since 7/7/2002
横田 俊英
ミッキーの歯よすべて正常に育てと願う
生後5カ月で上あごの犬歯が生えてきた
黒柴・メスのミッキーの歯の生え替わりは生後4カ月から5カ月過ぎにかけて急激に起こった。下あごの犬歯は乳歯を残したままあごの内側から永久歯が生えてきた。生後5カ月では下あごの犬歯が横に4本並んでいるのである。4本並んだ犬歯のうち外側に残っている乳歯を抜いてやろうとして手を添えて力をいれてみると根が強く張っていてびくともしない。奥歯の乳歯が抜けるときにはかぶせたお皿がはがれるように簡単に取れるのに比べると、犬歯は頑固だ。
上あごの犬歯の永久歯はの発生は下あごの犬歯の発生よりも半月ほど遅れる。まだかまだかと待ちかまえていた上あごの犬歯は、門歯と犬歯の間から生えてきた。上あごの犬歯は生後5カ月になると門歯から奥歯につながる歯のラインに沿ってな生えてきた。縱2列に並んだ上あごの犬歯はしばらくの間4本。下あごとあわせると8本の犬歯が生えている。犬歯が生えてこないということはまずないがそれでも生えてくるまでは心配するのである。
日本犬の歯とその望ましい状態
犬の犬歯は口を閉じたときに上あごと下あごの犬歯が交叉しておさまる。このとき下あごの犬歯が上あごの犬歯の前に出て交差するのが正常。下あごの長さが足りないとこのような交差の仕方ができずに、下あごの犬歯が上あごの犬歯の後ろになってしまう。下あごが極端に短いとこれがもっと後ろになり気の毒な噛み合わせになる。こうしたあごの状態をアンダーショットという。逆に下あごが長すぎて下あごの切歯が上あごの切歯の前に突き出る状態はオーバーショットということになる。日本犬の場合はオーバーショットもアンダーショットも望ましくない。人為的に改良されたブルドックなどはオーバーショットであるのが普通である。
日本犬の歯の噛み合わせは、上あごの切歯が下あごの切歯の前に出ているのが正常な噛み合わせである。下あごの切歯がの何本かが上あごの切歯の前に出ていたり、上下の切歯がハサミのような形状で噛み合わさることなく突き当たった状態なることもあり、これも望ましくない。
歯の数が揃い正常な噛み合わせをしていることを完全歯という。この完全歯でも歯の大きさや色などのことを考慮すると、犬の歯の望ましい歯の在り方というのは求めることが多くなる。日本犬の歯は一般的に歯は大きく強いことが望ましい。日本犬は完全歯になるかそうかで気をもむ
日本犬を育てているとその子犬が完全歯を持つようになるかどうか、気をもむことになる。柴犬はその姿については満足すべき状況に達しているものの歯の状態はそれに対して十分ではない。欠歯の発生率などの点で不満が残る。欠歯がよく発生するのは犬歯のうしろにある2本の小さな歯である。上あご下あごともこの上下4本が揃うかどうかが鍵になる。そのうしろある歯が生えてこないこともよくある。犬歯のうしろにある上下の前臼歯後臼歯がすべて出そろうかどうかも課題である。
また切歯の噛み合わせや乱れについても前臼歯と同じように課題である。アンダーショット、オーバーショットのほか、切端といって上下の歯がつきあわさっている状態になることもある。切端の場合にはつきあわさっている状態にとどまらず、上下の歯が交互に入り乱れて生えていることも多い。これを乱れという。ある人が展覧会に連れてきた2頭の柴犬はが共に完全歯でなかった
山梨県で開かれた日本犬保存会の長野県から展覧会に2頭の柴犬を連れてきた人がいた。日本犬保存会に入会すると会報が届けられるが、その会報の内容のほとんどは展覧会の記事で埋められている。支部からは展覧会開催と出陳の案内が届けられるので、入会した人はたいがい近隣支部主催の展覧会に飼い犬を参加させようと思う。
その人は自分の犬が完全歯であると思って日本犬保存会の山梨支部展に2頭の柴犬を連れて参加した。その人は私の横に車を駐めて出陳前にその飼い犬の世話をしていた。私はある人に頼まれてその人の展覧会での犬の扱い方を一通り説明して、ついでに念のためにと思って歯の状態を点検した。するとその2頭とも展覧会で上位の成績を獲得する条件としての完全歯ではなかった。1頭は欠歯、もう1頭には歯の乱れも
1頭は犬歯のすぐ後ろの歯が生えていなかった。もう1頭は欠歯の上、切歯上下が入り乱れていた。このような状態では犬をリングのなかでどのように扱うかという以前のことになってしまうのが、日本犬保存会の展覧会の規定である。本審査の前の補助審査員にようる事前審査でこの2頭は歯の欠点が指摘され、審査員に報告された。審査員は本審査では完全歯でない犬はランクを一つ下げた成績する。
私は審査前に歯のことをその人に伝えなかった。補助審査員が見逃してくれるかも知れないということに期待をかけた。しかしそれは叶わなかった。昼食時、その人が補助審から指摘されたと欠歯のことを私に伝えてきた。私はやはり、と。長野県から参加したその人は自分では2頭の犬の歯は全部そろい完全なものであると思いこんでいたからショックは大きい。歯は大丈夫だと思っていました(長野県の人)
「そうですか、残念ですね」(私)
「この犬は長野県の有名な人からお墨付きで譲ってもらったんですよ」(長野県の人)
「そうですか。子犬の状態ではよかったのでしょうが、日本犬保存会では展覧会の上位入賞は完全歯であることが条件になっています」(私)
「歯は大丈夫だと思っていました」(長野県の人)
「そうですね。口を開けると歯は沢山あるから1本ぐらい足りなくてもわからないものです。特に犬歯のうしろの歯は少し隙間がある状態で生えているので」(私)
「おかしいな、ちゃんと診たはずなのに」(長野県の人)
「いい格好した犬ですよ」(私)
「長野のあの有名な人に薦められて飼った犬なんです」)(長野の人)
「そうですか」(私)
「欠歯や乱れは柴犬にはどのくらいあるのですか」(長野の人)
「この犬たちのように2頭ともということになるのも珍しいことではありません。しかしその逆もあります。自分が飼っている柴犬は歯が全部そろい、かつ完全歯になるのには随分と気をもむんです。歯が足りなかったことなどのリスクを考えて、子犬の時分にいくら良い犬でも、また賞歴の優れた犬の子孫であっても、完全歯になるまでは期待半分の姿勢でいるのがベテランたちなのです」(私)
「そうですか、私の犬が欠歯だとまったく思いませんでした」(長野の人)
「柴犬はじめ日本犬の欠歯のことについて会報にあまり触れませんから無理もないです」(私)
「欠歯の犬の発生率のことを教えてください」(長野の人)
「そうでしたね、少なくはないという言い方ではどうでしょうか」(私)
「どの位なのですか」(長野の人)
「統計の数字はないでしょうが、ある人は50%といいます。欠歯の犬は少なくても10%はあるはずです」(私)
「ウチのは良い犬だと思って飼っていたのですよ」(長野の人)
「犬は性格がよいのが一番です。姿もいいじゃないですか」(私)
「期待をかけて連れてきたので残念です」(長野の人)会話にあるベテランが口を挟んできた
その時あるベテランが横から口を挟んできた。
「欠歯の犬から良い子犬を生ませて完全な犬をつくっていくのは大変ですよ。いっそのこと取り替えてしまいなさい」(あるベテラン)
「えっ、取り替えるんですか。この犬を誰かに渡して別の犬を飼い始めるのですか」(長野の人)
「そうです。展覧会でよい成績を取ろうとするならそうでないと上手くいきません」(あるベテラン)
「ウチの犬はよい犬だし、可愛いですからそれはできません」(長野の人)
「飼えば可愛いですからそれができないのが人情なんです」(私)
「だけど、完全歯でない犬は展覧会で実際には認めてもらえないのです」(あるベテラン)
「そうなんですよね、だからベテランたちの犬に対する姿勢は展覧会を前提にしておりますから、普通の人の飼い犬への愛着とは別のものになってしまうのです」(私)
「俺は良いとか悪いとか言っているのではないよ。展覧会とはそのような仕組みになっていると言っているだけなのさ」(あるベテラン)
「僕はいいです。この犬たちをこのまま飼いつづけます」(長野の人)
「それが普通の人の答えだと思います。でも展覧会で楽しもうと思うのでしたら完全歯の犬を飼っていなければなりません。もう1頭増やすときにはそのことに十分に留意するといいですよ」(私)
「飼い始めた子犬がまた欠歯だったら大変なことになります。3頭とも欠歯ではね」(長野の人)
「それは運というものですね。成長すれば欠歯かどうか分かりますから、生後7カ月過ぎの完全歯の犬を探すことになります。展覧会を楽しみたい人のためにそうした犬を世話するベテランもいます。」(私)
「そうした犬は幾らぐらいで入手できるのですか」(長野の人)
「良い犬は100万円ぐらいだね。幾らで渡すかはその時次第。でも頼んでおけば案外安く手に入ることが多いもんだよ。10万円ぐらいで譲ってもらえることもあるよ」(あるベテラン)
「参ったなあ。自分の犬が欠歯だったとは。柴犬は恐ろしい」(長野の人)
「そうですよ。展覧会で活躍している人というのは大なり小なりそのような悲哀を味わっているのです」(あるベテラン)
「僕は展覧会はもういいですよ」(長野の人)あるメス犬の飼い主も愛犬の欠歯を知らない
自分の飼い犬の子孫が欲しくなるのは自然な感情である。親しい知人が飼っている柴犬は、非常に有名な繁殖家のところで交配し子犬が誕生した。オス1頭だけ生まれた子犬はすくすくと育ち立派な柴犬に成長した。その子犬は八ヶ岳山麓の別荘地帯で飼われているが、去勢手術を施してしまった。
八ヶ岳山麓の近辺では、レストランなどにオスもメスも避妊手術しようという張り紙がされている。子犬の飼い主はこの張り紙を見たためか早々にオス犬を去勢してしまった。私としては、どのような理念でこのような押しつけまがしいことをするのか腹立たしさを覚えるていたものである。しかし、この子犬に避妊手術(去勢)をしてしまったと聞いて安堵した。その子犬の母犬が欠歯だったからである。
母犬は犬歯のうしろの前臼歯が1本足りない。母犬を繁殖者に見せたらよい犬になったと喜んで写真を撮ったのだが、私は欠歯のことは飼い主にも繁殖者にも伝えていない。この母犬の飼い主も多くの事例のように、口を開けると歯が沢山生えているのを見るだけであり、上あごの犬歯のうしろの歯が1本足りないことに気づいていない。シェパードには欠歯の発生率は非常に少ない訳
シェパードには欠歯の発生率は非常に少ない。ある犬の子孫に欠歯が発生することが判明して以後はその犬の系統の繁殖を止めたためである。
日本犬の場合にはこのような措置はとられてはいない。雑種化した犬たちから現在の柴犬に復元する過程で、欠歯の犬を繁殖に用いなくてならない事情があったようだ。柴犬は欠歯の犬を土台にして復元せざるを得なかった。したがって、シェパードのように欠歯の犬を早い段階で繁殖から除外するという方向をとることができなかった。
日本犬保存会が展覧会の規定で欠歯など完全歯でない犬を展覧会の成績の上位にしないのは、欠歯の犬の発生を防ぐための方法の一つと考えてよい。欠歯の犬は望まないが、欠歯の犬がはある確立で生まれてしまう。欠歯の犬たちを繁殖から実質上排除することで柴犬の欠歯の発生率を下げることができる。欠歯の犬を飼っている人には割り切れないことである。乳歯は28本、永久歯は42本あるのが正常
犬は乳歯から永久歯に代わると歯の数が増える。
乳歯の数は上あご下あごとも同じ数で上限14本ずつで合計28本。切歯が上下ともそれぞれ6本、犬歯が同様に2本、前臼歯が同様に6本ある。
永久歯は総合計が42本。上あごが20本、下あごが22本。下あごの後臼歯が上あごよりも2本多い。切歯は上下ともそれぞれ6本、犬歯は同様に2本、前臼歯は同様に4本、後臼歯は上あごが2本であるのに対して下あごは3本で、合計42本になる。日本犬の永久歯はこの42本である。短くなった口吻に42本の歯を押し込む
犬の原種はオオカミであるということが定説になっている。オオカミは犬よりも大きな歯と長い口吻(こうふん)を持っている。犬の種類にもよるが日本犬はオオカミの口吻よりは短い。短い口吻にオオカミが持っている歯を押し込むためには、歯そのものが小さくしなくてはならない。でなければ数を間引くことになる。間引かずに42本の歯を短くなっている口吻に押し込むことは簡単ではないのだ。だから日本犬以外のトイグループの犬種は日本犬に求めるような完全歯を要求しないことが多い。パグなどは42本の歯を押し込むのが困難になっている。紀州犬などの歯はオオカミに比べるとずっと小さい。柴犬はさらに小さい。口吻の短い 犬種によっては欠歯や切端や噛み合わせの乱れを許容するものもあるが、日本犬の場合には歯の数を含めてオオカミに見られるような歯の状態を良しとしている。短くなった口吻と歯の数ということで、42本の歯を正常な形で押し込むことに難しさがあるが、日本犬はこの困難を克服する繁殖の方向をとっている。
車に乗って食べ物を吐き戻したミッキー
生後5カ月になる黒柴・メスのミッキーは私が家にいるときは庭に放して遊ばせている。ミッキーは庭を行ったり来たりの駆けっこをするし、私が庭に出ると駆け寄ってくる。このミッキーの歯は幸いにして完全歯になるようだ。乳歯と永久歯あわせて合計8本の犬歯が生えたままであるが、臼歯は順調に出てきている。
ミッキーは野犬に噛まれたり、私に足を踏まれたりして、警戒心が強まっていたのも解けて人なつこさを改めて発揮するようになった。ミッキーを車に乗せての外出も経験させようと近くのホームセンターに連れて行った。ここでは犬用のゴトゴト動くカートの上に乗せてやると、しっかりした立ち姿で周囲にアピールした。しかし、帰りはわずか5分ほどの自動車での移動にもかかわらず食べたものをすべて吐き戻してしまった。こうした経験を何度積むうちに子犬は自動車に乗ることに慣れていく。
また街の音、商店の様子、その他人間社会の様子を子犬に見せてやることは社会に慣らすためにしてやらなくてはならない。自動車がまったく苦手な犬がいることは事実であり、車に乗せると精神錯乱に陥ったり、死にそうになる犬がいる。何でもないようだが自動車に乗せることができる犬を飼うことは幸せの一つである。