Vol.13 妖しいまでに美しい?──彼岸花のはなし


 
 秋のある時期、いっせいに咲き始めるヒガンバナ。まっすぐで葉のない茎と真っ赤な花弁がとても印象的です。
 キレイなんだけど、ちょっぴり妖しげな雰囲気のこの花、お彼岸(9月20日)の頃に咲くことからこの名前で呼ばれていますが、別名の多いことでも知られています。
 中でもポピュラーな「曼珠沙華」(マンジュシャゲ)という呼び名は、サンスクリット語の「manjusaka=天上に咲く赤い華」に由来しているそう。おめでたい事が起こる兆しに赤い花が天から降ってくる、という仏教の経典から来ています。
 これはおめでたい例ですが、ほかの名前は「死人花」「地獄花」「幽霊花」「墓花」「火事花」など、みごとに不吉な名前ばかり。
 また、茎の汁や球根に毒を含むため、「毒花」「痺れ花」なんていう名称も。飢饉の際は、水にさらして毒抜きをした上で食料にしたそうですが、モグラや野ネズミの害を防ぐために、墓地や畦道に多く植えられたとのこと。そういった歴史的な事実を考えると、不吉なイメージがつきまとうのも仕方がないのかもしれません。
 一方で、美しい花の姿からついた名称もあります。「天蓋花」や「狐の松明」、「狐のかんざし」「狐の剃刀」「火焔草」などです。とはいえ、人をばかすと言われていた狐が多く登場するところに、やはりこの花の不可思議な印象が投影されているように思います。
 では、なぜ人はそうまでこの花に不可思議な印象を抱いたのでしょうか?
 それはおそらく、ヒガンバナの変わった生長サイクルに秘密があるのではないでしょうか。彼岸花の生長サイクルは他の植物と全く逆なのです。

 ●秋:芽を出し、あっという間に50cm位になって花を咲かせ、
    一週間くらいで花も茎も枯れてしまいます
 ●冬:球根から葉っぱが伸び、緑のまま冬を越します
 ●春:光合成をして球根に栄養を蓄えます
 ●夏:休眠期

  花の時期に葉がなく、まるで首だけの人形のようです。ただ、この生長サイクルに着目し、花と葉が同時に存在することはないことから、「葉見ず花見ず」というロマンチックな呼び方もあります。
 お隣の韓国では、「花は葉を想い、葉は花を思う」……つまり、「想い思われる華」ということで「想思華(サンシチョ)」と呼ばれているそうです。
 一説によれば、1000通り以上もの呼び名があると言われるヒガンバナ。それだけ、昔から人の生活に寄り添ってきた植物だと言えるでしょう。


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