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計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事>2022年NMS研究会座談会

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2022年NMS研究会座談会(リモート開催)
テーマ 「機能計測で技術開発をブレイクスルーする」

〈出席者


元東亞合成(株)                              中島建夫
クオリティー・ディープ・マーツ(責)    吉澤正孝
コニカミノルタ(株)                           田村希志臣
上杉技研                                        上杉一夫
(株)小松製作所                             細井光夫
東芝エレベータ(株)                        小川 豊
NMS研究会                ケン(ペンネーム)
キヤノン(株)                               吉原均(司会)


〈目次〉

◎技術開発とフロントローディング

◎製品開発の前にフロントローディングするメリット

◎技術開発と商品企画のタイミング

◎開発の手戻りはなくしたい

◎技術開発は自前でやらない?

◎産学連携と品質工学

◎実はロバストを先に決めて成功した青色LED

◎ロバストネス開発を技術開発のメインに

◎オールジャパンで技術開発

◎技術の価値の判断方法が一番のネック

◎先行性、汎用性、再現性

◎汎用技術の先取り例から

◎壁にぶつかったら壁を破らなければならない

◎エネルギー変換の生産性や効率で機能を測る

◎トータルの社会損失の低減

◎汎用的に目的機能を考える

◎技術開発を加速するには外部環境の変化が必要か

◎ブレイクスルーするスタートポイントに立つ

◎技術開発のブレイクスルーを、私自身の問題として考えたとき



 

吉原均(司会):みなさんこんにちは。ただいまから第282回NMS研究会を始めます。

 今回は恒例の日本計量新報座談会です。座談会は昨年に続きリモート形式ですがみなさんと議論を深めていきたいと思います。本日の参加者は、宮城県から広島までの広範囲に及びます。
 今回の座談会テーマは、「機能計測で技術開発をブレイクスルーする」です。このテーマを決めた際に、どう議論しようかっていうことで、みなさんがいろいろなキーワードを挙げました。
 技術開発にフォーカスするとか、ソフトで価値を創る時代のばらつき問題をどう議論するかとか、あるいはハードの次の時代は素材系がやってくるのではないかとか、これからの話などから技術開発について多くの議論の種があることが分かりました。その辺をさらに機能計測という品質工学の視点を重視しながら技術開発についてのブレイクスルーということで議論が進めば良いかなと思います。
 みなさん、まずは自由に、少し議論しながらいろいろなポイントをとんがらせていきたいと思いますので、よろしくお願いします。では、田村さんから口火を切っていただきたいと思います。

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◎技術開発とフロントローディング

田村希志臣:ケンさんやみなさんとやり取りする中で、フロントローディングという言葉が普通に使われるようになってきた、技術開発というステージの認識が共有化されはじめている、という話が出ていました。
 私もそうした変化を日々感じています。これについてみなさんは、どういう場面で変化を感じられていますか。

ケン:学会や地方研究会でフロントローディングの言葉が出るようになったと、感じています。

田村希志臣:言葉自体は、かなり以前からありましたよね。

ケン:ありましたよね。ただこれまでその言葉はあまり使われてこなかったと感じています。

吉澤正孝:1970年代より日本では品質管理が非常に活況でした。その中で経験してきたことですが、製品を開発し、設計・開発の最後の段階とか、生産の初期流動段階で品質問題が多く出ました。その結果として市場での品質問題が発生し、問題解決を行いました。
 品質管理を熱心に取り組んだ企業は、QCストーリーで解決していました。それはそれで効果がありましたが、開発の最終段階で品質問題が、非常に多く、それではまずいですので、設計の前段階でつくりこむ必要があるため信頼性管理などが盛んに導入されました。
 それと並行して、実験計画法が盛んに使われ、さらに進めて、商品企画の段階に品質機能展開などが開発され、製品企画段階で用いられました。  アメリカの品質管理と異なり、日本の品質管理は、市場、生産の問題から、生産工程の管理、設計段階の管理、そして製品企画の段階へと源流管理を行ってきました。
 現在ではフロントローディングと呼んでいるようですが、日本の品質管理は源流で未然防止に取り組みました。1980年代になりアメリカでも日本の品質管理の活動が知られるようになりました。
 フォード社が日本の品質の状況を分析し、品質問題は開発段階でとらえられた場合を1とするなら、製造段階では10、市場で対応すると100になるというように分析していたことを記憶しています。品質工学の創始者である田口玄一先生も80年の初期からアメリカの指導をずっとやられましたので、そういうことが浸透してきたわけです。
 赤尾先生のQFDも元ゼロックスいたClausing博士が、ハーバードビジネスにHouse of Qualityの記事が掲載されたのが、1988年ですから、QFDと品質工学のアメリカでの導入が始まった時代です。
 その論文には、アメリカと日本とで自動車開発の設計変更の比較をした図が示されていて、日本の設計変更は、製品開発の源流段階で終わっている有名な図が掲載されています。当時、源流管理をフロントローディングって当時は呼んでいたような、まあそのように記憶をしています。
 しかし、それが一般的に知られているかは分かりません。あまりポピュラーではなかった気がします。アメリカは、その後ですか、90年ぐらいになって、ベンチマーキングという活動の一環として日本に訪問し、品質管理をスタディーしていました。アメリカのメーカーの中で、どうも品質管理というのは製造段階だけでやるものではなくて開発の全段階で行うという話になってきていたと思います。いずれにせよ、源流で機能をつくりこむという考えです。  QFDは品質機能展開の略ですから、必然的に機能を扱うという考えです。ただ、1990年代は、製品開発の源流管理であり、製品開発前の技術開発段階における源流管理の議論はまだ始まってはいなかったと思います。
 このように源流管理は日本の品質管理の流れです。しかし、開発の初期からという用語としてフロントローディングという言葉を聞き始めたのは、ここ数年です。

上杉一夫:私がフロントローディングという言葉を聞いたのは、コンカレントエンジニアリングが会社で始まったときだと思います。
 コンカレントエンジニアリングというのは、開発する際に、各部門がそれぞれの仕事を上流から下流、たとえば設計から品質保証、生産技術、購買、製造へと順番に実施するのでなくて、チームになって皆一斉に検討を始めます。そういった仕事の進め方を説明する場で、フロントローディングという言葉が出てきたように思います。

吉澤正孝:初めの頃は、品質のつくり込みの話が中心だった気がします。もちろんトヨタ生産方式の製品開発の段階に持ち込み、開発の生産性を上げるようなものも、フロントローディングの中には入るのかもしれませんけれど、どちらかというと製品開発のプロセスの中で、早い段階で品質をつくり込んでいこうという発想だったように思います。
 実際の開発は、品質目的が達成できないで設計変更をしていませんので、設計の仕事全体の内、後は、試作や実験、手戻りとしてのやり直しが60%以上であると分析していた報告も見ていましたし、実感もしていました。
 今、ケンさんがいわれたようなフロントローディングっていうのは、製品開発の初期段階からっていうのではなくて、製品段階に入る前の企業としての一番上流の段階でローディングするかっていうふうに、同じフロントローディングでも、その意味が違ってきているのかなと思います。

上杉一夫:私が先ほど話していたのは、コンカレントエンジニアリングによる製品開発でしたね。

吉澤正孝:製品開発は、田口先生が元々いっているように、チューニングだけにして技術の段階で全部そういうロバストネスをつくりこんでいこうと発想です。まだフロントローディングっていう言葉の動きの中には、そういう発想が感じられません。
 品質工学をやっている方々は、1980年の後半から、技術開発段階に着目をして活動をしてきています。言葉はフロントローディングだけれど製品開発のフロントローディングではなくて、フロントローディングの前のフロントローディングですね。新しい言葉をつくる必要がありますね。

上杉一夫:そうか。そこは全然違いますね。

吉澤正孝:そこは全然発想が違います。フロントローディングは何をロードするかという話になるのですけれど。そういう議論が今は重要なのかなと思っています。

ケン:そうですね。確かに。

上杉一夫:製品開発の話ではないのですね。

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◎製品開発の前にフロントローディングするメリット

吉澤正孝:いいえ、一般的には製品開発と思われているのではないでしょうか。世の中では、フロントローディングというのは製品開発の一番早い段階から品質をどうつくり込むかという話が中心だと思います。自分はフロントローディングを定義しているわけではないのですけれど、そういうふうに見ていると思います。品質工学をやっている立場の人は、そういう考え方もいると思います。
 品質工学では1990年代から技術開発の段階での議論をしていますから、製品開発の段階でなく、現在検討しなければならないフロントローディングは、製品開発前のフロントローディングを考えなければならないのです。フロントは、入り口、玄関になるのですか、玄関に入る前の段階でやろうということになります。

ケン:まだ世の中がそこまで追いついていないということかもしれませんね。私の師匠はアメリカのある自動車会社に指導に行き、縦軸を設計変更数、横軸を開発段階とした図を使って「日本の自動車会社は設計段階の試作段階で設計変更のピークを迎えるが、あなた方は量産前と、量産直後にピークを迎えている。トータルの面積が工数に比例するが、日本の方が、相当面積が小さくなっている。」と脅したようです。

吉澤正孝:その図は、フォードが書いていたので記憶していますよ。フォードが一度日本に来たときにそういう図を見せてくれた記憶があります。フォードのSalivanがいいはじめた図のようです。確か80年代の中かそのくらいではないかなと思いますけれどね。

ケン:もしかしたらそれは師匠が書いたものかもしれませんね。

吉澤正孝:たしか、QFDを共同開発した赤尾先生がそのような図を出していたように思います。うっすら覚えています。QFDをやりながら、品質の企画をきちっとしましょうね。確か赤尾先生の品質機能展開の著書は、それよりはるか前だったと思います。
 私が品質機能展開を行ったのは、1975年頃でした。当時VEも推進していましたから、機能定義についてはかなり突っ込んで学習をしていました。

ケン:その横軸の入り口が商品企画になっており、まだその前の技術開発には言及されていませんでした。

上杉一夫:商品企画からですか。

吉澤正孝:そうですね。製品開発が主流の時代でした。フロントローディングというとみんなもうある程度商品の企画段階から品質規格をきっちりしましょうという話です。品質管理の一部として信頼性管理やQFD、実験計画法の導入とそれを用いた製品品質の開発マネジメントをしていこうというのが、日本流の品質管理だという話に当時はなっていたと僕は認識していました。信頼性管理のFMEAやデザインレビューもその頃学んでいたと思います。  しかし、今現在は、その段階ではもう間に合わないのです。世界中、日本の品質管理は知られていますし、すでに国際規格で決められている時代です。製品開発の段階で行うことは、相撲の土俵のようなもので品質管理を行っていませんと、ビジネスもうまくいかないのではないでしょうか。  フロントローディングは技術の段階とか研究での課題です。リサーチの段階で品質を無視した研究というのは、次の技術開発や製品開発で手戻りが起こります。

田村希志臣:製品設計とそれ以降の生産設計、量産準備はコンカレント等々のアプローチによって多くの企業で同時に進めることが一般的になってきています。ただ、これまでは、製品設計、試作、そして量産というフローの生産性をどうやって高めるかという議論が中心でした。フロントローディング=コンカレントエンジニアリングといった解釈が広まっていたと思います。
 確かにそれなりに成果を上げて来たのは間違いありませんけれども、ではそこからさらに生産性を高めるにはどうすれば良いか。吉澤さんが言われたように、技術開発というステージを製品設計の前、もしくは製品企画の前に入れることでさらに生産性を上げられるという認識が、ここ数年で急速に高まってきたということなのでしょうか。

吉澤正孝:高まっているかどうか良く分からないのですが、期待をしたいと思っています。しかし、80年代に議論したことの延長上でようやく一般的に言い始めたという感じですが、少しさみしい気がします。
 田口先生は少なくとも80年代の中盤には製品開発の初期段階から生産に移るまでの品質工学を完成しています。1988年に出版した品質工学講座で開発は終わって次の段階に移っているのです。製品企画の段階で機能の安定性を損失関数で評価することなどは、ずいぶん役立ちました。
 80年代の中盤から田口先生は、技術開発に移る準備をしていて、日本ではその研究ができないと思い、アメリカに研究の場を移していたのだと思われます。技術開発というのは、製品開発でないわけですから、基本的なところはキーになる要素になります。要素の開発、要するにクリティカル要素を見つけてそこを開発しておけば、後はすでに確立した設計技術を利用して、製品にまとめ上げれば良いので、そこは品質管理を徹底すれば比較的労なく開発ができるという考え方なのです。
 したがって、何を選択するかは戦略問題ですから、技術戦略、技術開発、開発した技術の投入、そのマネジメント、つまり技術の開発マネジメントが重要になります。技術戦略、略して技略が中核の作業となります。技術戦略の中で、テーマ選択が重要となります。製品開発のテーマ選択ではないのです。技術開発のテーマ選択なのだということが認識できないと田口先生がいっていることを本当に理解できないと思います。
 製品開発の中でもそういう製品戦略をやる上で、たとえば品ぞろえとかファミリー、シリーズでどうつくっていくか、そのためのベースエンジン、プラットホームでつくっていくかという、そういう製品開発のためのストラテジーというのもあります。そういうのは製品戦略で技術戦略ではないと考えます。
 周辺技術の開発や新規材料が出てくる、あるいは顧客のニーズが変化する、そのような変化を一つの機会としてとらえ、新しい方法を開発し製品開発や生産に生かそうとするのは、通常やられていることです。  たとえば、自動者のボディーが重要なら、ボディーの中の構造材を全く違ったものでつくってしまうとか、カーボンファイバーでもっと生産性を上げられないかとか、1番重要な要素の技術に焦点を当てますよね。そこが技術開発の中心になるはずです。
 たとえば、マツダさんでも全ての技術開発をやっているわけではないのです。品質工学会の企業交流会での講演で、ボーリングの1番ピンを倒せば次々倒すことができるといっていました。技術戦略の要諦であり、その基本が機能の評価に関わっていて、機能を計測する測度の開発を並行して行うことが不可欠だということになります。

ケン:そうですね。

吉澤正孝:技術の1番ピンというのはどういうテーマなのか。そこが1番重要になってきて、そこを実現するためのコンセプトとシステム設計をどうするかが本当に技術力を問われるところだと思います。技術にするどい感性持つ人でないとなかなかできないと思います。

ケン:だと思いますね。

吉澤正孝:専門家がロバストのことを知っているかというと、必ずしもロバストネスのものを初めから考えることを前提にしながらやっているかというと、そうでもないみたいなところが多いと思います。先ほどから、お話されていたように研究所はロバストデザインなんて必要ないのでという言葉に代表する言葉が、多くの会社で出て来るのではないかと思います。

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◎技術開発と商品企画のタイミング

ケン:関西の研究会で技術開発と商品企画のタイミングを議論したことがあって、商品企画の前に技術開発をやっている会社はありますかと聞いたらなかったですね。ほとんどが製品企画と同時に技術開発をしているか製品企画の後に課題、技術課題を出して技術開発をしているといっていましたね。となると、その商品企画の前の技術開発のフロントローディングという考えは理解できませんよね。

吉澤正孝:多分できないと思いますね。

ケン:だから品質工学がいっている、企画の前の技術開発にフロントローディングするのだということが、多分ほとんどの企業は認識できてないのではないかなと思うのです。

吉澤正孝:田口先生は、元々電気通信研究所にいましたが、そこはベル研究所の実用化研究をしていましたが、製品開発をやっていたわけでないのです。だから、要素の技術や、製品の仕様書をきっちりつくるという行為が研究所の中で1番重要だったですが、本来は研究者が自由に研究をする環境を整えることが重要であるとしていたようです。
 先端技術の研究者は何が必要かを考えるということです。そこには、将来使われる商品とか、今国レベルで何が要求されているのかという将来の課題を解くために、技術テーマを決めていたのです。そのような研究所は、日本にはなかったことなのでしょう。欧米に追いつけ追い越せと忙しい状況でしたから、そのような研究に目を向けていた会社は、ほんのわずかだったのではないでしょうか。
 当時の通信研究所では、いろいろな議論をしていたようですが、方向性が出せないので、実用化研究をするということを決定しています。ベル研究所では基礎研究、応用研究、実用化研究などのさまざまな研究を行っていましたが、戦後の日本にはそのような全方位的な研究をやる組織をつくることはできなかったのだと思います。
 ベル研究所では、シャノン博士が行っていたような、通信の理論的研究や、ショックレー博士が行っていた科学的な基礎研究が行われていました。西堀栄三郎博士は、研究開発の全体を示していますが、その中の実用化研究が中心でした。電話に関するシステムを新しく開発するという、テーマのもとにそれを実現化する研究を行っていたのです。今でいえば要素技術の開発を行うとともに、製品システムとして統合するという観点ですが、つくるのはメーカーであり、研究所ではありません。結局、製品の仕様書をつくるための技術を研究していたのです。
 電気通信の寿命は30年から40年に設定されていたということですので、安定性の研究が不可欠であり、当時、戦後処理がままならない中で行うので、開発の効率化も不可欠であったわけです。品質工学の考えはこの変化から生まれているのですが、一般的な会社では、生産工程とか製品開発の中で品質問題が山積みでしたので、結局、技術開発段階での安定性の研究は、日本ではあまりできなかったのです。
 しかし、技術開発に関する企業としてのニーズがなかったかというと、中央研究所などが1970年代ぐらいから企業に設けられました。しかし、科学的な研究が中心で、技術の開発を行うというより科学として現象解明が中心だったと思います。現象解明には品質工学はあまり役立たないと見ていたと考えられます。現象が解明できれば良いので、安定性をつくるというのは、次工程である製品開発や生産工程であると考えていたようです。特許と専門分野の論文が研究者の評価関数ですから、動機があまりなかったと思われます。
 その後、中央研究所を閉鎖してしまった企業が多いのは偶然ではないような気がします。日本には結局ニーズがなかったのです。しかし、今は違うのではないでしょうか。技術の変革期にいます。この先をどうするかという議論が本当は出てこないのはまずいと思います。

ケン:1970年代80年代に日本の多くの企業で研究所ができていったのは、今の話の流れでしょうね。その後、おそらく90年代のバブル崩壊以降、技術開発に工数や資源を投入できなくなっていったという流れが出てきて、そこから製品企画の前に技術開発をやるということがだんだんおろそかになっていったのです。製品開発の後に課題を出して技術開発をするというふうに日本の企業が開発のやり方を移していったという感じがします。

吉澤正孝:普通一般には早くものをつくって、失敗するかどうか早くやれという、問題を発見して問題解決するわけです。現象を解明するのは、自然科学ですから、サイエンティフィック・ブロブレム・ソルビングが基本的は考え方です。統計がその点で役立ちました。
 しかし、問題解決が中心になります。原因を追及して対策をとるということは、許容差をどんどん厳しくしていくということになるか、制御回路をつけるなど活動が必要となります。コストが上昇すると同時に、複雑なシステムになります。今後は複雑になったシステムの問題も生まれます、さらにその問題解決をすることになってお金がかかるということになります。

ケン:そうするとコストや重量の目標を達成できなくて、結局は量産開発中に技術開発に戻らないといけなくなり、手戻りが起きます。結局、関西の研究会で議論したとき、「結局、それでうまくいっていますか」と各位に聞いたときに、やはりうまくいっていないとのことでした。
 時間がないから納期に追われて、技術のレベルを上げることができずに、従来のチューニングで済まそうとして、結局はそれで問題を起こして手戻りになるという最悪のパターンになっているということを各位が言っていて、「それならばどうすればいいか」と聞きますと、商品企画の前に技術開発をやらないとどうにもならないということが結論でした。

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◎開発の手戻りはなくしたい

吉澤正孝:それでも為替交換レートが日本に都合の良い時代はコストをかけても相対的には安いですので、多いに売れたのです。そのような問題解決で成功してきたマネジメントを継続してきたように思います。
 しかし、変動相場制になり、状況は変わりました。日本では設計者がやたらといるわけです。アメリカはエンジニアとサイエンティストが多くいました。設計者はドラフトマンだというのです。つまり図面を書く人であり、技術者とは認知されていないのです。アメリカの研究の主体は、技術開発です。田口先生はこのような活動をアメリカと日本の両方を経験していましが、アメリカの研究は科学的であり効率が悪いといっておりました。
 真空管を発明したラングミアー博士の例を引くまでもありませんが、現場の問題を科学的に分析した結果として信頼性の高いものをつくったなど、科学の効果が認められていました。しかし、科学は現象を発現しないものはやりようがないのです。うまくいっているときには、科学の出番はないのです。品質工学は初めから問題を出さない要素やシステムを設計する設計技術に関連しています。

吉原均(司会):商品開発と同時に技術開発をするとうまくいかない、手戻りが出る、このままではうまくいかないという問題認識は一致したと思いますが、それをフロントローディングということで上流の要素技術開発でどうやれば開発の手戻りをなくすなど、うまくいくのでしょうか。

吉澤正孝:日本の現状では、製品開発の段階で技術開発問題をやっても悪くないと思います。そうしなければならないのが現状だから対応を否定することはできないと思います。しかし、問題解決では、先に関西の研究会の例が出ましたように、手戻りか見切り発車をしなければならなくなります。したがって、技術開発のやり方を工夫しなければなりません。
 製品開発をしながら安定性を設計するという方法があります。日本のフロントローディングとは、製品開発と技術開発を並行させるコンカレントエンジニアリンを当面目指すべきなのかもしれません。解決するまでの時間がかかります。今でもそういうことをやりながら技術を仕上げている会社が日本ではたくさんあるようですので、それ自身を否定するわけではなく、解き方を工夫する必要があるということです。
 問題解決への品質工学の適用も一つの案です。開発の初期で問題を出し切ってしまうように、安定性の評価法の適用です。全部問題がフロントで出てしまえば、後は解決だけですから、時間的な余裕があります。そのためには、リソースを開発の初期段階で投入する必要があります。今までも時間をかければ、問題解決ができるのですから、より良い製品の開発ができるようになります。製品開発段階での品質工学が役立つのです。そうじゃないと、ものができないはずですから。

吉原均(司会):時間をかければできるといいますけれど、実際は手戻りして、計画的な開発や設計ではなくて試行錯誤をやっていたりします。それが時間をかければという実態になっているのではないかという気がします。

吉澤正孝:今はそれを是としてやっているわけです。品質工学を経験している方々は,それを是としては認めたくはないのです。それを改良したい,改善したいと思っています。品質工学は常に良さを追求していますから、もっと良い解決方法がないかとずっと模索してきました。
 したがって、先から話題となっている、フロントローディングに品質工学を適用することと、技術開発の組織ももつなら、製品企画の前に、安定性のある技術を開発して準備し,それを技術の棚に上げて、いつでも使えるようにしておいたらという話になります。

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◎技術開発は自前でやらない?

細井光夫:今の話を聞いていて思ったところをお話しします。コマツはかなり前に研究所を廃止しました。ある意味、技術開発を自前でやるのを諦めたようなところがあります。具体的に何か新しい商品・製品・サービスを企画すると自分が持っていない技術が出てきます。それが今までの自分たちのやった技術の延長線上だったらその技術を強みとして磨けばいいです。しかし、ないことが多いです。
 そういうとき、外から連れてきます。すでにそういうものを持っている人がいれば、そこと早く話をつけて押さえてしまうのです。必要になりそうだというものはそうやって、1社で全部カバーしようというのもとうの昔に諦めています。
 コマツは半導体製造装置の世界ナンバーワン企業のAMAT(アブライドマテリアルズ)と合弁会社つくったことから、今後ますます技術範囲が広がったときに、その全ての技術に対して自前でやること自体もう無理であるという発想に至りました。
 AMATは研究所を持っていません。代わりに生産ラインを自前で全部持っていて、新しい技術があったらその中に押し込んでテスト、評価をします。そうすることによって最先端の技術をよその大学やベンチャーにやらせます。芽が出たものを素早く取って、自分に取り込んでしまいます。
 逆にベンチャーや大学の先生はAMATに取り込まれることを目標にしていて、買収されると莫大なお金が手に入るのです。そこから先のビジネスをするのはAMAT、つまり、技術開発する人とビジネスにする人を完全に分離していて、技術開発した人にはストックオプションやお金で済ませて、Win―Winになっています。
 コマツの最近のAI絡みや画像処理などはベンチャーの会社を買収してコマツの技術として取り込んでいます。ドローンを自動で飛ばす、1日かかっていた画像処理を30分で済ませるなどは全部コマツのオリジナルではありません。
 典型的なのがキヤノンとニコンがやっている半導体製造用の露光装置で、最先端では日本勢が負けてしまって、ASMLというオランダの会社が強いです。税金が安いからオランダに本社を置いているだけで、ヨーロッパの人たちが寄り集まってやっているのです。
 この会社のやり方は、必要な技術を持っている人この指とまれです。ニコンは全部自前でやろうとしましたので、ASMLと差がついてしまいました。光学的にはニコンが世界一なのは間違いないと思いますが、露光装置の最後で大事なのはメーカー的なステージの移動、精度良く速く動かさないといけません。ニコンはそれを自前で一からやろうとしていたと思います。ASMLは最初から自前で持っていませんから、ステージを精密に動かす技術を持っている人この指とまれとしたその瞬間からものが出来上がる目途が立ちます。
 技術開発を先にやるのはその通りですが、どこまでやったら良いか、新しい製品・新しいサービスになったときに、はっきりいって分かりません。そのような種をまいていたらきりがありませんので、そこは任せて上手に取り込んでいく仕組みの方が大事とコマツは考えて研究所をやめたのだと思います。
 それは、AMAT、ASMLのやり方を見て学習したことです。何が当たるか分かれば良い。この技術だけは絶対負けないというのがあれば当然自前で開発すべきですし、将来を見越して今手をつけることもできると思います。全く自分たちがやったことがないもの、知らないもの、そもそも現在世の中にないものを将来つくろうと思ったとき、そこまで見越した技術開発は本当にできるでしょうか。やれる人はやったら良いですが、コマツくらいの会社の規模ですと、そこまでできないという判断をしたのだと思います。

吉澤正孝:それは企業の考え方だから否定することはできません。生産工程を持たないファブレスの会社もありますし,ファブレスの会社は自分で製品開発を持ちませんので製品開発の技術開発は不要となります。機能分担の組織をつくって流すということは,それはそれで妥当だと思います。
 また、販売専門の会社は、製品開発も生産技術の開発も不要であると思います。しかし、販売では販売技術がありますし、製品開発を専門にしているところでは、その主要なところの技術開発も必要と思います。技術開発を自前で持つかどうかは、経営の中の政策の課題です。そこで自社で行うということになったら技術開発の課題が生じてくるのではないでしょうか。企業の合併・買収(M&A)などやアライアンスを組むなどは経営政策の問題となります。技術戦略ではなくて政策の場合なら,自分ところに見つからないものを持たない,研究はやらないという政策です。
 そのような場合は、全体のシステムの構想とそれを構成するサブシステムの整合性が課題となります。そのような整合性の課題はインターフェースの標準化などの技術が付随してくるのではないでしょうか。コマツのように力がある会社でより提供する価値が社会システム化していきますと、アライアンスやM&Aなどが重要になっていくと思います。条件によって必要な良い技術を世界から買ってくるか、特異な分野とタグを組むということになるのではないでしょうか。

細井光夫:それは逆で、コマツは力がありません。自動車のように数が出るなら、やってくれるところがたくさんありますが、建機は数が出ず、やってくるところがありませんから、自前で全部やろうとすると手が回りませんので、やることを絞らざるを得ないのです。

吉澤正孝:しかし、技術開発みたいなものはジョイントでやろうとかという施策は、長い間日本がやってきたと思いますが。日本の戦後活動の中で、他の会社とジョイントで事業を立ち上げることはしていたと思います。日本流のイノベーションと考えています。
 イノベーションは要素の組み合わせで新しい価値をつくる過程です。他社の技術をいただいて(もちろん有償ですが)それを製品化することが得意でやってきた国です。鉱山会社がジョイントでゴム会社をつくったり、私が所属していた事務機もイギリスとの合弁会社として出発したりしました。
 日本では、最先端のリサーチには弱さがあるようですが、そう認識するのであれば、自社で守る領域における技術開発をする組織があるのなら、機能の安定性の研究を行うなら、とても効率的だというのです。大学の中でも技術開発をやっているのなら、機能の安定性の適用を受け入れるなら、開発の生産性が上がることは間違いないのではないでしょうか。
 ただ重要なことは、選択した技術は全て目的を達成できるわけではありませんので、できるものとできないものを早く見極めることが技術開発の真髄です。そのために実験を行っているのですから、初めからうまくいくのなら、技術開発を行う必要はないのですから、その点を理解できていませんと、開発の効率化はできないと思います。問題解決に時間をさき、製品開発段階で手戻りが多い技術でも良いという会社は、本当に良い会社であると思います。時間をかけて行う技術開発のやり方を一生懸命勉強するのは無駄だと考えますが、いかがでしょうか。

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◎産学連携と品質工学

細井光夫:それに関連して、では新しい技術、芽が出そうな技術をどうするのかといったら、産学連携で大学の先生にお金を払ってやっておいてもらって、大学は費用対効果でいえばものすごく安いです。安いお金で種をまいておいて、おいしそうになったらいただきますよ、とやるのですけれど、私が見ていて残念なのは、大学の先生は品質工学をやってくれません。やっていることを見ていますと、それって品質工学の考え方を使えばもっと効率良く、もっとうまくできるのではと思いながらも、お金を払ってやっているのですが、あまりそこまで立ち入っていません。
 品質工学を有効に技術開発に生かすとしたら、そうした専門的なことをやっている大学の先生方を洗脳して、品質工学的にもっと効率良く解いてほしい、といいたくなるのですけれど、ああいう方々はすごく専門性に対して意識が高いというか、やり方で答えが出るのではなく、私の頭の中から答えが出るのだといった、すごく職人気質の方が多いというのがあります。
 昔、矢野宏先生にいわれたのですが、本当に腕の良い技術者は品質工学の方法を使わなくても効率良く答えにたどり着けますから、あまり品質工学をやりたがらないのです。逆に技術力が低い人も、品質工学を使いこなせないから使わないのです。高すぎても低すぎてもマッチングが悪くて、ちょうどその中間くらいがいいという話を聞いたことがあります。
 どうも大学の先生は、職人気質の方が多くて品質工学をやってくれません。品質工学を使えば良いのに。多分、医薬の分野もいろいろしがらみがあるのか、品質工学の考え方をなかなか使ってくれないといっているのを聞いたことがあります。社会損失で考えたら、そういう人たちこそ、品質工学の考え方を使っていただきたいと思いますね。企業レベルで考えるのではなくて、世界レベルで社会損失というところにぜひ品質工学を使ってもらいたいという気がします。

吉澤正孝:全く同意します。そこが品質工学会の課題でもあります。しかしそこは微妙ですよね。基礎リサーチのところから実用化研究のところに移っていく状態がありますが、今やっている大学の研究が実用化研究だとしたらまだ出番がたくさんあると思います。
 基礎研究をやっているところが本当に始めからロバストをやるのが良いのかどうかは分からないのです。産業を興すという意味での基礎研究だとしたら、目的を達成するための原理を見つけるところが中心になるか、原理があり、そこから目的を探すという二方向の研究があります。目的と原理が結びついたなら、技術開発になりうると思います。そこには適用可能なのではないでしょうか。
 ただ、良い技術開発ができても、科学論文や専門分野の論文になりませんと、学業としては評価されない現状があるのではないでしょうか。学問の場にいる方は、ものやことの開発をするという経済の歯車に入っているわけではありませんので、現象を発見する、言い換えれば取りあえず感度が出れば良いということになることが多いのではないでしょうか。
 いわゆるチャンピオンデータが出れば良い。効率を求めるなら、実験計画法のようにパラメータをたくさん使って感度が出るかどうかというやり方でも良いのかなという感じもします。しかし、現象を理解したいというのも、人間の頭の機能です。だが、頭は精神作用や、交互作用を考えることが苦手ですから、一つのパラメータを振ってどうなったのかを見て、また次のパラメータを調べるという要素還元論の考え方の方を採用しているのではないでしょうか。

田村希志臣:今、大学で実用化研究をやっているところは非常に少ないのではないでしょうか。やはり研究の中心は基礎研究であったり理論研究であったりして、実用化のための研究に目が向いていないのだと思います。
吉澤正孝:ですから何かの知識を得るという学問の場合は、実用化できなくとも、新しい知識が発見できれば、それは学問としての価値があるのです。その成果物で人のために役立つものやことをつくるという目的とは異なります。経済的には何も役に立つかは分かりません。
 知識は人の心を豊かにするという効果はありますが、新しく発見した知識を誰かが応用したときに、実用化研究が始まるのだと思いますので、そこに提案しているようなやり方でやっていただく方がより効果的です。大学の研究はいろいろな側面がありますので、見極める必要があると思います。

田村希志臣:本来、工学部というところがそこを担うのではないかなと私は思うのですけれど。

中島建夫:今の工学部というのは、技術を「科学」しているのです。技術を説明する方が中心になっていて、なぜそうなるかということを説明するという、まさに「科学」しているだけです。それはそれで一つの研究で、それがうまくいけばそれを使って他のものにも応用して範囲は拡大されると期待はされているのですが、実績は少ないですよね。
 むしろ、吉澤さんがいったように、感度を見つける方が中心なのです。新しい要素を見つけるというか、そういう意味では、必ずしも科学ではありませんし、真理を追究しているわけでもありません。品質工学でいうところの役立つ働きを見つけようとしているという感じで、これをいじったらこれがうまくいくねということが分かれば良いのだというのですから、私の感じでは、感度の研究が大部分だと思います。ロバストの研究は、感度の目途が立ってからではないでしょうか。

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◎実はロバストを先に決めて成功した青色LED

細井光夫:青色LEDがありますよね。あれは、たまたまそうなっただけで、決して中村修二さんがロバストとか品質工学を知っていたとは思いませんけれども、ただ結果的にはそうなりました。
 当時、取りあえず青い光を出さないと仕方がないというので、光の出るものをみなさんは追求していて、なかなか寿命が延びなかったのです。出る光の寿命を延ばす研究を一生懸命にやっていた時代に、日亜化学(当時)の中村さんは、皆と同じことをやっていても仕方がないということで、全然違うところにいきました。それはどういうものかといいますと、構造が丈夫で長持ちするけれども光が出ないというものでした。まさに品質工学ですよね。
 ロバストなのですけれど、感度が足りないものの感度を上げていくという研究をやって結果的に青色LEDは圧倒的に日亜化学が独占していったわけです。結果的にロバストを先に決めて、ロバストなものから感度が足りないところの感度を上げていくというのをやってうまくいったというのがあって、これは企業の研究なのでそういった意味では製品開発になるのか、技術開発といって良いのか、そのあたりが私は言葉の区別は分かっていないのですが、本来大学の先生がそういうことをやれば良かったのに、なぜ大学でできなくて企業でやれてしまったのか、というところも面白いところだと思います。

ケン:一方で、今のLEDの話は感度を高めるということが簡単にできたからそれが実現できたわけです。ダブルヘテロ構造をつくる技術がありましたから、感度を簡単に上げることができたようです。おそらく、感度を上げるより、ロバストネスを上げる方が難しいですよね。だからロバストネスの研究を先にやる方が結果的に早くできるということだと思います。
 では、いつもロバストネスをやれば良いのですかというと、そうとも限らなくて、たとえば単純な話でいいますと、新しい制御因子を入れずに今のエンジンでロバストネスを上げてしまうと感度は下がるに決まっていますよね。ですから最初に新しい制御因子を入れておかないとダメなわけです。
 開発の現場で今困っているのは、性能を上げる制御因子を考える力が弱くなっているのが問題で、その問題をクリアせずにロバストネスをやってしまうと最悪の結果になるということだと思います。
 ですから、二つのパターンがあるのではないかと思います。ある程度技術力があって、感度を高める制御因子を持っていたら、ロバストネスだけをやれば良いという話になりますし、感度を高める制御因子を持っていないのにロバストネスをやったらそれはもう地獄を見るという話になってしまいます。

中島建夫:そうだと思います。

細井光夫:ただ実際は、感度が足りないからアイデアを出したはずです。先にアイデアがあって、ロバストにしたのではなくて、まずロバストなものについてなぜこれは感度が上がらないのかを調べて、感度を上げるにはどうしたら良いかを考えて、それを織り込んでいって成功したのであって、スタート時点では決してアイデアがあったわけではないと思います。

ケン:あのときはそうですよね。ダブルヘテロ構造というものをつくる技術を彼らは持っていて、それをやってみたら感度が上がってしまったという話ですよね。

細井光夫:それはありますね。

ケン:そういう制御因子を持っていたから早く成功にたどり着けたのだと思います。もしそれがなかったとしたら、もう少し苦労していたと思います。しかし逆をやるよりは早く良いものができたと思います。

中島建夫:今、話になっていることに関連して、薬などでは、薬の効き目は感度があることが分からないのに人体の安全性だとか何とかはしないのではないかと思います。

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◎ロバストネス開発を技術開発のメインに

ケン:実はこのことは標準化と品質管理誌に田口先生が書いておられます。技術開発では通常感度を高める制御因子を入れます。たとえば車の燃費を上げようと思ったら、内燃機関からモーターに変えるという新しい制御因子を入れるのが一案です。モーターは内燃機関よりエネルギー変換効率が上がることは分かっています。そうすると、後はロバストネスさえ上げればいいです。
 つまり、「技術開発では新しい制御因子を入れるのは当然だから、ロバストネス開発が技術開発のメインの開発になる」ということを書いておられます。

中島建夫:そういう制御因子があるということですよね。

ケン:そうです。それを入れ込むということです。それが技術開発の入り口になります。

中島建夫:制御因子があるなら、ロバストを上げれば制御因子の力を発揮できます。

細井光夫:そういった意味ですと、過去、コマツが経験して今現在進行中で非常に苦しんでいるテーマ、露光装置の光源があります。エキシマレーザーの光を出すのはうまく乗り越えましたが、次のEUVで軟X線を出すに当たり、やはり光の量がないと使い物になりませんので、まずは量を要求されるのです。となりますと、ケンさんがいわれたように、ロバストうんぬん以前に取りあえずチャンピオンで光が出るかどうかが勝負なのです。

ケン:そうですよね。

細井光夫:今起こっていることは、取りあえずチャンピオンで出した会社があるのですけれど、それが全然、保たないのです。しかしすでに売ってしまったので、何が起こるかといいますと、使ってくださるお客様、半導体をつくっている会社に20人、30人と技術者を張り付けて動かし続けるというすごい状況になっていて、これはもう商売にならないです。露光装置を売ってしまった会社は、それでは困る、つぶれてしまうという光源の会社ごと買収しました。えらいことになっています。

ケン:エキシマレーザーでしたか。

細井光夫:いやエキシマは大丈夫で、非常に良い商売をしています。最新のEUV光源の話です。

ケン:その場合も同じ話だと思います。新しい制御因子を入れているわけです。そうすると、そこからやらなければならなかったのはロバストネスだと思います。そこをやらずに、チャンピオンデータだけで勝負しようとしたから全然ダメだったということかと思います。

細井光夫:開発の初期はどちらが優先かといいますと、光が出ないことには試験もできませんので、結局、感度優先でチャンピオンデータが優先されます。それで、試しに使おうかとやってしまっているのが、今のEUVです。大変みたいです。

ケン:それではダメですよね。新しい制御因子を入れたらロバストネスをしっかりやらないといけません。そこが難しいですから。

細井光夫:その通り、難しいです。そういう人たちにぜひ品質工学の考え方を理解して実践してもらいたいと思います。チャンピオンを追求している最中には聞く耳を持たず、全く話になりません。

吉澤正孝:今の細井さんの話がとても大事です。チャンピオンをつくるのは、感度を出す材料なりパラメータが1個でも見つかればいいわけなのでね。それである程度持てば製品をつくってしまい1番初めの製品を商品として売るという会社があるようです。それは、お客さんがすごく困っていて、それでもお客さんが何らかの役に立つなら絶対買うのですよ。1個でもユーザーがいれば商品化できるということですから。
 それから技術がある程度確立したという段階では、そこから寿命が短いとかいうより長くできれば、それらの要求があるなら、結局、改善をしていくことになります。できた物を開発していく、技術開発です。1番初めに機能するものをつくります。それを使う人の要求に対応するように改善していく行為が開発になります。開発は種がなければなりません。デベロップとはそういうものだと思います。技術をつくってデベロップするから技術開発なのです。
 1番初めチャンピオンデータをつくるときにも、品質工学は使えると思いますけれど、使わなくてもできます。だけれど、それが信頼性とか寿命とかを長くするとか、もっと出力を上げたいとか出力が小さいものをとか品揃えをしていくためには、使った原理を実現するためのパラメータをいじくっていかなければならないから、その段階で、ようやく技術開発段階があると考えます。
 その技術開発の段階で、その成果を知識として整理します。ものをつくるのは、それを構成する要素の選択であったり、材料であったり、加工が付随しますので、たくさんのパラメータが存在します。それぞれが目的を達成するための技であり術であるのです。それらを知識と整理するには学問の力が必要です。
 一つ一つは技術、つまりテクノですが、それを体系だって学問として体系立てる営みがあります。通常logyとかologyがつきます。テクノロジーとは技術学ですから、技術学とそして整理するのが、工学を学問する人たちの役割となります。しかし、その体系立てた知識を応用したが、短期間できり機能しないなら、結局要求に応えられないことになります。つまり似非(えせ)工学では困るわけです。下流であるそれを利用する人が一発で使えるテクノロジーが理想なのではないでしょうか。
 工学は、Sienceandartsですから、ologyとしての体系だけでなく、技と術を含んでいなければなりません。技と術の部分は、結局安定性が完全には得られないからArtsの部分が必要ですので、よりArtsの部分をなくす知識体系を構築するところに品質工学は貢献すると考えられます。
 通信研究所ではチャンピオンをつくるための技術でなく、40年の寿命を全うする技術を開発し提供していたのですから、一歩も二歩も進んでいたことになりますね。

吉原均(司会):それを試すのが許される場がないと実行できませんよね。それが最初のフロントローディングの議論において最初の出だしの一歩だと思うのですが、製品開発という製品仕様が決まった範囲の中で思い切ってパラメータを振るということには限界がありますよね。

吉澤正孝:それは、ありますね。

吉原均(司会):それでフロントローディングして上位の技術開発に移したら良いという流れなのですが、コマツの細井さんから社外から買ってくるよという手もあるという話になってきて、どうも、技術開発の成立要件をいったん決めておかないとこの議論が発散する一方のような気がしました。

吉澤正孝:技術開発というのは、そのような活動もあるということですので、世の中には技術開発をしていない会社もあるわけだからそこに技術開発をしろというのも無理になります。世の中には、技術開発だけを請け負う専門研究所もありますし、大学もあるようです。また技術を買ってきて製品設計や生産をやる会社もあります。
 企業の中で技術開発をする行為があるということです。細井さんがいうように確かに技術の全てを企業の中で技術開発をすることはできないでしょう。そもそも原理などはすでに科学者や技術者が公開した知識が多いです。特許も期間が過ぎれば公知の知識になってしまいます。それまでに、必要なら、特許を交換したり、特許を買ってきたりするのを日常でやっていると思います。
 多くの技術の獲得はお金で解決しています。インターネットの技術やCAEを開発する技術など自前で持っている会社は、そこの専門会社であります。購入しているさまざまツールなども技術の塊でしょうから、ほとんどの技術は購入しています。購入する側が技術の消費者ですから、安定していないと困ります。

中島建夫:そうですね。全てを自前でつくる必要はないのです。製品開発から技術開発へという言い方をしているところがありましたけれど、それはその技術開発のテーマを決めるときに製品企画とかの中でこういうものをつくろうと決めてから、それに必要な技術をつくるというテーマ設定になります。
 そうではなくて先に技術を先行して開発するというようなことをいったから、逆にそういうのがあれば、製品開発がこういう企画としてこういうものが欲しいなというときに、それに使える技術がすでにできているということが言いたいのではないかと思います。だからイメージをちゃんとしないと同じ言葉を使っても間違いはありませんけれども、話がずれてしまいますよね。

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◎オールジャパンで技術開発

細井光夫:私が感じるのは、ケンさんが企業交流会でも話したと思いますが、企業同士が争っている場合ではない、オールジャパンだということです。まさにそこで、オールジャパンで技術開発をする仕組みがあって、その技術を持った日本企業が上手に活用していくという流れが大事であって、一つの企業の中で閉じるということ自体が無理ではないのかと思いました。

ケン:その際、技術開発を外に任せるのではなくて、共同でやるという話だと思います。ただ、考えなければならないのは、その際にどのように役割分担するかで、ケース・バイ・ケースになると思います。
 先ほど細井さんがいわれたように、まだ何になるか分からないような技術は大学に任せ、何かものになりそうな芽が出てきたら一緒にやるということですね。将来絶対商品に入れるから大学や他の会社と一緒にやる、など、いろいろなレベルがあるように思います。おそらくコマツさんも全て技術を外に出ているわけではないと想像しています。割合が多いのかもしれませんが。

細井光夫:やってくれるところがあれば、任せたいのだけれどやってくれないのです。

吉澤正孝:それもお金次第ではないのですか!。

細井光夫:そんなにお金ないですから。

ケン:あと企業規模。

中島建夫:相手を評価する力がないと。つまらないガセネタを高い金で買わされますよね。

細井光夫:中島先生のおっしゃる通り、そこは品質工学の使いどころだと思います。品質工学は評価の学問ですから。

中島建夫:品質工学があればガセネタか本物かが分かるだろうということですか。

細井光夫:そうなのです。それをいいたいです。

吉澤正孝:委託研究や共同研究をやる場合がたくさんあると考えますが、品質工学が教えるところでは、そのときに自分が最終的に研究の成果を評価しなければなりません。その評価の責任は自分にあるのですから、評価が悪いと結局手戻りになります。
 研究成果の評価は、委託するときの機能仕様に記載されていませんと、その評価条件に合致する研究はしないでしょう。企業の場合は、結局必要な機能をえるために委託するのでしょうから、機能を評価する測度の提示が必要となります。研究の受け入れに、目的とそれを評価する条件を記載して、要求する機能ごとに機能と明確にし、信号とノイズを入れて、感度とSN比の両方の測度を明確にすることが良いとしています。
 技術開発を依頼する側の、マネジメントの要諦と考えます。つまり機能性の評価を提示するということになります。これは、社内の技術部門に対する依頼でも外部でも同じです。誰が行っても同じ評価でします。目的を達成するための原理や方法は問わないことです。これが技術開発や製品開発の仕様をつくる上でも役に立つのです。依頼する方は楽になります。

中島建夫:結構、評価は企業秘密で隠すところがありますよね。

吉澤正孝:そのような仕様を出さないで依頼する場合もあるのかもしれません。取りあえず、光れば良い。今までに波長で発信するレーザーをつくってくれば良いというような場合です。つまり原理が得られれば良いとするなら、それが得られた後は、自分のところで技術を開発する必要が出てくるのではないでしょうか。
 つまり、技術の種をもらって開発をする行為が必要ですから、やはり品質工学のようなやり方をやったらいいと思います。やれと強制することはいかなる場合でも言いいません。やった方が効率的だと思います。何を選択するかは開発者の自由ですからそれを束縛するということを品質工学の目的にはしていません。
 品質工学は自由の総和を尊重します。しかし、その自由に選択したものの評価については、目的がある以上、自由が束縛されます。それを選んだ技術の今知られているパラメータの範疇でうまくいくかどうかっていうのはL18の直交表実験を2、3回すればすぐ分かるわけで、だから、もっとパラメータを探してほしいということをその元の人にいうこともできますし、そういうチャンピオンデータではなくて、ロバストデータというかその条件も含めた考え方でデータを持ってきてくれればこれだけのお金を払うよという話があれば契約行為として動かせます。
 それは技術開発を使うというよりも技術開発のマネジメントの方の話になると思いますね。それは自社でやらしても他社でやらしても担当者にやらせなきゃいけませんから、それのアウトプットというかexitcriteriaだけは明確にしていこうということは、品質工学だけでなくてプロジェクトマネジメントでも一般的にいわれていることですので、そういうことはしっかりやった方がいいと思いますけれどね。

吉原均(司会):技術開発をどんなタイミングで、どんなところにやらせるとか、技術開発そのもののやり方に関するところについての議論とかはいっぱい出ていますが、そろそろ、今日のテーマの機能計測と技術開発をブレイクスルーするというところに話を発展させたいと思いますがいかがでしょうか。

田村希志臣:結局ここまでの議論で、技術開発というのは技術をどう評価するかというのが問題だという認識に行き着いたと思います。

吉原均(司会):私もそう感じましたので、本日のテーマに拡張できると思いました。

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◎技術の価値の判断方法が一番のネック

田村希志臣:技術の価値を判断する方法が一番のネックになるわけです。製品開発であれば製品の仕様とか目標があってそこを基準に判断することができます。しかし技術開発は製品としての具体的なアウトプットが決まっていない段階で技術完成度を判断する必要があります。これがない限り、要素研究は感度で成果をアピールするし製品設計は品質で成果をアピールしますが、技術開発は成果をアピールできません。

ケン:少し資料を共有化しますね。これは品質工学会の商品開発プロセス委員会に出した資料なのですけれど、技術開発のテーマをどう出すかを体系化した絵です。
 まずは、その社会動向、業界動向、その企業の方針、個別技術の動向などをまず把握していなければなりません。その中で会社の商品戦略から降りてくるものは、まずお客様にどんな価値を提供していこうとしているのか、そしてそれをどういう技術で実現していくのかの戦略を練ることになります。これが経営課題から降りてくるニーズ技術ということになります。
 ただ、この場合、将来の商品企画がまだ決まってないのが普通ですから、技術者自らが将来の商品をある程度予測して技術開発の目標に落とさなければならないことになります。この場合の目標は、このくらいを目指しておけば何とかなるだろう、くらいで定めるしかありません。
 また、世の中にはニーズがはっきりしないシーズ技術もあります。たとえば電磁力が100倍になる磁石ができました、などです。この場合は、ニーズを探るという技術開発以前の活動が必要となります。そこでニーズが見えてきたら、技術開発テーマとして取り上げることになります。
 後は量産開発中や、市場に商品を出した後で問題が発生したときに、〇〇の技術開発しておかないまずい、というように、開発の現場から出てくる技術開発テーマもありますね。
 弊社では大きく三つに分けてそれぞれの技術開発課題を出していくということをやっています。それらの技術開発をどうやるかを考えるときに、先ほどの細井さんの話が出てくることになります。
 シーズ技術の場合は大学に任せる場合が多いですね。ニーズ技術の場合は、将来、どこのサプライヤーさんに技術をつくってもらいたいかを考えて共同開発する場合が多いです。OEMはサプライヤーさんの将来の事業を潰すわけにはいきませんからね。特に地場のサプライヤーさんとは運命共同体くらいの覚悟が必要と思います。量産開発や市場から出てくる技術開発は、自分たちでやるしかない場合が多いと思います。
 また、細井さんがいわれましたように、同業他社さんと一緒にやる、あるいは分担する、などの産産連携での技術開発もこれからは大変重要になると思います。

田村希志臣:ケンさんの図がすごく分かりやすくて助けになります。そうすると、技術開発をどこまでやるかという目標は、関係者の中でこの辺にしようかぐらいの決め方になるのですか。

ケン:はい、そうなると思います。将来の製品の計画が明確ではありませんので。製品の目標は、他社との比較になりますよね。売れる製品をつくるというのは、お客様に選んでもらえるということで、それは他社より良いということですからね。だから目標は技術開発後の商品企画段階で決めます。
 しかし企画後に出された、他社の製品の中には、性能が予測より良い場合もあります。そうなると売る直前で変更しなければならない場合もあります。もちろん、ドタバタします。技術開発は商品企画の前にやりますので、勝てると思う目標を設定するしかないと思います。

吉澤正孝:技術開発をする人の目標値というのは何かといいますと、リサーチを行い目的と目標を追求することだと思います。それは、田口先生もおっしゃっていました。
 あの昔、品質管理に貢献された富士フイルムに竹中治夫さんがおられましたが、その方は、理想のことを青い鳥だといっておられたことを思い出します。青い鳥を追っていく段階で、研究が進化し、技術が確立したり新しい現象が生じたりします。ある時期にそれを審査して、そこから事業として何ができるか判断をし、それまでの得られた知識を用いて商品化を考えて、その意思決定のために、研究をするということが大切だとしていました。
 研究はこのように理想を追求していく、しかし、それがマーケットとして価値が生まれるかどうかは、技術研究でなく、市場研究の領域になりますから、その二つが重要になると思います。事業化が行われるとしても、技術研究の青い鳥を追い続けるということです。
 ニーズもシーズも両方必要なのですけれど、ニーズが分かったときには遅いのだと思います。技術イノベーションの場合は、特にです。技術開発に先行性が要求されるのは、未知なる特性や現象あるいは理想の機能の追求になることが多いですので、それだけ時間が必要なのだと思います。そこに研究開発の効率化が必要なのだということと思います。市場の規模がよりワールドワイドになり、競争相手もワールドワイドですから、技術開発の遅れは、のビジネスゲームに大きく影響してくるのではないでしょうか。
 したがって、シーズとニーズの先読みの技術はないといけないです。そのキーは、開発した技術の信頼に関わるわけです。よりロバストの方が意思決定は早いと考えます。技術の確立度合いの考え方が変化をしているのではないでしょうか。少なくとも、世界ではISOでロバストネスの設計法が公知にされたということは、世界中そこに向かって進んでいることと理解しています。

中島建夫:ロバストがないと意思決定できませんよね。

吉澤正孝:会社のトップ層が、そのように技術をアセスメントするかどうかですね。技術開発を研究者や技術者にやり放題やらせても良いし、お金をかけても良いというやり方もあるでしょう。また、自分の会社ではその技術リソースがない場合は、委託しても良いと思いますが、それが経営するという立場で意思決定できるかどうかの判断の材料の提示は、意思決定者でないと本当は、分からないような気がします。
 だけれど、意思決定者というのは本当に技術を深く知っているかどうか分かりませんから、社内外の技術開発する人に委託しているわけですから、意思決定者ができるであろうというような要素を全部取り上げて研究しなさいというのが田口先生の考え方であると理解しています。

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◎先行性、汎用性、再現性

田村希志臣:吉澤さんの話がすごく納得感があります。田口先生は技術開発の重要な三要素として先行性、汎用性、再現性といわれていました。これが判断のために示されるべき情報、技術者側が示す情報になるのでしょうか。

吉澤正孝:僕はそう考えていますけれどね。

田村希志臣:再現性はロバストネスで表現できると思います。先行性、汎用性は、どんな指標になるでしょうか。

吉澤正孝:先行性は技術開発に時間がかかるというので、早く仕掛けることを意味しますが、先に特許がとられていると致命的になることは、承知のことです。特許を、自分で先に取っているかどうかという話にもなってくるのではないかなと思います。

中島建夫:先行性は、マーケットとか他社と関係しますよね。

吉澤正孝:汎用性というのは、開発された技術がどのような品ぞろえにまで使えるのかどうかというところに関係します。
 少し、専門的な話となりますが、目的特性が変化することはロバストネスがないことになりますが、目的を変えるという欲求も顧客にはあります。計測でいれば、0から100mまで計測したいとか、車では、動く速度を変えたいとか、止めたいという要因です。これらは通常、目標を変えるための信号と読んでいます。管理や制御を行おうとするときに必ず必要な因子です。
 また、使用する用途により、それらの信号範囲を変えなければならない因子があります。ミクロン単位の測定とメータ単位の測定では異なった測定器を開発しています。このような因子を表示因子といっています。表示因子が、ある程度市場分けをするってことを前提としたときには、品種に関係します。
 結局、一つの技術で、多くの品種に適用できることは、技術の生産性に関わるのではないでしょうか。計測器では、レーザーなどを用いれば、多くの測定範囲で高い精度で測定ができます。そのように、広範囲で利用できることが汎用性になると思います。
 したがって、機能を定義することが重要ですから、その機能が発揮するための、領域を見定めることも技術を開発する上で重要なことになるのではないでしょうか。

田村希志臣:たとえば、きちんと機能する信号の範囲とか。

吉澤正孝:それもありますね。信号の範囲は、お客様が目標を変えたいという唯一使用条件ですからね。

中島建夫:使用範囲をどこまで考えるかですよ。

吉澤正孝:後は、全くその信号の条件みたいなものがどこまで変わるかが表示因子になると思います。そこらあたりで、汎用性というのが決まってくると思います。

中島建夫:あらゆることをカバーできるというのはまず無理ですから、どこまでカバーできるかというのをちゃんと押さえて見極める必要があるでしょうね。

吉澤正孝:だから、信号は初めから決めないで、かなり広い領域をつくってある程度のところまで信号に対する線形性が出て、それ以上が、非線形になるなら、たとえば飽和しているとなりますと、今の段階ではここの信号の範囲まではちゃんとした直線でロバストネスが確保できますよ、だから安心して使ってくださいってそういう言い方はできますよね。

中島建夫:信号が広すぎるとそれが分かりませんから、そこはちゃんと研究をしないといけません。

吉澤正孝:これから我々もそういったことを意識して研究することが大事になると思います。先行性はある程度、特許や専門学会の論文などで見ることはできますけれど、汎用性は分からないのではないでしょうか。
 田口先生は、ジェネリックファンクション(一般的に基本機能と呼ばれている)で考えることによって汎用性が出てくるという話があるけれども、それは求めた機能や物質の特性評価における技術の汎用性のことをいっているような感じもしますので。

中島建夫:なるほどこの方法であれば汎用性があるかどうかが分かるという評価の方法をいっているのですね。

吉澤正孝:自然現象を利用する機能の場合は、入力と出力をエネルギーとエネルギーに比例する速度で考えることができれば、全部できるといっていますけれど。より汎用化した評価の方法として、物の加工を例示するなら、加工動力が切削量に変換するというエネルギーの変換だと考えるのと、静電プリンターなどに用いられている、電子信号としての画像エネルギーを実際に紙の上に像の転写する変換エネルギーは、エネルギー変換という測度では同じかもしれません。
 しかし、目的と手段が異なるところで、同じ原理の評価といって汎用性があるということは、正解なのかもしれませんが、納得がなかなかできないのではないでしょうか。区分は必要だと思います。

吉原均(司会):汎用性について、田口先生とほんの少しだけれどやり取りした経験がありましたのでその話をさせてください。
 初めてお会いしたときに、田口先生から「君の専門は何かね」と聞かれました。それで「生産技術です」と答えました。そうしたら、すかさず田口先生は「理想の生産技術とは一つの技術で何でもつくれることだ」とおっしゃいました。そのときは自分の想像が及ばなかったのですが、今の3次元プリンターがすごい汎用性が高いじゃないですか。料理から人体の骨から、建物までつくってしまうようになってきました。
 そういう意味では田口先生の預言した、理想の生産技術の一つを代表するようなものが世の中に出てきたのかなと思いました。

吉澤正孝:そういう考え方になるのでしょうね。

中島建夫:汎用性があるということはそういうことでしょうね。

吉澤正孝:たとえば、液晶を一種のフィルターだと考えるなら、ディスプレイにするのも、テレビみたいにも利用できますし、透過をうまく利用すればプロジェクターにもなります。だから、そういう意味で光をシャッターリングするという安定した機能を確立できれば、プロジェクターにも応用できますし、それからテレビにもできます。時計にもなっていますし、うまくすれば複写機やプリンターの露光装置にも使えるわけですよ。

中島建夫:ということは、技術を開発するときに技術が狙っている機能をちゃんと抑えなければいけないということですね。

吉澤正孝:そういう商品をあらかじめ想定したときとき、たとえば光を制御する技術というものを開発するテーマとすれば、目的機能は光を与えたときに任意の光で任意の位置に変えられる技術のような、汎用的な目的の機能を定義しなければいけないと思います。
 機能の定義の仕方がより汎用的な表現になっているかどうかということを見れば、この技術はどこまで考えられた技術開発をしようとしているのかが分かるのではないでしょうか。

中島建夫:それは、結果論ではないよね。

吉澤正孝:そう、かなり意志だと思うのです。先ほど、細井さんのお話のように技術開発している学校の先生が、一つの企業だけに売るのではなくてあっちこっちの企業に売れればライセンス料がたくさん入ってきますから、そういう研究をやった方がより汎用的で、価値ある技術になるのではないでしょうか。

ケン:材料技術みたいなやつはかなり汎用性が高いでしょうね。たとえば、今だったら、制御基板に使う半導体のエネルギー変換効率が倍になったらスピードもすごく上がって、いろいろなところで使えますよね。

中島建夫:それが社会に貢献しているということですね。いろいろなところで使えるということは、貢献が広いということなのですよ。吉澤さんはライセンス料が入るとか入らないとかいう言い方をしましたけれども、言葉を換えれば社外へも貢献が広がっていくということですよね。

吉澤正孝:ライセンス料がたくさん入るということはそれだけ、技術が他人に受け入れられるということですから、信用されないと受け入れらないですよね。価値の信用の尺度が経済価値として貨幣価値になるのではないでしょうか。
 それ以外には、新しい事実が分かったという知識価値があると思います。ノーベル賞なども、産業科学が結構対象となっていますね。経済的効果は人類への貢献をも意味しますので、金で評価することが目的ではないけれど金で評価できることは事実なのです。手段としての測度は経済性になるのが多いのではないでしょうか。

中島建夫:結果として儲かるはずですよね。

吉澤正孝:儲かると言うよりも価値の正当評価というのだと思います。何かお金を儲けるとかいうと金の亡者みたいになってしまうのだけれど、そうではないのだと思います。

中島建夫:日本にはまだそういう言い方をする人はいますけれどね。お金の話をしないとか……。

吉澤正孝:確かに日本にはそのようなメンタリティがあり、お金を儲けることが悪いみたいな風潮があります。しかし経済はお金でやり取りしますから、生活を豊かにする、一つのバロメーターでもあるわけです。お金というのは価値の正当な一つの評価です。
 経済的尺度でなければ名誉などが一つの尺度にはなります。勲章やノーベル賞などの賞も評価の尺度になるでしょう。そのような領域もありますが、ものとことの交換で生活が成り立っていますから、お金はその評価尺度であることは間違いありません。
 すでに経済学では明らかなのでしょうが、お金は信用の単位であるとしています。お金自身は、何の価値もなくて、日銀がそういう価値を与えているだけだと思います。確かに1万円札も5000円札も原価は十数円で同じレベルです。また、銀行に貯金しているお金というのは実態がありません。コンピュータの中のメモリ−の記録信号なのです。それが価値を持つのは、日本では日銀がものやサービスに対する交換の信用と価値を担保していると考えているからです。皆が、その担保価値を信用しなければ、円は何の価値を持ちません。
 したがって、汎用性があるものがつくられたとしたら、多様な商品に適用し、それが消費者に届けられたとするなら、そこに信用が生まれているということになります。より多くの製品やサービスに利用されるだけ、信用が生まれたということになると考えます。技術の汎用性はこのようなことが考えられます。
 そうするとところが、その技術を利用し、製品やサービスをある信用で交換したとしたとき、製品に要求されている機能や性質が、使っている内に劣化したり、希望する条件で機能や性質が得られなかったりすることが普通です。つまり、機能や性質が使用条件下で得られないのです。
 車でいれば、タイヤは使っている内に摩耗します。ガソリンエンジンでは、ある程度の時間にオイル交換をしたり、プラグを変えたりしなければなりません。包丁などは、使っている内に摩耗して切れなくなります。このようなときには、元に戻すために処置が必要であり、結局何らかの経済的な出費と伴います。
 使用中に機能や性質が、先ほどのべた信号や表示因子以外で変換しないことが良いのです。つまり、価値を交換した後の機能やサービスの機能や性質が安定していることが良いのです。安定していないのは、何らかの経済的は出費を強いることになります。さらに、現在ではCO2の問題や、音や振動、有害なども、社会的負担をしいます。
 これらは、全て機能の安定性の再現性が絡んできます。結局、開発した技術は、それが取り入れたてたときの交換価値から再現性がないための負の経済価値を引いたものが、本当の機能の価値となると思います。汎用性と再現性は、結局経済としてお金で評価されることになります。つまり、その正味価値を研究開発の初期段階から意識した方がより、合理的は意思決定ができると考えるのが妥当なのでしょう。

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◎汎用技術の先取り例から

細井光夫:素朴な疑問があります。コムトラックスというものをコマツはやっていて、そのコアな技術はGPSなのですが、決してGPSそのものをコマツが開発したわけではなくて、自動車に使ってくれてもっと安くなるだろうというのを見越して、世の中の流れというか、これは絶対に車に乗って、結果としてすごく安くなるでしょうから、今の内からやっておこうと技術開発していたって歴史があります。
 始めたときにGPSアンテナ1本1000万しました。1000万のGPSアンテナを建機に載せるのは絶対あり得ないのですが、いろいろあって防衛省絡みでGPSアンテナを買っていました。それを貸してくれと建機の設計の人が来て、いじり倒してこんなことできるのだとか、こういう問題があるのだなどと事前にやっていました。そして、いつのまにか車に載るようになって、どんどん安くなって10万ぐらいになったときにそれならただで建機に載せようと社長が決断したという流れがあります。
 だから役割分担というものがあって、確かに汎用性は大事ですが、その汎用性を追求するのが企業の仕事なのかというと、むしろ専用化することによって特徴を出しているところもあります。汎用技術をいかに自分流にアレンジするかです。
 コムトラックスの技術についてGPS開発に関しては何もやっていません。GPSアンテナの信号を取っているだけでそれをどう活用するかというところに特徴があったわけです。技術のステージの違い、レベルの違い、それぞれ階層があるという気がします。
 たとえば、エンジン開発で画期的なエンジンをコマツが開発するかというと絶対やりません。使うための技術がそれぞれあり、建機の分をやってくれないのだったら、そこは自前でやらなければいけないように、明確なすみ分けがある気がします。そこをはっきり意識しませんと、やはり先行性、汎用性、再現性だといわれてもピンとこない人が増えるのは仕方ないという気がします。

吉原均(司会):細井さんのいっていることがだんだん分かってきました。社会を取り巻く環境の中で、上手な意思決定をすると特に汎用的な技術を早めに取り込んで、自社の専用技術に応用していくことのメリットがうまく引き出せるしコストも成り立つときが来るということですね。そういうことをうまく読むことの方が、むしろ重要でしょうというお話に聞こえました。

吉澤正孝:企業ごとに、その全てをやるわけにいきませんから、その中のどこを自分のドメイン(領域)にするかという話にも関連してくると思います。
 コマツさんはたとえばGPSの場合はそうだけれど、その中のソフトウエアの部分を一部委託している企業を考えますと、その中の委託された領域での専門技術を追求しているからこそ信用された発注されるのではないでしょうか。
 だけれど、その委託企業の立場で考えれば、コマツさんだけでなく、他の企業にも使えるような、汎用技術を開発しておけば、より経済的に社会に貢献できるということになるのではないでしょうか。

細井光夫:ちなみに、コマツはコンピュータのチップは当然開発しないのですが、コントロール基板もソフトウエアも、OSを含めて他がつくってくれませんので、全部自前です。

吉澤正孝:そうですね。自前でできることと、他人に委ねることが必要ですね。最近では、ソリューションがさけばれていますから、得意な分野と合成して新しい価値を創造することが必要になってきています。それには、自身の独自技術を持っていることが重要で、しかも汎用であればそれに越したことはないのではないでしょうか。
 シュムペーターがいうように、異なった技術の組み合わせにより新しい価値を生んでくるということがソリューションの技術開発の中心になっていくことが推測されます。より汎用で、しかも再現性のある技術を持っているものと組むことが成功に影響すると思います。
 したがって、他人の技術の評価にも、先行性、汎用性、再現性の視点での評価を行っておくことが良いことになると思います。

中島建夫:要素はね。

吉澤正孝:自分の得意とする以外の領域には、結局、それらを評価する評価能力が必要になるのではなでしょうか。先行性、汎用性、再現性の評価は、トライデントとなります。
 たとえば、今、電池の中で空気電池などをトヨタなどでいろいろ研究されている話も聞いています。だけれど、そういうものって、原理はだいぶ前に分かっているわけですよ。現実には、その原理を実現するための新しい素材の発明や、構造を新しく考えなければなりません。どちらかというと技術開発よりもっとリサーチの段階だと思います。そこできっかけがつかめればそこから技術開発がはじまっていくのではないかと思います。素材の発見までやるのなら、世界中探して発見するのかっていうのが(リ)サーチになってくると思います。

吉原均(司会):今の話をずっと聞いていますと、技術開発というのはやはり手段の一つであって、それを実行する上でのベストミックスとそれを取り巻く環境に応じた実行手段を見つけて、それを実行計画に落とし込むというのが重要だということを細井さんは、ずっと訴えているような気がしました。

吉澤正孝:その通りですね。要は、新しい組み合わせが必要となります。

吉原均(司会):となりますと、今日の技術開発をブレイクスルーするというテーマの趣も変わるような気がしますが。

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◎壁にぶつかったら壁を破らなければならない

吉澤正孝:いや、そのときにも、はじめに考えた通りにはできないわけですよ。目的どおり達成できるのなら研究開発は必要がないのです。いろいろな実験をおこなっても答えがでないという、壁が見つかるわけです。多くの場合、壁があるわけです。最近では、川とか谷と呼ばれていますが。壁にぶつかったら壁を破らなければならないわけです。壁の先の新しい状態が期待されているのです。それを期待しながら開発を続けるということになりますから、本当はつらいことなのだと思います。もし、壁にぶつからなければブレイクする必要ないわけないのですよ。そのときブレイクスルーという言葉自身は存在しないのです。

中島建夫:それはそうですね。ブレイクスルーがないような技術は大した技術ではないような気もしますけれどね。簡単にいきませんから、大変ですので、誰がやってもうまくいかないようなときに、誰かが見つけて解決するからブレイクスルーという言葉が出てきます。

吉澤正孝:制御因子をより広く考えることが必要になりますね。回答は制御因子の組合せの中にあるわけですから、制御因子を構成するシステムやそのコンセプトを変えるということも考える必要があります。とくに、技術開発段階の場合は、制御因子というものはもう少し広く考えた方がいいと思いますけれどね。原理はいろいろ考えつくわけです。  たとえば、自動車を動かすという機能をやろうと考えるなら、今やっている電池でもいいですし、その電気を発電するのに、核融合などを使っても良いのです。小さなジェットエンジンみたいに空気を吹き出して動かすっていうことも、レーシングの一部ではやっているわけですから、さまざまな原理があるわけです。ある原理を選択してそれを実現するための装置は、さまざまな部品と要素の組合せになるわけですから、制御因子がたくさん出てきます。それらをすべて調べても、うまくいかないのなら、その中には解が存在しないことになります。また、それを全部研究してそれ以上効率が上がらないところまでパラメータを全部研究したら、誰がやってもそれ以上効率は上がらないのですよね。そこで限界がみえてきます。  全部研究したのですかっていわれますと、全ての制御因子とはいったいどれだけなのかというと分からないのですよ。 どこかで諦めるとかの話になってきます。

中島建夫:全部やったなんていうことは証明できませんよ。

吉澤正孝:そこで、永遠に技術開発が進んでいくことになるのかなと思っているのでけれど。技術がAからBにいくとか、しばらく休んでいると何か新しい材料が出てきて、そうするとまた違った技術が進歩していく。技術がAからBにいく間に組み合わせる何かが変わってくるのだと思います。

ケン:そうですよね。新しい制御因子が入っていかないと進化しません。

吉澤正孝:マツダは、レシプロエンジンをやりながらロータリーエンジンも並行して開発していました。内燃機関としては同じなのだけれど原理が違います。それ以外にもたくさんのエンジンの作り方っていうのはありますね。ポンポン蒸気みたいなエンジンもありますし、スターリングエンジンなんかもありましたが、その効率が上がるかといいますと、なかなか上がりません。スターリングエンジンというのは定速回転だと非常に効率が良いみたいですから、発電機として使うという考え方なんかもあるでしょう。  ある原理を用いて、全体のシステムを変更するという考えあります。つまりコンセプトを変えるということですよね。品質工学では、システム選択のときにコンセプトを変えることが重要だといっています。そこから、コンセプトが決まるとシステム設計になっていく技術の枠組みが決まってきて、それを具現化するところに制限因子が存在します。1番から2番にいく間のステップが書いてありますけれど、技術開発の場合はそこが肝ですよね。

ケン:そうですよね。そこの構想がなければ、なにをやってもだめですし、最近の技術者はシミュレーションでパラメータを振ってやれば技術の性能が上がると思っている人が結構いますからね。勘弁して欲しいです。

吉澤正孝:本当、勘弁してくださいですね。(笑い)

ケン:それでは性能は上がらないという証明をしたこともありますけれどね

吉澤正孝:だから既に分かっている技術で、演繹的に物事を作れる範疇(はんちゅう)は設計で済むと思いますが、演繹的に作れないからこそ技術を研究し開発が必要なのです。  そこは製品開発とかなり違いますよ。技術の難しいところですよね。そこには、機能としてどうやって計測するのかという話に全部絡んできます。物理特性ではないからややこしいのだと思うのです。

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◎エネルギー変換の生産性や効率で機能を測る

ケン: そのときに従来だったら基本機能や品質特性を全部ごっちゃにしていたのが従来の品質管理と思うのです。そこに基本機能という概念を入れたことで技術開発のストーリーが見事に組めるようになったのが品質工学の大きなブレイクスルーと思いますけれどね。

吉原均(司会):基本機能を考えるのは、一種の強制連想ですよね。有効にエネルギーを変化させていくというところに発想を収斂させていくということで、システムを進化させることにつながります。

ケン:そうなのですよ。

吉原均(司会):技術の価値を高めるという意味、そこの思考の集中点というのは、有効なエネルギー変換という言葉で集約されると思います。それを持って基本機能だと考えるというところに基本機能での評価の意味と目的が明確になってくると、最近理解してきたような気がしています。

吉澤正孝:機能は、言い換えれば働きです。働きというのはエネルギーが必要となります。出力のエネルギーを測るというのは、機能を測ることと等しいことになります。機能の良し悪しは、エネルギー効率となります。しかし、仕事を一生懸命やっているというのは一生懸命エネルギー使っていることになりますが、アウトプットがゼロだったら、何も仕事していないことになります。  このことは田口先生が指摘しています。物理学は力×距離は、仕事量でエネルギーなのですけれど、それが目的を達成しているかどうか分かりませんと、機能は測れないのです。エネルギー変換の生産性や効率で機能を測らないと本当の価値はわからないのです。

田村希志臣:そこでの評価の考え方は、基本機能ではなくて、目的機能をベースにするのが好適ですよね。

吉澤正孝:そうです。目的機能を外して基本機能は存在しないですからね。

田村希志臣:内燃機関で車を動かそうと発想するなら基本機能のような話もできるのですけれど、そこだけで技術の選択とかシステムの選択を閉じない方がいいです。たとえば、入力する動力源を燃料にするのか電気にするのか、それとも何か他のものにするのかで入力は変わりますけれども、出力は目的ですから共通です。

中島建夫:システムの選択?

田村希志臣:特に技術開発の初期段階では、入力信号の種類も技術の選択肢に入ってくると思うのです。

中島建夫:ちょっと信号というのはよく分かりませんでした。

田村希志臣:品質工学で言う信号因子ですね。たとえば、内燃機関を考えるのだったら、燃料の量が信号になりますよね。

中島建夫:内燃機関ならそうですね。

田村希志臣:モーターだったら電力量になりますよね。

中島建夫:そうですね。システムが違いますからからね。

田村希志臣:はい。しかし目的は果たすという意味では同じですから、いずれも検討の対象に含めるべきです。

中島建夫:どちらのシステムがいいかという検討になるのですよね。

田村希志臣:そうです。

中島建夫:目的機能が一緒であっても、基本機能のところの信号は変わってくるのではないですかね。

吉澤正孝:変わってきますよね。

中島建夫:当然、モーターのときは電力ですし、内燃機関はガソリンとか何かになります。だけれど、目的機能はある時間にどれだけ車を動かすかですから、同じ意味になりますね。

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◎トータルの社会損失の低減

細井光夫:効率的なことを考えたときに、企業交流会でマツダさんがおっしゃっていたことなのですけれど、well to Wheelといっていましたよね。そのものだけではなくて、社会全体としてどんなコストがかかっているのか、それを下げていくという感覚が大事だということです。  私がすごく印象に残っているのは、GDPの話として田口先生が書かれているのですけれども、飛行機が飛ぶと飛行場の周辺の騒音対策で窓を2重サッシにしたり、エアコンを付けたりするそうです。そうするとその工事が発生したり、エアコンが売れたりして、要はお金が動くからGDPが上がるのですよね。しかし、それって生活を豊かにしていないからGDPで生活の豊かさを評価しても意味ないよねということになります。

吉澤正孝:まさにその通りです。

細井光夫:そこで社会損失というのを考えたときに、トータルの社会損失を低減することだと思うのですよ。その一部として、効率を上げた方がいいのですが、そこの効率だけ一生懸命あげたときにトータルで本当に社会損失が下がるのかの観点が、やはり田口先生のものすごい考え方というか、素晴らしいというか、答えは一つ決まってきますからね。そうじゃないと、いろいろあちらにいったり、こちらにいったりしてしまいます。  たとえばインフラを全部書き直せばオール電気でいいのかもしれませんけれど、本当にそんなことができるのかとなります。今までのインフラを生かしながらやった方がトータルとしては損失が低いのではないのってね。そこをマツダは端的に示して、内燃機関は生き残るのだという強いメッセージをだしてくれたのだけれど、ただ、もう一つの社会の制約だとか法律だとかがありますよね。なので最近、マツダさんが電気に日和っていてなんか残念だなと思いますけれど。

吉澤正孝:いや、いろいろ準備していると思いますよ。そこはしたたかだとだと思います。

細井光夫:もちろん、そうでしょうね。いろいろな判断があってやっているはずです。君子豹変するのが正しい姿ですので、全然問題ないのですけれども。田口先生の言っていることを忠実にマツダさんはやっているのだという印象を思ったのは、企業交流会のときです。さすがマツダさんだなと思いました。  ちなみにコマツもハイブリッドをやっていますけれど、誰も作ってくれないので建機のハイブリッドではモーターを自作しています。そうするとコマツにとって新しい技術が出てきますよね。最初はトヨタのまねをしてトヨタの構造のモーターを一生懸命作ろうとしましたが、最近コマツは作り方を変えてまったく別の構造を検討しています。その製造技術を確立するために実は品質工学を使っています。そこで一番根っこになる大事な技術というのをぜひ品質工学で開発して欲しいですし、今、世の中でやられていないのが歯がゆいのですけれども、それ以外のステージでいくらでも品質工学は使えるというか、むしろ使っていきたいというのが私の考えです。  あまり大上段に構えると自分のところは関係ないという人が出てしまうのは本当にもったいなくて、こんなことにも使えますよと、もっと簡単に使っていこうとした方が、むしろコマツのレベルには合っていると思っています。

中島建夫:なんでも使えますよ。困ったことがあったら来てくださいと、何でも答えますよと。それが、細井さんのスローガンですよね。

細井光夫:そうです!

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◎汎用的に目的機能を考える

吉澤正孝:先ほど、田村さんが汎用的に目的機能を考えて、それをいろいろなシステムの上で具体的な事例に適用するということですが、少し長くなりますがお話させていただきます。  2011年にNMSの公開討論会で技展の話をしたのですけれど、知識の構造化の話をしました。具体的な事例からそれが意味するところの構造概念を明らかにしていく、非明示化、明示化の思考プロセスに関係するところです。これは矢野宏博士が提示したモデルです。はんだ付けの事例なのです。  はんだ付けがうまくいくかということを、はんだの強度を測るのでなく電流を与えて電圧を計測し、はんだの電気を通すという機能を測る事例です。  品質工学の場合、4つの要素で考えています。はんだ付けの場合、電流を与えることが機能を達成するシステムに対する入力となり、出力は電流となりますが、実際には、さまざまな外乱、この場合劣化因子を考えていますが、与えて電圧をはかります。その値が一定であれば機能は乱れていないと考えるのです。このシステムのモデルを、もう少し概念化すれば、電気信号Mを加えて出力電圧を測るという概念モデルに変換できます。さらに抽象化すると入力、システム、出力、そしてそれらの機能を乱す、ノイズの要素でされると考えます。  つまり、機能はこの4つの要素でエネルギー変換をおこなっていると考えます。概念としての構造を明示化したものです。システムモデルとしての基本構造が理解できれば、逆にそれを具体的な事例に適用して、機能を測ることが可能となります。目的機能は、入力を変換して出力を得るというのが働きです。そして、システムは、何等かの原理を考えた製品や技術の客体となります。  自動車のエンジン場合、どのレベルを対象にするかによって異なりますが、たとえば、アクセルを踏み、回転出力を得ることになります。誤差因子は、この機能を乱す、コントロールできない要因です。ガソリンの種類や、構成部品の潤滑油の劣化や、吸入する空気の温度などさまざまな原因が考えられます。  システムは始めブラックボックスとしておいて、さまざまな原理を考えます。これが一つのコンセプトです。たとえば、エネルギーを発生する原理って何なのだろうと考えます。電気もありますし、ガスを利用することも考えられます。この原理というのは多分無限に近いくらいたくさんある中で、一つを選ぶと今度は、それを適用した装置を考えます。システムを構想し、構造を考案するのです。全く新しければ特許になります。構造がきまれば、目的を達成するためのシステムの設計パラメータが出てきます。実際は、こういう作業を行うことになります。  ですから、一番汎用的な概念というのはそのエネルギー変換でしたら、ここになにかのエネルギーを入れて、出力は動かすという目的特性で決まってきますから、自動車の場合は前進させるエネルギーととらえればいいのですかね。ものを動かすエネルギー変換を考えればよいですので、たとえば、電磁誘導による磁気浮上みたいなものなら、道路に全部磁気の施設を埋め込み、磁気で浮かして飛ばすとかいうこともできるのではないでしょうか。  具体的なアイデアが出てくれば、今度はそれを具体的な設計パラメータにもっていく格好になります。はんだ付けのような場合では、明示化された原理で考えるなら、接点をつけ電流を流すのですから、レーザー光ではんだを溶かすこともできますし、レーザーで溶接をすることもできます。この図の四つの箱が技術開発をするにしても製品開発をするにしても、明示化できているというところが、品質工学が主張したいところだと思います。  原理を考えることはそれぞれの専門技術者が行うことになりますが、誤差因子となるノイズも同時に考えることが技術開発の中でも出てくることを期待したいですね。技術開発は、製品開発とことなり、全体のシステムの中のキーになる要素が対象になってきますので、全体のシステムをサブシステムに置き換えて、サブシステムの中の重要な要素を開発していくというやり方になりうると思います。全部いっぺんにやると大変ですので、一部は他に任せたり、今ある技術を使ったりすることになるかと思います。実際には、技術開発のプロセスで明らかにしておかなければいけないことなのかなと思いますね。

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◎技術開発を加速するには外部環境の変化が必要か

田村希志臣:まったく同感ですね。日本企業のエンジニアはそうした発想を自由に広げる訓練がほとんどされていなくて、技術開発という言葉は使っていても、明らかに製品設計と完全にリンクした範囲でしか検討していなかったりします。しかし、最近の自動車業界はEVとかFCVとか、ハイブリッドもそうですけれど、新たな技術開発に急速に関心を寄せているようです。技術開発を加速するにはやはり外部環境の変化が必要なのでしょうか。

吉澤正孝:現在、CO2の問題が議論されています。これからは、全部EVになるような話になってきています。トヨタ社の社長が、EVやると宣言していました。しかし、電気を供給する発電所が、今のままでは、ガソリンを火力発電に変えるだけで、発電に化石燃料をつかっているかぎり、車をEV化しても、電気の供給はCO2削減の目的を達成しないと警告していたのが印象的でした。EVの車と並行して、トータルシステムを考えなければならないということです。  そのようなことは、品質工学を導入しているところでは、そんなに難しくなく予測しています。品質工学では、品質を出荷後の損失と考えています。機能のばらつきによる損失、使用コスト、そして弊害項目による損失の三の損失です。CO2などは、弊害項目による損失で、その多くは第三者が被ることになります。車の場合は、排気ガスや騒音、そしてCO2の廃棄や交通事故などが該当します。日本の車メーカーは、機能のばらつきを削減しながら、使用コストや弊害項目の損失を評価しながら開発を行ってきていたと思います。その延長で、無CO2の電力の問題が解決するまでは、代替のエネルギーで対応するきりないと考えるのは全体最適の考えです。品質工学のように品質を評価すれば、そんなことは明らかにすることができるのです。  トヨタがEVで遅れたとかなんとかと言っているようなことを聞きますが、そんなことは計算済みであると理解しておく必要があります。すでに多くの方々が指摘しているかとは思いますが、ヨーロッパでもEVに耐えられるのは、フランスくらいだろうといわれています。  現在発電量の77%が原子力発電であり、CO2の発生は低いのです。しかも原子力発電を国政としています。しかしながら、車が全部EVになることには、その分の発電量も賄わなければなりません。それに耐える発電所を作らなければならないのではないでしょうか。それ以外のヨーロッパの国ではでもいずれ問題になると思います。そのような準備ができていないことに、後で気が付いても遅いことになるのではないでしょうか。

中島建夫:それを実行できる準備もしているといっていたよね。日本はそういう議論がまだありませんね。

田村希志臣:まったく同感ですね。日本企業のエンジニアはそうした発想を自由に広げる訓練がほとんどされていなくて、技術開発という言葉は使っていても、明らかに製品設計と完全にリンクした範囲でしか検討していなかったりします。しかし、最近の自動車業界はEVとかFCVとか、ハイブリッドもそうですけれど、新たな技術開発に急速に関心を寄せているようです。技術開発を加速するにはやはり外部環境の変化が必要なのでしょうか。

吉澤正孝:現在、CO2の問題が議論されています。これからは、全部EVになるような話になってきています。トヨタ社の社長が、EVやると宣言していました。しかし、電気を供給する発電所が、今のままでは、ガソリンを火力発電に変えるだけで、発電に化石燃料をつかっているかぎり、車をEV化しても、電気の供給はCO2削減の目的を達成しないと警告していたのが印象的でした。EVの車と並行して、トータルシステムを考えなければならないということです。  そのようなことは、品質工学を導入しているところでは、そんなに難しくなく予測しています。品質工学では、品質を出荷後の損失と考えています。機能のばらつきによる損失、使用コスト、そして弊害項目による損失の三の損失です。CO2などは、弊害項目による損失で、その多くは第三者が被ることになります。車の場合は、排気ガスや騒音、そしてCO2の廃棄や交通事故などが該当します。日本の車メーカーは、機能のばらつきを削減しながら、使用コストや弊害項目の損失を評価しながら開発を行ってきていたと思います。その延長で、無CO2の電力の問題が解決するまでは、代替のエネルギーで対応するきりないと考えるのは全体最適の考えです。品質工学のように品質を評価すれば、そんなことは明らかにすることができるのです。  トヨタがEVで遅れたとかなんとかと言っているようなことを聞きますが、そんなことは計算済みであると理解しておく必要があります。すでに多くの方々が指摘しているかとは思いますが、ヨーロッパでもEVに耐えられるのは、フランスくらいだろうといわれています。  現在発電量の77%が原子力発電であり、CO2の発生は低いのです。しかも原子力発電を国政としています。しかしながら、車が全部EVになることには、その分の発電量も賄わなければなりません。それに耐える発電所を作らなければならないのではないでしょうか。それ以外のヨーロッパの国ではでもいずれ問題になると思います。そのような準備ができていないことに、後で気が付いても遅いことになるのではないでしょうか。

中島建夫:それを実行できる準備もしているといっていたよね。日本はそういう議論がまだありませんね。

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◎ブレイクスルーするスタートポイントに立つ

吉澤正孝:ブレイクスルーする前にブレイクスルーしなきゃいけない状態まで追い詰めないとブレイクすることはできないという原則あるということです。つまりだめだっていう結論がでますと、ようやくそのブレイクスルーするスタートポイントに立つのです。ブレイクスルーする前にブレイクスルーしなければならないところでドロップしているのではないでしょうか。  青色ダイオードの中村さんや、吉野さんのリチウム電池の話が新聞に出ていたけれども、かなりのところで死の谷が出てきて、ブレイクスルーしなきゃいけない課題にぶつかっています。そこでやはり新しいアイデアを出すか、それを解く素材持っている人とのジョイントなどで解決していました。  技術イノベーションというのは、技術の組み合わせで新しい価値創造を意味しますが、同時に技術を持っている人との組み合わせが、重要であると感じています。

中島建夫:確かに1人の中でできる技術の組み合わせではありませんよね。

吉澤正孝:先ほど示した、明示化の中のシステムですら、そこには結局、構造があるわけですから、要素と要素の組み合わせであることは事実なのですけれど、ブレイクスルーの場合は、やる人のコンビが組めないとはじまらないような感じがします。

中島建夫:先ほど細井さんがいったように、企業ではコマツさんですね。

吉澤正孝:先行性を行う先駆者らがいて、やってみようという人の集まりが、本当の技術開発のブレイクスルーをするようなことが多いのではないでしょうか。そこは、結果的にNHKのプロジェクトXみたいな物語が存在するのだと思います。

田村希志臣:技術開発のブレイクスルーといいますと、どうしても何か新しいアイデアを考えなくてはみたいな話に陥りがちなのですけれど。新しいパートナーを見つけるとか、既存のシステムを大きく変更するとか、広くそうしたことまで含めてブレイクスルーに挑戦するべきですね。

吉澤正孝:たとえば、イーロン・マスクが自動車をEVに変えるという話では、テスラは電気自動車自体を作ったわけですが、テスラは自動車の会社ではなく、テスラは、ニコラ・テスラからとったといわれています。つまり電気の会社であるのです。  彼はもっと面白い発想していて自動車ができたけれど、たとえばカリフォルニアからニューヨークまで自動車で運転するのは、時間もかかるし疲れます。経済的損失も大きいです。だから、トンネルを掘ってその中を高速で移動させればよいという、原理を考えました。トンネルの道を作ってそこを真空にして、空気抵抗を下げれば、200km/h以上のスピードにはできると考えているようです。それをさらに超電導を利用した台車などをつくりそれにのせれば、速度はもっとでると思います。すでに、そのような基礎実験を行っています。  これらの技術はすべて存在しますから、可能性は高いと考えられるのではないでしょうか。まだ、本当の課題は何かがわかっているかどうかは不明ですが、いずれ壁にあたり、そこからが本当のブレイクスルーが始まるとみています。

吉原均(司会):既存の技術としてはリニアで走らせるっていう事実があるのですけれど、それで車を運んでしまえというところは新しいですよね。

吉澤正孝:だから、全部真空にしなくてもいいでしょうし、減圧にして空気抵抗が急激に減じるような空気の濃度にできればよいと思います。そのためには、車自体を気密にするか、台車を気密する必要がありますね。そういう技術は、航空宇宙の領域では実証済みと思います。実現していく段階で、次々に課題が明確になれば、それを解決する方法を模索する、他の技術の進化により解決することも多いです。  つまり、技術開発は、その進行段階で、次々課題がでてきます。そのたびに、明示化、非明示化の原理にしたがい解決していけばよいという考えになります。

吉原均(司会):ありがとうございます。そろそろ最後のまとめにしたいのですが、今日、まだ発言のない方がいますので、これまでの討論を通じて考えたことを教えてください。

小川豊:話が戻りますが、技術開発の生産性を上げるのが品質工学の一つの目的だと思います。先ほど、ケンさんから技術開発のアウトプットは、要因効果図だというお話があって、確かにそうだなと思いました。だから、細井さんもいわれていたように、技術開発の評価をどのようにうまくやるかというところに今回の機能評価の方法を品質工学としてやると効率が上がるということに、うまくつなげていきたいと思いました。

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◎技術開発のブレイクスルーを、私自身の問題として考えたとき

上杉一夫:私は、コンカレントエンジニアリングの話しかできていなかったのですが、技術開発のブレイクスルーを、私自身の問題として考えたときにどんなことを自分はやってきたのかなって、座談会中、そればかり考えていました。  あまり大きなことは、全然考えていなかったのですけれど、私は結構失敗しているなと思っていまして、今回の話と全然違うのですけれどね。私は金型設計をやっていました。1970年代に入社した当時は、失敗しても、会社は比較的鷹揚だったと思います。  モールド金型テーマの失敗例の話をします。その頃は、転写性のことも、品質工学も全然分かりませんでしたので、要するに金型の寸法からいかに正確に狙い通りの成形品寸法にできるか推定する方法を見つけようということで、私は先輩と一緒に取り組みました。そのとき、田口先生が書かれた実験計画法の第3版がありまして、先輩はそれを応用して直交実験の計画を作ったのですが、作った途端に人事異動になってしまいました。  私がその後引き継いだのですが、その頃は全然分からなくて、私は実験計画法を使いましたけれども、これは全然使えないなと思ったのですね。なんで使えないと思ったかといいますと、実験結果の分析はできるのですが、結局寸法の推定をどうするのかについて私は理解できなかったのです。今考えてみますと、田口先生のところまでいって、教えを請えば良かったと思います。  あと話が変わりますが、私が計測器設計を担当した時代に官能検査の自動化を検討した時の話をします。スイッチを押すときの感触の良し悪しを、検査員による官能検査から機械による自動化に変えようというテーマにトライしました。ある会社に技術委託をしたのですが失敗しました。  なぜ、できなかったのか。ペンレコーダーでスイッチの作動力の波形を見ますと、一目で感触の悪いスイッチ・良いスイッチが分かるのですが、それをコンピュータでどう自動判定するのかという問題にぶつかりまして、見事に失敗しました。まさにパターン認識の世界なのですが、そのとき、私は田口先生のMTシステムを知らなかったのですね。知っていたら成功していたと思います。  今までの自分の失敗をよくよく考えてみて、どうしたら失敗しなかったのか。最初はとにかく視野を広くして、もっと最先端の情報を集めて、それで研究するのが一番大事かなと私はそう思います。

吉原均(司会):ありがとうございます。とても、貴重なお話ですね。

ケン:今のお話にかぶせますけれども、最近の技術者を見ていますと、自分の担当している領域の情報を十分持っていないというのをよく感じます。先輩方はどんな考え方で、作ってきたのか、設計してきたのかとか、その伝承がなされていません。そういう状況で新しい制御因子を考えろとか技術をブレイクスルーしてみろとかいうのは、なかなかうまくいかないよなぁと思います。  そこでやったのが過去からの流れを整理することです。自分の領域の技術がどのように進化してきたのかをまとめることをやらせました。最近やっているのは、対象の技術について過去どんなことを自分達もやっていたか、世の中どうやっているのか、大学レベルでその技術の研究がどう進んでいるのか、そこをちゃんとまとめましょうよと、若手にやらせてみました。  まさに上杉さんがいったように技術情報を集めることが,バブル崩壊後おろそかになってきていると思いますね。私が入社したときに先輩から真っ先にたたき込まれたのが、論文だの特許だのを自分でしっかり分析して研究の流れをつかむということをやらされました。最先端の技術の論文とか特許を見る、関係するメーカーさんと技術談義する、そんなことをやる中で今の技術がどこまで来ているかが分かるわけですね。最先端が分かります。最先端が分かれば、その次をやればいいわけですよね。  最先端に立ってその次を研究するというのが、私の中で当たり前だったのですけれど、そういうところが最近ずいぶん弱くなっていると思います。そういうところを強化していきませんと、日本企業は先がないのではと思うのです。

吉原均(司会):それは品質工学も一緒ですよね。品質工学の学会に対して最先端を示してその先の研究を促さないと品質工学も先がないということですかね。ケンさん、まとめていただいてありがとうございます。

吉澤正孝:今のお話ですと、品質工学以前の課題がたくさんあるということですね。新人の場合は仕方がないとしても、リーダーシップをとっている方々のレベルがそうだということでは困ってしまいますよね。そういうことはないと信じたいのですけれど。

ケン:かなり、そういう悪い面が出てきましたね。まだ残ってはいますのでリカバリーできますよ。

吉澤正孝:そうですね。組織的な学習をしないといけないのかもしれませんね。

吉原均(司会):一種のタコツボ化ですね。タコツボ化して専門が尖がっていくならいいのですが、そこから退化してしまうと危機ですよね。そんなことがないようにしっかり先端を尖らせていく必要があるというのが今日の大きな話の一つだと思います。

上杉一夫:私の経験がきっかけで大事な話になってよかったです。

吉澤正孝:貴重で重要な経験ですね。

上杉一夫:30年前に戻りたいです。

吉原均(司会):それはよく分かります。私も頭に入れた品質工学で、30年前からやり直せたらどんなに良かったかと思います。予定の時間を大幅に超えた座談会でしたが、この辺でまとめになりましたので、座談会を終了したいと思います。みなさん、ありがとうございました。

(おわり)

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