初秋、窓を開け放つと聞こえてくるコオロギの大合唱。実は鳴くのは雄だけで、雌を誘ったり、自分のナワバリを示すための、いわば「通信手段」なのだそうです。
日本では、昔からその鳴き声を愛でる風習がありました。幾度となく和歌に詠まれたり、江戸時代には虫を売ることを生業とする「虫屋」や「虫問屋」が存在していた程です。
一方、中国でも全国のコオロギ商が集い、盛んに売買されていました。
とはいえ、中国の場合はその鳴き声を聴くために求められていたのではありません。雄のコオロギ同士を闘わせる「コオロギ相撲」の戦士として取引されていたのです。
「コオロギ相撲」とは、ナワバリ性の強いコオロギの闘争心を利用した遊びです。闘盆というリングに二匹の雄を入れ、ネズミのヒゲを植えた筆で触角などを撫でて興奮させると、噛み合い、投げ飛ばし合う大ゲンカに。勝負が決すると、勝者は「リリリリ」と勝ち鬨(?)をあげ、敗者はリングを逃げまどいます。
起源を求めれば唐の時代にまで遡るこの遊びは「闘蟋(トウシツ)」と呼ばれ、庶民から宮中、歴代の皇帝も楽しんだのだそう。
しかし、遊びという範疇を超えて熱中した人々も多く、南宋の宰相・賈似道は「蟋蟀宰相」の異名を取り、闘蟋にふけって国を滅ぼしたという逸話もあるくらいです。
もとは宮廷で発達したものが、庶民にも広まり、コオロギの飼養や採集技術などが高度な発達を遂げました。エサやトレーニング法はもとより、専用の漢方薬の発展、雌雄の「房中術」にまで配慮したというのだから、その熱の入れようが伺えます。
また、関連の道具類も発達し、コオロギを入れるための容器などには芸術品の域に達するものもあるのだとか。なんとチャンピオンを埋葬する棺桶まであったようです。
新生中国となって一時廃れていた時期もありましたが、現在また盛んに行われています。北京、天津、上海など全国各地にコオロギ協会があり、様々な規模の試合や大会が開催されているとのこと。
シーズンはもちろん9〜11月の秋。「コオロギ相撲」は別名「秋興(チュシン)」とも呼ばれるそうで、中国では秋を感じさせる風物となっているようです。
もっと詳しく知りたい方はこちらへ
闘コオロギ(農林水産技術情報協会)
「こだわり会館」その一瞬が文化を生む闘うコオロギ(asahi.com)
路地裏にいきづく皇都 〜中国・北京〜(NHK SPECIAL)
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