温度計分野のJCSS校正
未だ少数派
今、標準温度計はどこで、どのように使用されているのか。
標準温度計・基準温度計を製作する(株)東亜計器製作所の横山眞一社長を訪ね、最近の標準温度計事情を聞いた。
一般企業が自社の計量管理室で使用
企業では、自社の計量管理室に標準温度計を所持。これと作業用の温度計を定期的に比較校正することで、社内の温度計全てを管理している。
(株)東亜計器製作所は、この標準温度計を長年生産している。
適正計量管理事業所に指定されている企業・団体の場合は、計量士が基準温度計を持つことができるため、基準温度計を社内の標準温度計として使用していることも多い。
売れ行きは棒状温度計が8割
標準温度計には、二重管式と棒状式の2種類がある。
棒状式は、ガラス管に直接目盛を刻んだもの。衝撃に強く、安価だが、経年とともに目盛が消えるというデメリットがある。
二重管式は、目盛板がガラス管の中に封入されたもの。二重構造のため衝撃に弱く、高価だが、目盛が消える心配はない。
また、棒状式は水銀と目盛との距離が3・1mm程度あるのに対して、二重管式は1mm程度。水銀と目盛との距離が近ければ、目で見て測るときのズレが小さく、正確に測りやすい。
しかし、同社の場合、二重管式と棒状式の売れ行きは2対8くらい。圧倒的に棒状式が多いのは、価格の差に依るところが大きい。
JCSSは少数派
同社では、トレーサビリティを確保するため、標準温度計にJCSS証明書、またはトレーサビリティ体系図とメーカー検査成績書を添付している。
現在、JCSS証明書を希望する企業と、トレーサビリティ体系図及びメーカー検査成績書を希望する企業はおよそ1対9。JCSS証明書は、温度計分野ではまだ少数派のようである。
メーカー検査成績書を希望する企業が多いことは、取りも直さず(株)東亜計器製作所の検査証明書の信頼性の高さを示すものである。
一方、JCSS校正は検査費用が高く、中小企業の多い温度計分野では、なかなか導入しにくいという理由も無視できない。標準温度計1セット全てにJCSS校正を導入した場合、基準温度計に比べ、費用が3〜4倍かかってしまうのが現状だという。
同社にJCSS証明書を依頼した場合、1セットで1カ月ほどかかるのが普通。注文を受けてからJCSS登録事業者に校正を依頼しているが、校正先で、ある程度の本数が溜まらないと試験できない場合もあり、一定の時間を要する。
なお、JCSS登録事業者は、同じ温度分野であっても、不確かさの範囲や費用などに違いがある。校正を依頼するときは、一度見比べてみても良いだろう。
検査成績書の期限は3年
(株)東亜計器製作所が発行する検査成績書の期限は、どのタイプの温度計も一律で3年。
以前は、大切に保管されすぎていたのか、ほとんど使われた形跡のない標準温度計が検査に戻ってくることもあった。使用していないと、水銀のタンク部分に酸化膜ができてしまい、しまい込んでいたことが一目瞭然なのだという。
しかし、最近はちゃんと使用している企業が多いようだと、横山社長は笑う。
せっかくの標準温度計も、定期的に使用しなくては何の意味もない。信頼性のある標準温度計を所持するのはもちろん、社内で校正のシステムを確立することが重要である。
水の三重点セルの製作も
同社では、確かな技術を生かし、標準温度計の他にも様々なものを製作している。
特筆すべきは、水の三重点セルの製作。水の三重点セルとは、温度の基準である「水の三重点」の状態(=固体、液体、気体の三相が共存する熱平衡状態)を保つ、特殊な容器である。三重点セルの材料は、パイレックスガラス。普通の温度計に使用されるガラスの熱膨張計数が85〜86であるのに対し、32・5。
耐熱性に優れているので、理化学製品、耐熱食器、コーヒーメーカーなどに広く使用されているTE−32(パイレックス)ガラスは一般ガラスより組成がよいため、ガラスの成分が溶けて水が変化することがなく、水の三重点のような、繊細な測定に適している。
同社は、1975(昭和50)年、計量研究所の協力により水の三重点セルの開発を開始。
1987(昭和62)年には、2本をフランスに輸出。主要四カ国のセルを比較した結果、高い評価を得た。
現在も、(独)産業技術総合研究所が、丹波純氏を中心に温度の基準における不確かさの軽減を目指しているが(本紙2766号<CODE NUMTYPE=SG NUM=81FC>面参照)、この実験にも同社の三重点セルが使用されている。1992(平成4)年からは、水銀の三重点セルも製作。抵抗温度計でJCSSを取っている会社などに需要があるという。
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