品質工学研究発表大会の見どころ 2009年6月29・30日、きゅりあんで開催
品質工学会会長 矢野宏
(関連記事→2775号1面)
6月29・30日、第17回品質工学研究発表大会が開催される。大会スローガンは「技術者パワーを発揮させる品質工学」である。本来持っている技術者のパワーを品質工学を媒介して花を開かせようということである。
もともと品質工学は高度な計測技術であるといわれる。もしそうであるならば、計測の世界にこそふさわしい学問である。それ故にこそ、本紙が度々品質工学を紹介してくれている。このような観点から見ると、計測と深く関わっているテーマがかなりある。
発表はセッションに分かれ、壇上発表とポスターセッションで構成されている。壇上発表は次の通りである。
(1)QEの推進と活用 (2)QE教育 (3)加工技術 (4)SN比とその活用 (5)機械系 (6)医学・薬学 (7)電気系
ポスターセッションは以下の通りである。
(1)材料系 (2)自動車 (3)化学系 (4)画像形成 (5)機械系 (6)生活系 (7)MTシステムの応用 (8)電気系 (9)ソフトウェア (10)加工技術 (11)工程管理 (12)解析手法
計測技術に関わりのあるものを紹介する。生活系という部分に集約されているが、(株)虎屋の横井琢也氏による煉羊羹の硬さの識別がある。関ヶ原の戦いの時代から続いた菓子屋が品質工学の先端の研究を行っている。
(株)あじかんの金築利旺氏はおいしいさつまいもの栽培である。日本にとっては農業は大問題である。これに個人的に取り組んだ。質量と糖度で評価される。
アルプス電気(株)の佐々木市郎氏も、家庭において、エアコンと石油ファンヒータのいずれが効率がよいか比較をしている。まさに省エネ問題である。
本紙でもおなじみのあいち計測研究会の牧野和昭氏は、認知症の危険度の予測に取り組んだ。同じく、本紙でおなじみのNMS研究会の田中宏明氏は、ドル円のレートの変動について、SN比を用いて研究している。
アルパインプレシジョン(株)吉田ゆき子氏は、社内における品質工学の推進状況をMTシステムで評価し、社員の意識の変化の状態を測定している。
すでに本紙でも紹介された地震の予測については、富山商船の早川幸弘氏が新しい成果を発表する。地震の予測を専門家でもないものが予測することは、地震学では全く認めないそうであるが、つくばの防災センターの振動データを使い、地震発生1時間前にかなりの確かさで予測可能となっている。まさに高度計測の成果といってよいであろう。
工程管理においてはMTシステムの独壇場の感じになってきた。すなわち、製造工程の管理データから市場不良の発生を予測しようというもので、単に工程検査を行うという域を越えているものである。
ちなみに、後で紹介する工程管理の延長でナビゲータの動作不良に関して、日本大学の舘明博氏と吉岡幸宏氏の研究発表がある。
精密測定技術振興財団品質工学賞等
表彰式も開催
特別講演は寺島実郎氏
(財)日本規格協会の岩垂邦秀氏により、品質工学のセミナーのアンケートデータを新しい観点から分析したものは、特筆に値する。
世論調査とかアンケートデータでは、しばしば度数分布図のようなものが使われるが、いかがわしいものが多い。よいセミナーはいかにあるべきかを、アンケートの言説分析を通して探っている。
大会では4種の受賞があるが、論文については受賞講演が行われる。
(1)精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞
▽金賞「T法と項目診断を用いた未知データの自動分類に関する研究−不動産の価格推定におけるエリア分類を例として−」吉野荘平(吉野不動産鑑定事務所),矢野耕也((株)ツムラ)、石井ちはる((株)総合設計研究所)、折原夏志((独)都市再生機構)、和田唯司((独)都市再生機構)、吉野伸(吉野不動産鑑定事務所)=不動産の緑景観の価値をいかに定量化して金銭的価値に置き換えるか。損失関数にも匹敵する成果である。都市再生機構と組んで実用化した。
▽銀賞「MTシステムの品質管理への応用」浅井為生(日本大学)、矢野耕也((株)ツムラ)、秋山幸示(アルパインプレシジョン(株))、小玉圭一(アルパインプレシジョン(株))、野上雅巳(アルパインプレシジョン(株))、楠本剛史(アルパインプレシジョン(株))、松岡久雄(アルパインプレシジョン(株))、伊藤邦夫(日本大学)=前述のように工程管理のデータから、市場不良を予測可能とした。
▽銀賞「金型の熱処理変形の転写性による機能性評価」吉原茂樹(アルパインプレシジョン(株)、以下同じ)、佐藤清悟、金成充、椿和弘、高橋大輔、大井川博昭、中村光久=熱処理による金型の変形を予測して、経済的観点からよいメーカーを選ぶものである。
▽銀賞「IH定着装置の試作レス開発」豊田美帆(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)、以下同じ)、藤井誠、片柳秀敏、田村希志臣、服部好弘=コピー機の定着用のヒータの安定化をシミュレーションにより行った。
(2)ASI賞
▽「非線形構造解析を使用した自動車用シートフレームの設計における品質工学の適用」大谷義信(デルタ工業(株))=自動車のシートフレームの構造解析を標準SN比で行った。アメリカンサプライヤーにより、アメリカのシンポジウムで紹介して欲しいという成果である。
(3)富山県経営者協会品質工学賞
▽「機械加工セル生産システムにおける制御ソフトウェア評価の効率化」前田敏男((株)松浦機械製作所)、天谷浩一((株)松浦機械製作所)、矢野宏(東京電機大学)=ソフトウェアのバグは、ソフト作成の大敵である。これを駆除することで、ソフトウェアの技術者の生き甲斐を上げた。計測技術者もこのような成果を出して欲しいものである。
特別講演「日本創生と技術開発」
特別講演は、「日本創生と技術開発」と題して、日本総合研究所会長、多摩大学学長の寺島実郎氏が行う。マネジメントと品質工学の切り結びである。
現在の経済事情を反映し、発表テーマ数は111件と例年よりは減じたが、いわゆる多数の発表を行っていた常連が少なくなったことによる。しかし、すでに紹介したように、新しく興味ある発表が増えている。
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