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2013現場の計測管理座談会

現場の計測管理の現状と課題 「計測管理の見える化を」

    
座談会出席者(敬称略・五十音順)
阿久津 光 三菱重工業(株)、計量士
阿知波 正之 (司会)計量士
植手 稔 計量士
江尻 義博 計量士
小屋松 隆一 (株)UACJ
高井 哲哉 中央精機(株)
田中 亀仁 トヨタ自動車(株)、計量士
中野 廣幸 計量士
廣瀬 幸造 (一財)日本穀物検定協会、計量士
渡辺 雪宣 (株)イノアックコーポレーション
    
目次
1.現状の計測管理の課題 2.計測器校正業務のコストダウン 3.ものづくりにおける計測管理の成果
4.計量器の選定 5.測定技術の現状と課題 6.計測管理の改善活動の進め方
7.中小企業への計測管理の展開 8.計測管理の効果の見える化  
                                       
現状の計測管理の課題

外部要求がなくても計測管理のニーズがあるはず

阿知波正之(司会) 企業のなかで計測管理を進める上でのコストの追及がある。あわせて計測管理の効果を企業のトップにまた外部にわかりやすく説明する必要がある。中小企業への指導についても計測管理の導入により、どのような効果があるのか実績が求められている。
 ISO9000の導入以来、計測器の校正が重要ということでJCSS制度が整備されてきたが、昨今その展開は停滞の感がある。本来計測管理とは外部の要求がなくても、ニーズがあって、実効があるはずであり、規制緩和が進むなかで、規制がなくても関係者にそのニーズを説明できるようになりたいと思う。そこで、日々企業活動のなかで、多くの要求に対応されている皆さんの意見、提言をうかがいたい。まず田中亀仁さんから。

人材育成を重視すべき

田中亀仁 当社では計測器の校正業務は校正の子会社で実施しているが、最近会社の上層部から、校正子会社のコスト意識が不足しているのではないかとの発言があった。私はコストダウンは必要だが、そんな単純なものではなく、もっと重要なこともあるのではないかと考え、皆さんの意見を聞いた。そこでわかったことだが、校正業務はコストと品質と信頼性がいずれも大切であり、コストについて、校正する側からもコストダウンの提案ができるようにすべきではないかと思う。
 最近欧州の監査を受けたとき「使用の範囲の校正をすべきではないか」との指摘をうけ、その際立ち会った人間が反論説明できず、その指摘を受け入れてしまい、人材育成の遅れを感じた。校正の品質と信頼性を支える人材育成を重視すべきと考えています。

計測が大切だとがんばるのは大変

渡辺雪宣 私が計測管理部門を担当していた2006年以前に比べ、その後中国を担当している間に計測管理部門の活動が低下した。その間、上層部の指示に対して、計測管理の重要性を説明できる人材がいないと、体制がどんどん崩されてしまう。
 現場の管理ではQ・C・Dが重要でQが第一といわれるが、現場に言わせるとDの納期が第一で、不良率が50%でも50%の良品を納期に間に合わせてくれればよいと、顧客から言われることがある。そこまで言われる背景のなかで、品質とその背景の計測が大切だとがんばることは大変である。

計測コストのカットで全体のコストが下がるのか疑問

中野廣幸 私が営業を担当して建築関係の製品を扱っているとき、Dが重要だといわれていた。たとえば1000円もしない部材でも、納期が間に合わなければ現場の職人を遊ばせてしまうことになり何万円かの損害になるので、Dが第一といっていた。しかし、基本的な品質が疎かになれば後々問題となる。計測のコストをカットしたところで全体のコストが下がるのかなと思う。

「良品廉価」でなければ

田中亀仁 当社のトップは計測が重要だと理解されているが、部門内でのコスト問題で、コスト意識が不足していたのは事実で、先の不良の話を計測器に置き換えてみると、一時的には納期は間に合うが、そのような会社はダメになってしまう。当然良いものを安く、いわゆる「良品廉価」でなければならない。良いものを、正しく、安く提供するのが計測管理の使命でなければいけない。またそれは天びんにかけるものではなく、一方を優先すれば他方がダメになる。

計測管理は空気のようなもの

高井哲哉 田中亀仁さんの計測管理の教育で最後にいつも言われる、「私達の仕事は空気のようなものですが、誇りを持ってやっています」という言葉はそのとおりだと思う。上司からは計測はもっと目立ってよいのだと言われ、成果を発表しているが、全体的な空気はまだまだその存在感が薄く、またその存在感が出るような時はすごい問題が発生した時ではないかと思う。

見える化できていないので評価されない

植手稔 計測は実際には、品質向上、コスト削減に貢献しているはずだが、その成果が経営者、責任者にわかりやすく見える化できていないので、いざ、具体的にどのような貢献しているのか問われると応えられない。
 このことは計測に携わる人間が昔からいわれていることで、共通の悩みである。いい設計して商品販売数値が向上したとか、目先の品質問題を劇的に解決したとか、直接的な利益を生み出したり、燃え盛る火を消せば評価され理解を得るが、われわれがやっている将来起きる可能性のある火の元を絶つ活動は、即座に成果が現れるものではなく、経営者、責任者には見えにくく理解も得にくい。また、計測に携わる人間の特性として、社内で上司の顔色を見ながら、こんなに経営貢献していますよと敢えて発信もしないので、まさに計測は水や空気のような存在で、ISOの監査対応とか計測器の校正管理係以上の評価はされていない。

きちんとした形で表すことが必要

渡辺雪宣 インプットのコストカットよりもアウトプットが重要で、計測管理の見える化(品質向上)など、きちんとした形で表すことが必要だ。
中野廣幸 たとえば笹子トンネルの事故のように、あれも、検査であり、計測の問題だね。デリバリィ・デリバリィでやっていると抜けができて、後で大きな問題を起こすことがある。
田中亀仁 特に計測の問題は悪くならないと影響が出ないから、なかなか見えないね。
渡辺雪宣 そこまでにならないように見える化が必要だね。

発信しないと計測計量の重要性が見えない

植手稔 社内でも、計測計量担当者がどんなことをしているか知らない人がいることがわかり、この仕事に携わる同じ立場の人、後輩のためにもできるだけ計測計量の重要性を発信するように意識を変えてきている。自分の成果を実際よりも大げさにいえる営業の人のようにはできないが、とにかく発信しないと計測計量の重要性が見えない。

具体的な数字を示すことが必要

江尻義博 計測を愚直にやるだけでは、評価されない。製品を計測して、市場で問題を起こすのを防止したとか、不良率が低下し安定しているから、測定回数を減らすとか、具体的な数字を示すことが必要で、愚直にやればよいのではない。

目的を明確にして計測に取り組め

高井哲哉 計測をやるのには必ず目的がある。ただ黙々と計測するのではなく、目的を明確にして計測に取り組むことが結果につながる。プロセス設計の根幹の部分だと思う。

市場の問題は減るが企業内の不良率は上がる

中野廣幸 計測をしっかりすれば不良率を下げられるということにはならない。計測をしっかりすると、垂れ流しになっている不良が見つけられ、市場の問題は減るが企業内の不良率は上がる。それを経営者がどう判断するか難しい。

むだな計測をやめればコスト削減に

植手稔 製造工程で品質の造りこみをしっかりやれば、不良品をはねるための計測はなくせるが、現状は未だその段階までいっていない。また、全数検査をしていて不良品が検出されないような安定した工程だったら検査(計測)を止めたらどうかと言っても、自信がないから止められない。もっと上流でしっかり計測をしてばらつきを抑えた測定プロセスの設計をすれば、下流での不良品をはねるための計測はやめられる。根拠を示して、むだな計測をやめることもコスト削減になり経営成果に結びつく。

計測を工程改善に活用することが大切

高井哲哉 止めるための検査はいくらやっても品質は上がらない。計測した結果を上流へフィードバックして、工程改善に活用していくことが大切。そうすれば、やめられる計測も必ず出てくる。

海外事業所では全数検査がやめられない

中野廣幸 海外の事業所の場合、全数検査をやらないと不安なので止められない。それは昨日と今日では作っている人が違い、昨日と今日が良ければ明日も良いとはいえない。前提条件が変わってしまうので全数検査が止められない。
植手稔 海外事業所の場合、計測したデータがあってもそれが信用できないこともある。

常に創意工夫を

江尻義博 工程が安定していれば、毎回測らなくても良い。また工数をかけなくてチェックできる方法に改善しても良い。それは常に創意工夫して少しでも改善していかないといけない。

品質を測るな、機能を測れ

田中亀仁 品質工学で著名な田口玄一博士の語録に「品質を測るな、機能を測れ」とあるように、品質を測ろうとすると、あれも・これも測らなければならないが、機能(働き)を正しく測るようにすればきっと的を射てできるのではないか。これは中小企業への展開をするときも、「品質が良くなります」と言ってもあまりにもザックリして分かり難いが、「貴社の製品の機能がよくなりますよ」、その機能を測った結果を設計にフィードバックしより良いものを作るループを回されており、そのためには正しい測定データでないといけないので、その「測定をする人も正しく測れるようにしないといけないですね」と言えば理解してもらえるのではないか。

商品量目管理ではどうか

廣瀬幸造 関係企業は質量の商品量目の計量が中心で、商品量目をウエイトチェッカーで全数計量しているが、ウエイトチェッカーの管理が拙ければ、誤判定が起きる。その前の充填機の管理も重要である。量目管理の場合、法定の量目公差の範囲内であることはもとより、クレームがつかない下限側に近い範囲で管理しており、計量士としては企業からばらつきが大きいとか、過剰量を改善したいとかの要望があるとき、調査し、改善事項を指摘している。品質管理が目的の生産工場とは違うかも知れない。

量目は詰め込み工程で管理する

阿知波正之(司会) 同じだと思う。最近食品工場の商品量目管理における測定の不確かさの改善事例を『計測標準と計量管理第63巻第2号』((一社)日本計量振興協会、2013)に執筆したが、事例ではオートチェッカーは使っていない。そのために充填機を改善した。詰め込みのばらつきが大きいものをオートチェッカーで選別しても手直しコストが増すばかりなので、詰め込みの充填機を管理すればよいものができる。品質管理で「品質は工程で作り込む」と同じように言えば「量目は詰め込み工程で管理する」になる。

計測の視点を改善事例に折り込んで発表

高井哲哉 植手稔さんから計測に特化した改善事例発表会のことを聞いたことがある。自社でも改善事例発表会はあるが、不良率低減とかコスト低減のネタが多い。事例をよく見てみると、実は計測の問題が根底にあるのではないかと思うものも少なくない。わたしは計測の事をもっと知ってもらうため、そういった視点も事例に折り込んで発表している。

理解者を増やす活動を粘り強く

植手稔 工程全般を計測に特化した視点で見れば、改善のネタは見つけられるだろうが、ほとんどの場合、計測の担当者は計測器の校正が主な仕事で、そのような仕事には携わっていないし、社内では設計から生産技術、製造、検査工程全般を計測視点でマネジメントする仕事の必要性が認識されていない。ものづくりにおける計測の重要性に気付いて共感してもらい、その理解者を増やす、仲間を増やす活動を粘り強く続けていかなければならないと考えている。

計測器校正業務のコストダウン

計測管理も経済問題

阿知波正之(司会) 私が企業にいて計測の校正をおこなう子会社を立ち上げるとき、その生産性を年率5%向上させるとの計画があった。これはコストカットではなくてコストダウンは生産性の向上で、質は維持して生産性を上げるのが王道だが、なかなか難しい。企業ではコストダウンの要求は必ずある。田口玄一博士は「品質管理は品質の問題ではなくて経済問題」と言われたが、計測管理についても経済問題といえ、計測管理にかけるコストとその成果のバランス問題でそれを改善するのは技術力だと思う。やはりコストについても外部に比べコスト競争に勝てないといけないと思う。

さらにコストダウンを求められる

田中亀仁 現状の子会社のコストは外部の校正会社に比べると安いのだが、さらにコストダウンを求められている。それは外部の校正会社では計測器の仕様により校正されるが、必要なところを校正しているので、コスト競争力がある。しかし、すべてではなく、内容によっては安価なところもある。

外部委託は内部コストが発生することも考えねば

中野廣幸 しかし外部に委託するにはそれを管理するための仕事が発生するし、評価もしなければならない。それらのコストが発生するが、そのことは考えていないで、見積が出てきたらそれで判断し、内部で発生するコストを忘れている。そのためにISO(JISQ)17025があるが活用されていない。その評価ができるノウハウを持ってないといけないが、その人材も育ってこない。社内でやっているから評価できるが、やっていないものはできない。

人材育成が重要

渡辺雪宣 まさに、社内でやっているから、アウトソーシングしても評価できる、社内で制御盤を設計し、製作した経験があるからアウトソーシングしても評価できるが、たとえ計量士の資格を持っていても、全然経験がない人だと、高い、安いは相見積りでわかっても中身はを評価できなければ本当に高いか安いかは判断できない。まず先立つものとして人材育成が重要だと思う。
田中亀仁 今やろうとしているのは、社内で標準化したことを実施できる人材育成が必要で、それらを含めてコストダウンが必要で、ただコストを下げろというだけではダメで、購買部門にも出向いていってコストダウンの指導も含めて進めていけることである。

作り方を根本から変える指導はできていない

渡辺雪宣 昔のトヨタの調達部門のGMはすごく、コストダウンの要求に反論すると、足りない点を次々と指摘された。コストダウンも5%程度なら、細かい改善でも対応できるが、30%コストダウンの要求となると、作り方を根本から変えないと達成できないが、そのような指導は難しく、できていない。

安いところへ発注するだけでは大事なことが見過ごされる

中野廣幸 昔、調達担当者の能力を測るのに持っている名刺の数でわかると聞いたことがある。名刺を並べ、見積を取って安いところへ発注すると聞いたこことがあるが、それでは大事なことが見過ごされてしまう。

アウトソーシングで技術的背景が忘れられることに懸念が

阿久津光 社内の実績があるものを外部に出した場合(子会社化した場合)、その次の世代となって手順通りおこなわれているうちはよいが、新しい計測器が入ってきたときどのように手順化すればよいのかだれもわからなくなってしまうことが考えられる。また、古い手順書通りやられていても、その手順書がどのような考えで作られたのかわからなくなってしまう事も考えられる。手順化することは大切で、それに従って作業をおこなうことが重要であることはもちろんだが、その裏にある技術的背景が忘れられてしまうことも懸念される。アウトソーシングしたときそのことがどうなるか気になる。
中野廣幸 一定の条件で最適になっているのが手順なのだが、その根本の条件が変わっていることがあって、手順通りやっていても間違ったという一つのパターンでもある。

計測器校正の方向性に悩む

阿久津光 計測器の校正において、使っているところだけを校正するのがベストとしていると、色々な手順ができてくる。そうなると、その手順を管理しないと形骸化してくるし、その管理コストも必要となる。個別には無駄も発生するかもしれないが、全範囲を校正したほうがメリットがでる場合もあり、方向性に悩んでいる。
阿知波正之(司会) JCSS制度が充実してきたが、そのためのコストアップについて理解されず、マーケットが広がらないと聞いたことがある。校正の生産性を上げ、コストダウンする手段として、社内では使っている箇所に絞って校正することは実施されているが、管理コストの問題が生じてくるわけだね。難しい課題だが、生産性を上げる手段はあるか。

ユーザーの要求に対応しきれない面も

田中亀仁 JCSS制度は標準供給を基本にされている点があり、たとえば標準器が500gと1kgの分銅の場合、ユーザーから750gの校正要求があっても対応できないことがあって、ユーザー満足が得られない点もある。

手順が決められているので

阿久津光 それは校正手順がしっかり決められていて、その手順通りやらないと認められない。最高測定能力の不確かさを得るための複雑な手順が要求されている。最高測定能力を要求しない校正についても、認定された手順は複雑な手順が一つなので、コストダウンの手段が使えないことがある。
中野廣幸 それは物を中心として見ているからではないか。JCSSの登録認定事業者であれば、750gの校正結果も十分信頼できるとなるとよい。登録認定事業者も決められたこと以外はやらない。
田中亀仁 JCSS制度もISO9000のようなある意味の規制がないと広がらないのではないか。

もう少し自由度があってもよいのではないか

阿知波正之(司会) 昔ブロックゲージの校正で、リニアゲージを定点校正してその間は校正式で補間した校正方式で校正していた。実用的な不確かさは問題なかったが、JCSS制度では妥当性評価の証明が面倒であきらめたと聞いたことがある。標準的な手順を変更することは難しいが、もう少し自由度があってもよいのではないかと思う。

規格の理解に疑問

阿久津光 最近、取引先からISO17025とかISO10012をフォローしなさいとの要求があるが、要求する側がどこまでその規格を理解しているのか疑問がある。社内の全計測器をフォローするのは大変で、すべてにISO17025を適用できていない。

妥当性評価に多大の労力要する

阿知波正之(司会) ISO17025では先に述べたように妥当性評価の要求があり、その証明に多大の労力を要し、オリジナルな方法がなかなか適用されていない。

ユーザーの幅広い要求に応えられる校正に

田中亀仁 騒音計の校正で、ヨーロッパの事業者では騒音計全体についてISO17025の校正が適用されているが、国内の事業者では部分的な校正でISO17025適用とされていることがある。コストにそれほどの差はない。できる範囲での校正ではなく、ユーザーの幅広い要求に応えられる校正に対応できる進化が望まれる。

単純にコストでみると外部校正が有利

植手稔 顧客からの要求がある場合はJCSS校正をしているが、そうでない場合は一般校正であるが、その半分以上は外部校正をしている。人材、標準器の関係から単純にコストでみれば外部の方が有利となる。

測る技術を含めて考えないと

高井哲哉 計測器を単純に管理するための校正なら外部校正がコストで有利になるが、測る技術を含めて考えないといけない。

子会社からも校正委託を受ける計測器も

小屋松隆一 当社の場合、社内の計測器が多いなか、子会社からも委託を受けて実施している計測器もある。子会社としても外部へ依頼するよりコストメリットがある。
阿知波正之(司会) 校正業務の分社化を検討するとき、関係会社の業務を取り入れ、コストメリットを出した。

2つの考えがあり悩む

植手稔 計測器を登録するとき使用範囲を明確にして校正点を決めている。標準器を増やしても対象台数が少なく採算が取れない。コストダウンから外部委託を進める考えと校正する人材育成として残すべきだとの2つの考えがあって悩みがある。
江尻義博 計測技術としての人材育成ならば、品質部門のみで考えなくても、設計とか開発で計測しており、広く考えれば確保できるのではないか。
廣瀬幸造 製薬会社の見学の際、アメリカとヨーロッパの認証を得ているとの話があった。納入先の要求に対して、JCSSで対応できないか。

NBLAPとJCSSの両方を取得

小屋松隆一 JCSSも国際対応しているが、顧客要求により、一軸試験機についてはNBLAP(米国標準技術研究所〔NIST〕の認定事業者の資格である試験所認定プログラム)とJCSSの両方を取得している。JCSSもMRA対応だが、両方得ていれば、どの顧客にも対応できる。一方、顧客が何を必要としているかの見直しも進めている。顧客がNBLAPの要求のみの場合はJCSS不要かという悩みがある。
阿知波正之(司会) 外部に対しての証明が必要なければ、認証を受けない場合もあり、ISO17025、ISO10012の要求事項には対応できても、登録していない場合もある。

ものづくりにおける計測管理の成果

阿知波正之(司会) 次の課題としてものづくりにおける計測管理の成果について討論いただきたい。

計測器の不良率では評価されない

田中亀仁 計測器の不良率と言っても評価されない。成果となるのは物を測って、その結果をもとに戻すことであると思う。そのデータがどのくらい正しいかをフィードバックすることではないか。
成果は製品全体で考えるべき
中野廣幸 計測器に限れば、校正コストを下げるとか、校正周期を延ばせとなるが、そうではなくて、製品全体として考えるべきだ。

製品のコストダウンや設計の幅を広げることに活用されるのが成果では

田中亀仁 計測データが製品設計に活用され、製品のコストダウンとか設計の幅を広げることに活用されるのが成果ではないか。そのような活動を進めていくことが大切で、そのようにすればもっと評価されるのではないか。 

最適条件を示せば納得が得られる

渡辺雪宣 納入先の製品設計者の監査のとき、その部品はブロー成形により作られているが、その設計者は図面を描いているがどのように作られているか知らないので説明してほしいと言われたことがある。そこで、形状を変えると作りやすくなるとか、加工上から公差を変えてほしいと提案すると納得してもらえる。
田中亀仁 設計図面の公差に対して、現場の加工のデータを示して、公差の見直しがされることがある。そのためにはそのデータが信頼されなければならない。
渡辺雪宣 図面どおりの寸法ならば良いかというと、いくつかの部品が組み合わさって製品となるわけで、その組み合わせにより最適な条件が変わる。
阿知波正之(司会) ブロー成形のような部品は保持の仕方により変形し、その測定にはノウハウがあり図面だけではわからないことがある。
渡辺雪宣 機械加工の部品とは全然違う難しさがある。 

測定の不確かさに影響がある

阿知波正之(司会) それがまさしく、測定の不確かさに大きな影響がある。 

計測の提案が効果的

阿久津光 計測管理の部署として、社内で校正をおこなって喜ばれることは少ないが、その測定にはこのような計測器を使ったらうまく測れるとか、精度良く測れますよと発信すると喜ばれる。そのような発信ができるのは、校正をやっているから、様々な測定方法を知っているからだという体制がうまく作れれば、校正の価値も評価される。実際、なんでそんな測り方をしているのかというのが見受けられる。
渡辺雪宣 生産性を上げることにつながる改善がある。
阿久津光 設計者に新しい計測器を購入すればこんな測定ができると提案すれば喜ばれ、計測器を扱っている強みが発揮できる。常に新しい計測の知識を身に着けることも必要。
阿知波正之(司会) トヨタ自動車では計測技術部で計測目的に対する開発もされているのでは。

理想は計測目的に対しての一貫した活動

田中亀仁 理想的には計測目的に対して、計測システム開発から校正を含む維持管理まで、一貫した活動となる。
渡辺雪宣 オールトヨタ計測管理連絡会の議題としてそのような課題が提案されるとよいが。

現状は計測器管理が中心

田中亀仁 現状ではどちらかというと物(計測器)の管理が中心で、一貫した管理にはならない。

もっとアウトプットを

渡辺雪宣 現場の測定に関わる人が集まって、もっといろいろの提案ができて、アウトプットも出せるのではないか。他の活動では人材育成とかムダ取りとか具体的なアウトプットを出しており、計測管理の活動でもこのようなケースではこの計測器を使ったら良いというような標準的なものを作ったらアウトプットになるのではないか。

計測器の選定導入から関われば効果も大きい

阿知波正之(司会) 源流の計測目的に対して何を測るかというところから、計測器の選定導入時点から関われば効果も大きい。
渡辺雪宣 このような測り方がよいとか、2回も3回も測る測定をこのような計測器を使えば一発で答えが出るとなれば大きな効果がある。

測る技術を社内に持つことがメリット

田中亀仁 測る技術を社内に持つことがメリットで、これが本当の技術で、特にその機能をどのように測るかが重要で、その会社の強みである。
渡辺雪宣 それをアウトソーシングされた方はその秘密を握って吹っ掛けてくるかもしれない。
中野廣幸 そのところがブラックボックスで、何も残らない。製品を見ても何を測って管理しているのかわからない。昔外注していたものを内製化しようとして工程を見に行って、設備は整えたが、何を測って何を管理しているかがわからなかった経験がある。

国内でのモノづくりはなくならない

田中亀仁 国際化により、形は同じものができるが中身は異なる。そこで国内でのモノづくりはなくしてはいけないし、なくならないと思う。ものづくりを標準化したものを海外展開している。
中野廣幸 電気自動車はコンピュータのようにどこでもできるようにいわれるが、コンピュータと違い、1tの車体を100kmで安全に走らせる大きなシステムであり、簡単ではない。たとえば中国の新幹線は中国製だといっても、聞いたところではベアリングの硬さの管理など、日本製でノウハウがいっぱい詰まっている。
渡辺雪宣 聞いたところでは、部品によりA、B、Cとランク付けして、調達先を決めて、Aランクは変えていないという。

測定にはノウハウが多くある

阿知波正之(司会) それは図面を見てもわからないことがある。技術提携により作りだした製品で、回転軸の表面粗さについて、表面粗さは一般には小さいほど良いと思って、図面表示を満足していても、軸が焼付くという問題が起きて失敗した例があった。どこが重要で、どのように管理されているかはわからない。渡辺雪宣さんから話にあった、変形し易い製品の測定にはノウハウが多くある。

ノウハウは製造にも

渡辺雪宣 それは生産設備にもあり、ウレタン製品でドイツ製の機械と日本製では長く使うと出来栄えが全然違う。形はできるが寸法のばらつきが全然違う。

計量器の選定

どのような計測器を選定するかが重要

阿知波正之(司会) 計測器についてもどのような計測器を選定するかが重要で、計測目的に対して、推奨機種を社内に紹介したところ、使用部署からは評判が良かった。
 計測器の導入では、ディジタルマルチメータのような汎用品でも直流しか使わないとして特定の型番を起こしてもらって、専用品として導入した例がある。ダイヤルゲージでもトヨタ自動車の標準機種を聞いたことがある。ただし、多くの計測器に接している校正担当者にどの機種が良いかと聞いても、的確な答えがないことがある。

実際に製品を測ってみないと判らないことも

高井哲哉 過去は市販品だから問題ないだろうとして、使用部門が何も検証せず導入していた。それを不確かさの検証結果から器種を統一した。実際に製品を測ってみないとわからないことも多くある。

価格の安さのみで購入する場合が多い

植手稔 計測器を購入登録するときに計測管理部門の承認を必要としているが、その帳票のなかで、定格、精度、最小読み取り値、被測定物の公差等を明確にしている。使用者は定格とか精度比をあまり気にせず、価格のみで判断している場合が多い。

使用目的に合っていない計測器が使われている例が

中野廣幸 中小企業は技術者がいないので不十分だ。流通部門でも目的に合っていないはかりが使われている。たとえば100gのお茶を測るのにひょう量が6kgのはかりが使われていて使用下限の20gが守られないことがある。魚屋さんでも錆々のはかりが使われているし、取引に使えない特定計量器以外のはかりが導入されていたこともある。だれがアドバイスしているのかわからないが手が届かない。

業者の言いなりで導入する例が多い

廣瀬幸造 販売事業者にとってメリットのあるはかりを勧められ、言いなりで導入している例が多い。
阿知波正之(司会) 物を買っているのに見極めて買っていない。技術者がいないので主導的でなく、あまり苦情も言わない。過去、自動車関連企業では製品のユーザーからの要求が厳しいこともあり、計測器についても問題があればメーカーにアクションを要求してきた。

計測器の選定方法が浸透していない

高井哲哉 仕入れ先は重要保安部品に関連する計測が多いからか、高価な計測器を導入してムダなコストをかけている例もある。社内も含めて、計測器の選定方法がまだまだ浸透していない。ISO10012の活用はそういったところでもメリットがある。
中野廣幸 コストの増加が僅かなので必要以上の分解能の計測器を導入することもある。温度調節器を導入したとき、メーカーから高分解能だからと勧められ導入したら、僅かな変化でリレーが作動し、ON−OFFの作動回数が多くなり、寿命が短くなったことがある。目的がわかっていない。
廣瀬幸造 使用目的がA、Bとあると、両方測れるCの器種を選んでしまうことがある。
江尻義博 計測器の選定はカタログショッピングになっている。

計測管理部門の承認が必要なので適切な計測器が手配

植手稔 計測器の選定は計測管理部門の承認を必要としているので、定格、精度比等おおむね、適切なものが手配されている。研究開発部門の専門的な計測器、分析装置などは計測管理部門より知見もあるため、担当に任せているものもある。

社内全般への展開で大きな成果あげられる

阿知波正之(司会) 開発技術者は学生時代の研究室の経験でメーカーを選定することがあり、後で気づいたら目的は同じでも担当者ごとに複数のメーカーの物が使われていたことがある。
 計測器の選定の例のように、計測管理部門は自らの業務のコストダウンより、社内全般に展開し、大きな成果を上げることができるのではないか。
植手稔 導入された計測器の使い方でもムダがあり、業務のスリム化、コスト削減をねらって、低い稼働率の計測器は共有化できないか、現場の点検を進めている。

管理して評価が必要だ

阿知波正之(司会) 市場の問題から見ると測っていないとか、管理していないような極端な不具合が多い。それは安全率があり、管理しているものはすぐに不具合とはならない。そこで管理しているものでもばらつきが大きくなって出ていることの評価が必要だと思う。

測定技術の現状と課題

マニュアルどおりやっているだけで意味がわかっていない

渡辺雪宣 日高計量士がやられている測定ワークショップに参加している。そこで受講者の測定実習のデータを見ていると、日頃実際に測定をやっているかどうかがわかってしまう。現場の状況もマニュアルどおりやっているだけで、測定結果から何に気をつけるとか、何に影響するかが全然分かっていないのではないか。
阿久津光 測定経験豊富な経験者の話では、昔は測定について誰も教えてくれないので、資料を調べ、考えて実施していた。今は手順が決められていて、その通りやっていればよいのでそれでダメになったのではないかということだった。
 たとえば校正に使う標準器の選定についても昔は標準器の精度が頭に入っていて、その精度ならこの標準器というように選定をしていたが、現在はこの校正にはこの標準器と使えとマニュアルに書いてあり、それを使っている。若い人にその標準器の精度はどのくらいかと聞いても答えられないことがあり、技術の空洞化を感じるとのことであった。
渡辺雪宣 マニュアル化の弊害が出ており、教え方を変えないといけない。

品質工学では手段は自由であり答えは一つではない

田中亀仁 マニュアル化をすることも大変で、ラジオで聞いたことがあるが、異常の有無をそのラインのパートのおばさんが一番よく知っていて、そのおばさんに聞くとよくわかるという話があった。管理職に聞いても分からないことがある。
渡辺雪宣 内部にばねを使った製品で、作業者は作動させたときの音がいつもと違うと打ち上げたが、監督者は流せと言った。次の日も同じように違うということで、内部のばねを良く調べて見たら、ばねの線径が0.1mm違っていることが分かった。いつもと違うかの異常を見つける検出能力は高いという実例です。
阿知波正之(司会) ISO9000導入でマニュアル化が進み、決められたことはできるが、逆に標準化から外れたことができなくなってきている。品質工学では手段は自由で、答えは一つではないと言うと、先に進まなくことがある。新しい問題が起きたときには対応できないのではないと思うことがある。一つの提案として新しい課題は新しい人に担当させて、考えてもらったらどうかと思う。
渡辺雪宣 丸投げではいけないし、納期が迫ってくるとパニックになってくることも予想され難しい。

分業化によっていろいろな仕事ができる機会が減っている

阿知波正之(司会) 物づくりと計測の関わりとして、計測部門の担当者がものづくりの現場へ出て勉強する機会が少なくなっているように思われるがどうか。
阿久津光 校正の担当者は分業化され校正のことしか知る機会がないので、最近電子回路を作って、電気回路の基礎を知るところから教育しようと考えている。
田中亀仁 設計者も以前は設計して、実験により測定をしていたが、最近は実験部隊が分業化され、設計者は測定をしていない。
阿知波正之(司会) 設計者も設計したものの測り方を知らないし、生産技術者も加工されたものを測れなくなってきている。計測器の校正担当者もその計測器を使って物を測ることができなくなってきている。校正専門の会社を作るとき何とか製品を測定・評価する業務も小規模ではあるが残した。
阿久津光 校正依頼された計測器がどのように使われているか、関心を持つものもいるが、提出された計測器の校正を淡々と行うのみという状況も確かにある。
中野廣幸 生産工程で一人の作業者多くの作業を行うセル生産がおこなわれているが、計測管理にも多くの仕事を担当させるセル方式を考えてもよい。
阿知波正之(司会) 計量士の資格を得たとき「温度・湿度の計量」、「時間・速さの計量」で、対象量の計量技術が求められていたが、最近は質量計の検査が中心で、器物の専門家となっており、計量技術の比重が低下しているように思う。
中野廣幸 計量士は英訳ではCertified Public Measurersとされており、直訳すると「認定された測定者」とされていて現状の計量士の実態と異なる。本当の計量とは何かというところから変えていかないといけない。

計測管理の改善活動の進め方
江尻義博 全般に取り組むのは難しいので、特定の製品とか製造ラインについてななおし、ムダを改善した事例を報告してはどうか。具体的事例をまとめ報告することが大切だ。
植手稔 計測の重要性は、人により評価が変わるので、誰にも文句を言わせない目に見える日頃の計測による現場の改善活動が重要だと思う。
江尻義博 分からない人はいるが、それでもわかってもらえる努力は必要だ。

計測管理の課題改善指導ができる人材の育成

阿知波正之(司会) 現場において、計測管理の課題の改善指導について高井哲哉さんは多くの実績を上げられている。この活動ができる人材の育成はどうか。
高井哲哉 私は現場にいて、ISO9000導入時から計測を担当することになり、良い環境で計測を技能と管理の両面から勉強できた。技能面と管理面は独立しがちだが、両面から勉強出来ると一歩上のスキルが身に付くと思う。出来ること(スキル)、やりたいこと(要望)、やるべきこと(要求)が一致するような環境を作るのが理想だが、なかなか難しい。
植手稔 現場を見て計測の不具合を感じるセンスがあり、そこで計測の改善を出せる人材が必要だ。ある程度、計測のセンスのある若手にいろいろ吹き込んだらよい人材育成ができるのではないかと考えている。
高井哲哉 全社的にTS16949の認証を受けたことをきっかけに計測についての関心が高まり、ISO17025とISO10012の社内教育をおこなっている。以前はそのような声はなかったが、少しずつ理解が進んでいると感じる。
植手稔 ISO10012の認証を受けるかどうかは決まっていないが、計測管理をISO10012要求事項にかなうような内容に変えていこうとしている。計量検証や測定プロセスの設計、不確かさなどが全社規程になり、現在はより具体的なテクニカルマニュアルを作成している。確実にISO10012的な考え方は浸透してきている。
高井哲哉 基礎的なことを知っているだけで、その後の仕事の質が全然違う。社内教育でも規格の説明をするだけでなく、現状で規格に適合していないところを例に挙げ、なぜこれでは駄目なのかといった話し方をすると、理解してもらいやすい。
中野廣幸 ISO10012のチェックリストにより、各要求事項ができているかできていないが分かってくると見える化になる。そういう意味で実際的な使い方をするのは良いのではないか。
江尻義博 人材育成の面からISO10012の体系が頭に入っていて、計測もできる人が必要で、規格の導入は良い機会でもある。
阿知波正之(司会) ISO10012は計測管理のシステムを整備するのに役に立つ。
江尻義博 そう言う時期は会社にも理解がある。
植手稔 ISO10012は、ISO9000の導入期のように知られていないので爆発的な普及は難しい。したがって、仕事の質からISO10012的な手順に変えれば、計測人材も教育でき、計測がもっと注視され、結果的に会社の経営に貢献でき、社会に貢献できる。
江尻義博 ISO9000の時の内部監査員教育のように人材育成になる。
中野廣幸 教育の機会を与える機会にもなる。不確かさについても事例が出てくると、その必要性が分かってくるし、JCSSの必要性も認識できる。

中小企業への計測管理の展開

田中亀仁 中小企業へ展開するとき、計測器を話題の中心にすると受け入れられないのではないか。ものの機能に切り口を持っていって、機能を良くするにはどのように測るかとすればもっと受け入れられるのではないか。ただし、教える側がものの機能をよく知っていないと教えられない難しさがある。
阿知波正之(司会) 中小企業と大企業では計測技術のレベルに違いがあり、中小企業はノギスのような汎用計測器が多く使われるが、汎用計測器は高い測定技能が必要になる。仕入れ先の中小企業の指導はどうか。

中小企業への計測指導は難しい

渡辺雪宣 仕入れ先の中小企業の指導は、その企業の状況に合わせてする必要があり難しい。改善事項を指示してもそれを展開できるスタッフがいないので、無理なことが多い。企業の身の丈に合った指導となると指導する側のレベルが相当高くないと難しい。
阿知波正之(司会) 生産企業にいたときの経験から最も希望が多かったのは、ノギスやマイクロメータで実物を測る基礎技能研修で計測管理講座は希望が少なかった。中級者は測定法のトレーサビリティとして、実際の部品の測定法を含めた実習をおこない、仕入れ先と受け入れ部門の測定技術の統一が進み、仕入れ先の測定値が信頼できるようになり、双方ともメリットがあり好評だった。日高計量士がおこなわれている計量ワークショップのような基礎的な研修が重要で、もっと知られて来れば広がると思う。
田中亀仁 さらに、企業へ出かけて実際の物づくりと紐つけて指導したら、なお効果的となる。
中野廣幸 回転体のバランスに関して仕入れ先を指導したとき、バランシングマシンは異常はなかったが、芯が曲がっていて全部異常になった。なんで曲がるのかというと軸の焼き入れがされていなかったもので直させた。こういうことは現場へ行かないとわからない。
阿知波正之(司会) 計量士としてはかり検査で訪問していた企業で、ノギスの校正を始めたところ、過去の経験では2年周期でも校正外れはなかったが、6カ月でも校正外れが発生し、その測定作業を見たら、製品を全数測定しており、さらに測定対象物がセラミック製品で、摩耗しやすいことがわかり、耐摩耗対策品への改善を指導した。こういうことも測定現場を見ないとわからない。
<strong>廣瀬幸造</strong> 中小企業では技術の伝承が不十分でただ測っているだけで、大企業へ納入したときの不良が減らない。そこで測定が正しくおこなわれれば改善されるのではないか考え、測定研修を実施している。
中野廣幸 中小企業を指導した経験では、市場で問題が塗装の不具合の問題が発生し、その原因を追及した結果。初期は生産量が少なく乾燥炉で十分乾燥していたが、生産量が増加し、多くの製品を乾燥炉にいれたため、温度が上がりきらないうちに出荷し、特殊工程と同じで、工場でも発見できないで市場で問題を起こした。ノギス・マイクロメータのような基礎的な測定とともに個別の現場の指導が必要で、たとえば乾燥炉であれば、温度計だけでは駄目で、中に入れた製品の温度が上がっているか別の方法でチェックする必要があると指導しなければならない。
高井哲哉 仕入れ先の計測の指導に行くと「計測をおこなってどんな効果が出るか」との質問が必ずある。そこで逆に質問すると、「悪い物を止めるためにする」との回答があるので、そうではなくて「良いものをつくるために測っている」と指導している。私は「品質管理の目的はばらつきを減らすこと」と思っている。仕事のばらつき、製品のばらつきもそうだが、それを見つけるために測っていると説明している。
江尻義博 ばらつきの原因の源流の改善までしないと成果に結びつかない。
中野廣幸 中小企業で指導すると、決められていない測定の費用がでないからやらないと言う答えがある。不良が減れば儲かると言ってもわからない。
小屋松隆一 計測にあまり関心がない感じがする。たとえば熱処理炉は作るが、有効加熱帯には無頓着とか。計測の目的や目標についていかに興味を持たせられるかが重要だ。
植手稔  計測する立場の人はその結果の重要性は感じてほしいが、目に見える具体な効果について、計測の不具合による損失とか計測のリスクを甘く見積もったために失敗したとかの具体的事例に示すための「計測の不具合事例」のデータベース化を考えたことがある。データベース化すればその損失や改善成果が見える化され、経営者にも訴求できるとの思いもあった。しかし、失敗事例は簡単には出てこない。実は計測の失敗だったという結果に至るまで深掘りがされていないので真実が見えていないのである。

計測管理の効果の見える化

阿知波正之(司会) 企業における計測管理の効果・効用はどのように表すことができるか。

監査されていることで安心できる

阿久津光 外部監査を受ける機会が多く、校正は必要だが、監査がなくなれば必要性を論破できる材料が少ない。不適合の計測器を見つけて、その影響から必要性は分かってもらえるが、品質面でも間接的で校正業務の効果を直接的に示すのは難しい。計測器を管理していることにより分かることを発信する必要があるのではないか。
中野廣幸 外部から見れば、監査により管理されていることが分かるから安心できるとも言える。だから監査が存在する。
田中亀仁 単純に短期間の利益のためなら止めることが出てくるが、数年後に問題を生じ気づいたときには遅いということになる。持続することが安心につながる。

校正値のトレンドによる管理が必要

阿久津光 校正の結果から校正外れがあれば、遡求処置の必要性から、校正の効果を発揮できるが、校正外れがないし、またそのような実績はない方が会社としては必要で、効果を示すのが難しい。
田中亀仁 最近のように1つの失敗が大きなリコールとなり、失敗は許されないので、保障しなければならないから必要だと言える。
阿久津光 たとえばノギスの校正を1年とか2年周期で校正しても校正外れはないが、もし校正外れがあると、1年前に測った製品は市場に出てしまうので、校正外れが有ったことが大きな問題となる。
田中亀仁 そのため校正外れとならないような校正値のトレンドによる管理が必要になる。また製品公差に対して計測器の公差を1/4とか1/5にしているから、計測器の不具合が製品に直接影響しない。
阿久津光 計測器の不具合も公差の何倍も外れるものもないが、不具合が起きたことも考えて、製品公差に対して計測器の公差を考えることが必要。
中野廣幸 全体のシステムができあがっているから直接問題につながらないのではないか。それが根本から崩れたら問題につながるのではないか。校正をしたとき、校正時点で過去の結果は分かるが、これから先のことは誰も保証してくれない。これから先のことを保障するのは「検証」と言う手段になり、それが付加価値ではないか。計量士が行う検査でも「検査」ではその時点での合・否しかいえないが、使用者はこれから安心して使えるかどうかも聞いてくることもある。「管理」であれば「限界だから、更新予算を入れて下さい」とのアドバイスができる。
田中亀仁 企業内の管理では有効期限をつけて管理するが、校正機関ではできない。過去の推移をみているからできるのであり、外部の校正機関では過去のデータとか使い方のデータを持っていないからできない。
阿久津光 そこまでいけばよいが、「合格」であっても限界のものは層別されているか。
田中亀仁 計測器により違うが、公差の70%とか80%に管理限界を設定し、併せて過去からの傾向も見て処置している。海外の事業所でも同様な管理をしている。
阿知波正之(司会) それは流通の適正計量管理事業所では取り入れている。それは「不合格」となると、その時点からその計量器が使用できなくなり、影響が大きいためでもある。ある標準器の校正を校正機関で、校正の都に校正値が変わり、それを基準とする計測器の多くをその都度調整した経験があるが、校正機関においても個別の校正値のトレンドが管理されているか不明である。
中野廣幸 校正会社ではできていないが、中小企業を相手としては、そこまですればやれば役立つのではないか。

+αとなるような指導が必要

田中亀仁 ビジネスとして先の測り方の指導まで含めて実施すれば、価値が高まるのではないか。
中野廣幸 計量士の職域拡大としてあってもよい。
阿知波正之(司会) 中小企業では人材不足で、特に技術者が不足しており、計測全般について指導できれば役立つ。
渡辺雪宣 職場の改善指導は1点に絞ったものではダメで、現場をみて、人と話をして、「あなた方はここが足りないのではないですか」とアドバイスして気づいてもらうことが大切である。1つのことで、3、4、5と改善してもらうのが重要である。言われたことを直すだけではそこで終わってしまうので、+αとなるような指導が必要である。
中野廣幸 計量士の中には専門的知識は豊富でもコミュニケーションや指導などが苦手な人もおり、計量法では指導や教育も大きな仕事で、そこが職域の広がらない点ではないか。相手を怒らせるような指導ではダメで、相手のためになるような指導が良い。
渡辺雪宣 改善経過の3つぐらい褒めて、1つぐらいの指摘をして、やる気にしないと継続しない。

校正以外の問題も

阿知波正之(司会) 計測管理における全般を見たとき、過去ゲージR&Rを多くの測定についておこなったとき10%ぐらいの能力不足があり、その原因は測定方法の標準化、計測器の選定などの校正以外の問題であった。
渡辺雪宣 ばねを使った製品で、ばねの線径が0.1mm違っていたため、製品が不適合になった例で、ばねの加工現場で、ばねの線径を測っていなくて、材料の表示を信用して目視だけで使ったためで、測定していないことに原因があった。

製造のプロセスにおける計測管理

阿知波正之(司会) 加工工程では現場標準(マスター)を使って校正がおこなわれている。製造のプロセスにおける計測管理はどうか。
中野廣幸 現場のコントロールのための計測について、ISOでは途中のプロセスの計測についてはトレーサビリティを取らなくてもよいとの解釈があるが、別の工場で作ろうとするとき問題が起きる。
阿知波正之(司会) プロセスの管理が重視されている工程は特殊工程と呼ばれて、管理されている。
阿久津光 破壊試験でしかできばえの保証ができない工程の条件管理用計測器は校正しているが条件管理は品質保証部門が管理している。

計測の改善目標設定として見える化が必要

阿知波正之(司会) 計測管理の状況が分かりやすくなる「見える化」の方法はないか。
中野廣幸 見える化の一つとして不確かさがある。不確かさを調べたら製品公差と同じくらいとなれば、計測を改善しなければならないのがわかるので、計測の改善の目標設定として見える化が必要になる。
阿知波正之(司会) 取引においては、商品量目検査の結果により、計測の拙さが評価されるが、品質管理における計測の拙さの評価がなされていないのではないか。その手段として不確かさがあると思う。
田中亀仁 品質管理としては工程能力の評価があり、毎日の測定データを管理図に落とし込みそのデータを見ていれば測ることの大切さがわかるが、最近工程能力のデータが少なくなっている。特に年間を通してのデータがないことがある。

マニュアル化の弊害も

阿知波正之(司会) 過去工程能力と並行して測定能力評価の考え方もあった。
渡辺雪宣 システムとして決められていないと、いつの間にか止めてしまう。継続が難しい。その意味では監査が有効である。
阿久津光 システムが整備されていると、変えた方がよいとわかっても、決まっているから変えられないという面が確かにある。マニュアルができているとそれを変えるに多くの手続きがあってなかなか変えられない。
渡辺雪宣 マニュアル化の弊害で考える力がなくなってくる。
阿知波正之(司会) 振り返ってみると、計測管理が後退しているように感じる。特に新しい発想が活かせる自由度が少ないように感じる。
阿久津光 外部監査において審査員により、「校正の範囲は使用範囲での校正点が必要」と「全測定範囲が必要」と指摘が変わる場合があり、企業としての校正範囲を明確に決めていると胸を張って言える考え方を持ちたい。

これからの計測管理の課題

阿知波正之(司会) これからの計測管理の課題について伺いたい。
渡辺雪宣 最近の市場の要求は特性の仕様通りでは不十分で、感性の要求も増している。
阿知波正之(司会) 中小企業の検査についても性能の不具合はなくても外観検査がなくせないと言われている。それは工程管理が十分おこなわれているともいえる。それに応えられるような新しい発想による計測が必要になっている。計量士として関わっている食品工場においても、異物混入が重要課題で作業環境の改善と異物の検査がおこなわれている。
渡辺雪宣 塗装外観の不具合でもその原因系の対策効果の確認としては計測により評価が必要になった事例があった。いずれにしてもデータによる管理が必要であり、物理特性だけではなく数量データを取るように指導している。
阿久津光 計測管理部門が幅広い課題について測り方を知っていないといけない。そこを見える化すれば評価される。直近の見える化として計測の目的に対して最適な計測器が社内へ紹介できるような活動を進めていく。それは校正段階でも計測器の機種が標準化され、効率的になる。
阿知波正之(司会) 参加いただきました皆様には計測管理活動の成果の見える化とそれに関わる人材育成など難しい課題について長時間討論をいただき、ありがとうございました。
(おわり)

計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事>2013現場の計量管理座談会
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