外部要求がなくても計測管理のニーズがあるはず
阿知波正之(司会) 企業のなかで計測管理を進める上でのコストの追及がある。あわせて計測管理の効果を企業のトップにまた外部にわかりやすく説明する必要がある。中小企業への指導についても計測管理の導入により、どのような効果があるのか実績が求められている。
ISO9000の導入以来、計測器の校正が重要ということでJCSS制度が整備されてきたが、昨今その展開は停滞の感がある。本来計測管理とは外部の要求がなくても、ニーズがあって、実効があるはずであり、規制緩和が進むなかで、規制がなくても関係者にそのニーズを説明できるようになりたいと思う。そこで、日々企業活動のなかで、多くの要求に対応されている皆さんの意見、提言をうかがいたい。まず田中亀仁さんから。
人材育成を重視すべき
田中亀仁 当社では計測器の校正業務は校正の子会社で実施しているが、最近会社の上層部から、校正子会社のコスト意識が不足しているのではないかとの発言があった。私はコストダウンは必要だが、そんな単純なものではなく、もっと重要なこともあるのではないかと考え、皆さんの意見を聞いた。そこでわかったことだが、校正業務はコストと品質と信頼性がいずれも大切であり、コストについて、校正する側からもコストダウンの提案ができるようにすべきではないかと思う。
最近欧州の監査を受けたとき「使用の範囲の校正をすべきではないか」との指摘をうけ、その際立ち会った人間が反論説明できず、その指摘を受け入れてしまい、人材育成の遅れを感じた。校正の品質と信頼性を支える人材育成を重視すべきと考えています。
計測が大切だとがんばるのは大変
渡辺雪宣 私が計測管理部門を担当していた2006年以前に比べ、その後中国を担当している間に計測管理部門の活動が低下した。その間、上層部の指示に対して、計測管理の重要性を説明できる人材がいないと、体制がどんどん崩されてしまう。
現場の管理ではQ・C・Dが重要でQが第一といわれるが、現場に言わせるとDの納期が第一で、不良率が50%でも50%の良品を納期に間に合わせてくれればよいと、顧客から言われることがある。そこまで言われる背景のなかで、品質とその背景の計測が大切だとがんばることは大変である。
計測コストのカットで全体のコストが下がるのか疑問
中野廣幸 私が営業を担当して建築関係の製品を扱っているとき、Dが重要だといわれていた。たとえば1000円もしない部材でも、納期が間に合わなければ現場の職人を遊ばせてしまうことになり何万円かの損害になるので、Dが第一といっていた。しかし、基本的な品質が疎かになれば後々問題となる。計測のコストをカットしたところで全体のコストが下がるのかなと思う。
「良品廉価」でなければ
田中亀仁 当社のトップは計測が重要だと理解されているが、部門内でのコスト問題で、コスト意識が不足していたのは事実で、先の不良の話を計測器に置き換えてみると、一時的には納期は間に合うが、そのような会社はダメになってしまう。当然良いものを安く、いわゆる「良品廉価」でなければならない。良いものを、正しく、安く提供するのが計測管理の使命でなければいけない。またそれは天びんにかけるものではなく、一方を優先すれば他方がダメになる。
計測管理は空気のようなもの
高井哲哉 田中亀仁さんの計測管理の教育で最後にいつも言われる、「私達の仕事は空気のようなものですが、誇りを持ってやっています」という言葉はそのとおりだと思う。上司からは計測はもっと目立ってよいのだと言われ、成果を発表しているが、全体的な空気はまだまだその存在感が薄く、またその存在感が出るような時はすごい問題が発生した時ではないかと思う。
見える化できていないので評価されない
植手稔 計測は実際には、品質向上、コスト削減に貢献しているはずだが、その成果が経営者、責任者にわかりやすく見える化できていないので、いざ、具体的にどのような貢献しているのか問われると応えられない。
このことは計測に携わる人間が昔からいわれていることで、共通の悩みである。いい設計して商品販売数値が向上したとか、目先の品質問題を劇的に解決したとか、直接的な利益を生み出したり、燃え盛る火を消せば評価され理解を得るが、われわれがやっている将来起きる可能性のある火の元を絶つ活動は、即座に成果が現れるものではなく、経営者、責任者には見えにくく理解も得にくい。また、計測に携わる人間の特性として、社内で上司の顔色を見ながら、こんなに経営貢献していますよと敢えて発信もしないので、まさに計測は水や空気のような存在で、ISOの監査対応とか計測器の校正管理係以上の評価はされていない。
きちんとした形で表すことが必要
渡辺雪宣 インプットのコストカットよりもアウトプットが重要で、計測管理の見える化(品質向上)など、きちんとした形で表すことが必要だ。
中野廣幸 たとえば笹子トンネルの事故のように、あれも、検査であり、計測の問題だね。デリバリィ・デリバリィでやっていると抜けができて、後で大きな問題を起こすことがある。
田中亀仁 特に計測の問題は悪くならないと影響が出ないから、なかなか見えないね。
渡辺雪宣 そこまでにならないように見える化が必要だね。
発信しないと計測計量の重要性が見えない
植手稔 社内でも、計測計量担当者がどんなことをしているか知らない人がいることがわかり、この仕事に携わる同じ立場の人、後輩のためにもできるだけ計測計量の重要性を発信するように意識を変えてきている。自分の成果を実際よりも大げさにいえる営業の人のようにはできないが、とにかく発信しないと計測計量の重要性が見えない。
具体的な数字を示すことが必要
江尻義博 計測を愚直にやるだけでは、評価されない。製品を計測して、市場で問題を起こすのを防止したとか、不良率が低下し安定しているから、測定回数を減らすとか、具体的な数字を示すことが必要で、愚直にやればよいのではない。
目的を明確にして計測に取り組め
高井哲哉 計測をやるのには必ず目的がある。ただ黙々と計測するのではなく、目的を明確にして計測に取り組むことが結果につながる。プロセス設計の根幹の部分だと思う。
市場の問題は減るが企業内の不良率は上がる
中野廣幸 計測をしっかりすれば不良率を下げられるということにはならない。計測をしっかりすると、垂れ流しになっている不良が見つけられ、市場の問題は減るが企業内の不良率は上がる。それを経営者がどう判断するか難しい。
むだな計測をやめればコスト削減に
植手稔 製造工程で品質の造りこみをしっかりやれば、不良品をはねるための計測はなくせるが、現状は未だその段階までいっていない。また、全数検査をしていて不良品が検出されないような安定した工程だったら検査(計測)を止めたらどうかと言っても、自信がないから止められない。もっと上流でしっかり計測をしてばらつきを抑えた測定プロセスの設計をすれば、下流での不良品をはねるための計測はやめられる。根拠を示して、むだな計測をやめることもコスト削減になり経営成果に結びつく。
計測を工程改善に活用することが大切
高井哲哉 止めるための検査はいくらやっても品質は上がらない。計測した結果を上流へフィードバックして、工程改善に活用していくことが大切。そうすれば、やめられる計測も必ず出てくる。
海外事業所では全数検査がやめられない
中野廣幸 海外の事業所の場合、全数検査をやらないと不安なので止められない。それは昨日と今日では作っている人が違い、昨日と今日が良ければ明日も良いとはいえない。前提条件が変わってしまうので全数検査が止められない。
植手稔 海外事業所の場合、計測したデータがあってもそれが信用できないこともある。
常に創意工夫を
江尻義博 工程が安定していれば、毎回測らなくても良い。また工数をかけなくてチェックできる方法に改善しても良い。それは常に創意工夫して少しでも改善していかないといけない。
品質を測るな、機能を測れ
田中亀仁 品質工学で著名な田口玄一博士の語録に「品質を測るな、機能を測れ」とあるように、品質を測ろうとすると、あれも・これも測らなければならないが、機能(働き)を正しく測るようにすればきっと的を射てできるのではないか。これは中小企業への展開をするときも、「品質が良くなります」と言ってもあまりにもザックリして分かり難いが、「貴社の製品の機能がよくなりますよ」、その機能を測った結果を設計にフィードバックしより良いものを作るループを回されており、そのためには正しい測定データでないといけないので、その「測定をする人も正しく測れるようにしないといけないですね」と言えば理解してもらえるのではないか。
商品量目管理ではどうか
廣瀬幸造 関係企業は質量の商品量目の計量が中心で、商品量目をウエイトチェッカーで全数計量しているが、ウエイトチェッカーの管理が拙ければ、誤判定が起きる。その前の充填機の管理も重要である。量目管理の場合、法定の量目公差の範囲内であることはもとより、クレームがつかない下限側に近い範囲で管理しており、計量士としては企業からばらつきが大きいとか、過剰量を改善したいとかの要望があるとき、調査し、改善事項を指摘している。品質管理が目的の生産工場とは違うかも知れない。
量目は詰め込み工程で管理する
阿知波正之(司会) 同じだと思う。最近食品工場の商品量目管理における測定の不確かさの改善事例を『計測標準と計量管理第63巻第2号』((一社)日本計量振興協会、2013)に執筆したが、事例ではオートチェッカーは使っていない。そのために充填機を改善した。詰め込みのばらつきが大きいものをオートチェッカーで選別しても手直しコストが増すばかりなので、詰め込みの充填機を管理すればよいものができる。品質管理で「品質は工程で作り込む」と同じように言えば「量目は詰め込み工程で管理する」になる。
計測の視点を改善事例に折り込んで発表
高井哲哉 植手稔さんから計測に特化した改善事例発表会のことを聞いたことがある。自社でも改善事例発表会はあるが、不良率低減とかコスト低減のネタが多い。事例をよく見てみると、実は計測の問題が根底にあるのではないかと思うものも少なくない。わたしは計測の事をもっと知ってもらうため、そういった視点も事例に折り込んで発表している。
理解者を増やす活動を粘り強く
植手稔 工程全般を計測に特化した視点で見れば、改善のネタは見つけられるだろうが、ほとんどの場合、計測の担当者は計測器の校正が主な仕事で、そのような仕事には携わっていないし、社内では設計から生産技術、製造、検査工程全般を計測視点でマネジメントする仕事の必要性が認識されていない。ものづくりにおける計測の重要性に気付いて共感してもらい、その理解者を増やす、仲間を増やす活動を粘り強く続けていかなければならないと考えている。
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