計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2018年2月  4日(3181号)  11日(3182号)  18日(3183号) 25日(3184号)
社説TOP

日本計量新報 2018年2月4日 (3181号)

神鋼素材は計測器性能に影響がない

神戸製鋼所の製造データの改ざん・偽装が201710月に発覚したことで世の人の気持ちは恐慌をきたした。この時点で改ざん・偽装は数値に手心を加えたほどであるようすがみえていた。神戸製鋼所の製造素材が加工製品の性能や安全に支障をもたらすことがないことが予測された。改ざん・偽装は100であるべき強度数値が50ほどでしかないように思わせる報道がなされたので人々は大慌てした。100の数値の末尾が001といった程度の検査データの改ざん・偽装であるから素材強度の安全率を考慮すれば痛くはない。

トヨタ自動車は神戸製鋼所から仕入れた品質データが改ざんされていた製品の全てで安全性を確認したことを2018117日に発表した。神鋼が保有していた偽装前のデータを使い、車両の品質や性能が社内基準を満たしているか検証したその結果である。トヨタ以外でもホンダや三菱自動車、スズキ、ダイハツ工業も品質データが偽装されていた製品すべてで安全性を確認している。トヨタは仕入れ先が海外で購入していたアルミ押し出し品、銅管や鋼線などの安全性を今回、新たに確認した。これによって神戸製鋼所の品質データ偽装対象となった素材すべてが安全圏にあることが確かめられた。

強度などのデータ改ざんが最初に発覚したの201710月のアルミ製部材であり、その後に鋼線など他の製品でもデータ改ざんが明らかになった。神戸製鋼所が得意とする分野である。トヨタは201710月ボンネットなどに使っているアルミ板の安全性を確かめた。同年11月には国内で購入したアルミ押し出し品、銅管や鋼線などで安全性を確認している。また川崎重工業は20171027日に自社の二輪車の車体部品に不適合品を使用していたことを明らかにする一方で製品の性能や安全性に影響はないことを発表していた。
2018020

 神戸製鋼所の金属素材によって製造した自動車ほかの製品の安全に支障がないことが確認されたことで一般の人々の恐慌状態が解消された。データ改ざんとか偽装という言い方で取り扱いされた神戸製鋼所の金属素材のデータ表記はどういうことだったのか。自らが許容とする品質の定め方に無理があったのだ。許容値を超えた計測データは許容値の範囲にデータをいじることが長年おこなわれてきたと伝えられる。ある厚みまたは太さの素材で強度に不安がある場合には厚みと太さを大きくすればよい。また品質規定はそれを満足できる範囲で定めるのがよい。無理のある品質表記を定めたことがもたらした製造データの改ざん・偽装であった。

神戸製鋼所は、鉄鋼では新日鉄住金、JFEスチールに次ぎ国内3位、アルミではUACJ(旧古河スカイ)に次ぎ、国内2位の大手メーカーである。主力の鉄鋼事業の不振で神戸製鋼所は20173月期まで2年連続赤字決算だった。20183月期は3年ぶりの黒字決算を見込んでいた。これが一転し総額で100億円ほどの赤字になることを発表した。実際にはこの金額を超える。

金属素材製品の品質データをいじることが継続してなされたことがもたらした代償は大きい。ある確かさ、あるいは求められる確かさで計測し計測結果を検証する。計測結果に疑問があればその原因を突き止める。そして確かな計測値を求める。計測値が確かで、製品の品質が十分でなければ品質規定を製造技術など現状にあわせるのがよい。計測値が品質規定から外れているときに品質規定にあわせて計測値をいじってしまうことが常態となっていたのが神戸製鋼所の製造データの改ざん・偽装であった。

トヨタが素材製品が安全に及ぼす影響がないことを確認して公表したが、計量計測機器のある大手メーカーでも神戸製鋼所の素材製品を検査して計測機器の性能に影響を及ぼさないことを確かめている。

のぞましい方法で計測をして確かな値を求める。当たり前のことだがこれがなかなかできない。旧計量研究所の第4部長をしたのちに通産省計量教習所の所長をした人が語った。公平な第三者が計量器の検定をするのと製造者が検査をするのとでは実際には値が違ってくる。ここに公平な第三者が検定する意義がある。悪い冗談のような事例を次にあげる。ある県の検定所職員がハカリメーカーに検定にやってきて、仕事を始めるまえに「さあ、今日も落とすぞ」と掛け声した。メーカーの立場からは許せないということで抗議をしたら謝ったという。一定の比率で検定に不合格となる器差の品物があった時代のことである。

規格を定めて計測の許容範囲を決めて自前でそれを確かめる行為を公平な第三者の立場で公正になすことは容易ではない。企業の売上や会計処理においても数字のやりくりをしているうちに社会には認められない処理をする。不正会計だ。数値を自己に都合のよいように取り扱いたくなるのは人の心の弱さの現われである。正しく計ることの大事さとあわせて出てきた数値を受け入れる素直さがなければならない。

日本計量新報 2018年2月11日 (3182号)

社会の計量の安全の確保は住民サービスの基礎

20代と30代のある女性が訴えた。私はこの仕事が好きなんです。だからずっと働き続けたいんです。どうすれば辞めなくてすみますか。ある人が答えた。「パソコン業務に精通することだ」と。40代の女性が勤めていたところは、会計帳簿は手書き記載であった。いずれも関東地区の計量協会の事務局員である。20代の女性は協会の収入が減ったために退職した。30代の女性は病気のため仕事の継続が困難になった。40代の女性は会計処理をコンピュータでするようになったのと協会の収入が減ったので退職を求められた。

地方計量協会に勤務する人のことである。65歳で大企業を退職して週3日働く。3日の勤務で業務を処理できないと言っていて休みなしで業務する。普通の人の勤務が週5日なのに週3日契約だが7日働く。同じ年齢で協会事務局長の要職を非の打ちどころなくこなしている人がいる。週5日の勤務だ。予算の確保と指定定期検査機関としてハカリの検査ほかに全力で取り組むと休日は寝たきりになる。県庁の事務職員であった人だ。役所で熱心に仕事をした優秀な人である。計量協会の職員と会員からの信頼が厚い。65歳の2人は地元の有名高校から旧帝大などに進んだ英才である。

地方計量協会に勤務する5人のようすを取り上げた。協会は計量器販売事業者の会員が減った。製造・修理などの会員の減少も著しい。20年前の会員数の半分以下である。30年前に比べたら4分の1ほどだ。それ以上のところもある。計量器の検定にともなう証紙の販売手数料で女性事務局員1人の給与が賄えた。会費収入と役所などからの事業補助によって事務局長の給与がでた。これが計量協会の財政であった。計量器の検定がメーカー自己検定になったために証紙収入が消えている。会費収入も200に満たない会員数であることが多いためきびしい。正規雇用の事務局体制が崩れているところが大半である。
20180211
 外目には計量協会の事務局があるようにみえる。ハカリの指定定期検査機関に指定されて県内のハカリの定期検査をほぼ全て実施していることで、この関係の職員がいるからである。計量検定所や計量検査所などの業務の主要部分であるハカリの定期検査業務が地方計量協会に移っている。ハカリの定期検査の実務が地方計量協会に移行したことで何がおこっているのか。

10あった行政費がはじめは9になった。その後に5になった。地方の計量行政費が半分になったのである。半分になった計量行政費でそのほとんどとといってよいハカリの定期検査を地方計量協会が実施している。役所には計量行政職員が少しいるだけになった。兼任事務の体制を敷いているところもあるので、いないともいえる。計量行政の専門知識をもつ職員が地方公共団体にいない。そのような状態で指定定期検査機関に指定された地方計量協会が従来の半分の費用でハカリの定期検査業務をおこなっている。ハカリの定期検査の業務を地方計量協会などがおこない、役所のほうはもぬけの空になった。

そのような事情だから週3日勤務の職員が休日なしで働く。また役所にいた人が役所にいたころの何倍も働いて心身をすり減らす。そのような状態でも役所の人は<RUBY CHAR="暢気","のんき">だ。定時に出勤し定時に退庁する。指定定期検査機関の職員は年齢と経験にともなって給与が上がることがない。指定定期検査機関の指定にともなう費用は上がらずに下がるだけだからだ。夜と休日には別の仕事をして生きている。計量法のハカリの定期検査は運用の実態を直視すると壊れているではないか。

計量協会の会長など幹部役員は自社と地方公共団体の関係を悪くしないために役所の要望に応じる。何だかんだといいながら役所の意向を受け入れる。そんなことをするつもりはないといっても体質なり構造がそのようになっていて、5年、10年、20年の期間を通じるとそのようになっている。おもんばかりが働く構造なのだ。ある地方公共団体は計量検定所と計量検査所の業務の分掌を「一本化」という言葉を用いて処理した。市の計量行政をなくしてしまった。地域に密着して行き届いた計量行政としての計量事務をおこなうのが計量検査所などの設置意義であった。別の地方公共団体では30人いた計量検定所職員が5人ほどに減員された。人が減れば計量行政実施の知識と技術と意欲と工夫が削がれる。市の計量行政を捨てた地方公共団体は県の計量行政も知識と技術と意欲は細るから、指定定期検査機関業務実施の費用は無残な状態になる。行政を崩すのにさまざまな目くらましの言葉が使われる。誤魔化されないだけの計量行政への理解と知識と意欲を養うことが大事だ。

計量行政は小規模県であれば保育所1つ分ほどの行政職員で運営されていた。多いか少ないかは別にしてこの規模ほどの計量行政の運営費と人員を確保できないことがあってはならない。計量行政は直接に住民サービスをおこなうのではないが県民などの計量の安全のための基礎としての働きをする。計量行政を切り捨てることは飢えて窮した<RUBY CHAR="","たこ">が自らの足を順次食べていることと同じだ。計量行政をないがしろにすることは住民サービスの基礎を捨てることにつうじる。計量行政に真っ当な費用を当てるは社会の正義である。予算を編成するにあたって賢い人、賢い計量行政職員はこのことを良く知っている。

日本計量新報 2018年2月18日 (3183号)

計量検定所長の仕事は検査機関運営費をたっぷり確保すること

計量器の販売規制にはいくつかの改変があった。当初は免許制であった。のちに登録制になり、現在の届出制になった。届出制の現在は1枚の書面に必要事項を書きこむだけである。更新の手続きはない。登録制時代には更新手続きのために計量協会が業務を代行し更新のための講習受講が義務になっていた。免許制は酒屋などに似た特権があった。

家庭や普通の事業場で使うハカリは電気式になってしばらくすると値段が急落した。大規模小売店であるホームセンターが店舗数を増やすと金物屋が立ちいかなくなった。金物屋、薬局、文具店でのハカリ販売は減る。金物店と薬局は計量器販売の免許制、登録制の時代から計量協会の会員でありこの両者が過半であった。体温計販売の登録規制がなくなると薬局会員は協会から抜けた。協会の半数が薬局会員であったところは多い。紙1枚を提出すればよいだけの届出制になると金物店会員あるいはハカリが併売品の一部でしかない会員が抜けるようになった。ハカリ販売により利益が少なくなったことも一因である。

地方計量協会における販売事業会員の年会費は協会により異なるが、約3000円ほどであり、集金に回って集めるということが慣習になっているところが多かった。いくつもの県では販売事業者のためといってよい協会支部があったが、販売会員の減少にともなって解散している。昭和60年代には販売登録事業者の会員は半減していた。登録制時代には数百名あるいは千数百名の販売事業者会員がいることは普通であった。北海道計量協会は4000近い会員数がいた。今では300名を超える会員がいる協会は珍しい。

1993(平成5)年に新計量法でメーカー自己検定の指定製造事業者制度が発足した。電気式のハカリのほとんどが指定製造事業者制度によって検定されるようになった。血圧計と電気式体温計は指定製造事業者制度でメーカー自己検定されている。ガスメーター、水道メーター、電力量計や燃料油メーターも同様である。地計協は県などから証紙売りさばき人の指定を受けていて、その手数料が計量協会の収入源の1つであった。手数料だけで1000万円の減収が生じる地計協があり、会費収入の減少と併せたダブルパンチでノックアウト状態に陥った。
20180218
 会費収入で計量協会の事務運営は賄えなくなった。計量協会の名前があって事務局があり人がいるが、その実態は都道府県からハカリの指定定期検査機関に指定されて、ハカリの定期検査を実施する組織である。運営にあたっての検査関係要員の処遇は、さまざまな名目で役所が補助している運営費によって決まる。検査要員の給与は今年より来年は減額されるという状態が続いていてまともな状態ではない。

昭和20年代の中ごろ日本一の検定所長といわれた安保浩二氏は50から60人いる検定所の予算をたっぷり取ることが仕事だと公言していて、その後の職員の成長を見守っていた。いまの時代では検定所業務への知識も誇りも自信も持ち合わせていないために「合理化」の攻撃に負けて指定定期検査機関への業務運営費などの削減にはしる計量行政当事者が垣間見える。その「合理化」をその後の自己の処遇改善と引き換えにする者がいるから油断できない。

日本計量新報 2018年2月25日 (3184号)

学校は記憶容量とアプリケーションを確認するところ

世界の経済は穏やかな均衡を保っており、そよ風が吹く状態だと形容される。貨幣である金の実態に対して米国が過剰に紙幣を印刷・供給し、中国も似たようなことをしているように思われる。日本の場合には縮小する経済規模を押しとどめるために通貨供給量をむやみに増大させている。米、中、日と欧州などの経済の動きが日本の株価市場に反映してバブル期の株価水準に近づいている。株式市場にお金を投じている人はみな利益を出しているというのがこの道に通じた人の言葉である。

 新卒者の雇用は増えている。しかし新卒者は勤めて数年で転職する時代だから間に合わせの不満足な勤務をつづけていることになる。

世の中理屈っぽくなっているなと感じている。東大と京大の卒業者の人気企業をみてなんとなくそれがわかった。2019年春卒業予定の学生を対象にした調査で最も人気が高かったのはマッキンゼー・アンド・カンパニー次いでボストンコンサルティング・グループ(BCG)。さらにアクセンチュア、ベイン・アンド・カンパニー、AT・カーニーなどがつづく。「外資コンサル会社」の人気が圧倒的だ。同様に三菱商事にも人気が集まる。商社人気は好調な業績と高いボーナスである。

マーケティングやロジカルシンキング文化で有名なPGは、企業方針に「リーダーシップ」「オーナーシップ」「勝利への情熱」を掲げ、若手にも裁量権を持たせて自己成長の機会を与えている。こうした社風も東大・京大生には魅力に映る。日系の大手企業を志望する学生の意識は二極化している。定年まで働くつもりで入社する学生と、23年で転職や独立することを前提にしている学生がいることだ。そして後者のほうが増えている。大手企業に入るのは次にステップを踏むためのファーストキャリアとして捉えている。あるいは現時点ではやりたいことが見つかっていないので可能性を最大化するためである。

階段をのぼるにつれて仕事の振り分けが決まり人生の予測がついてしまうというのが日本の学校制度である。その学校制度をどのように理解すればよいか考えた。コンピュータにたとえれば記憶容量とソフトウエアとしてのアプリケーションである。この修得の訓練を学校でする。記憶容量が小さいものは聞こえが高い学校に進めない。
20180225
 理学や工学のアプリケーションが備わっていないものはこの専門分野では働けない。のちに修得するという方法もあるが企業はそれを受け付けない。

法律や経済や商業や文芸などの分野のアプリケーションはセールスとか営業とかのアプリケーションとしてとらえられているようだから、超有名校の卒業者以外は営業の下積みから仕事を始める。その後に総合力を発揮して栄進する人は少なくない。

「リーダーシップ」「オーナーシップ」「勝利への情熱」といった聞こえのよい言葉による企業方針があってもこれをまともに実行できる人は少ない。企画と構想の力を持たない、自分の仕事だとは思っていない、情熱に似たものはあっても形にできない、といった人がほとんどである。

衣食住のうちで食べることは健康の基本であるのに、まともに食べることよりも副食物が健康をつくると思わされている日本のヘンテコな状態があり、有名食品企業と製薬会社はこの方面に力を注ぎ稼いでいる。その情熱と力を日本の未来をつくる分野に注げないのでは勤めがつまらないし、産業と経済の先が危ぶまれる。

このページのTOPへ

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.