日本計量新報 2011年10月2日 (2888号)2面掲載
μ天びんを正しく使うために提案
−計量環境評価ツールで誤差要因を明確に−
−−マイクロ天びんを開発されましたね。
マイクロ天びんでの測定値は正しいのか
2010年12月から、マイクログラムの感度を持つ分析用電子天びんBMシリーズの販売を開始しました。このクラスの天びんは、これまで海外メーカーの製品しかありませんでした。
このクラスの天びんを使っているお客さまは、測定値が本当に正しいのかどうか、心配しています。トラブルも起こっています。お客さまは、実際に分銅を載せてみると、測定値にばらつきがあるというのです。一方、メーカー側は、きちんと検査して出荷しているから機器に異常はないというのですね。これではユーザーは、使っていても心配ですね。そういう声をたくさん聞いていました。
マイクロ天びんの感度は人間の感性を超えている
このように、マイクロ天びんの使用に際しては、天びんを設置した環境で、カタログスペックとなる計量性能(特に繰り返し性)が確保できるのかが、最も重要な問題となります。
たとえば、BM20では天びんに要求される感度が高く、ひょう量20gを最小表示0・001mgで割った比:分解能が2000万分の1に達すること、1μgがわずかな質量となるため、温度、湿度、気圧などの変化や部屋のエアコンによる微風、設置台のわずかな揺れが外乱として大きく影響します。このような外部要因は、マイクログラムにおける計量値(特にゼロ点)の不安定を招き、繰り返し性不良などの原因となります。
実際に、3月11日の東日本大震災が起きる何時間も前から、天びんを使っていて安定しないという現象が起きています。天びんの設置環境に関わる問題は、マイクロ天びんの感度が人間の感性を大きく超えていて、人には感じられない環境の「ゆらぎ」を検出してしまうことが原因となっています。
計量環境評価ツールで使用環境を調査
これは天びんの使用者には感覚では容易に解決できない問題ですので、ユーザーは絶えず不安を抱えた状態となるわけです。
そこで、エー・アンド・デイは、 BMシリーズの販売を始めるのに際して、これらのユーザーの不安を解消する手段として『計量環境評価ツール「AND−MEET」(Measurement Environment Evaluation Tool)』を提案し、実際に使用環境のモニターを始めました。
計量値の不安定要因を明らかに
このAND−MEETでは、天びんを設置した環境を連続的にモニターし、それと同時に天びんに内蔵した分銅を自動で昇降します。そのことで一定時間の温度変化と、それに対応した計量値の繰り返し性を評価することができます。
この環境と計量値をモニターした結果から、環境の与える誤差要因を明確にすることができます。たとえば、温度変化の大きなときや、人が職場に出勤しエアコンの電源を入れることにより、その後、温度は安定しても風の影響で天びんの感じる温度にリップル(繰り返し起きる温度の微小変化)が発生する問題、部屋のドア開閉による圧力変動、低気圧の通過や遠くで起きた地震による建物の揺れなどにより、計量値が不安定になることが明らかになり始めています。
計量値を安定させる方法がわかる
また、計量結果に与える誤差要因を明確にすることで、計量値を安定させる方法がわかります。
たとえば除振台の導入や、エアコンによる風圧を低減させるための天びん外側の覆い(外風防)の設置、人が近くで作業する場所や、振動源となる分析機器類から設置場所を離すこと、外気温による室温変化の小さい場所へ天びんの設置場所を変更する必要性などがはっきりします。AND−MEETは、これらの対策の実行による具体的な改善効果を評価することもできます。
事前に環境を知ることで正しく使える
具体的にAND−MEETを利用して得られた測定結果を紹介しましょう。図1は、ある国立大学で、マイクロ天びんBM22について、2011年2月17日(木)17時から翌日となる18日(金)17時までの24時間の温度と、計量値(ゼロ点、スパン値=ひょう量−ゼロ点)のデータを取ってグラフ化したものです。
天びんは17日17時に通電され、その後、内蔵分銅が自動運転により40秒を1周期として繰り返し昇降され、得られた気温とゼロ点、ひょう量値が、データとして計量データロガー「AD1688」で記録されました。
測定の結果、この国立大学の研究室は、ある時間帯で急な温度変化が発生する計量環境であることがわかったわけです。
図2は、温度変化とスパン値の繰り返し性をグラフ化したものです。スパン値の繰り返し性とは、ひょう量−ゼロ点となるスパン値を計算し、連続したスパン値10個についての繰り返し性(再現性)を標準偏差(σ)で表記したものです。
通電直後から6時間程度は気温の変化もあり、繰り返し性が平均で4・0μg以下とならないことが理解されます。それ以降は温度変化が少なくなり、スパン値が安定し、カタログスペックとなる4・0μg以下の繰り返し性の得られることが明らかになりました。
また、18日の17時30分以降は、再び急な室温上昇によるゼロ点の変動と、それに伴う繰り返し性の悪化が確認されました。
これらの測定結果から、天びんの性能を安定させるには、@急な温度変化を与えない、A特に分析天びんでは通電時間を十分に取り熱平衡状態で計量する、の2点が必要なことがきちんとわかります。
この研究室では17時以降の温度上昇の原因を取り除くこと、または日中、特に10時から17時までの計量環境が安定している時間帯に、計量作業をすることにより、マイクロ天びんのカタログスペック相当となる計量性能を得られることが明らかになったのです。
ユーザーも納得して使える
計量環境による誤差要因のことは、ユーザーは知らないわけです。機器の性能はマイクロのオーダーで測定できるものであっても、環境が悪ければその高性能を十分発揮することができません。台風が来ているときに測定すると、低気圧により、繰り返し性のばらつき現象が確認されています。AND−MEETの利用により、遠くで起きた地震による繰り返し性の悪化もわかります。
AND−MEETで事前に調べることによって、計量環境の問題点を明らかとし、改善すべき環境整備の方向を示し、より高い精度で安定した計量ができることを示すことができます。
使用時にどのくらいの精度が出るのか、ユーザーに事前に納得して使ってもらうことができます。
製品を売りっぱなしにしない
これまでのように製品を売りっぱなしにするのではなく、使用環境を事前に把握して説明し、正しい使い方も示していく、そういう方向でやっていきたいと思っています。
こういうきめ細かな発想とサービスは、日本人が一番得意です。こういう方法を、海外でも浸透させていきます。環境モニターという今までとは違ったアプローチで、お客さまの考えを変えていこうと思っています。
このようなきめ細かな日本文化を商品づくりに活かし、世界に根付かせることができれば、日本は世界で勝てます。
台はかりでも新しいアプローチ
プラスチック製の台はかり
−−台はかりでも新しいアプローチをされていますね。本体がプラスチック製の台はかりにはびっくりしました。
「パレット一体型デジタル台はかりSNシリーズ」です。
大型の台はかりですが、プラスチック製のパレットをベースとして設計しました。計量台の部分をプラスチック製(ポリプロピレン)とすることで軽量かつ頑丈なつくりを実現しました。
幅広く使える
流通業界、産業廃棄物や、農家の穀物計量など、幅広いユーザーにご使用いただけるような価格設定にしています。
プラスチック計量部は75kgと軽量で、フォーク部分の差込み穴があいているのでフォークリフトでの移動も容易です。使わないときには壁に立て掛けた状態で保管することもできます。取引・証明に使える検定付も用意しています。
強度は十分
材質がどうであれ、必要な性能や強度を満たすはかりであればよいのです。これは発想の問題で、もともとエー・アンド・デイには、材質に関して、鉄からどうだとかプラスチックだからどうだというこだわりはありません。
これは当社が、はかりの会社ではなく計測が専門の会社だったからかも知れません。そういう計測器メーカーの視点から見ると、はかりなどの計量器は保守的です。
われわれが台はかりをつくったときに、ダイキャストにしたのですが、当時、鋳物製を除いてそういうものはありませんでした。
デジタルの凄さをわかっていない
天びんのリニアリティを、われわれが温度センサーを使ってマイコンで補正したときもそうでしたね。当時は、そんなことをするのは邪道だといわれました。
まだまだ、デジタルでの信号処理の凄さをわかっていないと思います。この必要性はまだまだいっぱい出てくると思います。
なぜなら、計測において問題になるのはノイズですから。計測はノイズとの戦いです。信号処理してノイズをどう除去するか。デジタル信号処理が活躍できるのはこれからです。
基盤技術を磨く
シミュレーションで開発スピード上げる
−−エー・アンド・デイにとって技術開発はどういう意味を持っていますか。
われわれは、自動車メーカーから、シミュレーションという方法を学びました。開発スピードを上げるにはシミュレーションしかありません。
シミュレーションの精度を上げ、シミュレーションによりモデル化し、実験モデルをつくるという手法で、新技術をすばやく開発していきます。この開発プロセスはすべての分野へ応用できます。
技術開発で新マーケットがつくれる
エー・アンド・デイは基盤技術を磨くことが重要だと考えています。当社のDSP技術はこの基盤技術の一つです。長年かけて開発した基盤技術できちんとした技術開発をやれば、マーケットを新しくつくっていくことが可能です。
−−ありがとうございました。
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