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2020トップインタビュー

株式会社田中衡機工業所 田中康之社長に聞く
IoTプラスAIで育てるはかりへ

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2020年7月1日 (3295・96号) 6〜7面掲載

IoTプラスAIで育てるはかりへ


◎協業で養豚の自動最適化システムを開発

 

――貴社の新規事業に関してお聞かせください。

■養豚関係で自動化のニーズが増えている

 一つは畜産関係です。当社は昔から豚用のはかりを畜産農家向けに作っています。15年ぐらい前に、畜産関係の設備を手がけている業者に、自動ではかれる「オートソート」式のはかりを作って欲しいという依頼を受けました。

 そのはかりはあまり売れない状況が続いていましたが、ここ数年、少しずつ売れるようになってきましたので、新しいニーズが生まれていると思います。

 養豚農家の数は昭和50年代には約27万軒ありました。それが、現在は5000軒を切る状況です。反面、養豚の生産量は増えてきています。これは経営の集約が進んだということです。

 さらに、2050年に向けて労働人口が減っていくなかで、養豚業で働きたいという人はなかなか出てきません。ですから、養豚作業をさらに自動化していかなくてはならないというニーズが増えています。

 そういう中で、15年前から改良を続けている「オートソート」式の自動はかりがベースになりました。

■豚を2人掛かりではかって出荷

 豚舎では現在、豚は小部屋で飼育しています。1室に10〜30頭くらいの豚がいます。

 この部屋で成長した豚を、はかりで体重をはかって出荷します。はかりを豚房の通路に設置して、2人掛かりではかっています。

 多頭計量という方法もあります。各部屋の豚を一気にはかります。

 通路に簡単に設置できるハンディータイプのはかりもあります。指示計からBlueToothでクラウドにデータを上げられ、作業を効率化できます。水洗いも簡単にでき、1人で操作できます。




■大群飼育用のはかり

 新しい飼育法が出てきています。大群飼育という飼育法で、これまで小部屋に分けていた豚を全部大部屋に入れてしまうという考え方です。一部屋に数百頭の豚がいます。

 豚が体重計を通過して餌場に行きます。基準以上の体重になった豚は自動的に振り分けられて出荷場へ行くことになります。

 豚を追い込むのではなく、餌場に行くときに自主的に通過するので、こちらの方式の方がアニマルウェルフェアに合致しているといえます。アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされ た、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方です。

■出荷選別作業が効率化

 この自動はかりによって出荷選別作業が効率化できます。何kg以上を何匹という設定をするだけで出荷場に短時間で自動選別されます。

 これまでは月齢によって一律に出荷していましたが、重たい豚から出荷できるので、出荷する豚の平均重量がアップしますので、売上が増加します。

 また、豚も人も計量作業ストレスの軽減につながります。

■映像で豚の体重をはかる

 新しい取組があります。それは、映像で豚の体重をはかるということです。これはいままでのはかりとはまったく考え方が異なることになります。



■成長過程の見える化

 出荷時の体重測定だけではなく、子豚から出荷体重まで成長の過程を見える化し、肥育の最適化を実現したいと考えています。

 ただ、子豚の時は、餌場に行くゲートが常に解放されています。それは、豚はストレスに弱く、とくに子豚がゲートを通るのはストレスになるからなんです。ですから、大部屋に入ってから出荷されるまでの成長データがないんです。

 そこでわれわれは、子豚の段階から出荷までの段階、成長の過程を画像で撮っていくことをやろうとしてます。

■ビッグデータを収集

 カメラをはかりに設置することで、AIでいうところの教師データがいっぱい採れますので、この教師データを使ってAIで体重分析ができるソフトを組んでいるところです。

 月に数千データ、年間数万データが1台のはかりで採れますので、現在稼働している数百台のはかりにカメラを設置して、データを収集していきます。豚の種類や環境条件なども併せてデータの収集を始めています。

■カメラで体重管理

 大きな豚舎ですと大部屋が何十もあるということになりますので、体重をはかるはかりは必ず1カ所は必要ですが、それ以外はカメラで体重管理ができるということになります。


■AIで畜産の自動化を目指す

 子豚の成長過程を見える化すると同時に、環境条件や、餌の管理、空調の最適な管理が可能になります。

 空調メーカー、飼料メーカー、設備メーカー、などいろいろな企業や大学が連携し、AIシステムを構築して畜産の自動化を目指したいと考えています。

 餌や環境の最適化で肉質の向上と体重のばらつきを抑えることが可能になります。

 重要なことは、データを集め続けるというしくみを構築して、豚に関する肥育のデータベースを作ろうとしているところです。

 田中衡機工業所には独自の高速IoT「スマートセンサ」がありますので、これを活用していきます。

■チームを組んで

 これらを推進するチームの一つにEco―Pork(エコ・ポーク)という会社があります。豚舎の管理をしているので、さまざまな豚育成データを持っています。

 また、リバネスという会社は、農学・疫学知見を持っています。

 田中衡機工業所は、IoTデータの取得で貢献できます。重さの管理はすべての基本になりますから。

 大学の研究所に対して、研究の場の提供もやろうとしています。

■将来的にはデータビジネスも

 最終的な枝肉の情報も関連づけたいですし、ビッグデータの収集とAIによる解析によるデータビジネスも見すえています。


■はかりの修理方法を伝受

 農家の設備担当者を教育することもやっています。豚舎ではかりは壊れます。ケーブルは囓られる、糞尿で絶縁不良が起こったりと、豚舎の環境はあまりよくありませんので、はかりは故障します。

 当社の本社にトレーニングルームを設けて、農家の設備担当者を対象に、はかりの基本的な修理のやり方を教えています。

 農家の設備担当者が自分で修理できるようになると、部外者が豚舎内に入らなくて済むので、衛生面が格段に向上します。養豚では豚熱の感染の恐れなどがありますから衛生面には、本当に気を遣うところですし、管理マニュアルに沿って厳密に実施しなくてはならないですから。

 また、担当者から使いやすいしくみに関してのフィードバックを得て、製品の質を上げていくことができます。情報交換会などもやりたいと思っています。

■農水省の先進事業にもチャレンジ

 また、農林水産省が先進農業に関する「スマート農業実証プロジェクト」にも採択されました。複数企業でチームを組んだプロジェクトのため、色々学びながらチャレンジしようと考えています。

◎デジタル船上スケールを開発

――さまざまな製品開発も進められていますね。

■船上で正確にはかりたい



 最近、船の上で精度よくはかれるデジタルはかり「デジタフオーシャン」を開発しました。

 大市場というわけではありませんが、ニーズはありました。たとえば沖合漁業で、国の水域の境界線をまたいで漁業者が操業する際には、定められた割当量を超えないように漁獲量を洋上で申請する必要があります。港に着く前に、船上でも、取り扱いが簡単なデジタル式での計量を近年は求められる傾向にありました。

 しかし、これまで船の上では機械式の規格台ひょうが使われていました。ほとんどが当社の製品です。

■デジタル式のはかりは使えなかった

 なぜかというと、船の上は揺れるので、機械式はかりは使うことができるものの、デジタル式のはかりだと加速度が変わるので数値が大きく揺らいでしまい、正確にはかれなかったのです。

 アイスランドの企業が「マリンスケール」という商品名で、デジタル式の船上はかりを開発しています。
しかし、高価で壊れやすいので、あまり実用的ではありませんでした。多くの漁船に搭載できる価格帯で、求められる精度を実現している船上スケールはないのが現状です。

 しかし、はかる必要がそこにあるならば、はかってみせようと踏み出すのが田中衡機工業所ですので、ここから開発メンバーの試行錯誤が始まりました。

 水産研究・教育機構の協力も得て、調査船で試作機を遠洋へと送り出し、データを取得するなどして、計量性能を検証しました。

 現在、大型漁船の漁獲高の報告などは船の上からデータを送っていますが、これは実際にはかりではかったものではありません。タンクがいっぱいになった何トンだというような計算で出しているものです。
 
それ以外は、水産物の質量は販売額を左右する重要な指標として高い精度が要求されるため、水揚げした後に港で計量するのが一般的です。

■魚の養殖管理にも活用できる

 また、魚の養殖も揺れるところでやっているので、養豚と同じように、魚の重量のサンプリングや、餌を与える量や配合の具合をはかることにも使えるのではという感触もありました。

■低価格も実現

 これを同等の性能のはかりを、船上で使えるようにし、さらに低価格を実現しなくてはなりませんから、試行錯誤の連続でした。

■独自の「揺動補正方式システム」を開発

 搭載するセンサーから変更し、計量値を計算するプログラムを一からつくり、船のエンジンによる振動対策も施した「揺動補正方式システム」を開発しました。2018年冬には特許も出願しました。

 量産モデルを10月ぐらいには出せるのではないかと考えています。

 水産業界といっしょにさらによい製品にしていきたいと思います。

■はかり技術を中心に、新しい仕組みをつくる

 養豚用の自動はかりもそうなんですが、田中衡機工業所は、はかり技術を中心にして、それをいろいろな形、これまでになかった形で活用できる仕組みや製品をつくっていきたい、深掘りしていきたいと考えていますので、船上スケールもそのきっかけになると考えています。

 漁業関係で、機械式からデジタルへというきっかけになったのが「デジタフ」という漁港で多く使われるはかりでした。

 港ではだいたい規格台ひょうが使われていました。箱に詰めた魚をドンと載せてはかるわけです。港では使い方が荒いので頑丈な機械式のはかりが向いていました。

 この頑丈さを受け継いでデジタル式にして使いやすくしたのが「デジタフ」です。
 
 ボタンを押すと魚が入ったカゴを自動で持ち上げてはかるデジタルはかりも開発しました。計量にかかる時間を大幅に短縮できます。

■デジタフNEO



 「デジタフNEO」というはかりがあります。オールステンレスの防水型のデジタルはかりです。台車がついているので、作業場所を選びません。どこででも魚の計量ができます。各港で多く使っていただいています。

■国産へのこだわり

 田中衡機工業所では、なるべく国産でいきたいということで頑張っています。台はかりは、海外生産品も多くありますがが、当社は国産にこだわっています。

■パーフェクションスケールPF10



 「パーフェクションスケールPF10」という台はかりがあります。これも国内生産の最新の台はかりです。国内生産による高品質がセールスポイントです。「壊れないものをつくる」という思想です。


◎競争から協力へ


■われわれができることは何だろう

 当社が活動しているのはニッチな市場だと思いますが、逆に言えばあまり競合がありませんので、われわれができることは何だろうということを考えて、それを実行に移していけるということはあります。

■自動化の推進

 これから人口は減っていきますので、修理なども自動化を進めて、長い眼で見て人手がかからないものにしていく必要があると思います。

 はかることで自動化していかなくてはならないことというのは、まだまだいっぱいあります。

■目標が明確に

 他の企業がやっていない分野を見いだし、そこで困っている問題を解決していくということで、われわれの組織としての目標が明確になっていくと思います。

 一方で、一社だけではどうにもならないということも実感してます。

■他業界、研究機関と協力して

 養豚の自動はかりを開発していく中で実感しましたが、他の業界の人たちや、大学や国の研究機関と協力しながら、われわれがなすべきことを果たしていくことが必要です。

 AIとかIoTというのはこれからますます進展していきますので、自動化の世界は、これまでの競争から協力へということで、プラスαにしていくことが重要になります。

 他業界と協力していくことはまだまだありますので、おもしろい状況になってきたと思っています。

■お客様が繋いでくれた

――新しい方向性のヒントはどこにありますか。

 各種の展示会などを利用した情報収集などには力を入れています。

 今回の養豚事業の最適化事業では、きっかけは1件の農家からの相談への対応です。海外から輸入したはかりが故障したのでなんとかして欲しいというもので、修理対応しました。

 話を聞いてみると、そのはかりを使ってシステムを組んでいたのがEco―Porkという会社でした。それがきっかけです。

 当社が描いていたデータベースなどの考え方を、彼らも彼らなりに考えていて、考えていることが共通なので、では一緒にやりましょうという話になったんです。

■お客様が必要とする正しい精度を提供する

 いわば、お客様が繋いでくれたんですね。

 そこには、お客様が必要とするのは「はかり」という機械では無く正しい計量精度です。正しい計量精度を提供する事が田中衡機工業所の仕事だという事が前提にありました。


◎ベトナムの過積載問題に貢献


■過積載を自社技術で改善できないか

――「新潟の「はかり」技術が、ベトナムの過積載問題に貢献、海外で本当に役立つ技術とは?」という表題で、貴社が、外務省のwebサイトで紹介されましたね。

 これは、ニッチな市場で、われわれができることは何だろうということを考えた実例といえますね。

 私は、2008年頃からベトナム工場開設を目的に、頻繁にベトナムを訪問するようになりましたが、何よりも目につくのは、人や交通量の多さ、そして事故の多さです。特に事故の原因となっている現地の過積載の問題の深刻さは、想像以上でした。実際に被害にあっ た人たちを目の当たりにするにつけ、はかり屋として過積載の問題を自社の技術で改善できないだろうかと強く感じたのがきっかけです。

 過積載の問題に対しはかり屋として具体的に何かできないだろうか?と考えていた頃、ベトナム運輸交通省の道路局から問い合わせが来たことがきっかけで、自社の技術を信じて過積載防止のコンペ案を提案しました。

 国道の計画や維持管理をしているベトナム運輸交通・道路総局に、走行計量システム(Weigh in Motion:WIM)を提案したのです。ベトナム国内で製造し、ベトナムに残る技術を、一緒に開発しませんかといった内容です。コンペでは強力な競合会社がいたので、採用されるとは思っていませんでした。しかし、私たちの提案が採用されました。

 のべ6年間にわたって携わってきたプロジェクトで、実証実験では苦労の連続でしたが、ベトナムでは、
それまでほとんど過積載車両を検挙できなかったのですが、私たちのWIMを使った取締検証では、一晩で11台の過積載車両を検挙することができました。

■「何のためにこの仕事をしているのか」を大切に

 私たちの仕事は、事業継続のために、もちろん利益を出さなければいけませんが、もっと大切なのが「何のための仕事なのか?」ということだと思います。

 これからも、「何のためにこの仕事をしているのか」ということを大切に、皆で頑張っていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

 

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