日本計量史学会は2月24日(土)午後、東京都新宿区の神楽坂エミールで総会を開いて新年度事業の概要ならびに会務執行の新役員体制を決めた。同会は会員規模の増大と研究活動の多様化に組織機構を対応させるため会則を改正、また理事、幹事の役員数を15名から21名に増員した。新会長には蓑輪善蔵氏、副会長には前田親良氏、山田研治氏を選出した。前会長の岩田重雄氏、副会長の高田誠二氏は病気を押して重職を務めていたが、再選を主治医に制止されたため重職を降りた。しかし両氏とも体調に合わせた調査・研究活動は継続するほか、計量史学会に国立研究機関を経由して文部省などから委託された計量資料の調査活動には従事する。新役員は別項のとおりであり、4月1日付けで就任する。監事に初めての女性役員として横田茂子さんが就任するが、これにより学術会議の指針を満足する模範的な組織になる。
計量史学は、計量に関するすべての歴史的事実などを解き明かすことを通じて人類の豊かな未来を切り拓く学問であり、日本計量史学会は1978年4月1日に設立された。前会長の岩田重雄氏、前副会長の高田誠二氏は日本計量史学会の設立以来の会員であり、会の研究体制ならびに組織の充実発展に力を尽くしてきた。
新会長の蓑輪善蔵氏は元計量研究所第4部長、元計量教習所所長などを歴任してきた行政経験豊かな湿度計測の専門家であり、近代の計量の法制度と行政の変遷に関する実情に通じている。また、計量史研究で大きな実績を残した小泉袈裟勝氏(故人)と連携して計量史を探ってきており、計量史に関して総合的な知識を持つ人として知られている。
計量史学会は、発足時小泉袈裟勝氏、鈴木和夫氏など計量研究所ならびに都道府県計量検定所等行政機関の関係者が役員として活躍していたことから、会員構成に占める元計量行政機関関係者の比率が高い。会員構成は度量衡史研究家、縄文時代等古代史の研究家、江戸期のはかり座の研究家、度量衡器のコレクションと研究家、科学史・技術史の研究家、先端的計測技術の研究家・技術者など多方面に及んでおり、現役の大学・高校等の教員、公務員も多くいる。
同学会は組織規模と研究活動の体制が小さかったころの名残で役員改選の選挙を内輪的に実施してきていた。しかし今回は50名近い会員本人の出席のもと総会を開いて役員を選出した。新会長に就任する蓑輪善蔵氏は「私の計量史研究は著についたばかりであり、誇れるような研究はないが、今後は会員等関係の皆様と力を合わせて計量史研究を盛んにすると共に、自分自身の研究でも何物かを残して行きたい」と述べた。また「計量史は計量業務に関わる者であれば誰でもが取り付くことができるものであり、年会費7000円を納めれば計量史研究や計量史通信が配布される。そうした会誌に親しむことを通じて調査研究の足がかりがつくれると思うので、多くの人々に会員になって欲しい」と計量に関わる人々にメッセージをおくっている。
女性として横田茂子さんが役員に就任するが、女性の役員就任は初めてであり、これは学術会議の指針に沿うものである。監事に就任する横田茂子さんはとまどいを隠さないが総会後のレセプション会場では役員の大学教員らから励ましの言葉を贈られていた。
日本計量史学会会員数(2000年12月31日現在)正会員141名・団体、賛助会員1団体、準会員1名、名誉会員2名、以上計145会員。【会員数の推移】(設立1978年4月1日)。1978年4月1日=19名、1978年8月31日=86名、1979年2月28日=102名、1985年5月31日=100名、1989年6月20日=101名、1993年7月7日=104名、1995年3月31日=104名、1997年9月30日=114名、1999年3月31日=138名、2000年12月31日=145名。
▽日本計量史学会(〒175−0082、東京都板橋区高島平4−16−1、Tel・Fax 03−3979−9117
日本計量史学会は会員研究者の研究発表の場を増やすため総会に付随する研究発表会を開いた。発表者と研究内容は別項の9件で、各発表ごとに制限時間を超える質問がつづいた。
岩田重雄氏の研究によって縄文期の住居跡の柱跡から尺度を割り出す手法が確立している。岩田氏は縄文期にも「ものさし」はあったはずであり、その現物がいままで発掘されていないのは遺跡発掘の指揮者に「ものさし」を見つけだそうとする意識がないことがその原因であるとの考えられている。遺跡発掘において遺跡等の測長や遺物の質量計測の適正化が解決課題でもあるとも岩田氏から指摘されている。縄文遺跡の尺度をめぐるもう一つの研究事例発表に対しては数学者の高田彰氏からは、建物建設に当たって発表のような測長は技術的に不可能との疑問が出されるなど、今後の研究に役立つ議論が活発に交わされた。大隅亜矢子さんは、正倉院古文書から古代はかりの記述を発見しており、その内容を説明した。
@旧石器時代の計量−東アジアの営造尺と定量的計量の始まり−=岩田重雄
A縄文時代の尺度をめぐって=池谷信之
B「正倉院文書」にみる古代のハカリ=大隅亜希子
C金工後藤一門の基準花押−大判・分銅の「極判」を中心に−=西脇康
DS・LOCOCK一等書記官による日本の度量衡に関する議会報告=山田研治
E近代の天びんの技術特徴と度量衡雑誌の復刻=山下喜吉
Fダイヤゴナル目盛の手書きとその作業復元(ビデオ放映を含む)=
松本栄寿
Gpをセンチと読み、qもsもキロと読むことの弊害−算数・数学教育の観点から−=高田彰
H最近の収集品から−ものさし・ます・はかり−=野口泰助
日本計量史学会新役員
【会長】○箕輪善蔵
【副会長】○前田親良 ○山田研治
【理事】▽新井宏 ▽内川恵三郎 ▽川村正晃 ○菅野充 ▽黒須茂 ▽斎藤和義 ○沢辺雅二 ▽高田誠二 ○高松宏之 ○馬場章 ▽西田雅嗣 ▽西村淳 ○西脇康 ○松本栄寿 宮川徙 ▽横田俊英
【監事】○多賀谷宏 ○横田茂子
【顧問】○岩田重雄
(○印は新任、▽印は再任)