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    2004年2月1日(2524号)


■【アボガドロ定数の高精度化に成功】産総研が測定し国際機関で初採用 原子質量標準の実現に道

 (独)産業技術総合研究所計測標準研究部門の研究グループは、EUの共同研究センター標準物質計測研究所(IRMM)と共同でアボガドロ定数の高精度化に成功した。このデータは、科学技術データ委員会(CODATA)で評価され、2003年12月9日に、このデータに基づいて約200の基礎物理定数が全面改訂された。日本で測定した基礎物理定数がCODATAで採用されるのは初めて。また、アボガドロ定数の現在の測定精度は約7桁だが、あと1桁向上すると国際キログラム原器という分銅で定義されている現在の質量の単位が、原子の数を基本とする原子質量標準へと移行することが可能となる。

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 アボガドロ定数は、1モルの物質に含まれる原子や分子などの数のことである。この値から導き出された原子や素粒子などを扱う量子力学で用いられる定数は、特に重要なため、基礎物理定数と呼ばれる。多くの物理定数が、基礎物理定数に依存しているため、学術的な波及効果が高く、世界各国の標準を司る研究所でアボガドロ定数を高精度化するための研究が行われてきた。

 今回、産総研とIRMMが測定に用いたのは、シリコン結晶密度と格子定数(原子間距離)、モル質量(平均原子量)から測定するX線結晶密度法。産総研がシリコン結晶の密度と格子定数を、IRMMがモル質量を測定した。産総研は、数十ナノメートルの真球度で超精密研磨された質量1Kgのシリコン球の形状を数ナノメートルの精度で測定するレーザ干渉計(写真)を開発した。さらに、シリコン結晶の密度差を高精度で測定できる新しい計測技術を開発。その結果、結晶の密度を8桁という精度での測定が可能となり、アボガドロ定数の精度向上に成功した。産総研とIRMMは、この結果を米国の科学論文誌に発表し、CODATAで評価され、約200の基礎物理定数が4年ぶりに全面改訂された。

原子質量標準への期待

 現在、パリの国際度量衡局(BIPM)に保管されている国際キログラム原器は、すでに100年以上経過している。表面に吸着したガスなどの影響で、質量が徐々に増加。また、事故などにより原器の質量が変化してしまうと、再現できなくなる危険性がある。世界の研究機関で炭素原子の数や不偏的な定数を使って質量を高精度で再現できる方法が検討されてきた。アボガドロ定数を正確に測定できれば、国際キログラム原器という分銅で定義されている質量単位を原子質量標準に移行させることが可能となる。

 産総研(旧工業技術院計量研究所)がアボガドロ定数の測定に着手したのは、約30年前である。X線結晶密度法を用い、測定を開始した。1987年、シリコン結晶を極めて真球に近い球体に研磨する技術が開発され、結晶密度を高精度で測ることが可能となった。94年には、世界で最初に真空中でシリコン球の密度を測ることに成功。空気の屈折率の影響を受けずに密度を測定することで、固体密度の世界最高測定精度を達成した。さらに、結晶の密度差を高い精度で測定できる新しい計測技術の開発で、結晶密度を8桁で測定することが可能となり、アボガドロ定数を精密に測定する上で問題となっていた、結晶中の微小な密度分布を評価することができるようになった。

 97年には、X線干渉計による格子定数の測定に成功している。また、IRMMの協力を得てシリコン結晶のモル質量(平均原子量)を測定、02年に信頼性の高いアボガドロ定数の測定に成功した。

新技術への応用も

 現在、アボガドロ定数の測定精度は約7桁であるが、1桁向上すると原子の数を基本として質量の単位を決めることが可能となる。今回の成果は、基礎物理定数という人類共通の科学技術情報整備に加え、原子質量標準の実現に道を拓くものとして、注目されている。原子質量標準が実現されれば、現在の国際キログラム原器は不要になり、質量の定義が人工物から切り離され、不偏的な定数と結びつく事になる。 国際度量衡委員会(CIPM)は、アボガドロ定数をより精密に決定するための国際プロジェクトの設置を計画している。プロジェクトには、産総研のほか独、伊、英、米、豪の標準研究機関やEUの共同研究センター、ハーバード大学、ロシアの研究機関などが協力する予定。

 産総研が開発した固体密度の超精密比較技術は、シリコン結晶中の微小な欠陥の定量的評価にも使える。高集積デバイスのための新しい結晶評価技術への応用などが期待される。同位体濃縮シリコンはすでに量子コンピュータや高熱伝導材料の開発に応用され、基礎研究が進められている。

  2004年2月1日(2524号)


 

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