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日本計量新報 2011年4月10日 (2865号)5面掲載

日本の送電網の弱点
東西で自由に電力を融通できない

コスト理由に整備先延ばし

原発事故で電力制度の弱点露呈

3月11日に発生した東日本大震災により被災した東京電力(東電)福島第一、第二原発の稼働停止に伴う大規模な電力不足が発生した。

東電は「計画停電」により電力不足に対処しているが、夏場の電力の需要増への対応を含め、根本的な対策を立て切れていない。

政府や電力業界が問題解決を先送りしてきた日本の電力制度の問題点が、原発事故をきっかけに、明らかになった。

基幹系送電網は整備済み?

日本の送電網の整備は、諸外国と比べても優れているというのが、これまでの評価だった。経済産業省の「次世代送配電ネットワーク研究会」の資料では欧州、米国、日本の電力系統の特徴を以下のように説明している。

欧州では、2003年のイタリア全土停電、2006年の欧州広域停電など広域的な系統運用の不備による停電が相次ぎ、欧州大陸の広域的な系統管理が課題であり、供給信頼度が日本に比べ劣る。

米国では、電力需要の増加に対応した送電インフラ整備の遅れによる送電線混雑が発生、基幹系送電網が未整備など、日本に比べ送電インフラが脆弱という評価だ。

日本は、送電設備は発電設備と一体的に整備され、基幹系送電網は整備済み、としている。電気事業連合会webサイトのPRページ「でんきの情報広場」にも、「インターネットにも負けないような最先端の送電・配電ネットワークが、日本中に張りめぐらされている」との記載がある。

電力系統の信頼度に関しても「停電時間や送配電ロス率の観点からみた供給信頼度や効率性について、欧米と比較して我が国は高い水準にある」としている。この「高い水準にある」供給信頼度が、今回の福島第一、第二原発の稼働停止でもろくも崩れた。

東西の周波数の違いが電力融通の足かせに

全国基幹連系系統 『電気事業の現状2010』から

原発事故により発生した東電の電力不足を補う方法の一つが中部電力や関西電力(関電)などの他の電力会社からの電力の融通である。しかし、東日本が50Hz(ヘルツ)、西日本が60Hzと周波数が異なる状況が足かせとなっている。

東西の周波数の違いは、明治時代に東日本の電力会社がドイツ製(50Hz)、西日本が米国製(60Hz)の発電機を採用したのが発端。戦後、周波数統一の議論もあったが、多額の費用がかかることから、国も電力会社も消極的であり、実現しなかった。

周波数変換能力は100万kW

周波数が異なっていても、融通元の発電能力に余裕があり、周波数変換がスムーズにいけば、問題はない。

ところが、東電と中部電力の境目で、現在周波数変換設備を備えているのは東電・新信濃変電所(60万kW、長野県東筑摩郡朝日村)、電源開発・佐久間周波数変換所(30万kW、静岡県浜松市天竜区)、中部電力・東清水変電所(10万kW〔本格運用後は30万kW〕、静岡県静岡市清水区)の3カ所だけである。合計で100万kWに過ぎない。

交流60kHz−直流−交流50kHzと変換

周波数変換設備は、周波数の異なる電気を周波数変換器を介して接続し、東西に融通する設備である。佐久間周波数変換所を例にとると、27万5000Vの交流を一度12万5000Vの直流に変換、再び交流に戻すことで最大30万kWの電気を変換している。

先延ばしのつけが

柏崎刈羽原子力発電所1号機の出力は110万kWであるから、100万kWでは原子炉1基分の発電量しかまかなえない。周波数変換による電力融通だけでは、夏場(7月末)に見込まれる1800万kWの需要増(3月24日現在の試算)を解消することはできない。

周波数変換施設の建設は、大規模災害などの場合を除いてコストが釣り合わないとされ、それよりもそれぞれの電力会社が管内の発電所を増設するほうがよいという判断で、先送りされてきた。今回の大震災でそのつけが回ってきたのである。

中部電力が周波数変換能力を増強

中部電力は3月23日、東清水変電所の周波数変換能力を、5月をめどに3万kW程度増加させると発表した。2014年12月の本格運用(30万kW)開始予定の前倒しも検討するとしている。

周波数変換以外にも電力融通対策

中部電力は、周波数変換以外にも電力融通対策を講じている。

長野県の泰阜(やすおか)水力発電所の発電機を50Hzで送電できるよう切替作業を実施し、3月22日から電力融通を実施している。融通電力は2万〜4万kW。

同社は電源開発の佐久間水力発電所の電力を受電しているが、発電機を50Hz運転へ切り替えた。さらに、佐久間発電所に接続する154kV送電線につながる電源開発秋葉系水力発電所も、50Hz運転へ切り替え、電力融通をしている。両方合わせた融通電力は、最大で23.1万kW。

東電と中部電力は、電源開発の新豊根(しんとよね)水力発電所(揚水式、50kHz/60kHz両周波数対応)からの電力受給契約を結んでいるが、東電が必要に応じて発電できるように、中部電力の電力を使って共同使用ダムに揚水をした。

関西電力は、東電系統に50Hzで送電することができる寝覚(ねざめ)水力発電所と御岳(おんたけ)水力発電所から、合わせて最大10万kW程度の電力融通を実施している。

kWとkWh

ここで問題になっているのは、電力会社の供給力である。需要量が供給量を上回れば電力が足りなくなり停電が発生する。この供給力(電力)を表す単位(正確には単位はW〔ワット〕で、k〔キロ〕は1000を表す接頭語)が「kW」だ。つまり、kWは、瞬間瞬間の電気の発電能力や消費能力を表す単位として使われる。

東電の供給力は、震災前は5200万kWだった。ところが、震災で、一時は供給力が約3100万kWまで落ち込んだ。

これに対して、「kWh」は、電気の発電の総量や消費の総量(電力量)を表す単位で、電力(仕事率)×時間の関係で表される。

東電は4650万kW確保の計画

東電が3月25日に発表した計画によると、3月末現在で3600万kWまで回復した供給力を、被災した火力発電所の復旧などで1000万kW増やし、7月末までに4650万kWの供給力を確保することにしている。

この増強分は、(1)鹿島火力1〜6号機、常陸那珂(ひたちなか)火力1号機など、火力発電所の震災による停止からの復旧で760万kW(2)長期計画停止火力発電所の横須賀火力3・4号機、1・2号ガスタービン設備の運転再開で90万kW(3)ガスタービンなどの設置で40万kW、で確保することを見込んでいる。ただし、既設火力の夏期出力減少分(大気温上昇による出力減)などで260万kWの供給減少が見込まれるため、増強分は1000万kWになる。

電力不足は長期化

自家用発電設備からの電力購入の拡大なども進める。政府も4月末を目処に、夏場に向けた具体的な電力需給対策を策定することにしている。経産相は、4月5日、電気の使用制限(電気事業法第27条)の発動も表明。しかし、劇的な改善は期待できないのが現状であり、夏の電力不足解消の目処は立たない。7月末時点で予想される1日の最大需要は5500万kW。差し引き850万kWの不足が想定されるからである。現状のまま推移すれば東電管内の電力不足は長期化することになる。


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