ジョンストンCIML委員長が東京と大阪で講演
グローバル計量システムが果たす役割とカナダの計量制度
カナダ製品の輸入者から質問・要望も
(独)産業技術総合研究所(産総研)の招きで来日したA・ジョンストン(Johnston)国際法定計量委員会(CIML)委員長が、東京(4月10日)と大阪(4月12日)で講演した。講演会は、産総研と(社)日本計量機器工業連合会(計工連)の共催。講演内容は「グローバル計量システム(MAA)が果たす役割及びカナダにおける計量制度−計量器製造メーカの成功に貢献」。法定計量分野における型式評価に関する相互承認合意(MAA)の重要性と概略を述べるとともに、所長を務めるメジャメントカナダ(Measurement Canada)の仕事の概要を説明した。カナダ製品の輸入者や電気計器の関係者などから質問もあり(東京会場)、充実した講演会となった。
A・ジョンストン氏
計量器メーカーなども見学
ジョンストンCIML委員長は来日中、NMIJ(計量標準総合センター)と意見交換をし、つくばと大阪の同所施設を見学したほか、神奈川、京都、滋賀にある計量器メーカーを見学し、意見を交換した。4月15日離日した。
講演は2部に分けておこなわれ、第1部はグローバル計量システム、とりわけスタートした、計量器の型式承認試験に関するOIML適合証明書の相互受入れに関する取り決め(MAA)の概要を説明した。第2部はメジャメントカナダの仕事の概要を述べた。
講演の概要は次のとおり。
法定計量は貿易の信頼性を高め、製造事業者に競争力を与える
ジョンストン委員長は法定計量システムが果たしている重要性に言及し「法定計量は国内取引の信用性を高めるだけでなく,益々に国際貿易における信頼感や世界経済における計量器製造事業者の競争力を与える要因ともなってきてい」ると述べた。
経済のグローバル化及び国際貿易の増加によって計量器製造事業者は競争にさらされており、「国際市場への参加も各国の特定の要求事項に適合」する必要があり、そのために「試験及び評価が繰り返されることによって、製造コストが増大し,製品化までに長く時間がかかるおそれがあ」ると指摘する。グローバル計量システムは、これに対する回答であり「国際市場への参加に対する障壁」や「国際市場向けの製品の製造コスト」を低減することができる。
MAAはコスト削減と試験の重複低減につながる
MAAはOIML加盟国を拘束するものではない。しかし「MAAの要求事項を満たす計量器は、すべての参加国の中で相互信頼宣言の中の要求事項との適合を明らかにするための各国独自の試験を行うことなく受け入れられるため、コストの削減との試験の重複の低減につなが」る。つまり計量器の型式承認試験のワンストップテスティングを実現する制度である。また、その国独自の要求事項にも対応しており「そういった要求事項に照らして試験を行うよう規定するために必要な自由度を備えてい」る。
MAAへの参加は相互信頼宣言(DoMC)に署名することによる。「最初の相互信頼宣言は,2006年9月に署名され」た。DoMCへの参加形態はOIML証明書を発行する発行型(受入含む)と、試験結果を信頼して受け入れる受入(利用)型がある。
R-76(非自動はかり)の発行当局は、日本、オーストラリア、中国、フランス、ニュージーランド、韓国である。「R-76の利用当局には、カナダ、ブルガリア、イスラエル、サウジアラビア、ロシア連邦、南アフリカ及び英国が含まれてい」る。
R-60(ロードセル)の「発行当局には、日本、オーストラリア、中国、フランス及びスイスが含まれてい」る。「R-60の参加当局には、ブルガリア、イスラエル、オランダ、ロシア連邦、南アフリカ、スイス、英国及び米国が含まれてい」る。
6月につくばでR-76/R-60の参加資格審査委員会開く
R-49(水道メーター)に関しては、2007年5月にデンマークで会合を開く。
2007年6月6・7日につくば市で、R-76/R-60についての参加資格審査委員会(CPR)を開き「昨年10月にCIML会議で承認されたR-76に対する変更を審査し,発行参加国及び利用参加国に対する新たな申請書を審査」する。
ジョンストン委員長は「国際勧告(Recommendation)」に言及し、国際勧告の使用は@貿易相手国間の要求事項を整合化し標準化、A新たな測定技術に対する要求事項の策定を促進、B法定計量機関及び計量器の製造事業者の両方に対してコストと手間の重複を低減、C使用者に技術情報をもたらす、D規制側、製造事業者及び使用者の間の対話を促進する、と述べた。
メジャメントカナダ(Measurement Canada)の仕事
「メジャメントカナダは、カナダで、測定に基づいて持ち込まれ、販売される電気、天然ガス、食品、石油製品、穀物、林業、魚介製品、金属、水、乳製品及びその他の多くの製品を管理する規定及び要求事項を管理執行してい」る。
カナダとアメリカの法定計量制度
アメリカはカナダの主要な貿易相手国の1つである。「カナダでは、政府が、度量衡法及び電気・ガス検査法の二つの法律に基づき全ての商取引に関わる計量を管理してい」る。「メジャメントカナダはこの二つの法律の施行に関する全てのプログラム及びサービス提供に責任を持つ唯一の政府機関エージェンシー」である。
これに対してアメリカは州が法定計量を管轄しており場合によっては郡が責任を持つ場合もある。
「米国計量会議(NCWM)がモデルとなる法規則を作成」し「州政府はそのモデルを使用するかどうかを決定」する。米国標準技術研究所(NIST)度量衡部がOIMLの米国代表。
「米国の国際勧告作成への参加や、NCWMが国際勧告の採択を個々の州に推薦するかどうかの決定を行ってい」る。
300名で広大な地域を管轄
「メジャメントカナダの管理者、検査員、車両運転者、承認技術者及び政策担当官を含む300名の職員は、900万平方キロメートルを超える広大な地域と3200万人近い人口にサービスを提供してい」る。3つの地域に分けて管轄している。従来は5つの地域であったが、予算と人員の削減により2007年4月から3つになった。
メジャメントカナダのクライアントは多岐にわたる。▽計量器の製造事業者▽小売り段階及び商取引段階で操業している計量器所有者▽電気及び天然ガス公益企業▽メジャメントカナダに代わって計量器の認証を行うための認定を受けた企業▽不正確な測定を入手したとの疑いを持つ企業及び消費者。
メジャメントカナダは国内要求事項の基盤として国際要求事項を採用している。これにより主要取引相手国と国内要求事項との整合性をはかることができ、手間の重複を低減している。
MAAへの参加
「メジャメントカナダは,非自動はかりのOIML−MAAの利用参加機関の1つで」ある(前項参照)。
アメリカと2つの相互受入
メジャメントカナダは米国と2つの相互受入れ取決めをしている。「1つは,特定の型式のはかり(スケール)、もう1つはガソリンディスペンサを対象とするもの」。これらにより「どちらかの国で実施された試験は,もう一方の国でも承認され」る。
電気・ガスメーターの認証はサンプリングで
「メジャメントカナダは、サンプリングを通じて、電気メータ及び天然ガスメータの認証を行ってい」る。「あるロットのサンプルメータが要求事項に適合していることが分かった場合、そのロット全体が認証され」る。
再検定期間を定めており、検満メーターをサンプリング検査し、誤差が許容値以内に納まっていれば、使い続けることができる。電気メーターで長いものでは30年以上使われているものがあるが、このやり方で機能している。
認定した外部サービス機関の活用
メジャメントカナダは「緊縮予算での運営、計量器の型式承認や検査サービス及び標準器の校正業務に対する需要の増加、そして、取引の際、計量を必要となる業種の増大」などに対処するため、認定した外部サービス機関を活用している。これによりメジャメントカナダは「問題の所在が明らかな、あるいは、問題が起こりうると思われる分野に資源を集中的に投入することができ」るようになった。また外部サービス機関の活用で「計量器の適正計量を保証する能力を高めることができるようにな」った。
いわゆる丸投げではなくメジャメントカナダは「認定した外部サービス機関の技能を定期的に監視してい」る。
「認定プログラム及び登録プログラムの下で、メジャメントカナダは、厳しい基準を満たす民間部門に、政府に代わり計量器の検定を行う権限を与えてい」る。「例えば認定を受けた企業はISO9001に基づき品質管理システムを維持しなければな」らない。
代替サービス提供プログラムは、計量標準器認証プログラムによる「自社の電力量計制御装置や天然ガスの圧力や温度を測定する標準器及び寸法測定(例えば、プロックゲージやノギスなど)の標準器を認証」、「校正試験所評価サービス認定(CLAS)」(CLAS試験機関はISO/IEC17025認定を取得)、「電力量計の製造メーカーは認定試験機関による試験結果を承認申請書の一部として申請」できる、などで活用されている。
オンタリオ州で遠隔自動検針できる電気計器への取り替えが始まった。400万の家庭と施設が対象である。
東京会場の質疑から
東京の講演会の質疑からいくつか紹介する。
R-76に関してMAAの発行参加者になるつもりはない
カナダからの輸入製品を販売している愛知県のはかり関係企業から、カナダで型式承認を取得して輸入し、日本でも型式承認を認めてもらいのだが何とかならないかという質問が出た。これに対してジョンストン氏は、カナダはR-76(非自動はかり)に関してMAAの発行参加者になるつもりはないので難しいと回答した。
その国の独自要求事項は要求国が検査
また、逆にカナダが輸入する場合に、カナダ独自の要求事項がある場合にはカナダでその要求事項に関する検査をすることになると答えた。
型式承認試験結果のアメリカ側の受入に関しても質問が出たが、私はカナダでありアメリカではないので確答はできないとしながら、難しい部分はあるが基本的には受け入れることになっている、現在の段階ではR-76などダメな部分もある、と回答した。
サンプリング検査方式の信頼度は高い
電気計器の検定などをしている機関から、(1)電気計器の検定は家庭用も産業用も全部サンプリング方式でやっているのか。消費者などからのクレームはないか、(2)「Verification」と「Certification」はどう区別しているのか、との質問が出た。
ジョンストン氏は(1)に関して、ISOの統計プログラムを使って機種別にサンプリングしている。認定を受けて電力会社が自社でサンプリングテストを実施することもできる。この場合、その内容をメジャメントカナダで確認している。民間への丸投げではない。
消費者などからのクレームだが、このメーターはもう10年も検査されていないといったものはある。しかし同時に、同じくらいの人が、この忙しいのにサンプリング検査に当たってしまったという苦情を言っている。検査結果がおかしいという苦情は少ない。信頼度は高い。統計情報もとっている。
全数検査のコストとサンプリング検査のコストを比べると、サンプリングのほうがよい。
スマートメーターへの切り替えには苦情多い
先ほど紹介したオンタリオ州で遠隔自動検針できる電気計器(スマートメーター)への取り替えへの消費者からの苦情は多い。なぜなら費用は消費者が負担するからだ。月間で約8ドルから9ドルが従来の電気料金に上乗せになる。従来の計器でも何の問題も起こっていないのに、という苦情も多い。また新メーターへの取り替えがエネルギーの削減につながらないとみている人もいる。
(2)に関しては、カナダでは同じ意味で使っている。計量器の精度を担保するプロセスである。
|