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計量行政審議会計量標準部会開く
質量の特定標準器をキログラム原器から変更
分光応答度の校正範囲を拡大

計量行政審議会計量標準部会開く 質量の特定標準器をキログラム原器から変更、分光応答度の校正範囲を拡大

2018年度(平成30年度)第1回計量行政審議会計量標準部会(高増潔部会長)が、2019年3月12日、経済産業省で開かれ、3月11日付の世耕弘成経済産業大臣から計量行政審議会(内山田竹志会長)への諮問を審議し、答申内容を意義なく承認した。

計量標準部会の決定は、計量行政審議会の決定とされることから、内山田会長に報告後、経済産業大臣に答申された。経済産業省は答申に基づき、告示等の必要な処置を講じる。

■2つの諮問内容

諮問は2点。1つめは、2018年11月に国際度量衡総会で質量の単位キログラムの定義などの改定が決議され、2019年5月20日から施行されることから、それに対応した計量法トレーサビリティ制度(JCSS制度)における標準供給の基となる日本国の国家標準である特定標準器等の改廃。

2つめは、ニーズの高まりを反映した「分光応答度」での特定標準器による校正範囲の拡大。

計量行政審議会計量標準部会開く 質量の特定標準器をキログラム原器から変更、分光応答度の校正範囲を拡大

質量の特定標準器は、キログラム原器から標準分銅群へ

質量における国家標準である「特定標準器」(計量法第134条第1項)は、「キログラム原器」が廃止され、「標準分銅群」が指定されるので、「キログラム原器であって、国立研究開発法人産業技術総合研究所が保管するもの」から「標準分銅群であって、国立研究開発法人産業技術総合研究所が保管するもの」になる。

 「特定副標準器」(計量法第134条第2項)は、廃止される。

 新しい「特定標準器」は、具体的には次のようになる。

【名称】標準分銅群
【材質】白金イリジウム、ステンレス鋼
【質量範囲】1mg〜20kg
【標準分銅群の内訳(カッコ内は現時点での群管理の計画に含まれる予定の個数)】▽白金イリジウム分銅:1kg(4)▽ステンレス鋼分銅:1mg(2)、2mg(2)、5mg(2)、10mg(2)、50mg(2)、100mg(2)、200mg(2)、500mg(2)、1g(8)、2g(8)、5g(8)、10g(8)、20g(8)、50g(8)、100g(8)、200g(8)、500g(8)、1kg(16)、2kg(10)、5kg(8)、10kg(8)、20kg(11)

■日本国キログラム原器は今後も現役で活躍

日本国キログラム原器は、定義改定後も新たな特定標準器を構成する標準分銅の1つとして、質量の基準としての役割を担う。

また、これまで特定副標準器であったステンレス鋼分銅も、新たな特定標準器である標準分銅群に含まれる。

履歴が管理されている標準分銅群を特定標準器として、継続的に維持・管理することになる。

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■新たな特定標準器を用いた特定2次標準器の校正

 新たな特定標準器を用いた特定2次標準器の校正は、次のようになる。

【校正周期】3年(現行と変わらず)
【校正実施機関】産業技術総合研究所(現行と変わらず)
【校正対象】標準分銅(現行と変わらず)
【特定2次標準器の質量範囲】1mg〜20kg(現行と変わらず)
【校正の不確かさ】(現行と変わらず)

■キログラムの定義改定に対応

現在、日本国キログラム原器が質量の「特定標準器」に指定されている。またステンレス鋼組分銅(告示上では「標準分銅」)が特定副標準器に指定され、特定2次標準器の校正に用いられている。

今回の質量に関する、日本国の国家標準である「特定標準器」の指定の変更は、2018年11月に国際度量衡総会で質量の単位キログラムの定義などの改定が決議され、2019年5月20日から施行されることに対応するもの。

白金イリジウム合金でつくられた「キログラム原器」という「もの」は、常に破損等の危険性があったほか、長期的に状態が変化する可能性があり、国際キログラム原器の長期安定性は50μgであった。

このため、2018年11月に開催された国際度量衡総会で、普遍的な物理定数であるプランク定数(h)にもとづく定義への移行が決議された。

新しいキログラムの定義は次のようになる。「キログラムは質量の単位であり、プランク定数を単位Jsで表したときに、その数値を6.626 070 15×10-34と定めることによって定義される」。

2019年5月20日から、新たなキログラムの定義が施行される。

この定義改定に対応するために、産総研(産業技術総合研究所)における質量標準の実現・管理体制が変更される。これに連動して、特定標準器等の指定にも変更が必要となった。

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■現在のトレーサビリティ体系

現行の質量のトレーサビリティ体系は次のようになっている。

特定標準器である日本国キログラム原器の質量は、国際キログラム原器を基準として校正されている。

5年毎に、日本国キログラム原器の質量を、他の3つの白金イリジウム合金分銅(No.30、E59、No.94)および1kgステンレス鋼分銅の質量と比較することで、日本国キログラム原器の質量変動を監視するとともに、1kgステンレス鋼分銅を校正する。

この1kgステンレス鋼分銅を基準として、特定副標準器であるステンレス鋼組分銅の質量が校正される。

特定2次標準器の校正には、この特定副標準器が用いられている。


図1 現行のトレーサビリティ体系

■定義改定後のトレーサビリティ体系

キログラムの定義が改定されることによる、計量トレーサビリティ体系におけるもっとも大きな変更点は、シリコン単結晶球体を用いたキログラムの定義を実現するプロセスが組み込まれることである。


図2 定義改定後のトレーサビリティ体系

新たな定義にもとづく産総研での質量標準の実現には、質量が約1kgの28Si同位体濃縮単結晶球体(シリコン単結晶球体)が用いられる。

このシリコン単結晶球体は、国際研究協力「アボガドロ国際プロジェクト」で、プランク定数と厳密な比例関係にあるアボガドロ数の測定に使用されたもので、プランク定数決定のおける産総研の貢献は高く評価されている。

このシリコン単結晶球体を、産総研が開発したシリコン球体体積測定用レーザー干渉計などで測定することで、シリコン単結晶球体の質量をプランク定数hを基準として絶対測定することができる。つまり、シリコン単結晶球体は、その質量を絶対測定できる特別な分銅ということになる。

現時点での産総研におけるプランク定数にもとづくシリコン単結晶球体質量測定の標準不確かさは24μg。

このシリコン単結晶球体の質量を基準として、新しく特定標準器に指定される標準分銅群が校正されることになる。

標準分銅の材質は白金イリジウム合金およびステンレス鋼で、質量範囲は1mg〜20kg。

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■異なる質量の分銅の群管理により、堅牢な基準の維持・管理を実現

各分銅の質量は、シリコン単結晶球体の質量を基準にして校正されており、多数の標準分銅を群管理することによって質量の基準を保持することになる。

群管理では標準分銅間の質量比較によって各分銅の質量の変更を高精度に検出する。

1kg以外の分銅が特定標準器に含まれることで、1kg分銅同士の比較だけでなく、異なる質量の分銅間の比較が特定標準器内で可能となる。

多数の異なる質量の標準分銅間の関係を網の目のような形で相互に関連づけることで、等量比較のみにもとづく群管理よりも堅牢な基準の維持・管理が実現できる。

■特定2次標準器の校正

 特定標準器との等量比較によって、特定2次標準器である標準分銅(質量範囲:1mg〜20kg)が校正される。
 特定標準器による校正の周期は3年。特定2次標準器の校正の不確かさに変更はない。

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ニーズに対応して、分光応答度の校正範囲を拡大

現在、分光応答度は、「分光応答度校正用のシリコンフォトダイオードであって、校正範囲が波長において250nm以上1150nm以下のもの」(特定2次標準器)が特定標準器によって校正されている。

今回、特定2次標準器であるシリコンフォトダイオードの校正範囲が「200nm以上」に拡大されると同時に、校正範囲「800nm以上1650nm以下」の「インジウムガリウムヒ素フォトダイオード」が特定2次標準器に追加される。

【特定標準器】変更なし
【校正を行う者】変更なし
【校正周期】3年

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■ニーズの拡大

分光応答度は、ある波長の光放射の入射に対する検出器の感度を表す量で、光検出器の特性を表す最も基本的な量の1つ。検出器の感度を正しく校正することは、その検出器を用いた光放射の定量的な計測の信頼性の根拠を与えるために必要不可欠である。

近年、LEDを用いた光源の開発・普及にともない、短波長の紫外LEDの製品化や、波長1200nmを超える赤外LEDを組み込んだ検査装置が市販されるなど、水銀ランプやハロゲン電球、放電ランプなど紫外域および赤外域で用いられている従来型の光源からの置き換えが進んでいる。

今後、既存製品のなかで使用されている従来型の光源からの置き換えやLED光源を組み込んだ製品開発が一層加速し、市場規模の拡大が見込まれる。

こうした中で、紫外域および赤外域のLED光源の性能評価や品質管理における客観性・信頼性確保の重要性が関連業界内で認知されるようになり、装置メーカー等において、トレーサビリティの確保された光検出器の校正の重要性が高まっている。

より広い波長範囲における分光応答度の校正ニーズが一層拡大しており、光分野のJCSS登録事業者より、紫外域および赤外域での分光応答度のJCSS化の要望が出されていた。

今回の校正範囲の拡大は、これらのニーズに対応したもの。
 

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