています。営業部門にも、これを宣伝に積極的に使うようにと言っていたのですが、なにせ黄金なので怖がってなかなか使ってもらえませんでした。金庫の中で眠っていたわけです。
レシピ本は、私が最終ゲラの段階で、この二つは絶対入れて欲しいという要求をしたものですから、編集やレシピ作りはかなり大変でした。ですから、本の営業の助けになればと思って、これを大和書房さんに提供したわけです。1000万円くらいの価値があります。
大和書房さんもこれに共感して下さり、きめ細かな営業や、本の広告も積極的にやってくれました。ですから、ベストセラーになったのは、約500kcalという低カロリー食が簡単に作れるレシピという本の内容が、今のニーズにぴったり合っていてよかったことと合わせて、出版社の営業や広告での努力もありました。ベストセラーになってからは、口コミやさまざまな媒体でも取り上げられ、噂が噂を呼ぶ状態で販売に加速度がつきました。
タニタへの認知度が回復
お客様の反応が全然違ってきました。タニタはニコニコ動画もやっています。私がニコニコ動画を始めようと考えた契機が、東京ビッグサイトでの展示会で出会った若い人たちが「タニタ」の名前を知らないことでした。世代が若返るとブランド力が落ちていたのです。それもあって、「タニタ」の認知力を高めるために、ニコニコ動画をやっています。
このレシピ本の大ヒットで「タニタ」への認知度は回復しました。これはすごいです。タニタの業務と関係のないところで有名になったのとは違って、健康関係、体重関連でのヒットですから、この効果は大きいですね。
タニタへの認知度が回復
秋には、レシピ本の第2弾を出す予定にしています。
長期戦略の効果が出てきた
このように私が社長になってからは、短期的な営業戦略はもちろん推し進めているわけですが、それだけではなく、もう少し長期的な視野・戦略でやってきています。それが効果を発揮してきたということでしょう。
『体組成計豆知識』で買い換え需要開拓出てきた
−−アメリカでビジネスをされていた方が、長期的視野を強調されるのは珍しい感じがしますが。
私の名前が千里だからという訳ではありませんが、若い頃から長期的な視野で見るというのは得意でしたね。
『ボクの、私のピッタリ体組成計豆知識』というパンフレットがあります。見れば分かるように、この冊子にはタニタの名前がほとんど出てきません。
私がアメリカ勤務になる前は体組成計ではタニタが寡占状態でしたが、その後シェアが落ちてきました。当社は性能的には絶対の自信を持っています。他社の製品と比べてみればそれが分かります。しかし、それがなかなか知られていません。
そこで、体組成計を買われるお客様にこの『豆知識』を配布しています。他社の製品を買われたお客様にも持っていってもらうようにしています。
他社製品を買われてこのパンフレットを読まれたお客様は、こんなよい機能があるのに、この機能は自分が買ってきた製品にはない、ということに気がつかれるわけです。そうすると、次に買うときにはタニタの製品を選んでいただけます。買い換え需要を掘り起こすわけです。これも長期的視野で考えています。
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