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10年先見据え、技術開発進める
宮下 茂

長野計器(株) 社長

vol.1

日本計量新報 2011年1月1日 (2852号)4-5面掲載

経済は回復基調だが、先が見えない

−−日本の経済状況をどうのように見ていますか。

エコカー補助金廃止などがどう影響するか


宮下茂

昨年の9月にはエコカー補助金が予算切れということでなくなりました。また2010年12月1日で、省エネ家電製品のエコポイントが半減されました。これらの影響がどのように出てくるのか心配です。7カ月くらいは影響するだろうと見られています。
 (社)日本自動車販売協会連合会(自販連)が12月1日に発表した2010年11月の国内新車販売台数(軽自動車を除く)は、前年同月比30・7%減の20万3246台でした。
 経済産業省が2010年11月30日に発表した2010年10月の鉱工業生産指数速報(2005年=100、季節調整済み)は91・1と前月比1・8%低下し、5カ月連続のマイナスとなりました。

企業は絶えず先進的でなくては


私も個人的に40型のテレビを購入しました。価格は8万円弱で、エコポイントがつきました。テレビは昔より格段に性能はアップしていますし、価格も安くなっていますね。かつては1型(インチ)=1万円といわれていました。私が20型のテレビを買ったときの価格は20数万円でした。  このように企業においては絶えず先進的でなくてはなりません。技術革新に挑戦し、コスト削減で価格改定に挑戦しています。

影響の度合いが読めない


現在、国民の総中流意識化が進んでいますから、欲しいものがありません。この間不況で我慢していましたから、その反動があるだけです。それに、エコカー補助金の廃止、エコポイントの半減の影響がありますから、回復基調にある経済にも当然歪みが来ます。この影響の度合いが読めないのが現状です。


若者の失業率が高い


総務省が2010年11月30日に発表した10月の労働力調査によると、完全失業率は前月に比べて0・1ポイント上昇して5・1%になっています。4か月ぶりに悪化したと言っています。完全失業者数は334万人です。15〜24歳の若者の完全失業率が9・1%と特に高くなっています。10月の就業者数は6286万人です。
 厚生労働省の調査では、従業員を解雇せずに、休業などで雇用調整を行う企業に手当の一部を助成する国の制度の対象となる労働者は、105万6000人余りいます。
 ですから、実質的な失業率はもっと高いと見なければなりません。7%ぐらいになります。
 同じく厚生労働省が発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比0・01ポイント上昇の0・56倍です。しかしそれでも、二人に一人しか職がないわけです。職を選ぶなど、とてもできない状況です。雇用情勢はよくなってきたといっても、まだまだこういう状況にあります。
 企業のベースも思い切って変えるべきです。これまでの所得水準に固執せずに、給与水準を思い切って下げれば、採用できる人数も増え、企業の国際的な競争力も出てきます。そう簡単な話ではありませんが、発想の転換が必要です。


円高による空洞化の進行


 円高による空洞化説が出ていますが、これまでの空洞化とは違います。もっと深刻です。賃金が海外のほうが安いことに加えて、為替相場が円高ですから、企業は工場をタイなどにどんどん移しています。
 例に出したタイには「投資優遇制度(BOI)」があります。申請すれば「税制上の特典(数年間の法人税免除など)」「事業用の土地の所有」「外国人のビザ・労働許可の便宜供与」が与えられます。


海外生産品の質が向上


 アジア圏に商圏も広がります。ですから、企業の工場の海外移転が止まりません。
 外国で生産した商品の品質がよくなっていますね。たとえば、中国製の衣類なども昔は縫製のレベルが低かったですが、今はよくなっています。精密機械の製造レベルも上がっています。
 したがって、それを上回る技術を日本が持たないと、国際競争に勝てないということになります。今のところ日本は足踏み状態です。


日本人の感性を活かした製品を


中国から団体で、日本の秋葉原に買い物にやってきて電気製品などを買っていきます。一度に200万円ほども買う人もいるようです。しかし、その多くの電気製品は「made in china」です。なぜ、わざわざ日本に来て「made in china」製品を買っていくのか。
 それは、同じ「made in china」でも、日本市場向けと中国市場向けでは品質が異なるというのですね。日本人は世界一品質にうるさいといいますが、日本人の感性に合わせて製品をつくると、よい製品ができます。
 ですから、私は、この日本人の品質に関する感性を、技術に活かしていくことが大事だと思います。そうすれば日本は、まだまだ最高レベルの技術力を構築できます。


グリーンイノベーションなどに注力


日本の企業には知恵があります。このところ、半導体なども韓国や中国に押されています。こういう業況の中で日本が譲れないのは、政府の新成長戦略や技術マップでも強調していますが、太陽光発電などを含めた低炭素社会を目指すグリーンイノベーションや、医療・介護・健康関連分野の革新を目指すライフイノベーション、そして原子力発電技術などです。
 こういった分野で後れを取らないように、日本は集中して取り組まなくてはなりません。
 例をあげます。日本の水道関連技術はすばらしいものです。世界一です。東京都水道局は、東京の漏水率は終戦の1945年は約80%だったが、98年は8%、2008年には3・1%になったと発表しています。アジア主要都市の漏水率の平均は約30%で東京の10倍です。
 このすばらしい技術がある水道事業(水ビジネス)を、東京都をはじめ日本の水道事業体が共同連携して、2025年には86兆円規模に急成長が見込まれる海外の水道市場への進出しようとする動きが出てきています。
 エコカー減税やエコポイントの付与による短期的な景気刺激策も重要ですが、それだけではなく、グリーンイノベーションやライフイノベーションに十分な予算を取って、国を挙げて取り組んでいく必要があります。これは一時的な対策ではありません。中長期にわたる国の戦略として推し進めていく必要があります。
 ライフイノベーション関係でも、日本人の三大死亡原因であるガン、心疾患、脳血管疾患をなくす、高度医療技術や新薬の開発などに十分な予算を取って取り組まなくてはなりません。
 これをやれば、5年、10年で必ず見返りが出てきます。今、国は膨大な債務を抱えていますが、そのことで、これらへの取り組みがおろそかになったり、縮小したりしてはいけません。



来年度は横ばいなら上出来


経済状況は、先が見えにくいですが、私は来年度は横ばいで推移すれば上出来ではないかと考えています。繰り返しになりますが、グリーンイノベーションもライフイノベーションも足が長い仕事です。今ここで、しっかり将来を見据えて、どかっと投資をしておくことが必要です。
 グリーンイノベーションやライフイノベーション関連の先進技術の開発を、国を挙げてやるべきだということは、何度でも強調しておきたいと思います。


日本も行き方を定める正念場


−−最近の世界の動きをどう見ていますか。


昨年は東アジアの周辺で、尖閣諸島、北方領土、北朝鮮の韓国への砲撃などいろいろなことが起きました。
 これは東アジアを巡る状況が変わってきていることの表れだと思います。台湾周辺でもことが起きる可能性があります。端的に言えば、アメリカのカサの下で安定した状況であった構図が崩れてきているということです。
 国際社会における中国の比重が大きくなってきていますね。北朝鮮の行動は、中国が世界の反応を見る、また中国の重みを世界に印象づけるセンサーとしての役割を果たしているのではないか、という専門家もいます。
 そういう中で、中国も、世界の中でどのような国策を採っていくのかが試されている時期ではないかと思います。
 日本もこういう世界情勢の中でどのような方針を持ってやっていくのかが試されています。その場凌ぎの対策ではなく、日本の行く末をきちんと定めていく正念場です。


首脳が先頭に立って商売


外国の首脳は、自らが自国製品の最高のセールスマンです。アメリカのオバマ大統領しかり、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領、ロシアのプーチン首相、みんなそうです。
 李明博大統領は建設業界出身で、経済発展を最優先に掲げて政治を行っています。


国を挙げての取り組み必要


先ほど水道事業は、共同連携をして輸出している話をしましたが、これまでの日本の企業は、各社がばらばらに商売をしてきました。これからは、日本の国としてまとまった取り組みが必要になります。各企業がばらばらでは、受注が難しくなっています。受注の規模が大きくなればなるほど、日本としてのシステムを作って売り込むことが必要になっています。トルコに原子力発電所を輸出する計画では、韓国やロシアは、国の総力を挙げて取り組んでいます。
 わたしどもの計量計測の関係でいうと、計量計測機器の専門の企業がコラボレーションで「計測システム」を作っていかなければなりません。単独ではダメですが、圧力計、流量計、長さ計などがシステムを組めば、外国のプロジェクトなどでも商機はあると思います。
 毛利元就の「三本の矢」の故事に学べということです。

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