since 7/7/2002
甲斐 鐵太郎
わが憧れのグランドツーリング(1)
GTカーで八ヶ岳周辺の道路を日がな1日走る快楽
中央道は八王子インターを過ぎると山間部を縫うように走る。山が見え、山の間を縫うように走るこの未知は車を走らせる喜びを与えてくれる。右に競馬場が左にビール工場が見えた後の中央道である。
ノーマルマフラーをパワーマフラーに変えて、足回りと座席をスポーツ走行向きに仕上げたGTカーは、ブオーという重低音発して、アクセルを強く踏むと爆走(爆走)し、静かに踏み込むとそれにリニアに対応し求める速度に簡単に達して追い越し車線にとどまるのはホンの数秒で遅速車をパスしてしまう。追い越し車線に入るのに車体の傾きなどなくハンドルを切っただけ右に出てそのまま一気に加速して、車体を傾けることなく走行車線の戻る。アクセルを踏めば車速がスーと上がり、バガッと踏めばガーと車速が上がり、そんな速度も自在である。車はどんな速度を何時でも出せるよ、と何時でもつぶやいており、車とは速度自在、進路変更自在であるべき乗り物であるべきであることを主張しているのが私が駆るGTカーである。
車はノーマルが一番と考えていたいのだが、少し手を入れてやると自分の望みに叶うようになる。スポーツ系の車はこうしたことを考慮して仕立てられているようであり、ホイールとタイヤを替えることは当然という雰囲気がなくはない。ノーマルの状態は完全ではなく安く車を提供するための妥協であるとも思える。
甲府盆地を通過するときが中央道は一番つまらない。景色それ自体は笹子トンネルをでて間もなく前方に南アルプスの山群が現れる。右から甲斐駒ヶ岳関連の山群、それから左に北岳などが姿を見せる。右手には金峰山などが見え右手前方には茅が岳があり、その先に八ヶ岳がでてくる。春には一宮の桃の花が両脇に広がる。こうした景色に圧倒されるのに対して平野を抜ける高速道路は変化がなくてつまらない。
韮崎インターで中央道を下りると右手の茅が岳の中腹に切り開かれた農道を西に進んで増富にでて、そこから右に折れて長野県の川上村に抜ける、そこから八ヶ岳界隈の山岳道路を日がな一日走るのである。できることなら高速道路は使いたくない。国道20号も快適に走れるのは笹子川沿いだけであるから、相模湖か藤野か上野原から脇道を通って大月の先にでるのである。
八ヶ岳周辺の道路は樹木のなかに道がくねるように付けられていてコーナーのハンドリングと加速を楽しむ車には都合がよい。コーナー手前で路面状況にあわせてブレーキをかけて、出口が見えたところでソォーとアクセルとあける。カーブの先から車が来るかも知れないのでそれをかわす場所の余裕と減速のマージンを見ながらの車速アップとなる。上手なドライバー気取りなどするつもりはない。安全な場所で安全な速度で楽しむドライブである。
直列6気筒2.5リッターターボエンジンは滑らかなふけ上がりをする。12気筒エンジンとまでは行かないが、V6は遙かにしのぎ、V8エンジンでもこのシルキーで滑らかなふけ上がりは実現できない。ターボエンジンは際限なくパワーがみなぎってくるという感覚を与える。車を動かすに十分な力がこみ上げてきてそのまま天まで届けとばかりに車を加速させる。
普通のセダンでも類似の感覚を取得することができなくはないけれどもトルクが豊かでパワーにあふれる車なればこそのドライブ感覚はスポーツということができるものである。
グランドツーリングという意味は定かではないが、遠くまで快楽をともなって快適に移動し、運転そのものを楽しむことができることをもってそう言えるのではないか。一人で居る車の空間は無思考の場であり、時として何か新しい思考が登場する場にもなる。そのような心理状態を車から提供される人とそうでない人とがあるようだ。しかし、車で遠くに快適・快楽をともなって移動しているグランドツーリングとは人を無思考にし、同時にまた新しいことを思い浮かばせることもまた間違いのないことであるように思われる。