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日本計量新報 2011年12月18日 (2898号)

肝心要なところをはかって全体を理解しよう

 物事を認識するとき、人は五感を使って感じて、自分なりに理解する。一つの事柄も、それを受けとめる人の知識や脳の処理能力などによって、捉え方が変わってくる。
 タイの大河の洪水は、日本企業の工場を稼働不能にして甚大な損失をもたらした。タイという土地に対して、人件費が安い、土地も安いといった認識しか持たずに、平野に工場を建てて、今まで何もなく平穏に工場を運営できたのは運がよかっただけということであるようだ。ニコンのデジタルカメラなどはこの地でほとんどを生産しているから、企業収益に影響し、迅速かつ有効な対応策も見いだすことが難しい状態にある。
 低地の平野が川の氾濫の繰り返しででき上がっていることは、地理学の原理である。物事の都合が良い部分のみをみて全体を推し量ることは、結果として大きな危険を伴う。

 計量計測の技術世界では、「はかりさえすればその部分の実態が分かる」ということが前提になっているかもしれない。しかしながら、ただはかれば良いという訳ではない。測定方法や測定する場所を吟味することが重要である。
 感度の低い放射線量計で、能力以上に細かい値を測定するという事例があった。空調の設定値や測定のための設定値を実際値と勘違いして記録していたという事例は笑えない。自動車の排気ガス濃度を排気管内部で測定するのと後方1メートルのところで測定するのとでは、値が大きく違う。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の影響よりも円高のほうが日本経済に及ぼす影響は大きく、この対策こそ優先事項であるというシュミレーションがある。

 たくさんはかれば物事がよく分かる場合もあるが、一点だけを正確にはかれば物事も本質を理解できる場合もある。計量の重要性を強調するために「はかれはかれ」と人をあおるのも悪くはないが、肝心要なことをはかれと伝えることが大切である。
 「賢くはかれ、あるいははかるな、そして上手に働いてモノやサービスをつくって、余暇という自由を勝ち取ることが望ましい」という哲学のもとに、田口玄一博士は品質工学(Quality Engineering)を提唱した。

 製造工程の設計自体に問題がある場合、そこから生み出される製品に徹底した品質検査をしたり、完成品をはかっても本質的な問題解決にはならない。自社製品の品質をアピールするために「徹底した品質管理」を全面に押し出す企業の商業宣伝は、こうした愚かさをもろに伝えている。
 物事の実態を知るためには、肝心要な部分を見極めてはかることが重要だ。そこを外していくら計測しても、本質は見えず真の理解には結びつくことは少ない。 

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